愛、それは僕にとって与えられた事のない永遠の宝だった。
物心着いた時から僕は、愛という形なきものを形として認識したいと思い始めたのだ。
ある日、母と父に「僕に愛を恵んでくれ」とせがんだことがあった。すると両親らは、僕に怒鳴った。
「愛なんて言葉汚らわしい!!! 二度と口にするんじゃありません!!!」
今になって思えば、両親達は“個性婚”の被害者だったらしいので、二人にとって僕は歪な愛の遺品だったのかもしれない。
執事や給仕も僕には必要最低限にしか触れてくれない。小学校にも行かせてもらえず、家庭教師で学ぶ毎日。それは本当に怠惰でつまらない日々だった。
しかし、僕は家庭教師に対しては飽きなかった。水面に映る太陽の光の様に繊細な金髪、そして透き通った白縹色の双眸。雪肌を傷付けるものはないその完璧な容姿に、幼くして僕は心を奪われた。
「ねぇ、望来先生。先生は“愛”とは何だと思う?」
「難しいことを聞くのね、導君は。
先生は“愛”というものは、確証が持てなければ人を傷付ける最大の武器になってしまう悲しいものだと思うの……。確かに、愛し合った者同士の愛は何に対しても負けないと思うわ。…けれどもね、逆だったとしたら。片方はその人を愛していても、片方はその人を愛していない。その溝はお互いの気持ちを知れば、深まることは当たり前だし、下手をすれば相手の愛を完全否定することとなる。
自らの愛を否定された者の道は__________復讐、もしくは自滅。
愛は偏に美しいものとは呼べないと思うわ」
そう語る先生は、僕を哀れむ様な瞳で見ていた。強く、手を握ったまま。僕は、より一層先生のことが好きになった。毎日会いたいとも思った。
でもやっぱり、僕の幸せは続かなかった。
先生は不幸な事故により亡くなったらしい。理由は、何度尋ねてもはぐらかされてしまった。
けれども、“個性”が目覚めてから全てを知った。
先生___望来停華先生は、一人娘を敵から守る為に死んだ。“愛”のために死んだのだ。つまり、先生は僕を見捨てて娘である望来零を守った。
そして、死ななければ先生の所属していた国のある組織により、育児放棄された僕の保護も行われようとしていた。
望来零さえいなければ、僕は“愛”をももらえ、幸せに生きることが出来た。例え、先生の目的が僕の個性“ハッキング”でなかったとしても、僕は先生のためなら協力するつもりだった。
だから僕は奴に、望来零が死ぬまで復讐を続ける。
彼奴に死を、彼奴に愛以上の苦しみを。
例え僕の人生を誰かが哀れんだとしても、僕は復讐さえ出来れば何だっていい。
「いつかこの手で殺してやる……………!! 望来零!!」
僕、識情導こそクラッカーは、望来零の写真の顔に、千本目のナイフを突き刺した。