レミたんもフランもこいしもさとりも。
みんな可愛い。
それより、もうすぐ例大祭ですね。私はとても楽しみです。
カラン、カラン。
下駄の音が私のちょうど足元から聞こえる。温泉上がりに私はフランと共に夜の温泉街を出歩いているところだった。
「少し……肌寒いね」
今の季節はまだ残暑厳しい時期であるが、風呂上がりでそのうえこんな山の上の方に行くとなれば相応の肌寒さだと言えるだろう。
「そうねぇ……へっくしっ」
「お姉様、寒い?」
「ええ、少し……」
「フランがあっためてあげようか?」
「却下」
「ひどいっ」
ついさっきに「あんなこと」をされて、それでもなお、フランは私に触れようとする。流石にもう無理だ。気持ち悪いとかそういう訳ではなく、何だかダメだと本能が語っている気がしたから。
「あ、お姉様、あそこのお団子欲しい!」
「今から晩御飯なのよ?」
「ええ〜、一本だけっ」
両手を合わせて私に頼み込む。私は「はぁ……」とため息をついてお金をフランに差し出してしまった。いくらセクハラをするとはいえ、やはり妹なので甘くなってしまう。
「やったぁ! お姉様大好き!」
「……」
こいしたちは今なにをしているのだろうか。私は静かになった温泉街を橋の上から見上げ、紅さなど微塵も感じない黄金色の満月を見つめた。
鳳凰山は幻想郷のほぼ最果ての地。その果てを超えたら一体何が待っているのかは私たちには分からない。
「お腹……空いた……」
その空間の中で腹の音が聞こえた私は赤面してお腹を抑える。お昼もあまり食べていないせいだろうか。
それにしても、ここの風景は幻想郷のありとあらゆる所と比べても段違いだ。
景色は普通、見下ろすものなのだが、鳳凰山のこの街の淡い灯りと山々は西洋生まれの私でさえも吸い込まれる。
「お姉様、お待たせっ」
「…………」
「お姉様?」
ここの景色を集中して見ていたせいか、フランが帰ってきたことに気づかない私、そのまま無視して上を見上げたまま。
「おーねーえーさーまー?」
「…………」
「………………っ!」
「んっ!?」
フランは未だ景色に集中しすぎて自分を無視する私に頬をふくらませた。
するとフランは両手を伸ばし、私の頬を挟んだ。
そして、顔を景色からフランに移すとフランは唇を強く私の唇に重ねた。
「ん、ちゅぅぅぅ……」
「ぷはぁっ!」
「はぁ…………はぁ……ちょっ、何すんのよ!」
「お姉様こそ! どーして無視するの?!」
「ぶぅぅ」と言って可愛らしく頬を膨らませる。フランが手元にあるお団子を持っているのを確認した。
「あ〜、ごめんなさいね、景色に見蕩れてたわ」
「もうっ」
「でも、…………キス以外にでもあるでしょう?」
「だって、お姉様の唇が綺麗だったんだもん」
「関係ないわよ……」
私はフランに背を向けて数歩歩く。そして、踵を返してフランの方へもう一度振り向いた。
「さ、帰るわよフラン」
「はーい!」
月が見下ろす静かなこの街を私とフランはゆっくりと歩いて帰った。
「ただいまー」
「遅いよ、フランちゃん、レミリアちゃん!」
両手を腰に当ててさっきのフラン同様頬をふくらませて玄関前に立っていたのはこいしだった。その可愛さに私は顔を背けてしまう。頬が緩んでしまっているからである。
「あ〜、ごめんなさいね。ご飯は食べたの?」
「いえ、レミリアさん達が帰ってきてから食べようとこいしが……」
「だって、お姉ちゃんと二人で食べるのは、いつもと変わらないもん!」
奥の机の前に座っているさとりとこいしが似たような笑顔を見せた。さすが古明地姉妹、笑った顔もそっくりだった。
「じゃ、食べに行こっ」
「おー!」
こいしとフランは元気よく玄関を飛び出して、小走りで食事処へと向かっていった。私もその後を付いていこうとしたら、さとりが隣で呟いた。
「姉妹の時間も結構ですが、限度を考えてくださいね。旅行先の温泉であのような事をされて、途中からお風呂に入りに来た他のお客さん達に見られたらどうするつもりだったんですか?」
「えっ!? ちょっ、どうしてさとりが知ってるのよっ!?」
私はさとりから距離を置いて少し警戒をする。するとさとりはため息を大きくついて呆れた顔で言った。
「脱衣所に忘れ物を取りに行ったら、温泉の扉の方からレミリアさんの艶やかな声が漏れてましたので。まったく、聞いてるこっちも恥ずかしかったですよ……まぁ、すぐ退散しましたが」
顔を少し赤らめて頬を指で掻くさとり。私はその場で硬直してしまった。確かに、あの時ばかりは他のことを気にする余裕など皆無だった。
(あの時にほかの人が来ていたらどうなっていたのかしら…………)
そう思うと寒気が止まらない。幻想郷じゃ知らない者はいないほどの有名な紅魔館の当主がその妹と濃厚なキスをしていたのだ。
顔に泥を塗るどころか、紅魔館自体が変態の集まりに見えてしまうのは洒落にならない。
「さ、さとり…………このことはこいしには……」
「分かっています。こいしはフランさんの事が好きですしね。もしこの事がバレたら、レミリアさんを殺しかねませんよ?」
「怖いこと言わないでちょうだい……」
私が肩を落としながらそう言うとさとりはクスクスと笑いながら「冗談です」と誤魔化した。さとりはそう言っているが、本当にそういうこともあり得る。迂闊に変な場所でキスしないようにしないと……。
「まぁ、このことは置いといて、早く食べに行きましょう」
「ええ」
こいし達はもう食事処に着いただろう。少し歩くスピードを早めていたところ、私はふと、自分の思ったことを考え直す。
(そもそも、変な場所でも普通の場所でも、キスはいけないでしょう……)
そう思い返した。この後の就寝もきっとフランは寝かせてくれないのだろう。と、落胆と歓喜が混じった複雑な感情が私の中を行き来していた。
案の定だった。
「お姉様! 同じ布団で寝よっ?」
「はぁ? 4人分あるんだから1人で寝なさいよ!」
「じゃあフランちゃん、私と寝よーよー!」
こいしのその発言に私は割り込むようにこいしに促した。
「あ…………じゃあ……こいし……わ、私と……」
「もう、みんなで寝よう!」
フランの予想外の名案に私とこいしは大きく縦に首を振った。さとりはその光景を微笑ましく見ていた。
「じゃあ電気消すよー」
「お姉様、キスキス!」
「嫌」
「うーっ」
私は体を反対側に向ける。さとり、こいし、フラン、私の順番で川の字で寝ている。何だかお泊まり会をしているみたいで少し気分は高揚した。
しかし、今日ははしゃぎすぎたせいか、私以外の全員はすぐに熟睡モードへと入っていった。
「スゥー…………おねぇさまぁ! …………すきぃ……」
「ちょ、フラン……」
フランの寝言と寝相の悪さは承知していたが、まさか私の上に乗ってくるとは思わなかった。なので私は自分が横にずれて、フランを落とした。
私が転がったことによって私とフランの位置が交代された。そのため、私の目の前には小さく寝息を立てるこいしの姿があった。
「っ!」
こいしの顔が眼前にあり、私は顔を赤くしてしまった。
相手は寝ているのに勝手にテンパっちゃって馬鹿みたい……
しかし、私の動揺は収まらなかった。
「綺麗な顔ね……」
左手を伸ばして、こいしの頬に触れる。もちもちの肌、羨ましいくらいの肌の白さがまた私を駆り立てる。
(今日だけじゃなくて、こいしはずっといい子よね……フランが好きでも、私にも気にかけてくれる。恋情も友情も大切にするこの子は……本当にいい子だし……私はこいしが大好きよ……)
これは紛れもない本心だった。フランだけ見ているのではなく、みんなを楽しませようとするこの子の気遣い、優しさ。私はその全ての虜になったのかもしれない。それほど彼女が好きだ。
「好きよ……こいし……」
口は流石に恥ずかしかったので、左手でこいしの前髪をあげて、額に唇をチュッと軽く付けた。
唇を離した後、私はリンゴのように真っ赤に顔を染めてしまった。
(わ、わわわわわわ私何してるのよっ!?)
初めてこいしに触れたことにより、私の理性が気が気では無かった。顔を覆い、パタパタと足を動かす。
少し落ち着いた頃、暑くなった体を冷やすために私は立ち上がった。
「水でも飲みましょうか……」
財布だけ持ち、私は玄関を開けて自販機へと向かった。
レミリアが抜けたこの部屋は3人が熟睡していた。
しかし、その中でも古明地こいしだけは自分の額に触れて顔を真っ赤に染めていた。