駄文です。
スタスタと早足で歩いていく。迷いの竹林は本当に人がいないから、静寂の一言に尽きる。
「……いい風……」
普段バルコニーなんかで浴びる風は紅茶の味なんかもあって感じることはなかったが、ただ単に風を浴びるだけというのもいいものだ。
こう考えるのも、私の頭の中で色々と混ざりあってしまっているからだ。曖昧な答えに、私もフランも納得がいかなかったから。
(誰が好き…………か……)
仮にだ。もし私がフランのことを想っているとする。フランと手を繋いで、抱き合って、そしてキスをする。
そうしたら、その先は? 姉妹同士で、さらには恋人同士であるその先にあるものはなんなんだ?
頭の中でグルグルとそんな疑問が反芻させられる。
もうひとつ、私の恋。つまり、こいしと恋人同士になれたとする。
周りからは応援されて、きっとフランや皆は喜んでくれると思う。私の想いも叶い、幸せな日常が待っているに違いない。
でも、それが本当に私の想いなのか? 本当の気持ちを晒けだせているのか?
(いっそ、誰も好きではない。っていうのが、一番平和……ではあるわよね)
別に無理やり誰かを好きになる必要なんかない。このまま余生を過ごすのも、絶対に幸せではあると思う。
「………」
でも、それは違う。いや、きっと私の心の中に恋心は確かに存在している。それがまだ曇っているだけだ。
「おいおい、なーに湿気った顔してんだよ」
「っ!?」
驚いた私はバッと後ろに飛ぶ。考え事のしすぎで、周りの気配を感じることが出来なかったのだ。
「……ま、魔理沙……」
上の木の幹に座っていたのは、紛れもなく魔理沙だった。一安心する私は一つため息をついた。
「どうした? 私の気配に気づかないなんて珍しいな…………って言っても、ある程度事情は知ってるが」
魔理沙は「よっ」と言いながら軽快に木から飛び降りる。そして、大きな三角帽子を被った後、口を開く。
「さて、もう身体は大丈夫なのか?」
「ええ、ありがとう魔理沙。あなたがいなかったら今頃どうなってたか……」
「そんな大袈裟な。まぁ、無事なら何よりだぜ」
少し照れながらも受け止めてくれる。魔理沙は古くからの友人と言っても過言ではない。
すると、魔理沙は切り替えたかのように急に真顔に戻る。
「今日、朝からここの竹林にいたんだ。そしたら、泣きながら飛んでくフランを見たんだ。フランが速すぎて声をかけれなかったが……どうしたんだ?」
「……私がフランを傷つけた。それだけよ」
話すと長くなる。それに、これは私の問題だ。他人を巻き込んでいいものでは無い。なので、出来るだけ簡単に返答していく。
「……なるほどな…なんだ、喧嘩でもしたのか?」
「…まぁ、そんなとこよ。思わせぶりな態度をとった挙句、質問に答えなかったから怒ったんでしょう」
「……大方、お前がフランの気持ちを裏切ったりしたんだろ?」
少し強めに言ってきた魔理沙。いつもは温厚で優しい魔理沙だが、今回は少し怒りも入っていた気がする。
助けて貰った恩人なのに、私は苛立ちを隠せず、魔理沙にも強く当たってしまう。
「うるさいわね。これは私とフランの問題よ。あまり首を突っ込まないでちょうだい」
「じゃあお前は一人で解決出来るのか?」
「………」
食い気味に質問した魔理沙に対し、私は口ごもってしまう。
私一人で解決出来るのだろうか? あやふやな気持ちのまま、気分転換とか調子のいいこと言って、今もフランを傷つけているのではないか。
きっと、フランは私が「こいしが好き」とはっきり答えたら、諦めてくれていたかもしれない。いや、きっとそうしてくれる。
でもそれが本当に私の本心なのかと聞かれれば、必ずしもそうでは無い。
「…珍しいよな。お前らが喧嘩だなんて」
「な、何? 急に」
「私はな、羨ましかったんだよ。レミリアとフランが」
太めの竹の根元に腰掛け、魔理沙は目を閉じながら、何かを思い出すかのように語り始めた。
「心を寄せ合うことの出来るパートナーがいて、運命共同体、一心同体のような素敵な関係の姉妹って、一人っ子の私にとっちゃ、羨ましいものなんだぜ」
「………そう……」
「紅霧異変の時もさ、私がお前を倒して、霊夢がフランを倒しただろ?」
「ええ」
「あん時のお前の顔、すっげぇ怖かったんだ。もうただただ支配することだけが目的で、何もかも見失ってる顔してた」
あまり思い出したくもないが、あの時は圧倒的に魔理沙の実力が上だった。フランも同じく、博麗の巫女の力の前に呆気なく膝をついた。
「……でもな、あの後、お前らが諦めずに私たちを殺そうとしていた時の顔、すっげぇいい笑顔だったんだなぁ、もはや狂気的」
「え、ええぇ……」
苦笑いをする。そんな顔をしていたのかと、恥ずかしさもあるが、「狂気的」と言われたことに少しショックを受ける。
「……あの時な私思ったんだ。『あんなカタブツのやつでも、信頼出来るパートナーがいれば、あんなに楽しくなるんだな』って」
「…………」
「きっとお前らは、紅霧異変の前も辛い体験をしてきたんだと思う。そりゃそうだ。吸血鬼なんて、人からしたら恐怖でしかないもんな」
「わ、悪かったわね……」
否定は出来ないが、実際に言われると少しムッと来るものがあった。魔理沙は白い歯を見せて「すまんすまん」と軽く謝ってきた。
「でも、そんな困難も2人で乗り越えてきたんじゃねぇか?」
「……そうね。互いに支え合って、寂しさを埋めて、守り抜く………そんな生活だったわ」
「……お前の信頼出来るパートナーなんて、フラン以外には務まらない。お前ら一人ずつじゃ、きっと弱い。二人で協力し合って初めて「最強のスカーレット」が誕生するんだ」
「…………」
「きっとお前も今は混乱していると思う。だからちゃんと整理だけはしておくんだぞ」
魔理沙は強い眼差しで私を見つめてきた。
「信頼出来るパートナー」。そう言われても、当たり前のようにフランが隣にいたからそう認識することはなかった。
「っと、私から言えるのはそこまでだ。あんま部外者が言える立場じゃないしな。じゃあとは頼むぜ、咲夜」
「さ、咲夜!?」
「申し訳ありませんお嬢様。盗み聞きみたいな形になってしまって……」
突然、魔理沙の後ろから姿を現した咲夜は直ぐに頭を下げた。
「こ、紅魔館に戻ったんじゃ……」
「嘘…では無いのですが、どうしてもお嬢様が心配で、私じゃあれ以上踏み込めないので、魔理沙に頼みました」
「…そう……」
すると咲夜はスタスタとこちらに歩いてきて、1メートル前くらいで立ち止まる。
「……お嬢様、フラン様にお気持ちを伝えられなかったのですか?」
「……気持ちも何も、伝えるものなんか…………」
「気持ちの整理がつかない。という事ですか?」
心を読んだかのようにそう答える咲夜。私は「ええ」と言いながら首を縦に振った。
しかし咲夜は「はぁ……」あからさまに大きなため息を目の前でついた。
「あのですね……お嬢様……」
「な、何よ……」
咲夜は少し困ったような顔をするが、直ぐに私に告げた。
「お嬢様の想いは、とっくにフラン様に向いてますよ?」
「……は?」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。というか、咲夜の言葉の意味をイマイチ理解出来ていないというのもある。
「だから、お嬢様はとっくにフラン様のことを好いておられるのですよ」
「いやいやいや……」
と、否定しようとするが、「こいしが好き」とも言えなかった。というより、否定「しなかった」。
「ではお嬢様。目を閉じてください」
「え、な、何……?」
「そーっと……目を閉じてください」
私は言われるがまま、目を閉じた。
「お嬢様は今、私たち紅魔館メンバーと出会う前に戻っています」
「ええ…………」
昔を思い出す。
吸血鬼ハンターに追われ、血まみれになりながらもハンターたちを殺戮していき、フランと共に生き抜いた日々。
「お二人はきっと困難な道でしたでしょう……」
フランを守るために、身代わりになったり、怪我をしたフランを見ているのがとても辛かった。
涙を流すフランを抱きしめてあげることしか出来ず、自分の無力さを知った。
「きっとその後、2人で何か希望を見出したのではないですか?」
希望。綺麗に言えばそうなるかもしれないが、実際は人を殺すことだ。裁くものはいない。
だから、自由に人を殺めることも容易い。だから私たちはそれを楽しみにしていた。それこそ、私たちの希望だと思う。
「その日々と希望は一人で支えることが出来ると思いますか?」
即答だ。支えられるわけが無い。フランが居ないと、結局私も何も出来ないのだ。フランの前だけ「いい姉」を演じていただけで、まだ私も子供なのだ。
「………そうして、私たち紅魔館メンバーと出会いましたね」
最初に美鈴と出会い、決闘を申し込まれて、勝った挙句に部下になりたいと言われ、美鈴が2年足らずで最初の紅魔館を立てた。まだ小さかったが、日に日に増築されていった。
その後、パチュリーと小悪魔に出会い、本のことで話し合っていたら、いつの間にか日をまたいでいたこともある。魔法使いが来たことで、紅魔館がより強固になった。
そして、咲夜と出会った。彼女は恐らく虐待か何かを受けていたのだろう、身体中アザだらけの咲夜を私は放って置けなかった。私がメイドのイロハを教え、咲夜が成長していく様を間近で見ていた。
「私は、拾われた時からお嬢様とフラン様を観察していました」
「か、観察……」
少し言い方が不気味で、当初からそう思われていたのは少しショックだった。
「私に向ける目とフラン様に向ける目がまるで違ったんです」
「……え?」
「私に向ける目は優しい家族のような慈愛に満ちた目でした」
私は最初から咲夜を家族のように愛していた。きっとこれから、彼女も大切になると思うから。
「ですが、フラン様に向ける目はとろけていて、まるで乙女でした」
「はぁ!?」
思わず目を開ける。
「そ、そんなわけ……」
「あるんです」
「う……」
咲夜は強めに正す。
「それから、フラン様がお嬢様に惚れ、キスやハグなどといった恋人がするようなことを求めるようになっていった」
「ええ、そうね……」
「お嬢様は一度たりともそれに抵抗しませんでした」
「そ、それはフランを傷つけたくないから」
「いえ、『あなたも求めていたから』です」
そう言われ、私はドキッとする。やりすぎた時には少しお仕置をしたが、たしかに一度も最初から「嫌だ」とは言ったことはなかった。
「お嬢様はその後こいしさんと出会いました。そして、こいしさんに恋をした。恐らく、その気持ちは本物ですよね」
「当たり前よ」
「でもきっと、あなたはフラン様の方がずっとずっと好きだったんじゃないですか?」
「…………」
言葉につまる。何も言い返せない私がいた。それに、さっきからチクチクと胸が痛くなっているのもわかる。
「姉妹だから、というのを免罪符にフラン様への気持ちを隠していた。でも、その気持ちをさらけ出せるフラン様が羨ましかった。違いますか?」
「……違……わない……」
「……まだ心にモヤがあるみたいですね。では、もう一度目を閉じてください」
苦し紛れに認める私だが心の中ではまだ何も認められていない。フランが好きなのかどうか、ここまでくればハッキリさせたいというのもある。
「では、これで最後の質問にしましょう。正直に答えてください」
目を閉じた私の両手を握る咲夜。その声色はとても優しかった。
「レミリア様。あなたの目に映る大切な人は……誰ですか?」
「っ!?」
目に映る。
私にとって、この生涯でずっとずっと大切にして、愛せる人。
辛い道も楽しい道も、悲しい道も全てを2人で背負える人。甘やかすこと、そして、時に甘えることができて、全てをさらけ出せる人。
私の心の迷いの正体、きっと自分から勝手に霧を被せていたんだ。答えは最初から決まっているのに、自分から……。
小さい頃から、ずっと二人でいたから気づかなかったんだろう。
一人の家族として愛している存在、そして、たった一人の吸血鬼として好いている存在がずっと私の隣にいたんだ。
そして、私の目には一人の少女が浮かび、その名を口にする。
「……フラン……」
「……お嬢様、目を開けてください」
「…………私の……好きな人……」
「ええ、どなたですか?」
咲夜は目じりに涙を浮かべながら、微笑み、私を見つめる。
「フランドール……」
私が、ずっと隣にいて欲しい存在はずっと前から決まっていたんだ。
フランドール・スカーレット。彼女こそが私の愛しい人だった。姉妹という壁が隔たれたおかげでこの奥底の気持ちを掘り出すことが出来た。
「……きっと、フラン様は今もお嬢様を想い続けています。裏切られても尚、どこかでお嬢様に助けを求めています。それを救えるのは他でもないレミリアお嬢様だけなんです」
「咲夜……」
「……さぁ、行ってください。その気持ちをフラン様に伝えてください。心に決して偽りなんかありません。本物なのだから……」
「………ええ、ありがとう。咲夜、あなたのおかけで、私は自分の気持ちと向き合うことが出来た。きっとこれからもあなたのお世話を求めるわ……」
「ええ、お任せ下さい」
私は決めた。この想いは偽物なんかじゃない。
私はフランドールを、一人の吸血鬼として、いつの間にか好きになっていたんだ。
きっとフランよりも前に私は惚れていたんじゃないか、それを姉妹なんかという壁によって苛まれいたんだ。今となっては馬鹿馬鹿しい。
いつも私は「もしフランと姉妹ではなかったら」と考えていた。そんなたらればの話をする時、想像すると心地がよかった。
きっとこいしの事も好きなんだと思う。二人を好きになるなんて卑怯で強欲かもしれないけど、結局、行き着く先はフランの顔が思い浮かぶだけだった。
伝えたい。この気持ちを今すぐ。上手く言えなくてもいい、全てを伝えられなくてもいい。
ただただ、
私はその気持ちだけを胸に、フランを探すため走り出した。
「…………お疲れ、咲夜」
「魔理沙……」
お嬢様が自分の気持ちに気づき、走り去っていく姿を最後まで見守っていた。
私は涙を拭い、魔理沙の方を向く。どうやら、私が話している間はずっと竹の裏側で聞いていたみたいだ。
「……お前んとこの主は一歩成長……したな」
「ええ、世話の焼ける方だけど……素敵な方よ。清純な心の持ち主というのが改めて分かったもの」
「ちょいと誘導尋問しすぎたか、私も咲夜も」
「あのくらいしないと自分の気持ちに気づかないでしょう?」
「全く、自分よりも身内の方が自分の気持ち知ってるっておかしな話だよなぁ……」
「お嬢様は鈍感な方だから……」
そう言って苦笑いをする。魔理沙は後頭部で手を組みながら、私の顔を微笑みながら見ていた。
「な、何よ」
「いや、咲夜はやっぱり保護者だなって」
「…………あの二人の保護者……ねぇ」
「なんだ、嫌なのか?」
「いいえ、あの二人のお母さんになるのも悪くないかなって……そう思っただけよ」
「あははっ、そりゃいいかもな……」
私は信じている。あの二人が全ての気持ちを伝えてくれることを。
二人が道を外しても、それを支えるのが、側近のメイドとしての役目。いや、一人の家族としての役目なんだろう。
神様、どうか、二人の行く末が幸せなものでありますように。
新しく書いて欲しいエンドはありますか?※一話完結
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3人とも報われないバッドエンド
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3人とも平和的なハッピーエンド
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3人に恋愛感情がないほのぼのエンド