紅魔館に帰宅した後、私は咲夜にこっぴどく怒られた。お嬢さまが嫌がっているのに無理やりしてはいけない。白昼堂々とキスなんかしてはいけないと。
「ぶぅ……どーして咲夜も分かってくれないのかなぁ?」
どうして私の気持ちを受け入れてくれないのか、どうしてお姉さまは姉妹同士の恋を拒絶するのか。
「…………あっ」
私の中に一つの考察が浮かんだ。それは、お姉さまには他に好きな人がいるということ。
「…………ずるいな……」
お姉さまに好かれるなんて、なんて幸せ者なのだろうか。私はまだ決定打にもならない予想だけでお姉さまの好きな人に嫉妬する。
「応援は……しないといけない……のかな……」
正直、そのお姉さまが好いている人を壊したい気持ちだってある。でも、お姉さまがそれじゃあ悲しむし、お姉さまが好きになるってことはいい人なんだ。私が邪魔しちゃいけない。
「…………」
そんなの、絶対嫌だ。お姉様が誰かに取られるくらいなら、お姉様が私だけを必要とさえしてくれればいいんだ。
かといって、私はお姉様を束縛したいわけじゃない。ただ純粋に、お姉様が私を好きになってくれればいいのだ。
「……お姉様……」
お姉様の顔を浮かべるだけで顔が熱くなるのが分かる。姉妹同士の恋なんか、世間一般で考えたら、本当に頭がおかしいのかもしれない。でも、世間一般だから、普通は恋しないから。そんな理由で私の恋路を邪魔されたくない。
私は私のままに生きる。あの日にそう決めたから。
「あ、フラン……」
「あっ」
紅魔館の廊下でお姉様と出会う。少し、お姉様の顔がやつれている気がした。私はそんなお姉様に心配そうな顔で見つめる。
「お姉様? 顔色が良くないけど…………体調悪いの? もしかして私のせい?」
「いえ、違うわよ。少し寝不足なだけ……」
「……もう早く寝なよ…………後は私と咲夜で後のことはしておくから」
私も少し度が過ぎたのかもしれない。あんなに無理やりキスして、挙句の果てに舌まで入れるんだから。
「ごめんね……私のせい…………だよね」
「そんなことないわ。別にフランは悪くないわよ」
絶対嘘だ。お姉様は優しいからほんとのことを言わないだけ。私を傷つけたくないんだ……。
「まぁ、それでも、今日は早く寝てよ。明日からまた私と遊んでもらうんだからっ」
「…………まぁ、程々にね……」
お姉様がそう言って微笑む。その顔は昔の私たちを彷彿とさせるような優しくて悲しい笑顔だった。
数百年前。私達スカーレット姉妹は「吸血鬼ハンター」によって両親を殺され、二人は何とか生き残ることが出来たのだが、飢餓状態が進み、瀕死の状態が続いていた。
「ひっぐ……お姉ちゃん……こわいよぉ……」
「大丈夫、大丈夫よフラン……私達は絶対に助かる」
お姉様に抱きつきながらべそをかく私。それを必死に宥めようとするお姉様の足や頬、腕からは大量の鮮血が流れ出ていた。それでも、私のためにそれをも気にさせないように頭を撫でてくれていた。
「……ねぇ、フラン」
「ん? どうしたのお姉ちゃん?」
「私達はどうしてこんなにひどい目に会うのでしょうね?」
「…………私たちがバケモノだから?」
「…………それは人間のものさしで決めたものよねぇ……」
ため息をつくように、呑気にそう放った。言われてみればそうだ。私たちから見れば、私たちはバケモノじゃない。人間が勝手に決めたものだ。
「それなら、私達はそんな人間のものさしに合わせる必要は無いわよね?」
「……うん」
「人間を殺しても、私達は別に罰せられないのよね?」
「うん」
お姉様の話を聞いているだけで気分が高揚している気がした。そうだ、私達はバケモノじゃない、それは人間から見た私たちの「印象」。でも、そんなのは関係ない。
「なら、私達二人で人間を殺さない?」
「うんっ!」
今考えたら、極悪非道なことをしているんだなと思うが、以前の私はこの事が一番大切だと思い込んでいた。
「なら、行くわよっ!」
元気よく号令をしたお姉様のあとを私はつけて行った。
その時からかな? 私は自然とお姉様の背中を見て、憧れるようになった。
私もこんな人になりたい。かっこよくて可愛くなりたいと。姉としてではなく、一人の吸血鬼として恋をしていたのかもしれない。
「あぅっ!」
「フランっ!」
人間に襲撃をすると必ず私は矢や剣に刺される。時には大怪我をすることもあり、その度に近くの洞窟に逃げていたことを覚えている。
「ごめんなさい……お姉ちゃん……私が足を引っ張っちゃって……」
「いいのよ全然。妹だもの、足手まといになんてなってないわよ」
私は包帯を巻かれた胸部から左肩にかけてを摩る。少し血が滲んだそれは、私が人間に攻撃されたことを物語っている。
「でもこれじゃ…………いつまで経ってもお姉ちゃんは人間に復讐なんか……」
そこまで言おうとするとお姉様の人差し指が私の唇に触れた。それ以上言ってはいけない。という合図なのだろう。するとお姉様は微笑み、こう言った。
「いいの、復讐が出来ても、何も得られないもの。これはただの自己満足。フランが遅れそうになったら、私はいつまでも待つわよ。吸血鬼だとしても、そもそもとして私はあなたの姉だもの、甘えたい時は甘えていいのよ?」
涙が溢れた。こんなに優しい言葉をかけてくれたのは初めてかもしれない。
「う、うぁぁ……」
声を上げて泣いてしまった。お姉様は私が泣き止むまでずっと私を抱きしめて、頭を撫でてくれていた。ここから、私は自分の気持ちにようやく気づいた気がした。
私はレミリアお姉様に恋しているんだと、この人が好きなんだってことを自覚するようになった。
私のスキンシップはお姉様と初めて一緒に寝る時から過度になっていった。無理やりキスをしたり、抱きついたりベッドに潜り込んだり。
迷惑だって分かっていてもお姉様を好きな気持ちには変えられなかった。
「んっ…………ちゅぅ……ふぅ……」
「あっ……フラ…………ちゅ………………」
今日もお姉様にキスをしていた。今日はベッドに押し倒して、私は覆いかぶさるようにキスをしていた。
「お姉様ぁ…………」
「だめよ…………ふらぁ……ん…………」
お姉様の貧相な胸を触る。その度に体が跳ねてとても可愛かった。愛くるしくなった私はもう一度キスをした。
こんな感じのが週に二回ほど続いた。以前にお姉様から一緒に寝てくれる。と言ってくれた日からそれヒートアップしていた。しかし、その度に私は咲夜につまみ出されては叱られていた。
しかし、本当にお姉様は私のキスが嫌いなのだろうか? お姉様なら、私なんてすぐに吹っ飛ばせるのに…………と何回も疑問に思ったのだが、その答えが出ることは無かった。
でも、こんな妹にも優しくしてくれるお姉様の事がどうしても諦めきれなかった。