もうそろ卒業式なので、卒業したら執筆を再スタートします
幽香のいる太陽の畑までは人里からはそう遠くは無かった。
幽香はもともと人間とは友好的な妖怪なので、人里に買い物に来ることが多々ある。そのため、自宅も人里に近くして、いつでも行けるようにしているらしい。
「幽香ぁー!」
霊夢の声が畑一帯に響き渡る。チョウチョや蜂、色々な虫が飛んでいるが、霊夢が一叫びすると、全員の動きが止まった。
これも博麗の力なのだろう。しかし、その中でも一人物怖じしない人物が立っていた。
「あー? 何よ霊夢」
「ちょっと、あんなに花生やさないでよ」
そう言うと、幽香は難しい顔をしながら首をかしげた。
「は? 何の話よ」
「とぼけないで、人里にあんなに…………その、何? ひまわり? だっけ? 生やしといて」
「えっ? 霊夢ひまわり知らないの?」
「うっさいフラン。黙ってなさい」
私は霊夢の隣で静かに聞いていた。幽香を観察してみるが、どうやら、彼女みたいだ。
「幽香、早くあれ止めた方がいいと思うけど」
「……あら? 吸血鬼のあなたがここに居るなんて珍しいわね? 太陽で灰になっちゃうわよ?」
カチンときたが、暴れたくなる衝動を抑えて、私は言葉を続けた。
「残念、魔法なんて使おうと思えば、私だって使えるの。そうじゃなくて、今はあなたのお話をしてるんだよ? 幽香、あれは何?」
「…………私は知らないわ。本当に」
「………………フラン、スペルカード出しといて」
霊夢は幽香を睨みつけながら、お祓い棒を取り出した。どうやら、戦闘する気らしい。
「で、でも、幽香になんて、勝てるわけ……」
「今は2人よ。何とかなるわ」
幽香は幻想郷では五本の指に入る大妖怪であり、戦闘力は月の住民にも遅れを取らないとされている。
また残虐性も高く。悪さを働いた人間は問答無用で花に食べさせる、私も一度その光景を見たが、なかなか過激で、目を逸らしてしまった。
「……わ、分かった」
「やる気なのね? いいわ、ちょうど体も訛ってたの」
「……っ!」
空中を蹴り、霊夢は誰よりも高い位置から、札を投げる。しかし、幽香は自身の傘を一振、札を全て弾いた。
「……禁忌「レーヴァテイン」」
右手に出現した燃え盛る炎の剣。霊夢とは反対方向に周り、挟み撃ちにする。
「てぁぁ!」
「……っ!」
私の振るったレーヴァテインと幽香の傘がぶつかり合い、大きな衝撃波を巻き起こす。
ギリギリと、鈍い音を出しながら、私と幽香は睨み合う。
「…………!」
さすがに幽香と私では力の差があった。いくらレーヴァテインでも、使う本人の力が弱いと、さほどの威力は出ない。
「……きゃっ!」
ギィィンという音とともに、私のレーヴァテインはどこかへ飛んでいってしまう。
それと同時に、幽香の傘で横殴りされ、私は太陽の畑まで吹っ飛ぶ。
「かっはっ……」
私の口からは、鮮血が吐き出される。久しぶりの痛みと苦しみに、息が苦しくなる。
「……フランドール・スカーレット、大したことないのねぇ?」
「…………がっ……」
ドゴッと鈍い音と共に、あばら骨がビキビキと嫌な音がした。
「あっあぁ!」
「弾幕ごっこなんて生ぬるいこと言わないでよね? 霊夢」
「……はぁ、別に私も遊びのつもり出来てないわ。フラン! 下がって傷直してきなさい!」
「ご、ごめん!」
バッと後ろに飛ぶ。とりあえず、再生が間に合うまで、後ろで待機し、霊夢に任せる。
お姉様がいたら、こんなことにはならないのにな……。と今考えても仕方ないことを思い出してしまう。
「……よしっ」
傷が癒えた私は、霊夢に声をかけようとする。しかし、大きな爆発と共に、霊夢が私の方に飛んできた。
「うわっ!」
私は、慌てて霊夢を受け止めるが、数メートル後ろまで私も飛ばされた。
「れ、霊夢!」
「いったた……」
霊夢も所々傷を作っていて、息を荒かった。吸血鬼の私は再生出来るが、人間である霊夢は治るのに時間がかかる。
「霊夢、これ使って」
この世には、再生を封印させる妖怪が沢山いる。そんな奴らと出くわした時の緊急用に用意した包帯を霊夢に渡した。
「あ、ありがとう……」
私は、今だ無傷で浮いている幽香の正面に立つ。
「禁忌「レーヴァテイン」」
もう一度、レーヴァテインを取り出し、飛ぶ。
「無駄って分かっているでしょう」
幽香の顔はもう笑っていなかった。呆れが含まれているような言い方で私を見下す。私と霊夢でも敵わない相手である幽香、私は幽香を倒せる人は一人しか知らない。
振り下ろしたレーヴァテインを傘で受止め、鍔迫り合いが始まった。
「ぐぐっ……」
先ほどよりも力を込めて、押す。
「っ! ……面白い!」
幽香の顔色が初めて変わった。私はそのまま大声を出して、押し続ける。
「てぁぁぁぁ!」
しかし、両手を使った幽香の傘には私では力不足だった。レーヴァテインは先ほどと同じように、弾かれる。
「今度は息の根を止めてあげるっ」
「……くっ!」
傘を逆手に持って、私の首元に突きつけていた。私は慌てて体を反転させるが、それはもう焼け石に水だった。
「(まずい、刺されるっ)」
私は目を閉じて、痛みに耐える準備をした。そして、幽香は躊躇なく、それを刺そうとした。
「その薄汚い傘は一体誰に向けているの?」
瞬間、誰かの声が聞こえた。
霊夢では無い、聞き覚えのある声。声の主の方を向くと、そこには見慣れたお姉様の姿があった。
「あら? 奇遇ね、一日で2人の吸血鬼に出会えるなんて、光栄だわ」
嘲笑するように、幽香は傘の先端を私の首から外す。ようやく余裕のできた私は一度安堵の溜息を零して、お姉様の方を見る。
「……あら? そう珍しいものではないわよ?」
お姉様は日傘をさして、上品に振舞っているが、瞳だけは違った。
紅く、光り続けていた。お姉様が普段誰にも見せることの無い、「本気モード」。それは、鬼も屈するほどの実力。
「ご立腹かしら?」
「あなた、今、フランに何をしたの?」
「何って、攻撃されたから仕返ししただけよ」
素っ気なく答える幽香の目もだんだんと鋭くなっている。先程までの余裕の表情ではなく、引き締まった顔。
「フランと霊夢、二人であんたに敵わないのなら、私も加勢するわ」
「…………面白いじゃない」
ニィィっと白い歯をめいっぱい見せて笑う幽香の顔に私は悪寒が走る。
しかし、私の悪寒の原因は幽香ではなかった。幽香を睨みつけ、殺意に満ちているお姉様。日傘を捨てて、グングニルを右手に、幽香を睨むその顔が妹の私でも恐怖する程だった。
「いいわね、この2人じゃ満足できそうにないの、最強の吸血鬼と言っても、妹は貧弱なのね」
ズキンっと胸が痛む。そう、巷では私達は有名だが、それはあくまでもお姉様の実力が幻想郷の五大妖怪だから。私なんか、誰も眼中に無い。
「……ほら、あなたから攻撃していいわよ。もちろん、負けるつもりはな─」
ピシュン…………。と、軽やかな音が私と幽香を通り過ぎる。そして、その一秒後、通り過ぎた道筋にそって、黒い炎が出現する。
「っ!?」
幽香は初めて焦燥の顔を見せる。そう、お姉様の実力は、あの月の賢者さえも凌駕する。
幻想郷で一番怒らせてはいけない妖怪だと紫が言っていたのを思い出す。
「……あら? 顔色が変わったわね」
「…………そうかしら? むしろ、面白くなって笑っちゃいそうよ」
直ぐに余裕の表情を見せる幽香。お姉様はもう一度グングニルを右手に持つ。
そして、幽香は思い切り空を蹴って、お姉様に突撃する。幻想郷五大妖怪の2人が戦うなんて、貴重なことだ。
「花符「幻想郷の開花」」
花のような綺麗で鮮やかな色の弾幕がお姉様を囲む。お姉様は、スペルカードを出していない、スペルカード無しでどうやって戦うというのだろうか。
「お姉様!」
思わず叫んだ。お姉様が怪我するところなんて見たくない。幽香のあの弾幕はとんでもないくらい強力なのが分かる。
しかし、お姉様はそんな私の心配もつゆ知らず、グングニルをかざした。
そして、まっすぐグングニルを振り下ろす。
「っ!?」
幽香の顔はまたもや焦りと驚きに変わる。それは、私と霊夢も同じだった。
そう、縦に振り下ろしただけのグングニルを中心に、赤黒い結界が広がっていき、弾幕を全て消去したのだ。
「お姉様……」
普段、お姉様とは訓練をしたり、私たちが幻想郷に来る前、吸血鬼ハンターと戦う時から、お姉様の実力がずば抜けているのは知っていたが、いつの間にこんなに強くなっていたのだろうか。
「あなた、弾幕ごっこならやめて頂戴。私はフランを傷つけたあなたに、フランの倍以上の痛みを与えるつもりなのだけれど」
「……まずいわね……あなたがこんなにも強いだなんて」
「……興ざめよ」
お姉様は、音も立てずにその場から姿を消した。そして、その刹那、お姉様の姿は幽香の背中側に存在していた。
「なっ!?」
「神槍「スピア・ザ・グングニル」」
初めて、お姉様がスペルカードを使う。すると、赤く発光し始めたグングニルが幽香を背中から胸にかけて貫く。
「あっがっ……」
「このまま、痛みを与えてあげようか?」
「が、ああああああああああ!!」
幽香が、苦しそうに叫ぶ。じたばたと抵抗を見せているが、お姉様の槍から出る茨によって体が拘束され、逃げ場を失っていた。
先程までの幽香と、まるで別人みたいに、痛みにもだえる。
お姉様の方はまだ怒りに身を任せ、「姉」ではなく、「吸血鬼」として殺気を出していた。
怖い、お姉様が怖い。私は恐怖心を抱いた。
「…………っ! お姉様! もうやめて!」
正気に戻った私は、幽香の息の根が止まりそうになっているのを確認した。これ以上してしまったら、五大妖怪でも出血多量で命を落としてしまう。
「…分かったわ」
お姉様はグングニルを幽香から抜く。幽香は重力に従って真下に落ち、その場で気を失っていた。
「フラン、あんたはレミリアの所に、幽香は私に任せて」
包帯を巻き終えた霊夢に促され、私はお姉様に駆け寄る。
「お姉様!」
「フラン、無茶しないでね、フランが死んだら……私……」
お姉様の顔はいつもの優しい顔に戻っていた。そっか、私を大切に思ってくれたからこそ、あんなに怒っていたんだ。
そんなお姉様がどうしようもなく愛おしく感じ、私はお姉様を抱き寄せ、きつくハグをする。
「フラン?」
「お姉様、私はずっと、お姉様のそばにいる、絶対に離れないよ」
「……」
「……ずっと、大好きだから」
「…………」
「お姉様?」
お姉様は黙っていた。いつまで経ってもお姉様からの返事かない。いつもなら、優しく撫でたりしてくれるのに、固まったままだ。
「はぁ……はぁ………………ふらぁん……」
「……」
完全に忘れてた。今、お姉様は私の血で洗脳されてるんだった。
お姉様の息は荒くなり、我慢出来ないみたいで、私の首筋を思い切り舐める。
「んあっ! ……ちょ、お姉様!?」
「ああ……この首……好きぃ……」
しまった、完全に抱きしめられて、私は逃げられなくなっていた。そのまま、お姉様の舌は、首筋から顎を通り、私の口の中に入る。
「んっ……ちゅ……じゅる……」
「おね、……様……ちゅ……」
嬉しいのに、なんだか複雑な気分。今、ここがどんなところだか忘れるくらい蕩けてしまう。
「あんたら、続きは紅魔館でしなさい」
「れ、霊夢」
幽香の腕を自分の肩に回し、ジト目でこちらを見つめる霊夢。私達は慌てて離れ、苦笑いをする。
お姉様だけ、自分の唇を触り、物悲しそうに私を見つめていた。
「いつもはフランからなのに、レミリアも堕ちたのかしら?」
「あ、ええと……これには理由が……」
「……そう、まぁ、深くは追及しないわ。じゃ、私は幽香を家に持ってくから、先帰りなさい。付き合ってもらってありがと」
霊夢は私に軽いお礼を告げた後、幽香の家の方向へと歩いていってしまった。
「じゃ、フラン、紅魔館で続きしましょうか?」
「いや、この後地霊殿に行くから」
「それ、私も行っていいかしら?」
「…………ダメ」
「ええ!?」
今の姿をこいしちゃんにはあまり見せたくない。こいしちゃんが失恋してしまっているみたいになるし、お姉様の本物の想い人はこいしちゃんだからだ。
「ちょっと大事な話があるから、ごめんね?」
「……フランがそこまで言うなら行かないわ。ただ、手出されたら私に言いなさいよ、粉々にするから」
「あ、あはは……」
お姉様は、やっぱり怒らせたら一番怖い人だ。怖くても、私がいくらキスをしても怒らないのだから、本当に優しい姉なんだなって、素直に思えた。
私は太陽の畑でお姉様と離れ、地霊殿へと足を運んだ。