長いねこれ
人里を抜け、紅魔館へと続く一本道に差し掛かった。
私とこいしは手を繋いで一歩一歩を噛み締めて歩く。いつも通る道なのに、どうしてこんなにも鼓動が早くなるのだろうか。
「……はぁ……」
私はとても不安だった。
全て上手くいかないまま、こいしと結ばれてしまったのではないかと。フランとの仲を戻せないまま、さらに追い打ちをかけるようなやり方をしてしまったのではないかと。
しかし、そんな不安な気持ちは私の左手が強く握られ、温もりを感じたことで払拭される。
「……大丈夫だよ、レミリアちゃん」
「……ええ」
「きっとフランちゃんにも伝わる」
「……そうね」
そうして、私もこいしの手を強く握る。そうだ、こいしと一緒ならきっと大丈夫だ。
フランはきっと今、紅魔館で待っているはずだ。私に想いを伝えるために、今か今かと待ち望んでいるはずだ。
私はそんなフランに残酷な真実を突きつけようとしているのだ。
フランは紅魔館の前にいた。
「……え……と……」
「……ただいま、フラン」
フランはその場で硬直する。想像していた光景とありのままが映し出された。
「……お、お姉様……これは、どういう……?」
「……見たままよ」
フランの目には仲良く恋人繋ぎをしている私とこいしが映っている。
フランにとって、これが何を意味するのか、フランはまだ理解していなかった。いや、理解したくなさそうだった。
「……み、見たままって……わ、悪ふざけはやめてよ……私は真剣な話が……」
「私とこいし、付き合うことにしたわ」
これがフランにとって、絶望の一言だと分かっていた。
一番聞きたくない言葉なのだろうと、私の中で理解しているつもりではあったが、そう言わないと、何も上手くいかないままだ。
「……は?」
「……あなたがこいしを振ったあと、私がこの子に告白したの」
私は淡々と起こったことを告げていく。感情の起伏すらも捨てて、ただ無表情にそう伝えていく。
「……ごめん、フランちゃん。君は私を恨む権利がある。殴ってくれてもいい、クズだってそう思ってくれてもいい」
「……や、やめて……」
フランは怒ることも泣くこともせず、ただ後ずさっていった。ただその顔は悲愴そのものだった。
「……私のこと……嫌ってくれても……いいよ」
「っ!!」
フランはその言葉を聞くと、こいしに近寄り、右手を大きく振り上げた。
そして、フランの手のひらはこいしの頬を捉える。こいしの頬は腫れはしなかったものの、赤くなっていた。
しかしこいしは動じずにただそれを受け入れているかのように静かになっていた。
そこで初めて、フランの目じりに涙が溜まっていることに気づいた。
そしてそこから
「……もう……いいよ」
そう言って、フランは身を翻し、紅魔館を超えてどこかへ走っていってしまった。
「っ、フランっ!」
私はそれを追いかけようと私も走ろうとした。しかし、それをこいしの手が制止させた。
「……? ……私はフランを追うから、こいしは待っていて」
「……レミリアちゃん、一人で行くの?」
「ええ」
こいしは私の手を掴んで離そうとしない。私にはそれを振り払ってフランを追う勇気もなかった。
「……レミリアちゃんがフランちゃんを1人で追うのなら止めないよ」
「……こいし……」
「でも、レミリアちゃんにとって大切な人は誰なの?」
「……」
こいしは俯いていたせいか、表情は全く見えなかった。だが、今こうして近距離で見ると、こいしも涙を溜めていた。
私はその顔を見て、もう一度こいしの手を強く握る。私たちはもう、どこまでも一緒にいると決めたから。
「……行きましょう。こいし」
「……うんっ」
涙を拭いて、私たちは覚悟を決めた。
そして私たちは手を離さず、互いに体温を感じながら、安心感を感じながら、全てに決着を付けるために私たちは動き出した。
ここが人生の大きなターニングポイントだって分かる。
しかもこれが二回目だとそう思う。
一度目は吸血鬼ハンターに追われ、フランと共に闘っていた時だ。
あの時は二人とも余裕がなかった。でもその中でも私はフランを守り抜きたいと、強くそう思えたことで、体力的にも精神的にも強靭なものを手に入れることが出来たと思う。
家族という大切さに触れて、愛というものを実感した。
そしてこれが二度目。
フランが望まない形で全てが終わってしまった今日。全てが流れのままになってしまった。
生き物というのは目の前の欲望には目が眩んでしまう。後先考えず、自分の幸せを掴むチャンスがあれば徹底的に動く。なんとも面白く、醜いのだろうか。
私はこいしという目の前の恋人に目が眩んでしまった。「恋は盲目」なんて言葉をよく耳にするが、全くもってその通りだと痛感する。
だが、私には家族という大切な存在もいるということもまた事実で。
フランがこいしに手を上げても、私にそれを怒る権利なんてあるわけが無い。
それに、どちらも大切な人だから。どちらも私が生きていくためには欠けてはいけないかけがえのない存在だから。
こいしとフラン。どちらも大切にしたいと思うのは強欲なのだろうか。欲張りで、そして浅はかだと、誰しもが笑うだろうか。
強欲だとは思うが、それを笑う奴はきっと私の周りにはどこにもいない。
私は紅魔館当主、強欲で何が悪い。
フランの気配を辿ると、そこは人里のはずれの森だった。こんな所、微かに残る道すらももう草が生い茂っていて人が住んでいた形跡はない。
「……この道って……」
「……こいし? 何か知っているの?」
「この道ね、私とフランちゃんが初めて出会った時にいい場所があるって言って連れてこられた所だ」
「そう、なのね」
こいしは懐かしむように周りを見る。この場所は私も知らなかったところだ。
フランとこいしだけが知っている場所があるのが、少し疎外感があって落ち込んでしまう。
「懐かしいなぁ……私がレミリアちゃんやフランちゃんと仲良くできたのも、この場所があってこそなんだ」
「……そうなのね……」
「……」
「……」
しばしの沈黙が訪れる。聞こえるのは、歩いている時の草を踏む音だけ。しかし、気づいた時には私の口は開いていた。
「……私は……フランも大切にしたい」
「……」
隣にいるこいしにそう伝える。瞬間、左手がキュッと握られる。少しだけ悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべたこいし。
「でも、それでも、私はこいしと歩むわ。どんなことがあろうと」
「……うん」
「かけがえのない愛しい妹と、世界一好きな恋人と、私は一緒にいたい」
「……うん」
「だから、一緒に紅魔館でお茶でも飲みましょう?」
「……ねぇ、フラン」
歩を止める。先程までの窮屈な山道とは大きく違い、開けていて、とても景色が綺麗だった。
夕日が私達三人を照りつけている。
フランは私達を見ない。うつろな瞳は夕焼けに照らされる人里を見つめていた。私の声にもピクリとも動かず、その場で立ち尽くしていた。
「……フランちゃん」
こいしの呼び掛けにも反応しない。まるで、魂だけがどこかへ置き去りにされてしまったかのよう。否、置き去りになっていたのだろう。
「……聞いて、フランちゃん」
「嫌だ」
こいしのお願いすら一蹴してしまう。瞳も体も動いていないのに、口だけ動かすフランの姿はなぜだか少し恐怖があった。
そうして、数分の静寂が訪れた後、フランが口を開いた。
「……お姉様、こいしちゃん」
「っ……」
「私はさ、お姉様と一緒になりたいから、こいしちゃんの告白を断ってまで、追い続けたんだよ?」
「……」
「でもそれでさ? いざお姉様に想いを伝えようって言ってそのすぐ後に、私達付き合うことになりましたって、流石に酷すぎない?」
フランの言っていることは至極真っ当な正論だった。返す言葉もない私達はその場で硬直してしまう。
「……ごめん、なさい」
「……こいしちゃん。君がどれだけ最低なことしてるか、分かってるの?」
「……分かってる。私はもう、フランちゃんに顔向け出来ないと思ってるよ」
「じゃあ、私に何されても文句は無いよね?」
そしてようやく、フランが動き出した。表情や瞳は変わらないまま、スタスタとゆっくりこいしに近づいていった。
今のフランは「殺気」を剥き出しにして歩いていた。こうなったフランはもう長年見ていなかったが、こうなると手がつけられなくなったのは記憶に新しかった。
「ま、待ってフラン! 私が悪いのよ……」
流石にまずいと思った私はこいしとフランの間に割って入る。
フランは一度歩を止めて、私を睨みつける。
「お姉様は黙ってて」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。レミリアちゃん」
背中側から私の右手が優しく引かれる。こいしの表情は依然と悲しそうな雰囲気を出しているが、フランの殺気に怖気付いたり、震えたりはしていなかった。
「……レミリアちゃんがいてくれるなら、私は、フランちゃんとも立ち向かうよ」
「こいし……」
こいしを頼もしいと思ったことは申し訳ないが一度も無かった。時折、さとりと似たように明晰な一言が発せられたりはするのだが、妹というのもあって、やはり姉の背中について行く癖があった。
でも、今、私とこいしは対等な立場にあって、お互いの想いが交わりあっている。そうやって見方を変えるとこいしという存在が頼もしくて仕方がない。
「……分かったわ」
私にはもう、これ以上何もできることはない。全てが終わったあと、フランに私の思いを伝えるだけだ。
「……私、今日の一件でこいしちゃんのこと見損なった」
「……」
「私とお姉様をくっつけようとしてくれたくせに、結局は自分がいい思いしたいだけなんだ?」
「……」
フランの殺気が増していく。しかしそれにも動じない。
「……黙ってれば済むと思ってる?」
「……そんなこと思ってないよ」
「じゃあ何か言ったらどうなの?」
フランは今までにないくらい強気で責めていた。それほど、今回のことが許せないのだろう。
私の身勝手な行動のせいで、こうなってしまったのだ。私が責任を負うべきなのに、こうして妹と恋人がぶつかり合ってしまうことに、私はとても惨めな気持ちになった。
私は今日告白してしまったことを少しだけ後悔した。殺意を剥き出してしまうほど私が追い詰めてしまったのだ。
「じゃあ、一言だけ言うね?」
「……」
しかし、こいしはそんな私の後悔すらも吹っ飛ばす言葉を、フランにとどめを刺すような言葉を、握りしめていた。
「レミリアちゃんは、私のものだよ」
瞬間、時が止まった。
圧倒的正義だと感じていたフランが目を見開いて硬直する。
フランは完全な被害者だと、フランも私も、そしてきっとこいしも思っていたはずだ。
今回悪いのは、私とこいしだと、百人中百人は答えるはずだ。
謝れば済む問題なのかは分からない。でも、フランは深い傷を負っている。そこに私達が弁明する余地はない。
しかし、こいしはあろうことか、フランに追撃を仕掛けた。
「……は、はは……」
乾いた笑いが、フランからこぼれる。
慌てた私はこいしの顔を見る。しかし、こいしの顔は至って真剣で、しっかりとフランに伝えようとしているようだった。
「なにそれ……? もしかして、私の事挑発してるの?」
「そんなつもりは無いよ。ただ、私が最低とか、見損なうとかの前に、そこははっきりさせておかなきゃなって」
「ふざけないでよっ!!」
ついに爆発し、激昂したフランの右手から真っ赤な火が燃え上がった。そして周りにいた鳥達は逃げるように一斉に飛び立っていった。
そしてそれはフランの持つ「レーヴァテイン」へと形作っていく。
そして、ニタリと白い歯を見せて笑った。
「お姉様、見ていてよっ! どっちがお姉様にふさわしいかをねっ!」
狂気に染まりあがった笑顔をこちらに振り撒くフラン。恋は盲目なんて言葉を聞くが、盲目どころの話じゃなくなってきていて、私はかなり焦っている。
「こ、こいしっ! 流石にまずいわよ……」
「大丈夫、レミリアちゃんは手出ししないで。これは、私とフランちゃんの問題」
「こいし……」
こいしがこう言ったのも、私であればフランを止めるくらい造作もないことだからだ。今までも似たような事例があったが全てが数分で片付けられるくらいだった。
でも、それを拒否する理由。それはこいしにとっては単純な事だった。
「恋人の肉親とは、やっぱり対立するものだからねっ!」
「そういう問題じゃないでしょぉ!?」
全く的はずれなこいしの見解についつい突っ込んでしまったが、言い終える前に、こいしは魔法陣を展開していた。
「ちょ、フランっ、こいしっ!」
私が止めようとする前に、二人は上空へ飛んでいってしまった。
「……も、もうっ!」
止めようと私も飛ぼうとするが、その瞬間にこいしと目が合う。
そして、私の目をしっかりと捉えて、微笑んでいた。
まるで、私を安心させるかのような優しい笑顔、惚れた身としてはかなり心臓に悪い。
こんな時なのに、こいしの微笑みにドキドキしてしまっている。
恋愛は惚れた方が負けなんだと、改めて実感した。
(……こいし……頼んだわよ)
私はこいしとフランの戦いを見守ることに決めた。
今まで見たことの無いくらいの激怒を見せたフランちゃん。右手にはレーヴァテインを手にしている。
「……どうしてお姉様は、こんな子を選んだのかな」
「さぁ? でも、少なくともレミリアちゃんはあなたよりも私と恋人になりたかったってことよ」
私はフランちゃんをとことん煽る。
真っ向からフランちゃんと戦えば、多分負ける。こんなにも怒ったフランちゃんを見たこともないし、我を忘れて暴走しそうな予感もするから。
「っ……許さないっ」
「いいよ、許さなくて」
瞬間、灼熱の剣が私の頬をかすめる。激痛、とまではいかなかったが、これをまともに受けたら一溜りも無さそうだ。
「怖いねぇ……」
私は一度フランちゃんから離れ、弾幕を放っていく。しかし、それは全て、フランちゃんのレーヴァテインによって霧散していく。
爆散した弾幕の爆煙で私はフランちゃんを見失ってしまった。
「あぁぁぁ!!」
「っ!」
そんな煙の中から、レーヴァテインを振りかざしたフランちゃんが私目掛けてやってくる。
慌てて結界を貼ろうとするが、それも中途半端なところでレーヴァテインの攻撃を受けてしまった。
その全てを両腕に受けてしまう。
「あうっ!」
思い切り吹っ飛んでしまう。幸い、うしろに何か障害物があった訳では無いので、追加の痛みはやってこなかった。
痛みと熱さが両腕にやってくる。私の腕は火傷を負ってしまい、変色していた。
「……う、っ……」
「ねぇこいしちゃん……私がどうして、こんなに怒ってるか、分かってる?」
その場でうずくまっていると、フランちゃんがすぐ目の前までやってきていた。
下を見ると、心配そうに私を見ているレミリアちゃんがいた。
「……分かってるよ。私がレミリアちゃんを奪ったからでしょう?」
「……」
「な、何よ」
フランちゃんはその場で黙って私を睨みつけていた。その眼光の鋭さに私は少したじろいでしまう。
「……はぁ、やっぱりお姉様を渡したくないなぁ」
フランちゃんはため息とともにもう一度レーヴァテインを出し、大きく振り上げる。
「こいしちゃん、君にレミリアお姉様は相応しくない」
私はその一言に何かが切れた音がした。
「表象「弾幕パラノイア」」
「っ!」
フランちゃんの周りに細かい弾幕が囲む。そしてそれはそのままフランちゃんに向かっていき、直撃した瞬間に爆発した。
しかし、それでも立っているフランちゃんに私は叫んだ。
「相応しいとか相応しくないとか、そんなのどうだっていい!」
「……」
「私はフランちゃんへの想いを切り捨ててレミリアちゃんと付き合ったんじゃない!」
「……意味がわからないよ」
涙が溢れてくる。
どうして私はこんなにも愚かなことをしたのだろうか。そう思ってしまう。
でも不思議と後悔はしていない。
レミリアちゃんの言葉に私はストンと落ちてしまっただけだから。
あんなにも必死に、「こいしなしでは生きられない」なんて言われてしまったら、心の軽い私には靡いてしまうものがある。
でも、私にはフランちゃんという想い人がいて、いつまでも大好きだった彼女を傷つけてまで、私は別の人と付き合って。
「……私は……フランちゃんも大好きだよ……」
「やめてよ」
冷たく言い放つフランちゃん。こればっかりは私の方がおかしいのだ。
振られてすぐに付き合ってしまうような奴の言葉なんて信用出来ないのは当たり前だ。
私の目からは大量の涙が流れてくる。こんなにも最低なことをしていると分かっていても、やっぱり自分の思う通りの結果になって欲しいと願うのだから。
私は、なんて強欲な生き物なのだろうか。
「……でも! 私は、フランちゃんがいないと生きていけないよ!」
「……じゃあ……」
「……」
フランちゃんは下を向く。表情が見えないくらい俯いているが、プルプルと震えているのを見ると、怒っているのが分かる。しかしそれは彼女から流れる一滴の涙で見方が変わった。
そして、顔を上げ、涙声で叫んだ。
「じゃあどうして、嫌っていいなんて言ったのよ!」
「っ!」
私は大きく目を見開いて驚いた。
フランちゃんが怒っていた理由はレミリアちゃんの事ではなかったのだ。
「ずっと親友だって言ってくれたのに……どうしてそんなこと言うの!?」
長年一緒にいた私とフランちゃん。お互い唯一心置き無く語り合うことの出来る血の繋がっていない友人。
時には喧嘩もして、時には笑いあって、苦楽を共にしてきたパートナーでもあったのだ。
そんな大切な相手から「嫌ってもいい」なんて言われてしまってはそれはもう裏切りと同じだ。
「……酷いよ……私達、親友じゃなかったの? ずっと一緒に遊んでくれるって思ってたのは私だけなの……?」
「フランちゃん……」
段々と語尾が弱くなっていくフランちゃん。私はいつもなら頭を撫でたり、抱きしめたりしてあげて落ち着かせてやる。でも今はそれが出来なかった。
私は、なんて最低な奴なのだろう。恋人が出来たからと言って、親友を切り捨てようと勝手に考えてしまっていたのだ。
浅はかだ。愚かだ。阿呆だ。なんて、卑しくて、最低なのだろう。
思い返せば思い返すほど、自分への被虐が思い浮かんでしまう。
とても大切な存在が恋人以外にもいたというのに私は、どうして切り捨てようしてしまったのか。
「フランっ、こいしっ」
ついにレミリアちゃんが我慢できなくなったのか、私達の元へ飛んできた。
「……会話は聞こえていたわ……」
言いにくそうに話し始める。
しかし、レミリアちゃんは確かに強い瞳を向けていた。
「私が原因だってわかってる。だから、こんなこと言う権利はないのかもしれないけど」
レミリアちゃんはそう言って涙目の私とフランちゃんを見た。
「これは、フランとこいしの問題よ。あなた達で解決しなさい。二人とも、自分の思いをきちんと相手に伝えなさい」
レミリアちゃんがそう言い放つ。それを成し遂げた人の言葉はとても説得力がある。
そう言ってレミリアちゃんは下へ降りていった。そして、私達の会話が聞こえない物陰へと姿を消していった。
レミリアちゃんが見えなくなった後、私とフランちゃんは目を合わせた。お互い、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
「……」
「……」
「あははっ」
「えへへっ」
お互いの顔のおかしさに思わず笑いが込み上げてきた。こんなにも必死に戦っていたのが馬鹿みたいに思えてきた。
「初めてだね。こんなに本気でやり合ったの」
「んねー。フランちゃんの攻撃重すぎて死にそうだった……」
「あはは……って腕っ! 早く治療しないと……」
「大丈夫大丈夫。それよりも……」
私は火傷した腕を擦りながら、フランちゃんの瞳をしっかりと見る。
「この話を終わらせよう」
「……うん」
レミリアちゃんが言っていたように、この話は私とフランちゃんだけの問題、レミリアちゃんは全く関係がないと言ったら嘘になるが、それでも私達だけで解決しなくてはいけないものだ。
すると、フランちゃんの方から口を開いた。
「私ね、お姉様と恋人にはなれないと思ったんだ」
「でも……レミリアちゃんもフランちゃんの事好きになってたって言ってたよ?」
「……そ、それは初耳だけど、それでもだよ」
その話をした瞬間、フランちゃんの耳が一気に紅潮して言った。
「私は、心のどこかで姉妹だからっていう壁が邪魔していたんだと思う。それが結局、今みたいな結果に繋がっていたのかもしれない」
「フランちゃん……」
「そう思ってた矢先にこいしちゃんに告白されて、でもそこから色々あってさ、こいしちゃんとお姉様が恋人になったじゃん?」
フランちゃんは淡々とそう話していくが、目じりに涙が溜まっているのち気づく。そして、段々と涙声になっていっていた。
「それでね……最初は意味わからなくて……それでお姉様を奪われてさ……すっごく悔しかったんだけど……ちょっと安心したんだ……」
「安心……?」
「お姉様は……ずうっとこいしちゃんの事を追いかけてた……周りが見えなくなるくらい、こいしちゃんに夢中だった。どれだけ悲しい思いをしても、こいしちゃんの事ばかり気にしてた……」
少し悔しそうにはにかむフランちゃん。涙声も落ち着き、涙も拭く。
「そんなお姉様の恋がさ……ようやく実ったんだよ……? 妹として、嬉しかったんだ」
「フランちゃん……」
「でもやっぱりさ、女の子としては、悔しくてたまらなかったよ。好きな人が別の人の彼女になったんだもん。悔しくないわけがないよね」
「……」
「でも、一番悔しかったのはその後」
そう、私達の間で一番大切なのはその後の私の言葉だった。
「嫌っててもいい……そんな言葉、聞きたくなかったよ」
「……うん」
「……どうして、そんなこと言ったの?」
フランちゃんにとって、一番知りたいのはそこだろう。私がフランちゃんに対してそう言ってしまった理由。
「私は、永遠にこいしちゃんと友達でいたかったのに、好きな人を奪っちゃったくらいで、どうしてそんなことを言うの?」
私にとって、それは「くらい」で済む問題ではなかったのだろう。それくらいあの時は気分が高揚してて、それでもってフランちゃんへの罪悪感もあったからだ。
「あの時は、フランちゃんに対して凄い失礼で最低なことをしちゃったって、フランちゃんに罪悪感があったんだ」
「……」
「それで、フランちゃんが私を嫌ってくれれば、私は楽になれると思った」
「……そっか」
私はそんな軽率な考えで、フランちゃんを傷つけてしまったのだ。今更になって、後悔している。
「でも……さ、私は……フランちゃんと離れたくないよ……ずっとずっと……親友でいたいよ……」
今度は私が涙を流す。今日だけで私は何回泣いているんだろう。
でも、私は今心からの本音を放っている。
「また、他愛もない話をして……みんなでトランプやって……あそびたいよぉ……」
涙が大粒となって流れ出す。それは、きっと後悔の涙。大親友に放ってしまったたった一言への後悔。
フランちゃんも涙をポロポロと流して、微笑む。
「……うん、私も、一緒に遊びたいよ……こいしちゃん……」
「うぅ……あぁぁぁ……」
ついに、涙のダムが決壊する。次々と溢れ出る涙を火傷した腕で拭うが、永遠に出続ける涙を止める術はなかった。しかしそんな私をフランちゃんは優しく包み込んでくれた。
「……ごめんね……こいしちゃん……ありがとう……」
「フランちゃあぁん……」
親友なんて肩書きはそんな簡単に築き上げられるものでは無い。長年一緒にいないと生まれない信頼と、一緒にいて楽しいと思える高揚感。
そうやって心置きなく関わり合える友人の事を親友と呼ぶのだろう。
ただ上辺だけの関係じゃなくて、共に苦楽を経験し、時には笑って、時には泣いて。二人で色々な事を体験する。そうやって親友は自然に生まれるのだろう。
私は、フランちゃんという親友がいてくれたことに幸運としか言い表せない。
こんなにも優しくて、信頼できる友達はきっとフランちゃんだけだ。
「……ぐずっ……」
「泣き止んだ? こいしちゃん」
「うん……ずびっ……ごめんフランちゃん。服が……」
「ん? あぁいいよ全然! 気にしないよ!」
フランちゃんの服は私の涙と鼻水でぐしょぐしょになってしまっていた。
フランちゃんはもういつもの元気なフランちゃんに戻っていた。目元は少し赤くてもそれを払拭するほどの元気がある。
「ねぇ、フランちゃん」
「んー?」
「「フラン」って呼んでいい?」
呼び方ひとつで何かが変わるわけではないと思う。しかし、私の中ではこうやってひとつの大きな経験をした親友同士で何か思い出を残しておきたい。
「……いいよ。こいし」
「……」
「……」
「「あっはははっ!」 」
お互い、同時に大声で笑い出す。
「今更になって呼び捨てなんて、遅い気がするよねー」
「それは思うけど、まぁ、形だけでもさ」
「そうだね……」
もう私たちの間に溝は存在しない。いや溝が出来てもそれを修復し得るだけの力が「親友」には存在するのだと思う。
より強固な絆、なんて言い方は少しくさいかもしれないけど、私はフランちゃんとは確かに繋がっている。
たとえ恋人とはかけ離れた存在であっても、私の大好きなレミリアちゃんとは違う存在でも、私はフランちゃんも大切にしていきたい。
「……さ、行こっか、お姉様の所に」
「……うんっ」
そうして、私達は一緒に私の大好きな恋人、レミリアちゃんの所へと向かった。
新しく書いて欲しいエンドはありますか?※一話完結
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3人とも報われないバッドエンド
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3人とも平和的なハッピーエンド
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3人に恋愛感情がないほのぼのエンド