A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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どうでもいいことですが、サブタイの読み方にこだわってみました。
"水面"で"みなも"ってオシャレですよね。



水面(みなも)に沈む(あか)

 樹と合流し、接近してくる敵の様子を伺う勇者達。バーテックスの数は7体。残存する全てがこの戦場にそろい踏みしている。それだけでも厳しいのだが、さらに異質な光景を作り出しているのがアンノウン。陸人が数えた限り、総数30。これまでにない行列を作って侵攻してきている。

 

「困ったわね……あの数はちょっとどうしようもないわよ」

 

「分断しかないでしょうね。優先して片付けるべきはまずバーテックス。俺が風で軽いアンノウンを吹き飛ばしますから、みんなは――」

 

「りっくん、1人でアンノウンを相手するとか言ったら流石に怒るよ?」

 

「最低限、私と友奈くらいは連れて行きなさいよ。アンタが言ったんじゃない。アンノウン要員だって」

 

「……分かってる。ただ、バーテックスの方は時間制限があるってことを忘れないで。マズイと思ったらそっちの援護に回ってくれ」

 

「うん、分かった!」

 

「友奈ちゃん、夏凜ちゃん、お願いね。私もそっちに回れたらいいんだけど……」

 

「美森ちゃんは貴重な狙撃手だからね。バーテックスを止めてもらわないと……何があるか分からない。最後方からみんなのフォローをお願いすることになる……頼りにしてるよ」

 

「ええ……リクも、無理はしないで」

 

「遮二無二で勝てる相手じゃないからね……特にアイツは」

 

「あの中心のアンノウンですか? 陸人さんはアレと戦ったことが……?」

 

「いや、初対面だ。見覚えがあるのはむしろ他だな……あの軍勢の半分は倒したはずの顔だ」

 

「ちょっと、どういうこと?」

 

 鯨を思わせる容貌に、特異な形状の槍を持った異質なアンノウン。その個体を中心としたアンノウンの大軍勢。かつてアギトが撃破したはずの個体がその半数を占めている。

 

「同系統の個体はいたけど、瓜二つっていうのはこれまでになかった。多分だけど、アイツが復活させたんだ」

 

「復活……そんなことができるの?」

 

「分からない。けどヤツからはそれくらいはやってのけそうな……格の違う力を感じるんだ」

 

 アギトとしての感覚が告げていた。あの青い敵は、ただのアンノウンとは次元が違うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸人の予想は当たっていた。多数のアンノウンを引き連れている特異な存在――アンノウンの棟梁たる神霊『テオス』の切り札、最高位のアンノウン『エルロード』

 その1柱である『水のエル』がアギトを殺すため、戦場に顕現した。

 

 生命の源たる"水"を司るエルロードの能力は"完全再生"

 消滅した個体の身体の一部――欠片1つでもあれば、そこから元の肉体を再生させ、支配下に置くことができる。

 水のエルはこの力を使うため、現世に降り立つ全てのアンノウンの欠片を事前に回収、手元に残していた。

 一度に使役できる再生アンノウンの数に限りはあるものの、ほぼ無制限に兵力を増強できる能力。これが水のエルの特性だ。

 

(……アレガ、コノ世界ノアギト……)

 

 盟主の指示にあった特異存在。この世界でアギトが増える可能性を断つために、陸人を確実に討ち亡ぼす刺客として喚ばれた天使。

 標的を視界に収め、じっくりと見定める。

 

(ナルホド、テオスガ警戒スルノモ無理ハナイ……)

 

 純然たる人間とは違う、アギトの力との親和性。一目見ただけで、陸人の特質を朧げに掴み、警戒レベルを引き上げた。

 

 

 

 

 

 

「仕掛ける前に……みんな、"満開"は使わないでくれ。絶対に」

 

「リク……?」

 

「満開って、勇者の切り札っていうアレよね? ちょっと陸人、この状況で出し惜しみなんて――」

 

「分かってます! それでも……良くないものかもしれないんです。お願いします」

 

 戦場で深々と頭を下げるアギト。その姿に、何か言いたげだった風や夏凜も何も言えなくなってしまう。

 

「分かったわ。満開はナシ……風、みんなもそれでいい?」

 

「良く分からないけど、りっくんがそう言うなら」

 

「私も……でも、大丈夫でしょうか?」

 

「詳しい説明は欲しいけど、今はそれどころじゃなさそうね」

 

「……OK、それでいきましょ。ただし、あんたも1人無茶しちゃダメよ」

 

「……ありがとう、みんな」

 

 何の説明もできなかったものの、全員が陸人のことを信じてくれた。後はどうにかして勝利すればいい……それが何より難しいのだが。

 

 

「……行くぞ!」

 

 水のエルの視線を感じ取り、アギトがスライダーで突撃する。ストームフォームの力でアンノウン達を吹き飛ばす作戦だ。

 ハルバードを構え、竜巻を発生させた瞬間、何もなかったはずの空間から突如大量の水が噴き出してくる。

 

「なんだ⁉︎」

「見通シガ甘イナ、アギト。己ト同ジコトガ出来ル存在ガイルトハ考エナカッタカ……!」

 

 水流は風の勢いも利用して、天高く上昇していく。昇り竜のような2本の水流が、空中のアギトを挟み込むように接近し、スライダーもろとも呑み込んでしまう。

 

 濁流に運ばれて遥か彼方に墜落したアギト。それを追って飛び去っていく水のエル。両陣営の最高戦力が離脱し、バーテックスは変わらず侵攻を続けている。勇者達にとって最悪のパターンだ。

 

「りっくん!」

「リク……!」

 

「――っ! 作戦変更! 友奈、夏凜でなんとかアンノウンの足を止めて! 樹はその後ろで数を減らす! 東郷とあたしで……」

 

「バーテックスを1体ずつ迎撃、ですね。かなり厳しいですが……」

 

「友奈! 私たちだけじゃあの数は倒せないわ。この際時間稼ぎだけに集中して。囲まれないことを意識して立ち回りなさい!」

 

「う、うん!」

 

「樹、アンタも敵との距離を保って、私たちの前には出ないように!」

 

「分かりました!……あの、陸人さんは?」

 

「大丈夫……リクなら、絶対に……!」

 

 即席のフォーメーションで挑む勇者達。あのアギトがたった1人に打ち負けたという事実は、大きな焦燥感となって彼女らの精神を追い込む。

 36対5。圧倒的な数の暴力が少女達に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

「クソ……なんなんだアイツは……」

 

「貴様ト同ジ、コノ世界ニオケル特異存在、トイウコトダ」

 

 震える足に力を込めて立ち上がったアギトの前に現れる水のエル。言葉の意味は分からなかったが、1つだけはっきりしていることがある。

 

(コイツをどうにかしないことには、俺たちの負けは確定してる……)

 

 フレイムフォームに変化、炎を乗せた斬撃を飛ばして攻撃する。水に対抗して炎で攻めたアギトだったが、敵の力は想定を超えていた。

 

「微温イ炎ダナ、コレデ本気カ?」

 

「……こっちはいつでも全力だよ、バケモノめ……」

 

 撃ち出した炎は槍の一振りで消滅する。羽虫を潰すようにアギトの攻撃を無力化した水のエルは、彼我の実力差を知らしめるように悠然と歩み寄る。

 セイバーを構えて接近するアギト。超能力勝負では勝てないと悟り、斬り合いに持ち込む算段だ。

 

(硬い……!)

「言ッタハズダ、見通シガ甘イト!」

 

 左手でセイバーの刀身を掴み、右手に握る槍でアギトを滅多斬り。フィニッシュに掌から衝撃波を放ち、一直線に吹き飛ばす。ノーバウンドで植物の根に激突したアギトが崩れ落ちる。

 

「お前達は、なんなんだ……? 何故人間を狙う? 何故神樹様を狙う?」

 

 身体に力が入らないアギトが、震える声で問いかける。水のエルは暫し逡巡し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「アノ"バーテックス"トヤラノ事ハ知ラヌガ、コノ世界デ我等ガ人間ヲ殺ス理由カ……滑稽ダナ、貴様ガソレヲ問ウノカ? 元凶タル貴様ガ……」

 

「……な、に……?」

(俺が元凶? どういうことだ……)

 

 体力回復の時間稼ぎのつもりで訊いただけだったが、陸人にとって聞き流せない答えが返ってきた。

 

「忘レテユク生物……人間トハ哀レナモノダ。イヤ、貴様ハ違ウノダッタカ……」

 

「何の話をしている……?」

 

「自身ノ事スラ残ッテイナイカ、ナラバ良イ。ココデ朽チ果テル者ニ話ス事ナド無イ……!」

 

「ふん、どうかな……案外、果てるのはアンタの方かもしれないぜ?」

 

 ゆっくり立ち上がり、グランドフォームに変化するアギト。角を展開し、必殺のライダーキックの構え。何かを知っているようではあるが、今この場では速やかに倒すべき相手でしかない。

 

「スゥ――……くらえぇぇぇっ‼︎」

 

 全霊を込めた一撃は、水のエルに当たる1cm手前で、水の膜に阻まれて静止した。一見脆く見える液状の防御壁。しかしその硬度はライダーキックの威力を完全に殺しきるほどのものだった。

 

「グッ……こんのぉ……!」

 

「何度モ言ワセルナ。分断スレバ勝テル……接近スレバ戦エル……コノ技ナラ倒セル……ソウイッタ認識の尺度ガ、私ト貴様デハ違ウノダ!」

 

 空中で静止したアギトに、水の力を込めた槍が振り上げられる。高く跳ね飛ばされたアギトの視界に、大量の水分が収束していく様がスローモーションのようにはっきりと映る。

 

「"エルロード"ヲ侮ルナ……脆弱ナ()()()()()ガ!」

 

 水のエルが槍の石突で地面を叩くと、背後から水の龍が顕現する。先程よりも巨大で広大な龍に喰われ、アギトの身体が吹き飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者とバーテックス・アンノウン連合の戦場。各員の奮闘により、牡羊座の『アリエス・バーテックス』とアンノウンを数体撃破することができた……しかし、牡牛座、天秤座、水瓶座、獅子座の4体が合体した最強のバーテックス『レオ・スタークラスター』の圧倒的な力に追い詰められていく。

 未だに敵戦力の8割が残っていながら、勇者達は限界まで消耗していた。全員が肩で息をしている状態。そんな最中、後方の美森が乱入者を発見した。

 

「あれは……! 全員退がって!」

 

 美森の号令に従い、飛び退く4人。一瞬前まで彼らがいた地点に、猛烈な勢いで逆巻く水流が飛び込んできた。

 水が収まった先にアギトが倒れている。スコープ越しに力無い姿を確認した美森は、思わず持ち場を離れて彼に駆け寄って行く。

 

「リク! しっかりして、リク!」

「りっくん! 起きて!」

 

「……美森ちゃん、友奈ちゃん……逃げて……!」

 

 何とか意識を保っているアギト。彼の身を案じて集まった勇者達。彼らの目の前に、恐怖の化身が降り立つ。

 

「ホウ、手勢ガ減ッテイル。人ノ子如キニシテハ悪クナイ……ガ、ココマデダ……!」

 

 異形の欠片を取り出し、地面にばら撒く水のエル。人には聞き取れない呪文を唱え、欠片に一滴水を落とす。するとほんの数秒で、倒したはずのアンノウンが元の姿のまま水面から浮かび上がってくる。

 

「……そんな……」

「嘘でしょ……?」

 

 友奈と夏凜と樹が力を振り絞って撃破した3体のアンノウンが、水のエルの超能力によってあっさりと復活してしまった。

 

 

 

 

「サテ……コノママ押シ潰スノハ容易ダガ、貴様ラハ未ダ希望ヲ失ッテハイナイヨウダ。

 ナラバ教エテヤロウ……私ニ歯向カウ事ノ無意味サヲ。愚カナ貴様ラニモ理解デキルヨウ、分カリヤスイ形デナ……!」

 

 嘲るように吐き捨てた水のエルが飛翔し、スタークラスターの上に飛び乗る。槍を突き刺し、自身の力を異形の巨体に行き渡らせる。

 エルロードとバーテックス。根幹から異なるため、完全に支配することはできないが、一時的に動きを誘導するくらいは水の天使にとって造作もない。

 

 太陽のような熱量を秘めた巨大火球を発生させるスタークラスター。その正面に、火球と同等の質量を誇る巨大な水球が形成される。配下のアンノウンを後退させ、水のエルは準備を終える。

 

「あれは、まさか……!」

 

「冗談じゃないわよ、あんな規模でぶつけられたら!」

 

「……や、めろ……!」

 

 勘が良い何人かは危機を悟り動こうとするも、距離が遠すぎる。アギトも力を振り絞り、何とか立ち上がり、ストームフォームに変化する。

 

「貴様ラノ言語ニ、分カリヤスイ言葉ガアッタナ」

 

 バーテックスの火球が前進し、水のエルの水球に向かっていく。

 ここまでくれば疎い友奈や樹も想像できた。慌てふためく仲間達を背後に、アギトが風を巻き起こす。

 水が高温の物質と接触することで気化、体積が一瞬で増大して起こる爆発。

 

 

 

「確カ……"噴火"ダッタカ……?」

 

「――ちっくしょうがぁぁぁぁっ‼︎」

 

 

 

 "水蒸気爆発"と呼ばれる現象が、自然界ではあり得ない規模で発生する。

 視界は白く染まり、世界から音が消え、かつてない衝撃を全身に受けた勇者達は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発から数分後。ようやくある程度の視界を確保できる状態まで落ち着いた。水のエルは荒れ果てた樹海を見渡して、敵の姿がないことを確認する。

 

「消シ飛ンダ……訳デハ無イダロウ……奴等ヲ捜セ。既ニ死体カ、瀕死ニハナッテイルダロウ。確実ニ始末シロ」

 

 配下に命令を出し、自身はスタークラスターの上から神樹を見据える。本命の周囲には破壊の痕跡が全くない。バーテックス以外では神樹を害することはできないというテオスの言葉が正しかったことを把握する。

 

(シカシ、後ハコレガ到達スレバ終ワル。抵抗トシテハ下策ダッタナ、神樹ヨ……)

 

 勝利を確信する水のエル。その思考には、既にアギトや勇者のことは残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつてアギトに敗北したシマウマ型のアンノウン『エクウス・ノクティス』は、今の主人である水のエルの指示に従い、吹き飛んだ敵を捜索していた。地面が焼け爛れ、根が千切れ落ちている樹海を走っていると、水音が耳に入ってくる。

 音の方向を探ると、水のエルの猛威の残滓、大きな水溜りに波紋が広がっている。水面に落ちる雫の色は紅。当然エルロードの水とは違う。

 雫が落ちる先を見上げ、ノクティスは我知らず歓喜した。

 

 

 太い枝の上に横たわる影。頭から淀みなく血を流して倒れ伏す、御咲陸人の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 




水のエルとスタークラスターの組み合わせで真っ先に思いついた合体必殺技"大噴火"

水のエルさんが想定外におしゃべりになった……無口キャラだと行間が……

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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