「何だよアイツ………、感じ悪ィなオイ」
切島が吐き捨てるように呟くと、クラスメイト達は強く頷く。確かに側から見れば、アイツの態度はどう見たって友好的なものではなかった。氷のように冷めきった双眸からは見下している、そんな様な印象を受けた。
でも、あれがアイツの本音でないことを俺だけは知っている。
そして、茫然自失とした表情で俯いている緑谷に声をかけた。
「緑谷、お前はどっちだ?」
「轟君、どういう意味………?」
揺れる瞳を見て、内心溜息を吐く。
「(やっぱり、あいつを守れるのは俺しかいない)
いや、何でもねェ。悪かった、忘れてくれ。」
緑谷は“違った”。そう結論付けて、俺は零を罵る声が聞こえるクラスから姿を消した。
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真新しかった制服を脱ぎ、いつもの黒々とした服装に着替えた私は、雄英の近くに位置するとある建物の前にやって来ていた。
建物の本来の使用目的の為に訪れた人々に怪しまれぬよう、平静を装いながら裏手にあるターコイズ色のドアの前に立つ。
そして、二回ドアをコンコンッとリズミカルにノックした。
「コードは?」
ノックの後、短く声が聞こえる。私はその声の持ち主にだけ聞こえるように、『五時のグラジオラス』と答えた。すると、ドアからは鍵の開いた音がした。
「君にも任務があるというのにすまないな、零」
『良いんですよ、樹さん。私の任務は大したものではありませんし、本部に顔を出すことくらいどうってことないです』
毒島 樹。私の所属する秘密機関___KNNの諜報員の内の一人だ。
少し雑談をすると、彼の名字の読み方は“ぶすじま”だ。しかし、ちっともブスではない。寧ろテレビに出ている俳優やモデルなんかよりよっぽどイケメンなのでは、と思うほどだ。
彼のアメジスト色の瞳に見つめられた世の女性達は、目を剥いて倒れるだろう。
「僕の顔に何かついていたかい?」
『……樹さん、彼女いないんですか』
「僕に彼女かい? いないさ。
………個性が個性だし、中々恋愛をするのには不向きなものでね。あぁ、でもね、そういった違いのことに興味のない僕でも暁さんは美しいと思うよ」
『樹さんでも暁さんは綺麗に見えるんですね。でも駄目ですよ、暁さんには冴えない男がいますから』
私は、今朝も顔を合わせたあの和布の様な男を思い出す。髭も剃らず、髪も無造作に伸ばしたまま……。あんな男の何が良いのだろうか。
「ふふっ、そうだな。さぁ皆がもう待っている。僕達も行こう」
樹さんと私は、薄暗い廊下を真っ直ぐに歩き出した。
「今から“ヒーロー殺し・ステイン”についての会議を始める。
先日、保須市にて巡回していたインゲニウムが奴に襲撃された。重傷を負い、命こそ取り止めたが今後のヒーロー活動の方は見通しがつかないそうだ。
そして今回、行動範囲を拡大しつつなおかつヒーローですら手が負えなくなってきた奴を、我々が請け負うことになった。
ここまでで異議のあるものはいるか」
「異論ありません、続けてください」
最近、名を轟かせている敵であるヒーロー殺し。奴は過去に十七名ものヒーローの命を奪い、二十三名のヒーローを再起不能にさせた凶悪犯罪者だ。
今回、わざわざ私を呼ぶほどだったので、私は奴が見つかったのでは、と胸を膨らませたが今回も違ったらしい。
はぁ、と溜息を吐くと、資料に目を通していた暁さんにぎろりと睨まれた。
「零、君の言いたいことは分かるし心情も分かる。だが不謹慎だ。ちゃんと場を弁えろ」
『………すみません』
暁さんは私を一瞥すると、再び口を開いた。
「今回、なぜ我々にこの案件がまわってきたのか、ということについてだが、一つはヒーローよりも機動力があり、世に知られていない我々の方が有利に動けるからという理由の他にもう一つある。
それは零が今付いている任務にも関係する」
「インゲニウムの兄弟である、飯田天哉君……ですよね?」
ずり落ちたサイズの合わない大きな丸眼鏡をかけ直す百華さんが、小さく呟く。虫足百華、彼女はここのブレイン的存在だ。
彼女が口を出すことを見透していた暁さんは、口角を僅かに上げてニヤリとしたまま頷いた。
「百華の言う通りだ。飯田天哉君………、我々は雄英高校で行われる職場体験にて、彼が何らかのアクションを起こすのでは、と見当をつけている」
『それを私が監視して、彼がヒーロー殺しと遭遇する前に奴を制圧する_____そういうことですね?』
「あぁ。我々はヒーローでないからといって、任務遂行の為に何をしていい訳ではない。かと言って、善良な行動ばかりしていては逃げられてばかりだ。
ならば、危険が近付く前に先回りして抑えればいい。
だが、これでは君だけに負担がかかってしまう。だから、君は奴を見つけたら飯田天哉君を気にすることなく、奴を制圧するんだ。
天哉君の保護は百華、そして迅が担当しろ。樹と私、力騎は三人のサポートに回る」
「てことは今回俺の出番はお預けだな」
不満そうに声を漏らしたのは蹴助さんだ。彼の個性は名前の通り蹴ることに秀でてるので、相手がテロリストでもない限り相手を殺してしまうので、アジトにお留守番が多い。
「あぁ、悪いがアジトの方を頼んだぞ、蹴助。
この作戦の決行は職場体験が行われる日だ。皆、くれぐれも気を抜かぬ様にしておけ。解散!」
この日は、暁さんの凛とした声で会議が終わった。