A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
思い返すと、自分は投稿しないしない詐欺をしがちなことに気づきました。あんまり保険をかけすぎるのも良くないのかもと思います。
嵐が過ぎ去り、またいつも通りの毎日が続く……誰もがそう信じていました。
『カンパーイ!』
大社管轄の総合病院。決戦を勝ち抜いた勇者部の面々は、全員仲良く意識を失い病院に担ぎ込まれた……が、翌日には目を覚まし、こうしてみんなで祝勝会ができる程度には回復している。
ちなみに1番の重症だった陸人は、驚異的な回復力を発揮。多少の火傷が残っている程度で、医者が匙を投げる速度でほぼ全快した。
「樹ちゃん、声が出ないの?」
"先生が言うには、身体に負担をかけすぎた一時的な反動だそうです"
「風先輩、その眼帯は……?」
「いやー、あたしにも反動ってのが出たみたいでね。左目が見えなくなっちゃって」
「夏凜ちゃん、身体はどう?」
「面倒ったらないわ。鍛えてる私だから日常生活はなんとかなるけど。杖ついてちゃトレーニングも満足にできやしない」
仲間達にもあの激闘の痕は残っている。それほどギリギリの戦いだったと言えるが、陸人は嫌な予感を拭えなかった。そんなことを考えていたせいか、ジュースを口に含んだ際の友奈の反応が妙に目に留まった。いつもと違う戸惑ったような表情に、不穏なものを感じ取った陸人が声をかける。
「友奈ちゃん、どうかした?」
「あっ……んーん、なんでもないの。炭酸、久しぶりに飲んだ気がして。美味しいなぁって」
「……そう」
誤魔化したような友奈の笑顔に既視感を覚える陸人。遠いどこかで、似たような言葉を聞いたような気がした。
「みんな無傷とはいかなかったか……リク、あなたは本当に大丈夫なの?」
「ん? ああ、全然平気。ちょっと服の裏に火傷があるけど、それくらいだよ」
「私が最後に見たリクは、頭からすごい量の血が流れていたと思うんだけど……傷、ないわね」
「見間違いじゃない? 大変な状況だったし、美森ちゃんも疲れてたんだよ」
不自然なほどに傷の治りが早い身体。違和感を覚えないことはないが、陸人からすれば自分の意味不明っぷりは慣れたものだ。実は人間じゃありませんでした、とか言われても信じられそうなくらいに、陸人は己の記憶と身体については大雑把に捉えていた。
「ま、みんなその内治るでしょ。全員が退院したら、また勇者部再開よ!」
「やれやれ、勇者のお役目は完遂したのに、まだやることあるの?」
「なーに言ってんのよ夏凜! むしろこっちがあたしたちの本分でしょうが」
(勇者部の本分……でも、私は……)
"夏凜さん、どうかしましたか?"
「なんでもないわ……気にしないで。ほら樹、これも食べなさい」
誤魔化すように樹の口に菓子を突っ込む夏凜。何か思うところがあって、今は仲間に言う気はないようだ。
(リクが言っていた満開の危険性……もしかしたら……)
「東郷さーん、これ食べた? 美味しいよ」
「……ん、いただくわ友奈ちゃん」
風、樹、夏凜には目に見えて問題が残っている。友奈や美森自身にも違和感があるように思える。心配性で考え込むタイプの美森にとって、透明な不安が拭えない現状はよろしくない。友奈や陸人の手前笑ってはいるが、いつまで保つか。
(バーテックスはこれで打ち止めとしても、アンノウンはどう出るかな……あの水の奴が親玉ってことはないだろう。俺が倒した後でも動ける敵がいたらしいし)
端末を預け、勇者の力を手放した仲間達とは違い、陸人の力は健在だ。いざとなれば1人で戦うことになる。彼自身は慣れていると言えばそこまでだが、一度は肩を並べた彼女達の心情を考えると、少しやりにくくはなるだろう。
祝勝会であるにも関わらず、彼らの半数はそれぞれの不安を抱え、それを表情に出さないように取り繕っている。そんな仲間の顔を見て、桜の少女は小さく拳を握っていた。
数日後、元々の障害もあって検査が長引いている美森を除いた全員が無事退院した。
個室でしばらく考え込んでいた美森は、なんらかの結論が出たのか、陸人を呼んで話を切り出す。
「……満開の後遺症?」
「風先輩の左目。樹ちゃんの声。夏凜ちゃんの右足。私も確かめてみたら、左の耳が聞こえなくなってる……それに友奈ちゃんは……」
「「味覚の消失……」」
「やっぱりそうよね……気のせいかとも思ったんだけど」
「俺もだよ。でも、俺たち2人が同じ結論に至ったなら確定だ」
満開した仲間全員に後遺症とも取れる身体機能の障害が残っている。身体を酷使した一時的な反動だという医者の言葉も納得はできるものだ。しかし、一度でも疑いを持ってしまえば全てが怪しく見えてくる。
「リク……どうしたらいいのかしら? もし、このまま戻らないなんてことがあったら……友奈ちゃんが、ご飯を美味しく食べることもできないなんてことになったら……」
「大丈夫、大丈夫だよ美森ちゃん。確かに怪しいところはあるけど、今後にも関わる大事なことを黙っているはずがない。そんな代償があるなら、少なくとも夏凜ちゃんには伝えてるはずだ。
俺の方でも調べてみるから、美森ちゃんは考えすぎないで……退院したら何がしたい? なんでも付き合うよ」
俯く美森の頭に手を乗せて優しく撫でる陸人。顔を上げた美森を元気づけるために、彼女の目の前で指を鳴らす。お得意の手品でアサガオを一輪出すと、綺麗な黒髪を軽く梳いて耳の上辺りの髪に添える。
「あ……リク、ますます上手になったわね」
「練習したからね。退院したら、美森ちゃんにも1つネタを教えようか?」
「……それもいいかもね。ありがとう、リク」
頭に添えられた陸人の手を握る美森。しっかり握った手を自分の頰に持ってきて、感触を確かめるように優しく擦り付ける。陸人はなんとなく気恥ずかしくなったが、満足そうな美森の顔を見て振り払うのは諦め、されるがままにその笑顔を見つめていた。
(私にはこの人がいる。だから、きっと大丈夫……)
安堵の笑顔を見せる美森。そんな彼女を見て、陸人もコッソリと安堵の溜息をついた。
「夏凜ちゃーん!」
「……友奈?」
「最近部活に来ない夏凜ちゃんを迎えに来ました!」
「……別に、もう私が行く必要はないでしょ? バーテックスは全て殲滅した。私があそこにいる理由はもう……」
夏凜は退院して以来、ずっと部室に顔を出していない。クラスで話しかけても適当に流されてまともに話もできない。そんな状況が続き、とうとう友奈は放課後の夏凜の日課に突撃した。
「確かに夏凜ちゃんが勇者部に来たのはバーテックスが理由かもしれない。でも夏凜ちゃんが今勇者部であるのは違うよ」
「……え」
「夏凜ちゃんが友達だからだよ! 友達だから……東郷さんも、風先輩も、樹ちゃんも、りっくんも……もちろん私も、夏凜ちゃんのこと大好きだから!」
片足が上手く動かないなりに運動していた夏凜。トレーニングで若干紅潮していた彼女の顔は一気に赤く染まった。こうまでストレートに好意をぶつけられたことは、閉鎖的だった夏凜の人生で初めてのことだった。
「私は夏凜ちゃんが真面目で努力家なのは知ってる。勇者の使命に真剣なことも知ってる。でもそれだけじゃなくて、すっごく優しくて友達想いなところも知ってる。だから一緒に行こうよ、勇者部!」
「私は……」
「部室に行く理由、ないといけない? う〜ん、だったら……私がどうしても来てほしいから!……じゃ、ダメかな?」
両手を合わせて拝むようにしながら上目遣いで伺ってくる友奈。こうなってしまえばもう、夏凜の意地の耐久力などハリボテ以下だ。
「……しょうがないわね。行くわよ、行けばいいんでしょ勇者部!」
「うん! 今日行けば罰則の腕立ては免除だって風先輩が」
「待って、そんなもんあったの? あんなフワッとしたスローガン掲げてるくせに」
言い合いながら学校に向かう友奈と夏凜。夕日を背に並んで歩く制服姿の2人組。夏凜がなんと言おうと、紛れもなく友達同士の姿だった。
また別の日、退院した美森を迎え、改めて部室で祝杯をあげる勇者部。その祝いの場から離れた陸人は、屋上で風に当たっていた。交友関係が広い彼が1人になりたい時によく来るスポットだ。陸人はここから校庭の生徒や住宅地など、人の生活を眺めるのが好きだった。
(あの時、みんなが満開してくれなければ間違いなく俺は死んでいた……もっと力があれば……)
これからのことを建設的に考えようとしていた陸人だが、度々思考がマイナス方向に逸れていく。元々他者に異様なほど寛容で自分に厳しい、自罰的な程に責任感が強い性格ではある。その上今回は目に見える形で傷を残してしまった。陸人の後悔と自己嫌悪は際限なく続いていく。
「……だーれだっ⁉︎」
「――っと?」
思考に没頭して珍しく隙だらけになっていた陸人。息を潜めて近づいてきた友奈が背後から彼の両目を塞ぎ、戯けた声で問いかける。
「……んー、誰だろう? 分かんないや……」
「えっ? またまたぁ、私だよ私っ」
犯人の正体は即座に看破できていたが、陸人は敢えてしらばっくれる。仕掛けた側の友奈がむしろ焦り出す。慌てる様子に笑いをこらえている陸人にも気付かず。
「りっくん、私だってば。ほら、りっくんって呼んでる!」
「うーんと……あぁ、八百屋のおばあさんかな?」
「えっ、あのおばあちゃんもりっくんって呼ぶの?……ってそうじゃなくて!」
ここまで来れば陸人がふざけていることに気づきそうなものだが、友奈は本当に自分のことを分かってもらえていないと思い込み、ますます焦る。これも純真さゆえか。
「じゃあヒントをもらえない? 質問するから、正直に答えてよ」
「いっ、いいよー! なんだって答えちゃう」
実際その手を離せば済む話なのだが、友奈はあくまで陸人の言葉に乗っかっていく。純真と単純は紙一重と言うべきか。
「質問1。君は俺と同じクラスの生徒だ」
「はい、クラスメイトです」
「質問2。君は勇者部に入っている」
「はい、同じ勇者部員です」
「なるほど、だいぶ絞れてきたよ……よし、最後の質問だ」
「ホント? よーし、なんでも来い!」
両者共に目的を忘れてこの問答を楽しみ始めている。怖いのはこの間2人が密着状態のまま、それをお互気にしていないことだ。思春期真っ盛りの男女の距離感ではない。これはどちらも異性として見ていないのか、それとも性差を忘れるほどに親密な証拠なのか。
「じゃあ質問3。君は俺の大好きな人だ」
「……! えーっと、どうかな?」
予想外の質問に硬直する友奈。それでも身体は離さず、どう答えるかを考えている。
(……ま、この辺で切り上げるか)
親友の反応が面白くて、少しからかいすぎてしまった。名前を言い当ててこの問答を終わらせようと陸人が口を開いた瞬間――
「でも、うん……そうだね。私はりっくんが大好きだし、りっくんも私のこと"好きだ"って思ってくれてたら……凄く嬉しいです」
「……!」
「あはは、恥ずかしいね……ゴメン、変なこと言っちゃった……」
「……いや、俺の方こそ……からかってごめんね、友奈ちゃん」
「あー、やっぱり分かってたんだ。もう、ひどいよりっくん」
気恥ずかしさに頰を赤く染め、どちらからともなく離れていく。照れ笑いをしながら目線を彷徨わせる友奈。気まずそうに頰を掻いてそっぽを向いている陸人。自分たちの大胆さにようやく気付いたようだ。
「そ、それでりっくん! 1人で何してたの?」
「……特に何してたわけじゃないんだ。考え込んでたっていうか」
「そうなんだ。悩み事なら相談乗るよ?」
そう言って笑う友奈。彼女こそ味覚が利かないという傷を負った被害者なのに、そんな雰囲気は微塵も感じさせない笑顔で陸人に手を差し伸べる。
(本当に、君はすごいよ友奈ちゃん……)
「りっくん?」
「いや、もうそのことはいいんだ。結論は出たから……友奈ちゃんのおかげだよ」
「私? 何にもしてないけど……りっくんがいいならいいや」
2人並んで街を眺める。しばらくそうしていると、屋上に数人の生徒が上がってきた。共に目の前の景色を守り抜いた仲間たちは、無言のまま隣に並び、勇者部全員が一列に並んで世界を見渡す。
「これが当たり前の世界……私達が護ったもの」
「誰もそんなこと知らないし、考えもしないでしょうけどね」
「それでも俺たちが頑張った結果が、こうしてここにある……それはまぎれもない事実だよ」
満足げに、誇らしげに微笑む一同。夏凜は端末に届いたメールを見て、安堵の表情を浮かべる。
「夏凜ちゃん、どうかした?」
「なんでもないわ。ほらほらアンタたち、バーテックスを倒しても勇者部の役目は続くんでしょ? あんまのんびりしてられないわよ」
「あらら、どうしたの? 打って変わって乗り気じゃないの」
「ゆるゆるで大雑把な部長だけじゃ立ち行かないでしょ? 私がしっかりしないとね」
「なにおー! 前から思ってたけど、夏凜には上級生への敬意が足りないわよ」
「だったらもっと敬えるようなところを見せてみなさいよ」
"夏凜さん、言い過ぎですよ。確かにちょっと勢い任せすぎるところはありますけど"
「樹⁉︎ あぁ……妹に背中から刺される日が来るなんて」
「だいじょーぶですよ風先輩! 先輩の良いところは私たちみんな分かってますから。ね、東郷さん?」
「うふふ、もちろんよ友奈ちゃん。風先輩の勢い任せあってこその勇者部ですもの」
「あんたら……揃いも揃って、人をイノシシみたいに言うなー!」
(そうだ、俺たちは確かに勝った……確かに、護れたはずなんだ)
「リク、どうかした?」
「何でもないよ……そういえば風先輩、慰安旅行がどうのって言ってませんでした?」
「あ、そうそう。大社からの連絡なんだけど――」
彼らは讃州中学勇者部。神に見初められ、
美森ちゃんの不信を払ったのは陸人くん。
夏凜ちゃんの葛藤を払ったのは友奈ちゃん。
友奈ちゃんの不安を拭ったのは陸人くんで、陸人くんの罪悪感を減らしたのは友奈ちゃん……そういう役割分担ですね。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに