フランがシスコン過ぎて困っています   作:かくてる

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今回でこいフラ編、終了です!


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


後日話 そう思えるのは

 真夏。

 紅魔館内部にいても外から聞こえる蝉の声が嫌でも耳に入る。

 パチュリーの特殊魔法で有能な冷房が紅魔館には備わっているため不便はない。

 ただ、パチュリーの結界の外に出たら最後、冗談抜きで溶けてしまいそうだ。

 

「はぁ……」

「……どうしたのフラン。ため息なんて珍しいわね」

 

 陽が真上に昇る頃、私は紅魔館の食堂で食事をしていた。

 

「いや、なんでもないよ」

「大方、ここ最近こいしに会えていないから寂しいんでしょ」

 

 図星である。

 地上にある紅魔館と地霊殿ではそもそも距離がかなりある。

 地底に入るのも紫の許可や色々手続きがあるのと同時に、地上から地底に入る入口から地霊殿までは地底を横断する必要があるのだ。

 それに加え、こいしはさとりと一緒にお抱えのお仕事に出向いていて忙しいらしい。

 

「……うぅ、こいしに会いたいー」

「こればっかりは仕方ないわね。以前に地霊殿の仕事部屋を見たけど、紅魔館(ここ)の十倍以上の仕事量だもの。古明地姉妹でも手一杯って以前に地霊殿の鴉が言ってたわ」

「こいしって意外とできる女だもんねぇ……」

 

 こいしは見た目の割に、意外とカリスマ性を持ち合わせていた。

 さとりが不在の時、地霊殿を仕切るのはこいしで、その際に何か有事が起こっても的確な処理が出来るらしく、さとりから大きな信頼があるのだとか。

 地霊殿と違って、紅魔館の指揮権は全てお姉ちゃんになっているため、私にはそこまで大きな権利はない。

 私の立ち位置はいわゆる社長令嬢的なあれだ。

 

「……むぅ……会いたい……」

「……フランも変わったわね」

「そ、そう?」

 

 お姉ちゃんがなんだか感慨深い声でしみじみとしていた。

 

「ええ、こいしのこと好き好きオーラが出すぎてて気持ち悪いわ。悪い意味で変わったわね」

「き、気持ち悪い……」

 

 どストレートだ。

 

「い、妹に気持ち悪いってどうなのかなぁ……」

「じゃあところ構わずイチャつくのはやめなさい。別にそれだけは構わないけど、人里でキスだけは本当にやめて。それも私やさとりがいる前で。人里の人間の目線が痛すぎるのよ」

「う……」

「なーにが『こいし……もっと』よ。観衆の前だってのにとんでもないこと口走って」

「うぅ……」

 

 お姉ちゃんの日頃の恨みだろうか。

 一言一言全てが皮肉である。

 私達も悪いのは自覚しているがこいしと一緒にいるから仕方ない。って、前にお姉ちゃんの前で言ったらグングニル突きつけられたから言わないでおく。

 

「……まぁ、フランが家族以外に大切な人を見つけたことは何よりだけどね」

 

 私は過去、能力の暴走によって紅魔館の地下に幽閉されていた。しかし、私自身が望んだことで、お姉ちゃん達の反対を振り切って、自ら外へ顔を出すことを約495年間の間禁止した。

 その間、お姉ちゃんはもちろん、咲夜や美鈴、パチュリーやこあも、毎日のように私の相手をしてくれた。

 時にはおままごと、時には人形遊び、時には談笑、時には弾幕ごっこ。

 

 私自らが望んで他者との関わりを持とうとしなかったのに、無視して、私は一人でいることを拒んだのだ。

 そんな私は自分の「ありとあらゆる物を破壊する程度の能力」を嫌った。

 どうして私がこんな目に合わなければいけないのか、どうして家族と楽しく過ごさせてくれないのか。

 一時は自殺も考えた。でも、それを止めたお姉ちゃんの言葉が今でも私の活力になっている。

 

『紅魔館は誰一人として欠けてはいけないもの。それに、あなたは私のたった一人の妹。どんな姿になっても、取り返しのつかない罪を犯して、周りから軽蔑されるような事になっても、私はあなたを愛し続ける』

 

 お姉ちゃんのそんな言葉に私はありえないくらいに救われた。

 幽閉から解放された後も私はお姉ちゃんや咲夜、他の紅魔館メンバーとしか関わることをせず、外の世界への興味と羨望を一切遮断した。

 しかし、幸か不幸か、お姉ちゃんの起こした異変、「紅霧異変」により、霊夢や魔理沙と出会う。

 そこから、私は人間、妖怪、果てには神なんかとも仲良くなり、積極的に外に出るようになった。

 

 この「紅霧異変」は私が紅魔館以外の人とのきっかけになればと思って起こしたものらしい。

 お姉ちゃんは直接言わなかったが、後から咲夜にこっそり教えてもらった。

 そこから、私はお姉ちゃんへの愛が止まらなかった。今思えば、少し恥ずかしいのもあるかな。

 

 

 そして、こいしという大親友と出会えた。

 家族以外で、唯一気心が知れる知人。

 最初、私に恋愛的な好意は一切合切存在しなかった。

 それに、こいしの気持ちにも気づかないほどの鈍感さで、こいし自身は苦労してくれたと思う。

 知らないうちに、困った事、相談事があれば迷わずこいしに話しているようになっていた。

 それくらい、私はこいしを信頼していたし、支えられていたと思う。

 そこから、じわじわとこいしが私を想ってくれていることに気づき始め、だんだんと私も女の子として意識し始めていた。

 それから私は紅魔館にいる時間の方が少なくなったりもした。

 

「……まぁ、お姉ちゃんには色々迷惑かけたよね」

「そうね。恋人にあげるはずのファーストキスを奪われたものね。迷惑なんてレベルじゃないわ」

「お姉ちゃん私のこと嫌いになったの?」

「……ふふっ、まぁ、悪いことばかりじゃなかったし。良しとしましょう」

 

 お姉ちゃんは左手を上品に口に当ててくすくすと笑う。

 お姉ちゃんに恋心を抱いていた気持ちが消して悪い訳では無い。むしろ、そんな恋があったからこそ、今の私はここにいるんだと自覚できる。

 私達はほぼ同時に食事を終え、布巾で優しく口を拭き取ると、お姉ちゃんは席を立ち上がった。

 

「さて、私はそろそろ博麗神社に行くけど、あなたはどうするの?」

「んー、今日は暑すぎるから紅魔館にいるよ」

「そう、じゃあいってくるわね」

「はーい」

 

 ヒラヒラと手を振って私は自分の部屋に戻る。

 今日は何もすることがない。これから午後になるが、退屈な一日になるだろうな。

 

「はぁ……」

 

 こいしに会いたい。

 そんな気持ちだけが前に出てしまって、一人で部屋にいるのがなんだか虚しくなっていく。

 思ったより、こいしの存在は私の中でとんでもない大きさになっていた。

 こいしのことを考える度に胸がキュッてなって恋しくなる。

 少女漫画とやらはお姉ちゃんが香霖堂からよく借りてきてくれていたので、よく読んでいたが、作り物だと笑っていた。まさか、自分の置かれている状況が少女漫画のようなセリフでストンと腑に落ちてしまうとは思わなかった。

 

「病気になったみたい」

 

 そう、病気だこれは。

 こいしのことしか考えられない病だ。怖い。

 きっとこいし病だ。

 

 そんなくだらないことを考えていたら、部屋の扉が二回、軽快にノックされた。

「んー」と適当な返事をすると、向こう側にいた咲夜から声がかけられた。

 

「フラン様。こいしさんがいらっしゃいました。玄関でお待ちしていま──」

 

 秒速だった。

 咲夜の声を聞いた瞬間に部屋を飛び出し、咲夜の横を全速力で通り過ぎた。

 その途中、スカートが大きくめくれて黒いパンツが見えてしまった咲夜が「きゃっ!?」なんて可愛い声を出していた。後でからかってやろう。

 そんなガードの硬い咲夜のスカートをめくりあげるくらいのスピードで紅魔館を下った。

 

 私の部屋から玄関まで時間にして6秒。

 窓から飛び降りて玄関に向かうのも手だが、以前にその方法で窓を割って、飛び降りた先の地面を破壊してしまう事件があって、咲夜にめちゃくちゃ怒られたという経験がある。そのため、一応の配慮から、廊下から降りることにした。

 

「こいしぃぃぃっ」

 

 私はスピードを緩めないまま、こいしの姿を捉える。

 瞬間、何もかもが満たされた気がした。

 しかし、こいしの顔は焦燥に塗りたくられていた。

 

「えっ? ちょ、ふら、フラン?」

「会いたかったよぉぉぉ」

「どぶぅわぁぁ!?」

 

 まるで風が通り過ぎるかのような私のスピードが加わったハグに負け、玄関を飛び出して、門の近くまで吹っ飛ばしてしまった。

 私はこいしにくっついたまま、こいしの匂いを嗅ぐように胸に顔を埋めた。

 

「いったぁ……」

「……こいしぃ……」

「あのねぇフラン。会いたがってくれてたのはめちゃくちゃ嬉しいんだけど、スキンシップには限度があるよね? 恋人に容赦なくタックルするのは、そもそもスキンシップなのかな?」

「むっ、いいじゃん。こいしに触りたかったんだから」

「そういう事じゃないのに……」

 

「はぁ……」と額に手を当てて呆れるも、しっかりと私を抱きしめてくれた。

 どうやら、こいしも満更ではないみたいで、満面の笑みで応えてくれた。

 

「えっと、二週間ぶりかな? フラン、久しぶりだね」

「違うよこいし。一週間と六日、四時間ぶり」

「怖い。怖いよフラン」

「そんなことより、早く紅魔館に入ろうよ。いつまでここにいるの?」

「あなたが吹き飛ばしたんだよフラン……」

 

 こいしの手を引いて、私は小走りで紅魔館へと戻っていった。

 そして、速攻部屋に入る。そして、速攻鍵を閉めた。

 

「ね、こいし。いい?」

「ちょ、ちょっと待ってよ。今汗かいてるから」

 

 私はもう我慢出来なくなって、上着を脱いでしまう。しかし、そこで待ったをかけたのはこいしだった。

 確かに、よくよく見れば、こいしの黄色と緑の上着は汗ばんで少し水分を含んでいた。

 

「いいよ。こいしの汗なんて今更気にならないよ。てゆーか舐めさせて」

「何言ってんの!? じゃなくて、私が気にするの。お風呂借りていい?」

「えぇー」

「今日はお風呂入ったらフランの好きにしていいからさ」

「いいよ存分にお風呂を堪能しなさい」

「単純だなぁ……」

 

 こいしから言質を貰ったからには、私はもう何も言うことは無い。

 こいしは呆れてため息をつくと、お風呂場へ足を運ぼうとした。

 その時、私の中で電流が駆け抜けた。

 

「あっ!」

「ん? どうしたの?」

「ね、こいし。あそこの泉行こ?」

「泉?」

「こいしが私に初めてキスしたとこ」

「……ああ、いいね。あんまり思い出したくないけど……」

 

 どうやら、あの泉での不意打ちキスは黒歴史のようだ。これはいい情報を貰ったかもしれない。

 

「よし、そうと決まれば早く行こう。えっと、水着水着……」

「フラン。私、水着持ってきてないや」

「あ、そっか。どうしよっかな……」

「一度解散して、再集合する?」

「そうしよっか、じゃあ一時間後にあそこの泉に集合でいい?」

「分かった」

 

 そう言って、こいしは窓から飛んで、一度紅魔館を後にした。

 私は飛んでいくこいしをずっと見ていた。

 

「……白か」

 

 こいし、確かにその飛び方なら地上にいる人には見えないけど、同じ高さにいる私には丸見えなんだよ。どことは言わないけど。

 ひとしきり目の保養にして満足した後、私はもう一度水着探しに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっつい」

 

 早く来すぎた。

 咲夜から貰った懐中時計を見ると、集合時間よりも三十分も早く来ていた。

 

(……ああ、こいしの水着見たい……)

 

 もちろん、下心から出ている言葉では無い。こいしの体を見たいと思っているだけだ。

 別にエッチなことなんて考えてない。ないったらない。

 

「およ、フラン、来るの早いね」

 

 そんな卑猥な想像をしていると、こいしも早めに来ていたようで、背後から現れた。

 こいしはいつもの服ではなく、白いパーカーを羽織って、見えるか見えないかのラインでショートパンツを履いていた。

 スカートを履いていないこいしも珍しい。

 ちなみに私は七分丈の大きめなTシャツに白いミニスカートを着て、下に水着を付けている。

 

「……ね、こいし。言いたいことがあるんだけど」

「……私もある」

「同時に言う?」

「いいよ」

「せーの」

「「エロい」」

 

 静寂。

 そして、二人同時に笑い出す。

 

「あははっ、まさかそんな考えが一致してるなんてね」

「こんな考えで一致しちゃうのもどうかと思うけどねぇ」

「ま、とりあえず水浴びようよ」

 

 上に着ていた服を脱いで、互いに水着を晒す。

 そして、互いに硬直。

 こいしは白のフリルが着いているビキニ。私は赤色のシンプルなビキニ。

 

「ね、こいし」

「うん」

「「エロすぎ」」

「……」

「入ろう。早く」

 

 ようやく、やっている事の下らなさを感じた私達は苦笑いをしながら水の中にゆっくりと入った。

 

「ひゃっ、冷た……」

「外が暑いと、余計に感じるよねぇ」

「分かる。温度差でだいぶ違うよね」

 

 まるで温泉に入っているかのように、澄んだ水に浸かって脱力する。

 

「……ふぅ」

「こいし」

「ん?」

「……今日は、私の好きなようにしていいんだよね?」

「……え? ジャンケンでしょ?」

「え?」

 

 さっきと言っていることが違う。

 私はそう訴えようとしたが、それよりも前にこいしがくい込むように答えてきた。

 

「あれはお風呂に入ったらの場合だから。あれは無効。だから今日はジャンケン」

「……え、えぇ……」

「言ったよね私、「お風呂入ったらフランの好きにしていい」って」

「な、なんていう限定条件……」

 

 せっかくこいしをいじり倒す案をちょびっとだけ考えてきたのに。

 まぁ、勝てばいいだけの話だろう。

 

「ふふ……ジャンケンは私の庭なのよ。こいしなんかに勝てるかしら?」

「さぁ? でも、フランは以前のポーカーで運を使い果たしたんじゃないの?」

「ま、まだ根に持ってたんだ」

 

 私がロイヤルストレートフラッシュを叩き出すという奇跡の大事件。

 結構前の話だが、記憶には新しい。それは何故か。

 衝撃的すぎたからである。

 過去の話は置いておいた私達は同時に立ち上がり、拳を互いに突きつける。

 

「じゃ、いくよーっ」

「「最初はグー」」

「「ジャンケン……」」

「「ポン!」」

 

 勝負は一瞬だった。

 フランドール・スカーレット、パー

 古明地こいし、チョキ

 

「ぃやったぁぁぁあ!!」

「そ、そんな馬鹿な……」

 

 水の上で飛び跳ねるこいしとショックのあまり倒れて水中に身を捧げる私。周りから見たら凄い面白い反応だっただろうな。

 

「はいはーい、じゃあ、私の好きにしまーす」

「むぅ……どーぞ」

 

 そう言って、私を岩にもたれさせ、こいしは私に密着するように抱きついた。

 鼻と鼻が当たる距離まで近づき、ニヤリと笑うこいし。

 

「……ふふ……フランのかーわいい顔が見られるんだね……」

「……そ、その顔怖い……」

 

 妖しく笑うこいしの顔は、もはや少女の顔ではない。

 あれは、自分の欲に正直に向き合った、大人の女性の色気を放った、そんな笑みだ。

 

「じゃ、いただきまーすっ。んっ……」

「んぅ……ちゅ……ちゅぅ……」

 

 まずは唇を合わせるだけの優しいキス。

 ただただ、お互いの愛を確かめる確認作業のようなもの。

 そして、次は相手の唇をついばむように何回もキスをする。

 そして、ゆっくりと舌を使ってキスをする。

 ここまではいつものこいしと同じだ。

 

「じゅる……れろ……ちゅぅ……」

「んう……ちゅ……こぃし……」

 

 お互い、完全にスイッチが入ってしまっている。

 口の間から漏れる唾液が泉に垂れては見えなくなっていく。

 

「……ぷ……はぁ……」

「もっとぉ……こいしぃ……」

「……んー」

「……こいし? どうしたの?」

 

 お互いここから進めていく時に、こいしは顎に手を当てて何かを思考していた。

 私は我慢できなかったのか、私の上に座っているこいしを抱き寄せて、キスをせがむ。

 

「ねぇ、こいし……」

「フラン。いいこと思いついた」

「え?」

「今日さ、ずっとここで過ごさない?」

「えっと……どういうこと?」

「だから、夜までここでイチャイチャしよってこと」

 

 名案なのかそうでないのか分からないラインの提案だなと思う。

 しかし、今日はこいしが勝者なのだ。私は素直に従うことにしよう。どうせお姉ちゃんには叱られるんだし。

 

「わかった。こいしの好きなようにしていいよ」

「そう、じゃ遠慮なく」

 

 そう言うと、こいしは再び唇を塞いだ。

 しかし、さっきよりも段違いに激しいキスをしてきた。

 舌を絡め、息継ぎが出来ないほどの濃厚なキスだった。

 

「ちゅぅ……べろ……れろ……」

「んっ……こ、こい……ちゅぅぅ……」

「フラン……好き……すき……」

「わ、わらひも……ちゅぅ……」

 

 キスを重ね、少しだけ唇が腫れてしまうくらい、私達は続けていた。

 キスに満足した時には、もう陽は傾いていて、橙色で空が染め上げられている時間だった。

 

「はぁ……はぁ……」

「こいし……」

「じゃ……水着脱いで?」

「う、ぅん……」

 

 言われるがまま、私は水着を脱いで、こいしに全身をさらけ出した。

 それに呼応するように、こいしも水着を脱ぎ捨てた。

 そして、もう一度キスを重ねた。

 

「大好きだよ……フラン」

「私も……大好き」

 

 お互いがお互いの想いに精一杯答えるように、私達は体を重ね合わせた。

 そこら一帯に聞こえていたのは、艶やかな二人の声と、大きな水の音、そして、静かになくヒグラシの声だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"ー、つっかれたぁ」

 

 一通り終えた私達は水着を着直して、岩に座る。

 ずっと水に浸かっていた私達は逆に体が冷えていたので、真夜中のこの少し涼し気な風がとても心地が良かった。

 周りはもう、蝉どころかヒグラシの声すらも聞こえず、鈴虫が活発になっていた。

 

「……午後11時半……お姉ちゃんに怒られるなぁ……」

 

 懐中時計を見ながら、私はこの先に怒るであろうことに少しだけ落胆する。

 

「まぁ、仕方ないよねぇ」

「元はと言えば、こいしが『二回目……しよ?』なんて言うからだよ」

「いいじゃん。したかったんだもん。フランは嫌だったの?」

「……別に……嬉しかったけどさ」

 

 過去一で長かったと思う。

 というのも、こいしが一度目だけじゃ物足りなかったようで、二度目を所望してきたことで、ここまでの長時間に渡ったのだ。妖怪って怖い。

 

「じゃあおあいこだね」

「……まぁ、いっか」

 

 仕方ない。

 そう簡潔にまとめて解決する。ポジティブに物事を考えられるのはこいしの影響だろうか。

 

「ね、フラン」

「なに?」

「これから一週間、お姉ちゃんが天界の方に出向いちゃうから、また遊べなくなるんだよね」

「えっ、また?」

「ごめんね」

 

 こいしは申し訳なさそうに顔を下げる。

 

「いや、仕方ないけど……こいしは大丈夫なの?」

「何が?」

「身体の方。明日から仕事するんでしょ? こんな時間まで遊んでて……」

「そうだね。確かに辛いかも」

 

 少し無理をするように笑う。

 その顔をする時は我慢している時なんだと、私はわかっている。

 

「まぁ、一週間頑張れば、フランに会えるんだから。一週間なんてちょろいもんだよね」

「……」

「……」

 

 静寂が訪れる。

 私もこいしも元気な性格なので、会話が途絶えることは滅多にないのだが、やっぱり会えないことを考えると、寂しくて声が出なくなる。

 地霊殿と紅魔館の距離を考えると、毎日行ける距離ではないし、仕事をするこいしの邪魔にもなってしまう。

 

「あ」

「ん? どしたの?」

 

 もしかしたら、とんでもない最強の案を思いついてしまったかもしれない。

 

「私が一週間地霊殿に泊まればいいのか」

「……あぁっ!?」

 

 こいしは「その手があったか!」というような顔をして立ち上がる。そして、満面の笑みではしゃぎ出す。

 

「それなら毎日フランに会えるし、触れる! えっちしたい放題プランだ!」

「間違いではないけど」

「そうと決まれば、レミリアちゃんに許可を取りに行こう!」

「……そうだね」

 

 こいしは私の前に右手を差し出す。

 その手の先では、こいしはにっこりと笑っていた。

 笑い返した私はその右手をとって、立ち上がる。

 

 

 

 そして、紅魔館への帰路を辿り始めた。

 

「お姉ちゃん、OK出してくれるかなぁ……」

「そもそも、『今何時だと思ってるのよぉぉ!』って怒りそうだよね」

「それお姉ちゃんの真似のつもり?」

 

 これから先、起こるであろう事柄が楽しみで仕方がない。

 こいしと一緒にいれるこの時間が好きすぎて仕方ない。

 

「とりあえずお腹空いたよ。紅魔館で食べていこ」

「そうだね。こいしの分も咲夜が用意してくれてると思う」

「咲夜さん。地霊殿のシェフになってくれないかなぁ……お空と組めば最強になるのになぁ」

「残念、咲夜は生まれながらに紅魔館メンバーだから、多分本人が認めないよ」

「だねぇ……」

 

 もしかしたら、こいしと家族になるかもしれない。

 もしかしたら、こいしと喧嘩するかもしれない。

 

「……ね、フラン」

 

 きっと、辛いこともあるだろう。

 きっと、悲しいこともあるだろう。

 

「何、こいし」

 

 例え、仲違いするようなことがあっても。

 例え、一時の感情で嫌いになることがあっても。

 

 

 

 

「大好きだよ!」

 

 

 

 

 私はきっと、永遠にこいしと共に生きていく。

 

 そう思えるのはきっと、私は……

 

 

 

 

 

「……私も、大好きだよ。こいし」

 

 

 

 

 

 こいしのことが、好きだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜END〜




本当にありがとうございました!

これで、こいし×フラン編は完全完結です。


次回から
レミリア×こいしの分岐ルートのお話になります。

新しく書いて欲しいエンドはありますか?※一話完結

  • 3人とも報われないバッドエンド
  • 3人とも平和的なハッピーエンド
  • 3人に恋愛感情がないほのぼのエンド
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