分岐ルート1つ目、レミフラです
分岐ルート1話 幸せを満たす気持ち
コンコンと、木製の良い音がした。
「どうぞ」
ベッドの上で本を読んでいた私はすぐさまそれに対応した。
「失礼します。お嬢様」
ゆっくりと戸を開けて入ってきたのは、予想通り、咲夜だった。
「どうしたのかしら? 咲夜」
「…………お嬢様。妹様はどちらに?」
「……私が起きた時にはもういなかったけれど」
咄嗟に嘘をつく、あんな事咲夜にも言えるわけが無い。しかし、鋭い咲夜にとってはそんなのただの戯言に過ぎなかった。
「何を言ったのですか? お嬢様」
「……何の話?」
私はまだ粘ろうとして、平然を装う。しかし、咲夜は目までもが鋭くなっていた。
「……お嬢様、妹様を呼びに戻られないのですか?」
「……呼び戻すも何も、どこにいるかも分からないのよ? どうしようもないじゃない」
「そう、ですか…………」
少し強めに言ってしまった。少しのイラつきでこう威圧を与えてしまうのは、私の悪い癖だ。咲夜は慣れっこだが、私が怒ってしまうと手が付けられないみたいで、諦めてしまうらしい。
「お嬢様自身はもう大丈夫なのですか?」
「ええ、お陰様で、咲夜にも面倒をかけたわね」
「いいえ、主の大事に駆けつける。当たり前のことです」
誇らしげに笑う咲夜。その顔を見て私も微笑む。
「……では、私はパチュリー様にお呼び出しを頂いたので、先に紅魔館に帰らせて貰います」
「ええ、分かったわ」
咲夜は扉の前で一礼すると、早々と病室を後にしてしまった。そうして私はまた一人になった。
「…………」
朝の事で頭がいっぱいになっているのが分かる。それくらい、フランの顔と言動が私の心に突き刺さったのだ。
「誰が好き」そんなの、私はこいしが好きだ。でも、フランも大切で、これからずっと一緒にいたい。
でも、それは妹として? それとも、一人の吸血鬼として? 自分の心に問いかけるが、答えは分からなかった。
「……気分転換……ねぇ」
頭が混ざりに混ざりあってしまっているので、深夜と同じく、気分転換しようと病室を出た。
「……こいしちゃん……」
こいしちゃんの告白にさらに涙が溢れ出た。嬉しかったんだ。単純に私のことを支えてくれたこいしちゃんの言葉が。
「……返事が……欲しいな……」
甘えるように、でも、そっと包み込むようなこいしちゃんの声音が耳に入る。
こいしちゃんの覚悟が本気だってことは目を見れば分かる。きっと、こいしちゃんになら、この身を委ねることだってきっと幸せになれる。
「……」
言葉が出てこない。
なぜかと言うと、言わずもがな、お姉様の顔が思い浮かんでしまうからだ。
小さい時から、お姉様に助けてもらってばかり。怪我をした時だって、失敗をした時だって。お姉様に頼りきりの私は本当に情けなかったと思う。
それでも、お姉様の存在は確実に私を変えてくれた。お姉様に真っ直ぐな恋心を向けることが出来たのは、お姉様の何も考えない真っ直ぐな心のおかげだ。
こいしちゃんも、私の初めてできた友達だった。お姉様や咲夜、紅魔館のメンバー以外には、恐れられてきた私。その中でも、こいしちゃんだけが唯一私を怖がらなかった。くだらない理由に聞こえるかもしれないが、私にとってはそれが飛び上がるくらい嬉しくて、こいしちゃんも関われるのも幸せだったと思う。
でも、そんなこいしちゃんが今、私に真っ直ぐな恋心、気持ちを伝えた。
このまま、こいしちゃんと恋人になるのも悪くないと思う。きっとそれが、「正解」のルートなんだろう。血のつながっていない、親しい相手との付き合い。恋人。
絶対に楽しい。明るくて、元気なこいしちゃんと一緒にバカみたいなことを沢山やってみたい。悪い妖怪を退治したり、霊夢やみんなとどんちゃん騒ぎしたり。そして、二人で肌を重ね合う。きっと幸せだろう。
「私は……」
口を開き、こいしちゃんの目を見据えて、微笑む。
きっとこれが本当の気持ちだから。
「ごめんね……こいしちゃん。やっぱり私はレミリアお姉様が好き」
きっと「正解」のルートから外れて、「不正解」のルートに進んだら、それはきっと茨の道なんだろう。
でも、お姉様と共にその道を歩むのなら、それ以上の幸せはない。
だから私は、レミリアお姉様を選んだ。
「……そっか」
こいしちゃんは優しく微笑んだ。少し涙ぐんでるような気もしたが、私はそのまま目を見ていた。
「ごめんね……」
その言葉が私の心に突き刺さる。槍でも刺されたかのように、強く刺さった。
知り合ってからずっと、私はフランちゃんの事が好きだった。嫌われ者だった覚り妖怪である私のことを大切に思ってくれて、私に生きる意味をも与えてくれた。いわゆる恩人と言うやつだろう。
フランちゃんがレミリアちゃんを好きなのは分かっていたし、姉妹の仲に入ることなんて出来なかった。それで、レミリアちゃんは私に想いを向けて、私はフランちゃんに想いを向けて。こんな三角関係が出来て、それでもなお、私はそれが心地よく感じた。
でも、やっぱり終止符を打ちたかった。こうやってフランちゃんに告白したのも、結局は自分が幸せになりたかったんだろう。
でも、一方通行の幸せは、きっと幸せなんかじゃない。
幸せにも色々なものがある。食べる時、眠る時、誰かと話す時、好きなことが出来る時。どれもこれも、私は確かにそれらに幸せを感じた。
でも、フランちゃんと出会ってから、もうひとつ新しいピースが生まれたかのように心が欠けていた。
私の心は以前までのものでは満たされることは無くなっていた。そこに「フランちゃん」という大きな存在が、いつの間にか私の心を埋めつくしてくれるキーになっていた。
そうして私は今日、フランちゃんとの距離を縮めて、互いに幸せになっていく為に最後の告白をした。
フランちゃんと繋がっていたい。想い合っていたい。幸せになりたい。そう願った。
でも、それは叶うことはなかった。
フランちゃんが幸せになれる相手はきっと私じゃない。人を好きになることに縛りなんて無いのだから、不思議なことでは無い。
「……そっか」
不思議なことでは無いはずなのに、予想することだって安易だったはずなのに、私は考えたくなかった。
私の想いは届かない。永遠に、私の心のうちに秘めることしか出来ない。
「……仕方ないか。フランちゃんの好きな子はレミリアちゃんだもんね」
「うん、私はレミリアお姉様とずっと繋がっていたい。想い合っていたい…………ふたりで、幸せになりたい」
フランちゃんの眼中にもう私はいなかった。彼女はもう
「なら、早くレミリアちゃんに答えを聞きに行きなよ。きっとあっちもフランちゃんを探してる」
「……うん……」
これできっと、この想いにキッパリと決別が出来る。この数十年のモヤモヤが、ようやく今日、開放されたんだ。
「ありがとう、フランちゃん。これからも、よろしくね。ずっとずっと、大好きだよ」
「……こちらこそ、本当にありがとう」
笑顔を返すフランちゃん。今ここで、「やっぱり付き合って」と言ったら、OKしてくれるだろうか。
フランちゃんの笑顔を見ていたら、たまらなく寂しく感じた。
「っとと……その前に……フランちゃん」
「?」
ちょいちょいと手招きする。不思議に思ったフランちゃんは小首を傾げながらも私に近寄る。
そうして、私は近づいてきた顔に向けて
そっと、優しく唇を重ねた。
「……っ……」
フランちゃんは一瞬だけ驚くが、直ぐに私を受け入れた。フランちゃんの柔らかい唇の感触が、今だけは悲しいくらいに胸を痛くさせる。
唇を離して、私は精一杯の笑顔でフランちゃんを見る。
「ほらほら、フランちゃん。レミリアちゃんが待ってるから、急ぎな?」
「……う、うん!」
大きく頷いたフランちゃんはすぐさま踵を返して、公園から離れていく。私はそれをずっと見送っていた。
その途端から、私は何かが崩れ落ちる音がした。フランちゃんに振られた時から我慢していた涙のダムが決壊したのだ。頬から零れ落ちる涙は止まることを知らなかった。
「そっか……私……失恋したんだ……」
想いが届かない事がこんなにも悲しくて辛いなんて思いもしなかった。
チクチクと胸が痛くなるのが辛い。今すぐにでもフランちゃんに会いたい。でも、それが叶わないんだ。
「うぅ……あぁ……」
悲しくて、辛くて、苦しい。
恋が叶わないという事実が私を押し潰しそうになる。
上を見る。雲一つない青空が私たちを照らしていた。その太陽の光はとてつもなく綺麗で、美しかった。
その光が私の涙をも照らしてくれた。
「……こいし……」
聞き慣れた声がした。ベンチの上で泣いていた私の正面にいたのは、正真正銘、さとりお姉ちゃんだった。私の気配を感じて、ここにいると分かったんだろう。
私はお姉ちゃんに向けて笑いかける。
「へへっ……私、失恋しちゃった……」
白い歯を見せて笑う。でも、上手く笑うことが出来ない。作り笑いとか、愛想笑いなんていつでも出来たのに、どうしてか、涙が止まらない。
お姉ちゃんはすぐさま、私を抱きしめた。お姉ちゃんの温もりが直接伝わる。
「よく……頑張ったわね……こいし……」
「ひぐっ……あぁ……」
お姉ちゃんに包み込むように言われる。それによって、また涙が溢れ出す。
叶わない。届かない。この気持ちは永遠に胸の奥に。
「……たくさん泣きなさい。お姉ちゃんが傍にいるから」
「お姉ちゃぁぁん……」
情けなく泣いてしまう。フランちゃんにはあまり見られたくない顔だ。
でもお姉ちゃんにはよく見せてしまうから。今更どうってことない。
泣いている時は昔からこうやってお姉ちゃんがそばにいてくれた。虐められた時も、怪我をした時も、「大丈夫大丈夫」と言って頭を撫でてくれたんだ。
今もこうして、抱きしめられながら、優しく撫でられている。
そうだ、私はひとりじゃない。ひとつの恋が終わっただけなんだ。周りには、レミリアちゃんやお姉ちゃん、地霊殿のみんなだっている。そして、フランちゃんもきっと、これから先友達でいてくれるだろう。
色々な想いが混ざった涙を流しきるまで、お姉ちゃんはずっと頭を撫でてくれた。
「落ち着いた?」
「う、うん。ありがとうお姉ちゃん」
「フランさんは結局、レミリアさんを選んだのね……」
「……うん……でも、後悔はしてないよ。モヤモヤしていた気持ちをきっちり断つことが出来たから」
お姉ちゃんは少しだけ驚いた顔をするが、すぐに表情を緩めて、笑う。
「そう、いい顔をするようになったわね。お姉ちゃん嬉しいわ」
「い、いつまでも子供扱いしないでよね……」
「いいえ? 私の妹である限り、ずっと子供よ?」
「それってつまり一生子供? つ、辛いなぁ……」
やっぱり私はお姉ちゃんがいないとダメになってしまう。辛いことがあった今でもお姉ちゃんと話せば楽になる。きっと、これが姉妹の間で出来た絆なんだろう。
「……さってと、もう日が暮れてきたわね」
「え、嘘っ、さっきまでの青空だったのに……」
「この季節は日が沈むのが早いのよねぇ……さ、暗くならないうちに帰りましょう?」
「…………そうだね……」
お姉ちゃんが立ち上がり、私に右手を差し伸べる。それを掴んで立ち上がる。
「今日は久しぶりにお姉ちゃんが晩御飯を作ってあげる。こいしさん、リクエストどーぞっ」
「うーん……あ、ハンバーグ!」
「了解。じゃあ材料買って帰りましょうか」
「……あっ、晩御飯買いに行くついでだったんだ」
「当たり前よ。今日こいしが告白するなんて思っても見なかったもの。せっかくデートから告白までのプラン組んだのに……」
「あ、あれはその場の勢いもあったからね……」
苦笑いをする私は繋がれた左手をギュッと握る。それに気づいたお姉ちゃんも握り返してくれた。
届かない、叶わない。そんな辛くて悲しい気持ち。
この想いはもう終わりだ。実現することは無い。
でも、この想いを持ち続けることは出来る。「好き」という気持ちに偽りがないのならば、容易だろう。
だからこの気持ちは胸の奥に閉じ込めよう。
私の幸せを満たす気持ちはこれだけでは無いのだから。
新しく書いて欲しいエンドはありますか?※一話完結
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3人とも報われないバッドエンド
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3人とも平和的なハッピーエンド
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3人に恋愛感情がないほのぼのエンド