私の言葉にこいしは硬直を強いられていた。こいしが口を開いたのは私の言葉から数十秒後だった。
「え、えっと……レミリア……ちゃん?」
「……」
自分の言ったことに後悔はしていない。しかし、この後私はどのような言葉をかければいいのか戸惑いを見せてしまった。
「ど、どういうこと……? 嫌って……」
「そのままの意味よ」
少しずつ頭の整理が出来つつある私は少しずつ、そして力強く、こいしに想いを伝える。
「あなたの願いを叶えてなんてあげない」
「……」
「でも……」
ようやく気づいたこと気持ちは決して邪魔なものでは無い。むしろこの先大切にするべきものなんだ。
「私は、フランのことが好き。大好きよ……」
「だ、だったらっ……」
「でも、私はこの世界で一番、古明地こいしの事が好き」
「……ッ!」
「好き。大好き。愛してるわ」
次々に溢れるこいしへの想い。口にすればするほど滝のように流れてくること想いをせき止める術はないのだろう。
そして私は一歩ずつ、こいしとの距離を縮めていく。
「や、やめて……」
「あなたとフランがどれだけ真剣に悩んでくれたかは分からない。二人には悪いことしたって思ってるわ。どれだけ私が最低なことをしたか……でも、でもね」
「や……レミリアちゃん……」
「私は色々な思いをしてもなお、あなたのことが大好きよ」
今、どれだけ顔が赤くなっているんだろう。火傷してしまうくらい、顔が熱い。実は足も震えている。声は辛うじて普通を演じているはずだ。
普段なら恥ずかしくて死にたくなるほどの台詞を吐いている気がするが、なぜだか今は次々に言葉が溢れてくる。
そうして一歩、一歩とこいしへ歩を進める。
「愛してる。あなたと、恋人になりたい」
「やめてッ!!」
「っ……」
いつもの元気で無邪気なこいしからは決して聞くことのない、悲痛な叫び。私は思わず歩を止め、たじろいでしまう。
両手で顔を隠している。そしてその指の間からは光る涙がぽたぽたと垂れていた。
「フランちゃんが……今必死であなたを探してる……必死であなたを想ってる……」
「……そうね」
「……フランちゃんがどれだけ必死であなたを愛していたかあなたは分かっていない!」
「……」
今度はこいしが自分の思いを明かした。
「私が一番あの子を支えてあげられると思ってた……あの子を笑顔にするのは私の役目だって……そう、思ってた……」
「こいし……」
「でもね……
顔から手を離し、今度はこいしが私の方に詰め寄ってきた。1メートル程の間隔をあけて、こいしは立ち止まる。
「私は……それでもいいって思った……! フランちゃんが幸せになれるなら……姉妹でも関係ないって……思ってた……!」
「……」
「でも私は……やっぱりフランちゃんが大好きだった……フランちゃんと二人で恋人になりたかった……」
こいしが俯く、緑銀髪の髪が風になびいて、優しい匂いが漂う。しかし、こいしの真下の地面は少しだけ涙で濡れていた。
「でも……それも叶わなかった……一番の親友だと思ってた私でも……フランちゃんは諦めて私と恋人になってくれなかった……それくらい、あなたの事が好きだったんだよ?」
「ええ、知ってる」
私は少し冷たく、そう言った。
それを聞いたこいしはキッと私を睨みつける。涙は枯れないまま、泣き叫ぶようにして、私の胸ぐらを掴んだ。
「ふざけないでよッ! あなたもフランちゃんが好きなんでしょう!?」
こいしの必死な叫びが私の胸を痛めつける。
私が望んだ結末は誰も望まないものになってしまっていたのだ。こいしもフランもこの終わり方だけは避けたかった。
「……ええ、好きよ。フランのこと」
「じゃあ……悩む必要なんてないじゃないッ! 自分の気持ちに気づいておいて、それを放棄するわけ!?」
「……放棄したわけじゃないわ」
「いいえ、放棄したわあなたは……フランちゃんと両思いなのに……そうやって自分に言い訳して、私という余計な存在に変な思いを向けてッ!」
こいしの口調が段々と刺々しくなっていく。
普段のこいしからは絶対に聞くことのない、天真爛漫とは大きくかけ離れた言葉たち。
「……あなたの私へ対するその想いは余計なのよ……だから早く私のことを忘れて……フランちゃんの元へ行ってきなさいよ……」
「さっきから黙って聞いていれば……ふざけるのも大概にしてくれる?」
「……え……?」
私は自分の胸ぐらを掴んでいるこいしの手首を強く握る。今回ばかりは、流石に私も堪忍袋の緒が切れてしまった。
「自分の気持ちを放棄? こいしへ対する想いが余計? あなたが私の何を知ってるって言うのよ」
強く、こいしを睨む。しかも至近距離で、流石のこいしも動揺を隠せないようだった。
しかしこいしも涙ながらにも自分の意志を貫こうと負けじと抵抗した。
「し、知ってるとか知らないとかそういうのじゃない! 私は……」
「あんたはフランにあんなに恋しておいて、私があんたを好きになるのが余計とか、人のこと言えないのよ」
「う……」
「あんたは自分が報われない代わりに、親友とその姉が幸せになれればいいとか思ってるの?」
「そ、そうだよ! そうすれば、あなた達は幸せに……」
「綺麗事並べてんじゃないわよ」
私の目が紅く光り出す。
こいしの考えに流石に怒りを覚えてしまっていた。
「ッ……」
「あなたもフランと結ばれたかったんでしょう? でもそれが叶わなかった」
「そう……フランちゃんにはもっと大切な人がいるから……」
「でも私はこいしと結ばれたいの」
「……」
色々遠回りしたが、ここからは本当の気持ちをはっきり伝えられることが出来そうだ。
「フランが辛い思いしてしまうのも分かる。こんなにも酷いことをしてるんだもの」
「だ、だったら……」
「でも私は……フランと恋人になっても……きっとあなたに想いが伝わらなかったことを後悔する。私は、結局自分勝手に、私の意志を尊重する」
「……」
「あなたが私を付き合う気がないのなら……振ってくれていい。フランとしか一緒にいたくないのなら突き放してくれていい。でも……でもね」
こいしへの思いが今度は涙になって溢れだしてくる。拭っても拭っても次々にこぼれてくるそれに私はもう構っている暇なんてなかった。
私はこいしが好きだ。フランという大切な存在がいても、私はやっぱりこいししかいない。
確かに関係は薄いのかもしれない。こいしとフランに比べたら私とこいしはフランよりも親交が深いとは言えない。
でもそれでも、私が好きになった子はこいしだけだ。
涙声になっても構わない。今なら、こいしに弱さを見せても構わない。こいしに私の想い全てを伝えられるなら……それでいい。
「……私の…私だけの想いを……余計だなんて……言わないでよ……」
「レミリアちゃん……」
「私は……こいしが好き……愛してるの……。あなたの中のフランが大きいのは承知してる」
唇を噛んで涙を止めようとしても今更止まるなんてことは出来ない。
初めてかもしれない、こいしに泣き顔を見せてしまうなんてことは。フランの前でも、こいしの前でも気丈な姉であるために、泣き顔なんてものは滅多に見せたくないのに。
「……私は……こいしを支えたい」
「……」
「こいしと一緒にいられるなら……何もいらない……! こいしがいないと……私は……」
きっと私は今、とんでもないことを口走ってしまった気がした。いや、でもこれは紛れもない私の本音だ。
ずっとずっと胸の内に秘めていた。私だけの秘密。
「……生きられないよ……」
私はその場で膝から崩れ落ちる。落ちてくる涙の量がとんでもない。
これが私の本当の気持ちだった。口にして初めて感じる、想い人へ抱くもの。
そう、私はもうこいしがいなくては生きられない。
「私にとって……こいしが全てなの……だから……」
「……さっきはフランちゃんのことも好きって言ってたのに?」
今はこいしの顔を見ることは出来ない。物理的にも、心理的にも。
私が言っていることはただの矛盾だ。フランも好きだと言っていたくせに、結局は一人しか見えていないなんて都合が良すぎる。
「……っ…はは…そうよね……私、何言ってるんだろ……」
「ホントだよ……レミリアちゃんらしくない」
「でもっ! 私は……こいしが大好きなの…」
そうしてようやく、私は顔を上げ、こいしの顔を見る。こいしの方は涙は消え、いつもの元気な顔に戻りつつあった。そんなこいしの顔を見るとさらに涙が溢れてきた。しかしそんなことはもう私の中でどうでもよかった。
そんなこいしに一番伝えたかったことを紡ぐ。
「私と……恋人になって欲しい……」
結局、私が望むものはそれだった。今はもう、紅魔館当主とか、親友の姉だからとかそんなのは関係ない。
一少女として彼女に恋をしていた。
「……そっか」
それだけ言って、こいしは身を翻した。
そして、人里の方へ歩き出してしまった。こいしからの返事を何も貰えないまま。
「こいし……」
「ほら、早く立って」
こいしは私に背を向けたまま、そう言葉にした。こいしの表情が見えないままだが、私は素直に従う。
そしてこいしはこう言った。
「行くよ」
「……行くってどこに?」
こいしが振り返って、私の方へ向く。そして、屈託のない眩しい笑顔……とまではいかないが、優しいほほ笑みを浮かべた。
「フランちゃんと……お話に」
「……?」
「……察しが悪いなぁ……もう…」
未だに理解できない私は首を傾げてクエスチョンマークを浮かべた。こいしはそんな察しの悪い私を見て、顔を赤く染めて後頭部を掻く。
そして恥ずかしそうに目を逸らして、しかし最後には私の方を見て笑う。
「今までレミリアちゃんが隠していたフランちゃんへの思いと……それと……」
「それと……?」
するとこいしは言葉を濁らせてしまった。それに、さっきよりも顔を赤く染めあげて、今度は目を閉じてしまった。まるでもがくような仕草に私は少しだけ心臓が跳ねる。
そして、こいしはこう言った。
「私とレミリアちゃんが……恋人になったことを……ね?」
「……」
私はその言葉を聞いてポカンとしてしまう。
当の本人であるこいしは紅潮したまま、チラチラと私を見ていた。
しかし、全てを理解した私には歓喜が舞い降りてきた。と同時に何故か羞恥も襲ってきた。
「……〜〜〜っ!」
「ほ、ほら……早く行くよ!」
「こいしっ!」
私はこいしを後ろから抱きしめる。こいしの肩に私の顎を乗せる。こいしの甘い匂いが強くなっていく。
しかし、当の本人であるこいしは耳まで赤く染めて硬直していた。
「嬉しいわ……こいし……ありがとう……大好きよ」
「わ、わわわわかったから……ちょ……恥ずかし……」
「ふふっ……こいし動揺してるの? 可愛いわね」
「うるさいなぁ……もう……」
最後にはこいしも優しく微笑んでくれた。そして、こいしの手が優しく私の左手に触れた。
こいしの体温が少しずつ伝わっていく。
満たされていく私の気持ちと同時にぽっかりと空いてしまったような気持ちの両方があった。
「私……最低なことしちゃった……さっきまで必死にフランちゃんに告白してたのに……たった数十分で別の恋人が出来るなんて……」
「……たしかにそれだけで見れば随分大胆なことをした見たいね」
「……一回別れる?」
「馬鹿なこと言ってるとグングニル突き刺すわよ」
「ごめんなさい……」
私は思ったよりも独占欲が強いのかもしれない。まぁでも確かに、殺していた時期は逃した獲物なんてほぼほぼいなかったし、執念深いというのは認めざるを得ないかもしれない。
「でも私の気持ちがきちんと伝わってくれたってことでしょう?」
「まぁそういうことなんだけどさ……」
「こいし」
「ん?」
私はゆっくりと口をこいしの耳元に近づけ、吐息がかかるくらいの近距離で囁いた。
「大好きよ……愛してる。世界で誰よりも」
「っ!」
ビクンと体が跳ねるこいしの反応が可愛くて仕方がなかった。
「も、もう! やめてよ!」
「ねえ、こいし」
「今度は何……」
「フランには……どう説明するの?」
「……」
今一番の気がかりはそれだ。
私がフランの気持ちを踏みにじって、こいしはフランの気持ちを裏切った。
今の状況を見てしまえば、フランがどれだけ傷つくか、想像が出来ない。
結局は、私もこいしも自分可愛さなのだろう。
そもそも、生き物は自分の幸せに固執する習性がある。当たり前だ、自分が幸せでないと、他人の幸せを感じることが出来ないからだ。
幸せを感じるにはまず自分が幸せでないと、何も感じれない。
「……きっとフランちゃんを傷つけてしまうのが目に見えてる……」
「フランに……どう伝えればいいのかしら……」
私は一度こいしからは離れて、隣に立ち、考える。
「……一度、これを聞いた上でのフランちゃんの気持ちを聞くしか無いかもしれないね」
「そうね……そうかもしれないわ」
「じゃあとりあえず、フランちゃんの元へ行こうか」
「ええ、そうしましょう」
そうして私たちは人里へ同時に歩き出した。
ここから始まった、レミリア・スカーレットと古明地こいしの二人の話。
気持ちを裏切ってしまった私達の思いがいい方向に繋がってくれればと、そう願うばかりだ。
「あ、こいし」
「どうしたの?」
「私、まだこいしに言ってもらってない」
私は立ち止まってこいしを呼び止める。
そして、肝心なことを聞き忘れていたことに気づく。こいしは何だか訝しげだった。
「……こいし、私のことどう思ってるの?」
「どうって……そりゃあ……」
「そりゃ?」
「…………」
今更口にするのが恥ずかしいのか、こいしは顔を赤くして口を噤んでしまった。そういう反応も可愛くて私は満足なのだが、恋人になった以上、もっと求めてしまう。
「……す、……」
「す?」
「す……すき……」
今にも消えてしまいそうな声で絞り出したようだが私は聞き取れない振りをした。
はっきりとこいしの気持ちが聞きたくなった。
きっと、こいしはまだフランのことが好きだ。何なら、フランの方が好きなのだろう。
長年想い続けてきた人とは別の人と急に恋人になって、急にその人だけを愛することなんて誰にも出来ない。
でも、きっとこいしは今私のことを意識してくれている。フランには負けても、好きだって思ってくれているはずだ。
「なんて言ったの? 聞こえないわ」
「……〜〜〜ッ!!」
「こいし?」
「あぁ、もう!」
とうとうこいしが大爆発した。
ズンズンと私の方へ歩いて来たかと思いきや、思い切り私の肩を掴んで、こいしの方へ。
「っ!?」
「んっ……ちゅ……」
一瞬にして塞がれた私の唇。見開いた視線の先には赤く染まったこいしの顔があった。
こんなの抵抗できるはずがない。私はこいし同様、目を閉じて、唇に伝わるこいしの体温を感じた。
「……ちゅぅ……んぅ……」
「んっ……ぷはぁ……」
永遠のように感じた時間。お互い息がギリギリだったのか、吐息が漏れてしまっていた。
こいしは私の顔と数センチの距離を保ったまま、自分の額を私の額にくっつける。
そして、こいしは優しく、包み込むような声で言葉を紡いだ。
「レミリアちゃん……愛してる……一緒にいようね」
「私も愛してる……離れないで……」
「……」
「? 何よ」
「レミリアちゃんって実はかなり甘えたがり?」
「なっ!?」
一気に恥ずかしくなった私はこいしから距離を取ろうとする。しかし、こいしが私の頭を掴んで離してくれない。
「……そ、そうよ……悪い?」
「いいや……可愛い」
その言葉にいちいち心臓が跳ね上がってくるのも感じる。いい加減鬱陶しいくらいに思う。
でも、こいしといるとそれさえも心地いいのは何故なんだろう。
こいしと二人でこれから様々な困難に立ち向かっていくんだろう。
でも今ある試練に目を背けたりなんかしない。こいしと二人でそれを乗り越える。そう決意したから。
「そろそろ行こう。フランちゃんの元に」
「ええ……そうね」
私とこいしは手を繋いで、人里への道を歩き出す。
フランは辛い思いをして私を選んでくれた。なら、それ相応の態度でフランと相対することが大切なんだと思う。
フランと私、姉妹であってそうでは無いこの関係に、終止符を打つ。そう決めたから。
いやもうなんでもありですわ
新しく書いて欲しいエンドはありますか?※一話完結
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3人とも報われないバッドエンド
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3人とも平和的なハッピーエンド
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3人に恋愛感情がないほのぼのエンド