A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
高架下でぶつかり合う2人の人外。アリ型の白いアンノウン『フォルミカ・ペデス』とアギト・グランドフォームが人知れず拳を交えていた。
「これで最後だ!」
大地の力を凝集したライダーパンチがアンノウンの顔面に直撃、異形の身体を粉微塵に爆砕した。
「ふぅ……いくら弱いといえど、このペースで出て来られると面倒だな」
一戦を終えた陸人が凝った身体をほぐしながら呟く。昨日から数えて11体目。未だかつてないハイペースで襲撃が続いている。今のところ一切被害者を出さずに撃退できているものの、これが続けばいずれ1人では限界が来るのは明白だ。
(かといって、今満足に動けるのは俺くらいだし……)
風の暴走からまだ4日。心を癒すにも、恐怖を振り払うにもあまりに短い時間だ。満開して身体機能を失う可能性がある以上、仲間を戦わせるわけにはいかない。
夏凜は大社の命令を受けて警戒態勢で待機。
風は学校も休み、部屋にこもっている。
樹はそんな姉を放っておけず、ずっと側についている。
美森も精神的ショックは大きく、笑顔に陰りがある。
いつも通りを維持できているのは友奈くらいだ。
友奈と2人、仲間を支えようと考えていた矢先に連続して襲い来るアンノウン。止むを得ず、仲間は友奈に任せて陸人は戦場に出ている。
『りっくん、終わった?』
「今片付いたところ。すぐ戻るよ」
『良かった。それじゃ――』
「……! ごめん、まただ。ちょっと行ってくるね」
『……そっか。気をつけてね』
友奈との電話もそこそこに走り出す陸人。このままペースアップしていけば、いずれ犠牲が出るのは避けられない。
(どんなに力があっても目の前の敵を倒すしかできない俺たちじゃ、この事態を解決させることはできない……アンノウンも考えたな……!)
物量と時間差で攻めてきたアンノウン。仲間といえど、"個"の集まりでしかない勇者部には"群"を相手にする術がない。人類側で現状を打破できる組織はただ一つ。陸人が何より警戒している大社の力が必要だった。
「リク、お水飲める?」
「……ああ、ありがとう美森ちゃん」
すっかり暗くなった時間に帰宅した陸人。まっすぐ歩けないほどに疲弊した彼は、そのままベッドに倒れこんだ。見兼ねた美森が世話を焼くも、普段の彼らしくないそっけない反応しかできていない。ここまで消耗した陸人を、美森は見たことがなかった。
(やっぱりおかしい。リクが……リクばかりがこんな負担を背負わされて……)
「美森ちゃん?」
「なんでもないわ。今日はもう寝なさい。明日は早めに起こしてあげるから」
「ごめん、助かる……おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
陸人の頭を撫でて寝かしつける美森。いつもと立場が逆転した状況だ。安心しきった顔で眠る少年。その寝顔を見つめる少女の瞳は暗く澱んでいた。
数日後、陸人たち勇者部に大社から呼び出しの連絡が来た。これまでは風か夏凜に対して一方的に近い無機質な通知を寄越すだけだった大社。かつてない状況に、陸人の嫌な予感は止まらない。
(距離を保って秘密主義を貫くこともできないくらいに切羽詰まっている……そういうことだな)
「風先輩、大丈夫ですか?」
「ええ、いつまでも部長がウジウジしてらんないでしょ……立場はみんな同じだしね」
力なく笑う風の目元には濃いクマが浮かんでいる。まともに眠れていないようだ。隣に寄り添う樹も若干顔色が悪い。犬吠埼姉妹の状態は、悪化はしていないが好転もしていない。このまま放っておけばいずれまた爆発するのは明確だ。
「辛いと思ったら無理せずに下がってくださいね。話なら後で俺から伝えますから」
「うん……陸人、本当にごめんね」
「言いっこなしですよ、風先輩。俺たち仲間でしょ?」
「……ふふっ、ありがと」
"それで、呼ばれた場所って?"
「大社本部だって。一応直属の私ですら滅多に入れないってのに。どんな魂胆があるのやら……」
「まぁまぁ。最初から疑ってかかるのはあんまり良くないよ夏凜ちゃん」
「最近はアンノウンの動きも活発になっているわ。このままじゃリクの負担が大きすぎる。その解決策でもあるのならいいけれど……」
全員が不信を抱えたまま、勇者部は本部に到着。案内されるままに会議室らしき場所にたどり着いた。
「失礼します――っと、あれ? 確か国土さん、だったよね?」
「久しぶりだ、御咲陸人。お互いまだ生き残れていたようで何より」
そこにいたのは1人の少年と数人の少女達。少年の方は陸人とも面識があった。
国土志雄。人工強化スーツを装着して任務に当たる大社の貴重な戦闘要員の1人。
「どうしたの陸人――ってアンタ、もしかして……」
「……三好、夏凜……!」
「楠芽吹……なんでここに?」
「夏凜ちゃん、知り合い?」
「……ええまあ、ちょっと前にね……」
夏凜の知り合いもいたらしく、なにやら剣呑な雰囲気で見つめあっている。知り合いは知り合いでも、あまり穏やかな付き合いではなかったようだ。
「国土さん、この集まりは?」
「"
「任務? つまり――」
「そう、頻発しているアンノウンの襲撃。それに対抗する作戦です」
音もなく入室してきた仮面の女性。唐突な出現に慄く勇者組を尻目に、先にいた防人という一団は慣れているらしく、淡々と席に着く。おそらくこれが平常運転なのだろう。
「勇者様方もご存知の通り、現在アンノウンの出現数が爆発的に増加しています。これまでになかった動き。我々はこれを警戒し、壁の外に何か動きがないかを調査していました。そこで撮影されたのがこちらです」
下りてきたスクリーンに表示されたのは、有機と無機が混ざり合ったような異質な巨大物質。
城塞を敷地ごと削り取ったような、まさに空中要塞と言える巨体。
人工的な城塞の全体に触手が絡みつき、異質な雰囲気が漂う本丸。
下部に搭載された推進装置らしき部分からは青い炎が立ち上り、浮かぶはずのない大質量を飛行させている。
全方位をカバーするように展開する多数の砲門。映像から目測して、口径は優に60〜70cmはあるだろうか。
総じて異常の一言に尽きる。何もかもが規格外の存在が四国結界に向かって飛翔していた。
「これは3日前に撮影された映像です。見ての通り、結界に近づいています。この巨大要塞のコードを『ネスト』とします」
「ネスト……"巣"ってことは……」
「はい、この頃頻発しているアンノウン……あの白いアリ型はここから四国に侵入していることが確認されています」
つまりこのネストは、超巨大な空飛ぶアリの巣ということだ。映像を分析した結果、バーテックスと同じ成分で構成されていることが分かっている。
アンノウンとバーテックス、テオスと天の神の合作と言える存在。人類にチェックをかける、敵の切り札が遂に現れた。
「こんなのが結界にぶつかって、神樹様の方は耐えられるんですか?」
「こちらの計算では五分五分といったところです。単純に大質量をぶつけるだけなら、おそらく持ちこたえることは可能と試算は出ていますが……」
他のバーテックスが加われば天秤はあちらに傾く。それだけ状況はギリギリまで追い込まれている。
「つまり今回の任務は、このネストが壁に到達する前に破壊することですか?」
「破壊……できるの? あんな大きいのに……」
「あれほど巨大で、素材がバーテックスなら……あるはずだ。アレを一つの個体にまとめている中枢……御霊がね」
冷静にデータを確認していた志雄が発言する。乗り込むことができれば、勇者たちの手で他のバーテックスと同様に撃破する術はあるということだ。
「その考えは恐らく正しいわ。ただ、事態はそう簡単じゃないのよね」
後方の入り口から会議室に入ってきた新たな大社職員。仮面こそしているものの、まとう雰囲気が他と明らかに違う。口調にも人間味が強く出ている。
「ね……室長。時間は厳守していただかなくては……」
「ああ、ごめんなさい。神事部の方から報告があってね。新しい作戦を立てられそうなの」
乱入してきた女性の方が一枚上手らしい。疑問符を浮かべる職員を他所に、テキパキと持ってきたデータを表示していく。
「はい、説明引き継ぐわよー。問題のネストなんだけどね? 実は今対象をロストしちゃってるのよね。ずっと監視してたのに、昨夜霞のように姿を消したの」
「ハァ⁉︎ どういうことよそれ」
「じゃあ今どこにいるのか分からないってことですか?」
アッサリと告げられた更なるピンチ。街一つ分に匹敵する質量がある日唐突に姿を消す。まず間違いなく敵の能力だろう。
四国結界のどこから攻めてくるか分からない。迎え撃つ側としては圧倒的に不利な立場に追い込まれてしまった。
「これは参った。ピンチなんてもんじゃないぞ……」
「ああ。裸玉で将棋打たされてる感覚だ。始まる前から詰みが半ば確定してるのがどうにも……」
机に突っ伏す陸人と、頭を抱える志雄。下手に頭が回るだけに、2人は問題の深刻さを即座に理解できた。
攻められてから向かっていては間に合わない。あんなバケモノ決戦兵器が壁を超えてきたら、空いた大穴からどれだけの敵が湧いてくるか分からない。人類殲滅に一直線だ。
「そうなの。だからその前に見つけなきゃいけない。そこで神事部……巫女様の出番ってわけね」
神樹の神託を受け取り、人類のためのヒントを手に入れる。それが巫女の使命であり、神事部の役目だ。
「どうやらこのステルス機能はネスト由来のものじゃないらしいのよ。高位のアンノウンが、超能力で外部から覆い隠している……これもまた一種の結界みたいなものね」
そして神託によれば、その下手人はそう遠くない場所で状況を確認しているらしい。それを捕捉、撃破できれば……
「私が提案するのは両面作戦よ。A班が壁の外に出て、結界を張っているアンノウンを捜索。ネストを隠しているステルスを破る。
そしてB班が、姿を現したネストに強襲をかけて撃墜する……不確定要素が多すぎるのは気に入らないけど、現状これ以上の策はないわ」
防人組から少数を選抜し、結界の外で見ているステルス能力者を倒す。それまでの間、他の防人と勇者で襲いくるアンノウンを撃退して時間を稼ぐ。そして本丸が姿を見せ次第勇者が突入、御霊を破壊する。
神樹、大社、巫女、防人、勇者。人類側の全てを結集させた一大作戦になる。
「……お話は分かりました。でも……」
「あたしたちは大社を信用できない。この眼も、妹の声も、みんなの身体はあんた達がだんまり決め込んだからこうなってるんだから」
風が怒りを抑えて淡々と言葉を紡ぐ。緊急事態といえど、それとこれとは話が別。自分たちの人生が狂うほどの秘密を隠し持っていた相手を信じて背中を託すことができるほど、犬吠埼風は大人ではなかった。
美森や夏凜も表情に陰りがある。当然といえば当然だが、こんな信頼関係では作戦に支障をきたすのは確実だ。友奈や樹はフォローしようとしているが、焼け石に水。陸人も口を挟まず、各々の意思を尊重している。
大社職員2人と勇者部の睨み合いの構図となってしまった。事情を深く知らない防人組は傍観者に徹している。
(……ま、当たり前の話よね。どうするの? 私に任せてくれれば、女子中学生を論破するくらい難しくないけど……)
(あなたは黙っていてください。従えるのではなく協力してもらうのです。そこを間違えては、私達も
何かを言いかけた2人目を制して、1人目の職員が前に出る。彼女はゆっくりと膝をつき、仮面を外して素顔を晒した。
「勇者様方のお怒りは当然のもの……信じてくれと言うのもおこがましい話でしょう。ですが、道理を無視してでも、私達はやらねばならないのです。勇者様のお力がなければ、ネストを撃退することはできず、人類を守ることもまた叶いません」
正座の体制から、深々と頭を下げる。いわゆる土下座をして懇願する女性。かつて勇者を導く役目についていた
「事が済んだ後、私のことはお好きなようにしてくださって結構。死ねと言われればこの命を捧げましょう。ですからどうか、どうか……!」
尋常ではない懇願の言葉。中身のないその場しのぎの発言ではないことは一目で分かる。力無き大人は、自分が持つ唯一の武器"命"を交渉台に乗せてみせた。
「あなたは……」
「なんで、そこまで……」
「かつて、あなたたちと同じように、自分を犠牲にこの世界を維持した勇者達がおられました。その内1人は今も目を覚まさず、他の方々も苦しみ続けています。彼らの献身を無為にしないために、私にできることは全てやると……2年前、己に誓ったのです」
"2年前の勇者"
その言葉で、唯一正確に事情を知っている陸人は反射的に美森を見た。彼女もまた、思い出そうとしてできずにいるらしく、頭を抑えて顔をしかめている。
「……分かったわ。今回はそっちの指図にのってあげる。ただし、信じたわけじゃないから。こっちの判断が正しいと思ったら、勝手に動かせてもらうわ」
根負けした風が、それだけ言って憮然と座り込む。流石に命まで持ち出されては、無碍に返すこともできなかった。
「あ! それから、命は大事にしてくださいね。その勇者さん達だって、あなたが死んじゃったらもっと苦しくなると思うんです。だから……」
友奈が慌ててフォローに回る。どんなに憎くても、彼女達に人の死を願うような残酷な思考は存在しない。そうでなくては勇者などに選ばれるはずがないのだ。
「……それじゃ話がまとまったところで作戦を説明するわよ。ほら、真尋も立ちなさい。アンタに死なれたら私も、他の子達も困るんだからね」
2人目の女性が安芸を立たせて会議を再開する。安芸の方は、本気で死を覚悟していただけに、どこか脱力した様子でされるがままに引っ張られている。
危うい部分は多々あるが、ここに勇者と防人、讃州中学勇者部と大社の革新派の同盟が成立した。
ネストのイメージとしては、fate/Apocryphaの
あれに樹海の雰囲気が混ざってちょっと生物的になった感じです。
……この話を描いてからアニメを見て思い出したのですが、最近の作品だと、『とある魔術の禁書目録』のベツレヘムの星がシルエット的にはイメージしやすいかもですね。
勇者部と防人の邂逅……ちょっとアッサリめなのは、アニメ一期分が終わってからくめゆ編を予定しているからです。彼らのエピソードは彼ら主役の話でじっくりと……まあ、これもまた先の話です。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに