A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

93 / 150
中間テスト終了です。



星の海さえ壊すほどに

「アノ規模ハ貴様等デハ壊セン。人類ノ敗北ダ」

 

「勝手に決めるな……俺たちはまだ諦めない!」

 

 スタークラスターの御霊を見て、時間切れを狙う天の神の公算を悟った水のエルは、策を破る可能性を持つ最大のイレギュラー、アギトを止めることに専念する。

 疲労が溜まってきた水のエルと、傷が癒えていない陸人。2人の激突は泥仕合の様相を呈し、戦況は膠着していく。

 

 

 

 

 

 

 

「……やろう、みんな!」

 

「友奈ちゃん?」

 

「どんなにでかくても、御霊なのは間違いないんだから。これを壊せば私たちの勝ちだよ!」

 

 友奈の言葉に、固まっていた勇者達の体に力が戻る。スケールの大きさに圧倒されてはいたが、状況自体は勇者側有利なのは確かだ。敵は追い込まれ、弱点を晒している。あとはトドメだけ……王手をかけているのは彼女たちの方なのだ。

 

「よし、役割分担していくわよ! 地上に残って封印を継続する面子と――」

 

「宇宙に上がって、御霊を破壊する役ね。まだアンノウンが残ってるから、地上側にも戦力は必要になるわ」

 

「私、行きます! りっくんに頼まれましたから。私は勇者部のフィニッシャーだって!」

 

「私も行きます。このサイズなら、きっとまだ抵抗してくる……私が露払いに回って、友奈ちゃんを守ります」

 

「分かった、頼んだわよ2人とも!」

 

 飛行ユニットに乗って宇宙に上がる友奈と美森。危険な役目だが、見送る3人にも同じく大変な仕事が残っている。

 

「樹、ワイヤーで封印の陣を囲って! アンタ自身と封印を守るの」

 

「私と夏凜でアンノウンを減らすわけね。封印は1人に任せることになるけど――」

 

「大丈夫! 私だって勇者だもん……みんなの帰る場所、絶対に奪わせたりしない!」

 

「よく言ったわ、マイシスター!」

 

「私たちの背中を預けるから……樹も、背中は任せなさい!」

 

「はい!」

 

「行くわよ!」

 

 勇者達の消耗もかなりのものだ。切り札である満開を長時間使ってしまった上に、それ以前のダメージも抜けていない。

 それでも守りたいものがあるから。その願いさえあれば、何度でも立ち上がれる。それこそが神が選んだ勇者の在り方だ。

 

 

 

 

「地上のフォロー、お願いするわ……スイレンさん」

 

「どうかした? 東郷さん」

 

「なんでもないわ、友奈ちゃん。そろそろ敵の迎撃があるかも。気を引き締めましょう」

 

「うん! 絶対に勝とうね!」

 

 

 

 

 

 

「任されました〜……頑張ってね、わっしー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しつこい奴だな……そこをどけよ!」

 

「貴様コソ諦メロ! 最早手遅レダ……()()()()()ヲ世界ニ生ミ出シタ人間ハ、滅ブシカ無イノダ!」

 

「なんの話か知らないがな……身に覚えのないことで、滅ぼされてたまるか!」

 

「ナルホド、"覚エガ無イ"カ……確カニソウダロウ。ダカラトテ、ソレデ当事者ノ1人デアル貴様ノ罪ガ消エル訳デハ無イ!」

 

 ここまで断言されると、流石に誤解や逆恨みという線は考えにくい。失ったまま戻らない陸人の記憶。その中で、目の前の異形やそれに類するモノと何かがあったのは間違いなさそうだ。

 

「大変興味深いお話だがな……今はアンタのご高説を伺ってる暇はないんだ。通してもらうぞ!」

 

 アギトがカリバーを高く掲げ、頭上で高速回転させる。刃が回る毎に戦闘の余波で周辺に撒き散らされたバーニングフォームの炎が収束、圧縮され、赤黒い火球を形成する。

 燃え盛る灼熱の力を凝縮して放つ遠距離攻撃技『バーニングブラスト』

 水のエルに向かって真っ直ぐ放たれた火球は、迎撃の水龍と衝突。先程よりは小規模な水蒸気爆発を発生させ、両者を吹き飛ばした。

 

「――っ‼︎ ヤハリ貴様ハ危険スギル……事ガ済ムマデ此処デ踊ッテ貰ウゾ、アギト!」

 

「そうかい、だったら……」

 

 体勢を立て直し、槍を構える水のエル。油断なく待ち構えたはずなのに、予想外の方向からアギトの声が聞こえてくる。

 

「無理にどけとは言わない……アンタには大嫌いな人間と相乗りする勇気、あるかな?」

 

 吹き飛んだ勢いそのままにトルネイダーに飛び乗ったアギト。爆炎に隠れて敵の背後に回り、スライダーで体当たり。同時にカリバーを突き刺して身体を固定。前部に水のエルを貼り付けた状態のまま、友奈と美森を追って宇宙へ飛び立つ。

 

「こっちは急いでるんでな。付き合ってもらうぜ……空の向こうまで2人乗り(タンデム)と行こうか!」

 

「貴様、コノ私ヲ……!」

 

「口を開けばそんなことばかりだな、アンタ。何もかもを見下して、生きてて楽しいのか?」

 

「余計ナ"感情"ナド、私ニハ無イ……アルノハ果タスベキ"使命"ト、ソノタメノ"能力"ノミ……!」

 

「そうかよ。だけどこっちだって、人類殲滅なんてふざけた使命果たされる訳にはいかないんだ……大人しくしててもらうぞ!」

 

 突き刺したカリバーに炎の力を注ぎ込み、水のエルの集中を乱すアギト。切羽詰まった現状では、この強引な手しか思いつかなかった。

 水のエルを完全に仕留めることは、できるとしてもかなりの時間を必要とする。そしてこの難敵をどうにか振り切って宙に上がっても、今度は地上の仲間が危険にさらされる。

 よってアギトはリスクを承知で、水のエルを運んで友奈たちの元へ向かうことにした。幸いここまでの戦闘で、ダメージを与え続けている内は超能力を使えないことは分かっていた。主力武器(カリバー)が使えなくはなるが、最大の強敵を封殺しながら最後の舞台にアギトが上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来た、小さいのがたくさん!」

 

「友奈ちゃんは力を温存して……雑兵は私が蹴散らすわ」

 

 一足先に宇宙に上がった友奈と美森の眼前に、超大型御霊から発生した小型バーテックス『星屑』の大群が迫り来る。

 トドメを決めるために友奈を庇い、美森が全火力を開放して撃ち落とす。まさに名前の通りに数えきれない数で押し寄せてくる星屑の群れ。それでも美森は諦めず、1匹も撃ち漏らすことなく撃破していく。

 

「道を開けなさい……私達は、まだまだこんなところで終われないの!」

 

 火力を収束した砲撃で標的までの道を拓き、同時に御霊の表面を破壊した美森。限界が来たのか、徐々に満開の武装が花弁となって散っていく。

 

「私にできるのはここまで……あとはお願い、友奈ちゃん」

 

「うん……見てて、やっつけてくる!」

 

「……ずっと見てる……」

 

 沈んで行く美森を心配そうに見つめる友奈。美森の強い信頼の眼差しに背中を押され、前を向いて飛び出して行く。目指すは御霊、その中心部。

 

 少しずつ勇者の力が抜けていくのを感じながら、地上に落ちていく美森。友奈の勇ましい背中を見つめ続けていた彼女の視界の端に、赤と青がぶつかり合う姿が映る。

 

「あれは……やっぱり、来てくれたのね……」

 

 困った時には必ず助けに来てくれる、自慢のヒーロー。そんな彼も颯爽登場、とはいかずに苦戦を強いられていた。

 

 

 

 

 

 宇宙まで昇ったアギトと水のエル。目指す御霊の手前に、飛びかかっていく友奈の姿。

 

「……見えた、友奈ちゃん!」

 

「……止ムヲ得ヌ……此処デ貴様ハ終ワリダ!」

 

 いよいよ後がなくなった水のエルが上位種の誇りをかなぐり捨てた。肩に突き刺さったカリバーから逃れるために自らの左腕を諦め、強引に身体を引き剥がす。

 片腕を失いながらも自由を取り戻した水のエル。宇宙でも一切の淀みなく、水龍を形成してアギトの行く手を阻む。

 

「チッ……上から目線の頭でっかちかと思えば、面倒なところで根性見せてきたな!」

 

「滅ビネバナラヌノダ……貴様等ハ……!」

 

 薙刀と槍がしのぎを削り、炎と水が打ち消し合う。宇宙でさえも自在に飛び回れる水のエルと、慣れない無重力下でスライダー頼みのアギト。

 足回りの差でアドバンテージを取られ、徐々に御霊へのルートから外れていく。焦りは心身の乱れを生み、僅かな隙に水のエルの槍が迫る。

 

「――しまっ……!」

「果テヨ!」

 

 絶体絶命の一瞬。そんな結末を、アサガオの勇者が許すはずもない。

 

「――リクッ‼︎」

「何ダト……⁉︎」

 

 水のベールの隙間を縫うように、青の砲撃が槍に直撃し、弾き飛ばす。最後に残った一門の砲塔を使い、落下しながらも的確に狙撃した美森。力の大半を使い果たし、最後の砲塔も花と散っていく。

 

「さっすが! 愛してるぜ美森ちゃん!」

 

「……私もよ……信じてるわ……」

 

「ああ、応えてみせる!」

 

 追い込まれすぎてテンションと言語中枢が壊れ始めた陸人と、そんな彼を優しく見守る美森。窮地を救われたアギトが、カリバーを大きく振り上げる。燃えるアギトの全身に光が宿り、刃に紅炎が奔る。

 

「アギトォォォ‼︎」

 

 武器を失った水のエルが、水龍を放ちアギトを狙う。

 足元に迫る水龍の攻撃を、スライダーから跳び上がって回避するアギト。

 

「オオリャアアアアッ‼︎」

 

 炎の力を収束した渾身の斬撃『バーニングボンバー』が炸裂。水のエルの胸を斜めに斬り裂き、その身体が炎に包まれる。

 

「馬鹿ナ……私ハ、水ヲ司ドル……エルロー……」

 

 最後の言葉を言い切ることはできず、水の天使はその身を失った。青い魂が何処かへ飛び去っていったものの、アギトは既にそれどころではなかった。

 

(邪魔者は倒した……あとは……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅ……まだ届いてない……まだ足りないのに……!」

 

 御霊に組みつき、巨腕の連打で表層を砕いていった友奈。しかし彼女もここに来るまでに激戦を繰り広げてきた。その消耗の積み重ねが最悪のタイミングで表面化してしまう。

 左のアームが砕け、同時に友奈の身体から力が抜ける。残った右腕を振るうこともできないほどに、全てが重たく、意識も遠くなっていく。

 

(ごめん、東郷さん……みんな……りっくん……)

 

「友奈ちゃん‼︎」

 

 あまりの脱力感に身を預けてしまいそうになった友奈だったが、遠くから迫ってくる声と気配に、落ちる直前で意識を引き戻す。

 

「勇者部五箇条――ひとつ!」

 

 水のエルを斬った勢いのままに友奈の右隣に飛び移ってきたアギト。まだ必殺の炎が残るもう一方の刃を振り上げる。

 

「――なるべく諦めない‼︎」

 

 叫びと共にカリバーを振り下ろし、御霊の傷に叩きつける。その一撃で酷使してきたカリバーが限界を超えて砕け散る。しかし同時に、ギリギリまで壊されていた表層はアギト渾身の必殺技で完全に破壊できた。巨大な表層の奥に存在していた小さな御霊、正真正銘本物の急所が現れる。

 

(やっぱり、りっくんは凄いなぁ……)

 

 何度でも、どんな時でも助けてくれる大親友の登場に、友奈の内から力が湧き上がってきた。一瞬前まで嫌になるほど重かった右のアームを振り上げ、最後の力を振り絞る。

 

「勇者部五箇条――もうひとつ!」

 

 友奈の根性を見たアギトもまた、最後の力を左手に込める。砕けた武器を放り投げ、構えた拳に炎が宿る。

 友奈の右拳とアギトの左拳。2つの必殺が重なり、その力が1つとなって御霊に迫る。

 

『なせば大抵、なんとかなる‼︎』

 

 宣言を合わせ、同時に拳を叩き込む2人。真の御霊を粉砕し、全ての力を使い果たした勇者が倒れる。おびただしい光と共に最後の標的が崩れ落ち、脱力した2人の身体も落下していく。

 

 

 

 

 

「……2人とも、お疲れ様。凄かったわ」

 

 飛行ユニットの台座部分だけはなんとか維持していた美森。落ちてきた友奈とアギトを受け止め、そのまま3人並んで倒れこむ。友奈と美森に挟まれて横になっているアギトの変身が解け、御咲陸人が姿を見せる。

 

「いけない、リク……!」

 

 美森が慌てて台座の天井部分、花弁のようになっているパーツを閉じて外界から隔離する。なんとか宇宙空間に陸人の生身を晒すという最悪の事態は避けられた。

 眠る陸人の様子を見る限り、変身解除しても残っているベルトの力か、呼吸や気圧については特に問題なさそうだ。痛ましい格好なのは間違いないが。

 

「リク、ひどい傷……友奈ちゃんも……」

 

 陸人は頭から血を流し、身体の至る所に火傷の跡が残っている。精霊バリアに守られているはずの友奈も、顔や体に傷があり、意識が戻る気配もない。

 

「みんな……大丈夫、か……?」

 

 意識も疎らな状態で、それでも仲間を心配し続ける陸人。そんな彼に応えるように、同じく意識がないはずの友奈が彼の手をキュッと握る。自分はここにいる、と伝えるように。

 

(そうね……私もここにいる。あなたたちと一緒なら、何があっても怖くない……)

 

 空いている陸人の右手を握り美森も目を閉じて意識を落とす。

 この2人とならきっと助かる、という想いが9割。残り1割は、2人となら死んでもいい、という願いがひっそり混ざった複雑な気持ちで眠る美森。

 3人を乗せた飛行ユニットは、重力に引かれて落下する。流星の如く落ちていく影は、落ちたらまず助からない速度にまで加速していた。

 

 

 

 

 

 

 

「――っはぁ……次はどいつよ!……って、アレ?」

 

「自壊していく……?」

 

 地上で多数のアンノウンを相手に大立ち回りを演じていた夏凜と風。2人を囲んでいたアンノウン達が糸が切れたように倒れ、砂のように散っていく。

 アギトが水のエルを撃破したことで超能力が途絶。水の力で存在していた再生アンノウンが形を保てずに消滅した。

 

「多分、陸人があの親玉を倒したのね。アイツが操ってたんだし」

 

「そっか……あのバカでかい御霊も壊れてくし、これで私たちの――」

 

 勝ちね、と続けようとした風の言葉は、天空から急速落下していく光を見て断ち切られる。遠目だが、アレは間違いなく仲間達だ。

 

「……私が、受け止めます!」

 

 封印の陣を守っていたワイヤーを再展開して、多重のセーフティネットを張る樹。何百というワイヤーを編み込んだ強固なネットのはずだが、加速がついたユニットの勢いは止まらず、次々と引きちぎられてしまう。

 

(このままじゃ……!)

『勢いはこっちでどうにかして落とすから〜、地上スレスレにとびきり硬いの張ってくれる〜?』

 

「――っ⁉︎ だ、誰ですか?」

 

『いいからいいから〜、お願いね〜』

 

 端末から届く謎の声。樹の頭が真っ白になる。次の瞬間、落ちていくユニットの周囲に11個の光が発生する。樹からは細部まで見えなかったが、あれは声の主が宿す精霊の光。それぞれが持つバリアを重ね合わせて、落下の衝撃を抑える緩衝材として展開する。停止させることは出来ないでいるが、確実に勢いは減衰していく。

 

「よし、これなら……」

 

「待って……アイツ!」

 

 一瞬安堵した夏凜と風だったが、そこに更なる障害が割り込んでくる。再生アンノウンの軍勢に混ざっていた通常タイプ。崩壊に紛れて隙を伺っていた未だ健在の梟型アンノウン『ウォルクリス・ウルクス』が、翼を広げて精霊に迫っていた。

 万一に備えて水のエルが仕込んでおいた隠し球が牙を剥く。このギリギリのタイミングで横槍が入れば、まず間違いなく陸人達は助からない。

 

(クッソ……足が動かない……!)

 

 邪魔者を排除しようとするが、満開は解けて疲労も限界を迎えている。特に右足の反応が妙に鈍くなってしまった夏凜は、上空の敵を止める手立てがない。

 

(冗談じゃないわよ。私達は勝ったんだから……ここまで来て、完全勝利にケチがつくなんて許せるわけないでしょ!)

 

 刀を杖にして無理やり立ち上がろうともがく夏凜。完全に視野が狭まった彼女の後ろから、部長の声が届く。

 

「夏凜、乗りなさい!」

 

「……風?」

 

「足、動かないんでしょ? あたしも視界がぼやけてきたけどね、敵の影くらいは見えてる。これでアンタの足代わりをしてあげるわ」

 

 不敵に笑って大剣を掲げる風。額の汗を拭う余裕すらない彼女だが、夏凜はその笑顔に不思議と頼もしさを感じた。

 

「……いいじゃない。今が1番イケてるわよ、風」

 

「でしょ? アンタもいい顔してるわ、夏凜」

 

 風に負けない笑顔を浮かべ、刀を突き立てた勢いで飛び上がる夏凜。大剣に降り立った仲間を受け止め、風が思い切り武器を振りかぶる。

 

『いっ……けぇぇぇぇっ‼︎』

 

 砲弾のような勢いで赤の勇者が打ち上げられていく。周囲の警戒を怠っていたウルクスは、後ろから迫ってきた夏凜に反応できない。すれ違う一瞬で夏凜の刀が何度も閃き、邪魔者をバラバラに解体した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『今だよ〜』

「――ええいっ‼︎」

 

 正体不明の声をひとまず信じることに決めた樹。合図に従い、最後のネットを構築する。

 

「お願い……止まってっ‼︎」

 

 樹の全力を込めたワイヤーは、大きくたわみながらも千切れることなく落下の勢いを受け止め切ることに成功した。

 完璧に静止して、美森の満開も消滅する。地上1mほどの高さから安全に落下する陸人たち。それを見届けた地上組も、力尽きたように崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

「くはぁ〜……きっつい……みんな大丈夫〜⁉︎ 生きてる人は手を挙げて!」

 

「……ぅ……はぁ……」

「……生きてる、わよ……!」

 

 部長の呼びかけに震えながら何とか応える樹。意地で力強く拳を掲げる夏凜。

 

「3人、生きてます……なんとか……」

 

 そして微かに意識を取り戻した陸人が、眠ったまま繋がれた美森と友奈の手ごと両腕を挙げる。ボロボロではあるものの、全員生きて帰ることができた。

 讃州中学勇者部は、ここに完全勝利を果たしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

(……なんか戦うたびに、謎が増えてないか? 俺……)

 

 薄れゆく意識の中、思い出すのは水のエルの言葉。

 

――滑稽ダナ、貴様ガソレヲ問ウノカ? 元凶タル貴様ガ――

 

――当事者ノ1人デアル貴様ノ罪ガ消エル訳デハ無イ!――

 

 "元凶"、"当事者"……無視するには重みがありすぎる言葉が、陸人の脳裏に焼き付いていた。

 

(……いつまでも見て見ぬフリ、ってわけにはいかないってことか……)

 

 ふと横を見ると、自分の側に顔を向けて眠る美森。反対側には同じ体勢の友奈。2人は変わらず、陸人の手を強く握って離さない。

 

(……まぁ、今はとりあえず勝ちを喜ぼう。俺は、俺の大切なものをちゃんと守れたんだ……)

 

 樹海が解ける光に包まれて、陸人の意識は再び落ちていった。

 

 

 

 

 

 英雄の炎は燃え続ける――全てを照らすほどに眩く、その身さえ滅ぼすほどに強く。

 

 

 

 

 

 




星の海=星団=star cluster

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。