A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
「延長戦ってことですか……」
「そうなるわ。終わったと思ったんだけどね」
大社から返された端末……勇者としての力。それが必要な事態がまだ続いている。つまりまた戦う必要があり、身体に異常が残る可能性があるということだ。
「でもほとんどはもう倒したんですよね? だったら……」
「ええ。いつでも来なさいってね」
それでも勇者達は怯まず、端末を手に取る。自分たちにしかできないことがあり、やらなければ失われる命がある。それを守るために戦う。少し決着が延びただけ。それだけのはずだと、誰もが自分に言い聞かせていた。
(本当に、そうなの? この胸騒ぎは何……?)
(アンノウンもまだ動いてる。だとしたら……)
美森と陸人の顔は晴れない。考えられる可能性があまりに多すぎるのだ。
それから数日後、ついに現れた延長戦の相手。敵はバーテックスとアンノウンが一体ずつ。前回のような大規模戦闘にならずに済んだことに安堵する一同。しかし陸人は、これまでとは違う脅威を感じ取っていた。
(何かが違う……普通のアンノウンとも、エルロードとかいう奴とも)
人に近い姿をした双子座の『ジェミニ・バーテックス』
その隣を歩くカブトムシ型のアンノウン。気配は紛れもなくアンノウンのもの。しかし、多くのアンノウンを屠ってきた陸人は違和感を覚えた。その落ち着いた佇まいには、人間のような雰囲気があった。
「それじゃ打ち合わせ通り、アンノウンは俺がやるよ。バーテックスはよろしくね」
「ええ……あのバーテックス、前回の戦闘にもいたわ。双子、ということなのかしら」
「ああ、覚えてるわ。やたらすばしっこいやつよね。どうやって倒したんだっけ?」
「あれでしょ? スイレンさんとかいうのが片付けてくれたって」
美森と樹が通信で会話した謎の助っ人"スイレンさん"のことは大社に聞いても不明としか返ってこなかった。全て終わったと考えていた勇者達は深く追求しなかったが、こうなると何が嘘で誰を信じればいいかも分からない。
「とにかく今は、目の前の敵をやっつけなくちゃ。足が速いならみんなで連携して倒そうよ!」
"私のワイヤーも、役に立つはずです"
「……そうね。よし、円陣しましょう!」
肩を組んで円になり、心を1つに合わせる。どんな状況でも信じられる仲間と繋がり、勇気を奮い立たせる。
「これできっちり勝って、延長戦もゲームセットよ!――勇者部――」
『ファイトォォォッ‼︎』
号令と共に別れて飛び立つ勇者達。目指すは完全勝利。その先にあるはずの、当たり前の平穏。
カブト型と激突したアギトは、一合でその実力の高さを把握し、同時に戦慄した。
(エルロードとは違う。種族のスペックや超能力じゃない、戦士としての強さがコイツにはある……!)
闘い方を知っている動きでアギトについてくるカブト型。メイスと盾で武装し、攻防ともに隙がない。人間を殺すだけの他の個体とは違う。間違いなくかなりの戦闘経験を積んでいる。それもアギトのような、力のある存在との殺し合いを。
予想外の強敵の出現に、陸人は改めて目の前の敵に集中する。切り崩すためにフレイムフォームに変化。セイバーとメイスが激しく火花を散らす。
「…………」
(冷静にこっちを見極めてきてる……! 真っ向からじゃ難しいな)
必殺技を決めるにしても、盾を弾くか壊すかしなければ防がれるのは目に見えている。ストームの速度で翻弄する手も考えたが、アギトの体感では、目の前の敵はまだ実力の半分も出していない。おそらく速度も風の力と互角以上はあるはずだ。
「なるほど。それが貴様の力か」
「なに……?」
何度目かの鍔迫り合い。至近距離で睨み合う中、アンノウンらしくない流暢な言葉が飛んできた。反射的に飛び退いたアギトが言葉を発する前に、遠く離れた地に光の柱が発生する。
勇者達がバーテックスを撃破した光だ。それを確認したアンノウンは、背を向けて離脱していく。
「……水入りか。小手調べとしてはこんなところか」
「待て……お前、何者だ?」
「さあな。闘い続ければ、また相見えることになるだろう」
終始余裕を崩さず、カブト型は悠然と光の奥へと消えていった。それを見届けた直後、アギトもまた光に包まれる。
(……いつもの帰還と違う、この感覚は――?)
何かに引っ張られるように、アギトは崩壊する樹海から、何処かへと転移した。
「ここは……」
「美森ちゃん、友奈ちゃん!」
「りっくんも来てたんだ、良かった……なんか変だよね? ここ、いつもの屋上じゃない」
樹海が解け、陸人たち3人が降り立ったのは学校の屋上ではなく、それなりに距離があるはずの大橋の目の前。なぜこのような事態になったのか、陸人が周囲を探っていると……
「良かった〜、成功したよ〜……会いたかった〜」
(この声……!)
やたら間延びした少女の声。その方向に進むと、違和感だらけの空間が広がっていた。
屋外であるにも関わらず、病室からそのまま持ってきたようなむき出しのベッド。その上に身体を預けているのは、これまた屋外向きではない薄着の少女。傍には大社の仮面を付けた小柄な人物が1人。
3人をここに来たのは彼女達の思惑のようだ。
「えっと、あなたは……?」
戸惑いながら友奈が2人に視線を送る。誰かの知り合いか、という疑問の目線に、美森は一瞬悩んで首を横に振る。それを見た少女の目にほんの僅かな悲しみが宿ったことに、陸人だけが気づいた。
「ここに俺たちを呼んだのは、君ってことでいいのかな?」
「そうだよ〜。会いたいって何度言っても聞いてくれなかったから、勝手にやっちゃったんだ〜。お名前教えてもらえる〜?」
「えっと、結城友奈です」
「東郷美森です……」
「御咲陸人……その仮面、君は大社の?」
「ん〜、厳密には違うかな〜。私はどっちかといえばあなた達と同じ立場、勇者だよ〜」
「……勇者……?」
のほほんと告げられた自分達以外の勇者の存在。そこでようやく、美森は彼女と同じ声の主を思い出した。
「そうか……あなた、スイレンさんね?」
「「……!」」
「そうそう〜。ある時は国防仮面二号、またある時は謎の勇者スイレンさん、かくしてその正体は〜?」
そのままタメを作って黙り込む少女。反応に困った陸人達は、首を傾けて同じく黙り込む。
「……その正体は?」
(あ、そう乗っかるべきだったのか)
(この声、女の子?)
見兼ねた仮面の少女が小声で合いの手を入れる。流石に初見の3人にその返しは無理があった。
「そう、その正体は〜? じゃじゃじゃ〜ん、乃木園子っていいま〜す。あなた達よりもちょっと前に、ここ大橋で勇者やってました〜」
頭部や左腕、胸部等に包帯を巻き、その肌は病的に白い。不自然なほどに脱力した身体からは、普通の人間にある活力が感じられない。
それでも少女は朗らかな笑顔で、相変わらず間延びした声で名前を名乗る。
「先代勇者、乃木園子さん……」
(この子が睡蓮の彼女で間違いない……なるほど、勇者だったわけか)
「乃木さん。あなたの身体は、その……バーテックスとの闘いで?」
「う〜ん、まぁそうとも言えるし、違うとも言えるかな〜」
言葉を濁す園子。少しだけ表情を曇らせて躊躇った彼女は、一瞬の後に再び笑顔を作って口を開く。
「友奈ちゃん。美森ちゃんも、満開したんだよね?」
「あ、はい……」
「満開には、やっぱり何か……?」
「りくちーから聞いたんだね〜。もっとハッキリ伝えられれば良かったんだけど……大社の目が厳しくて〜」
「……りくちー?」
「あー、今は置いといて……満開が、どうしたの?」
「よくできたネーミングだよね〜。"満開"……咲き誇った花は、その後どうなると思う?」
「……ぁ」
「まさか……」
「咲ききった花は散るしかない……まさか、そういうことなのか?」
「……うん。満開した後、体の一部が不自由になったと思うんだけど、心当たりある?」
「……!」
(そうか……やはり)
反射的に口を抑える友奈。左耳に触れて苦い顔をする美森。2人の素直な反応を見て、おおよそ把握した園子が話を続ける。
「その様子だと、まだ一度だけなんだね〜……"散華"って言うんだ。勇者は神樹様に力を借りて戦う。だからより強い力を授かりたい時は、代償に自分の何かを捧げなくちゃいけない」
"まだ一度だけ"
その言葉に、陸人は目の前の少女にずっと抱いていた違和感の正体を悟った。
「君の身体、外傷には見えなかったけど……満開の代償で?」
「そうなんだ〜。これでも謎のヒーローさんが助けてくれたおかげで少なく済んだんだけどね〜。1人だったらきっと倍以上を捧げなくちゃいけなかったと思う」
全身を包帯で覆い、手足の動きも悪い現状をまだマシと言い切る園子。ずっと笑顔で話しているが、まだ子供の彼女にとって、笑って流せる状態ではないはずだ。
本当は泣きたいだろう、怒りたいだろう、恨みたいだろう、呪いたいだろう。その全てを封じ込めて自分達と向き合ってくれている勇者の姿に、陸人は喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
「そのかわり……なんて言い方は正しくないかもしれないけど〜、勇者は死なない。ううん、死ねなくなるんだよ」
「それは、つまり……」
「どんな無茶をしても、後退せずに戦い続ける。そういうことでいいのかな?」
言い淀む美森に代わって、陸人が残酷な現実を口にする。ここまで来たら、下手に誤魔化すよりも事実と向き合う方がいいと判断した。
「そういうことだね……今の私の身体は、その悪い例として見てもらえればいいかな〜」
のほほんとしてはいるが、そのうちに秘めた苦悩はどれほどのものか。出会ったばかりの陸人達には想像もできない。
「なんで君や美森ちゃん達みたいな子供が選ばれるのか、聞いてもいいかい?」
「簡単なことだよ〜。いつの時代にも決まってることだからね……神様の供物として見初められるのは、無垢なる少女。神世紀でも、古代でも……
"西暦の勇者"
そんな無関係なはずの言葉が、陸人の胸に強く響いた。
「誰かがやらなきゃいけなくて、私達にしかできないこと。やりたいとかやりたくないとか、そんな次元の話じゃない。
大社が秘密主義なのは、優しさもあるのかもしれないけど……こっちとしてはたまったもんじゃないよね」
「供物……それじゃ私達は、これから先も自分を失い続けて――」
「で、でも! バーテックスは全部倒したんだよ! だからもう……」
美森の不安をかき消そうと、驚愕を隠して彼女の手を握る友奈。おぼろげな希望に手を伸ばす2人を見て、園子が新たな言葉を紡ごうとして――
「邪魔が……!」
ずっと黙ったまま気配を消していた仮面の少女が、園子を庇うように傍に立つ。気づけば、同じ仮面を被った大人が10人以上。陸人達を囲むように迫ってきていた。
「なに……なんなの?」
「りっくん……」
「嫌な感じだ……2人とも、俺から――」
「はい、そこまで」
剣呑な雰囲気を発しながら近づいてくる仮面集団は、園子の鶴の一声で一斉に動きを止めた。先ほどまでとは打って変わって冷たく響く声に、陸人は思わず園子の表情を伺う。彼女は間違いなく怒っていた。
「3人に何かしたら、私……
相手の反応を気遣いながら話していた園子だったが、大社職員に対しての声色はひどく冷たい……いや、激情を必死に抑えようとして結果的に冷たくなってしまっている。
言葉の1つ1つが見えない圧力となって、大の大人達を跪かせていく。
「もう終わらせるから。あなた達は先に帰ってて……いいね?」
その言葉に従い、無言で立ち去っていく仮面たち。全員が消えてようやく、園子は気が抜けたように息を吐いた。
「はぁ……ゴメンね。あの人達も必死なだけなんだけど、極端すぎて……」
「園子、これ以上は……」
「うん……見張られてるだろうし、今日はここまでだね〜」
密かに言葉を交わし、仮面の少女が離れていく。ここでお開きのようだ。
「知りたいことがあったら、大社を訪ねてきてくれるかな? これ以上誤魔化そうとはしないはずだから〜」
「……分かったよ。園子ちゃん」
「えっと……ありがとう、ございました」
眉根を寄せて何かを言い淀む美森。やがて意を決した彼女は、ずっと感じていた疑問を園子にぶつける。
「乃木さん、あなたは……」
「どうかした〜?」
「あなたは、私のことを知っているの?」
「……! う〜ん、そうだね〜。
「……そう」
ひどくぼかした返答に、美森はひとまず引き下がる。その手は無意識に髪を束ねるリボンに触れる。気持ちを落ち着かせる際の彼女のクセだったが、それを見た園子は懐かしいものを見るように目を細めた。
「そのリボン、似合ってるね〜」
「……! ありがとう。どうしても思い出せないけれど、すごく……すごく大切なものなの」
「そっか〜……」
美森も、2人のやりとりを見ていた陸人と友奈も大まかに事情を把握し、何も言うことができなかった。
「タクシーを呼びました。邪魔が入る前に、どうかお急ぎを……」
戻ってきた仮面の少女が告げる。彼女と園子はよほど大社を信用していないらしい。民間の足を用意して帰宅を急かす。全ては陸人達を守るために。
「それじゃあ園子ちゃん、今日はありがとう」
「うん……気をつけてね、色々と」
「ああ……また来るよ。君に借りっぱなしだった羽織、今度は持ってくるから」
「……楽しみにしてるね〜」
仮面の少女に見送られ、立ち去っていく3人。その背中が見えなくなった頃、園子は密かに涙を流す。
この出会いは喜ばしいものではなかったかもしれない。残酷な真実を知った彼女たちの痛みも、決して軽いものではないだろう。それでも園子は嬉しかった。
――どうしても思い出せないけれど、すごく……すごく大切なものなの――
――また来るよ。君に借りっぱなしだった羽織、今度は持ってくるから――
「えへへ、ありがと〜……りくちー……わっしー……」
誰にも聞こえない感謝を告げ、涙を流しながらも園子は笑った。義務感で貼り付けた作り笑顔ではない、本物の笑顔の花がそこに咲いていた。
陸人達を乗せたタクシーが何事もなく彼らの家まで到着し、美森の車椅子を押して友奈が東郷家に入っていく。用心して家路まで同乗してきた仮面の少女は、無言のまま美森の後ろ姿を見つめていた。
「そうだ、園子ちゃんにこれ渡してくれる?」
陸人が差し出したのは、連絡先が綴られたメモ用紙。ようやく出会えた思い出の彼女との繋がりを維持したい。基本受け身な陸人にしては珍しい積極的な行動だった。
「申し訳ありません。園子様の端末は大社に管理されています。普段は彼女の手元にはありません」
「そこまでか……じゃあ君のならどうかな? 友達なんだろ?」
「……なんで分かったんだ?」
声色と態度で出来る限り平坦な人物を作り上げていた少女。靴や服装も工夫して、なるべく自身の小柄さも誤魔化せていたつもりだったのだが。
「見れば分かるよ。園子ちゃんとの距離感が違うからね」
「そっか。すごいな、御咲陸人」
観念したように息を吐いた少女が、仮面を外して素顔を晒す。陸人の予想通り、自分と同年代の幼さが残る少女の顔がそこにあった。
「アタシは三ノ輪銀。お察しのとおり、園子の友達だ。今はアイツの側付きをやってる」
「そして、
「……ホントに察しが良いな。アタシも勇者だった。園子と違って、今はもう適性を無くしちゃった役立たずだけどな」
「不自然なくらいに右手を使わない挙動が気になってね。あんな話の後だったのもあって……散華っていうのは、勇者の資質そのものを失うこともあるのかい?」
「ああ、本末転倒な気もするけどな。神樹様でも捧げる対象は選べないみたいだ」
参った参った、と頭に手をやる銀。先ほどまでの態度は全て演技だったらしく、仮面を外した彼女は感情を素直に表現する気質のようだ。
(この子と園子ちゃんが先代勇者……だとしたら美森ちゃんの足と記憶は……)
散華、乃木園子、三ノ輪銀、東郷美森。今日1日で知ったことは多い。懸念事項も同じだけ増えてしまったが。
「それじゃ今日はありがとう。これからは園子にアタシの端末貸して連絡させてもらうよ」
「うん。俺が言うのも変な話だけど、園子ちゃんのことよろしくね。またすぐ会いに行くよ」
「おう、伝えとく。そっちも須美のこと……東郷さんのこと、よろしくな」
気安く手を振り、別れの挨拶を交わす。銀が乗ったタクシーが離れていくのを見送り、陸人はこれからについて考えを巡らす。
(今後の戦い、俺が中心になって戦うにしても限界がある……いや、その前にみんながどう受け取るか。もうこれ以上奪わせないためには……)
陸人は仲間の強さを信じている。そしてそれ以上に彼女たちの幸福を願っている。
やっと手に入れた真実は苦く、戦いが終わる兆しはまだ見えない。
内なる炎が瞬き、胸にチクリと痛みが刺さった気がした。
この辺は割と原作に近いかな? ここからどこまで鬱タイムが続くのか……
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに