ソードアート・オンライン 刹那 in キリト   作:ぐぎゅる2

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文才全く無いので、あ、無理。と思ったら引き返してください。

まあ、下手くそでもいいよと言ってくれる聖人君子はお進みください。


剣の世界〜終わりと始まり〜

 MMORPG。

 

 正式名称は、massively mulchplayer online roll playing game——マッシブリーマルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲームと呼ばれる、数千人規模からなるプレイヤーがオンライン上の専用サーバーに構築された一つの世界観を共有しながらプレイするゲームの総称である。

 多くのタイトルが発表され現在までに数千数万、それ以上が始まりと終わりを迎えている。

 多くはPC——パソコンで遊べ、タブレットやスマートフォンでもプレイ出来るタイトルも少なくない。

 近年では、ヘッドギア型VRゲーム機「ナーヴギア」の登場により仮想世界大規模オンラインRPG——VRMMORPGの登場が待たれている。

 

  ◇

 

 桐ヶ谷和人。年齢は14歳。趣味はネットゲーム、現在は専らスマートフォンのアプリゲームをしている。そんな和人だが、厳密に言えば桐ヶ谷和人では無い。

 

 刹那・F・セイエイ。

 

 ソレスタルビーイングのガンダムマイスターにして純粋種のイノベイター。ELSとの戦いの後にELSの母星へと旅立った男。

 ELSとの対話を成し遂げた刹那は地球へと帰還する——その途中から意識がブラックアウトした。そして、次に目を覚ました時には桐ヶ谷和人になっていた。

 身体自体は刹那の物では無かった。だが、意識は刹那そのもの。そして何故かイノベイターとしての能力を持っていた。

 イノベイターは超兵やイノベイドを遥かに凌駕する脳量子波や驚異的な空間認識能力、人を遥かに凌ぐ肉体能力、人の倍近い寿命を持つ——まさに進化した存在だ。

 桐ヶ谷和人となった刹那は脳量子波や空間認識能力を引き継いでいるが、流石に肉体能力や寿命までは引き継いでいなかった。

 刹那・F・セイエイとして戻る手段が無い状況で刹那が取った選択は、桐ヶ谷和人として生きる事だった。

 

  ◇

 

 刹那が桐ヶ谷和人として生活をスタートさせたのは4歳の頃だ。

 和人の両親は車による事故により既に他界している。名前は父親が鳴坂行人、母親が鳴坂葵。この事は10歳になった時に和人が自ら調べて知った事である。

 現在の両親は和人の両親の妹夫婦に当たる峰嵩と翠で、和人の妹に直葉がいる。翠はパソコン情報誌の編集者で、本人曰く「小さい頃からネットゲームをしている"ゲームオタク"」らしい。

 そんな翠の影響もあってか、和人もネットゲームにのめり込むようになる。6歳の頃には自らパソコンを組み立てた。勿論、中身は刹那なのでパソコンを組み立てるなど造作も無い事だったのだが。

 とはいえ、ネットゲームだけに時間を割いている訳では無い。ちゃんと学校にも行くし、自宅では8歳から剣道を直葉と共に祖父から学んでいて、素質があると直葉共々祖父に目を付けられている。

 最初の試合で脳量子波を使い相手——格上の有段者——に圧勝したのが、不味かった。それ以来、毎日祖父の稽古を朝と夕方に受けている。因みに、直葉は週4だ。

 

 これ以降、試合では脳量子波は使用していない。それでも、少し格上程度なら和人は負ける事は無いのだが。

 

 そんな日常生活を送り、和人が14歳になった年にゲーム業界を揺るがすタイトルが発表された。

 

 ——ソードアート・オンライン。

 

 

 ヘッドギア型VRゲーム機「ナーヴギア」世界初のVRMMORPGの触れ込みは世界中を歓喜に湧き立たせることとなった。

 かく言う翠もパソコン編集者としてだけでなく、一介のネトゲプレイヤーとして興奮し、直葉や祖父はそれを不思議そうに、かたや冷ややかに眺めていた。

 これまでVRゲームは教育用やパズルゲーム、1人用のゲームにしか対応しておらずMMORPGをやり込んできたゲーマーからは物足りなさや不満が溢れ、VRMMORPGの登場が強く期待されていたのだ。

 そして満を持して発表されたソードアート・オンライン——略称はSAO——への期待値は更に膨れ上がった。

 

 2022年7月。遂にSAOのベータテストが開始された。このベータテストプレイヤーの応募に際して恐ろしい数の応募があり、ナーヴギアからの応募なので1人で複数の応募は極めて少なかったが、それでも応募総数は全世界で数億は降らなかったらしい。たが、和人はそのベータテスターの応募に見事に当選したのだ。

 

 この結果に、翠は喜び、羨ましがり、悔しがりながら涙した。

 SAO——ソードアート・オンラインは全100層からなる鉄の城"アインクラッド"を舞台とし、最終目標はアインクラッドを踏破する事である。

 各層には迷宮区と呼ばれるダンジョンが存在し、未到達の上層へ向かうには迷宮区にある上下のフロアを繋ぐ階段を登るのみであり、その階段は一つしか存在しない。

 おまけにその階段を登るには迷宮区のフロアボスと呼ばれる強大なモンスターを倒さないとならない。

 

 最終目標は第100層の攻略ではあるが、楽しむ要素はそれだけでは無い。釣りや料理などの様々なレクリエーションがSAOには存在する。

 とは言え、ベータテスターの主な目的はやはりVRMMOでの戦闘システムの体験だ。

 かく言う和人もSAOでの戦闘に多いに興味を唆られていた。そんな和人が始めてSAOをプレイした感想が、

 

「ゲームとは思えないリアルさがある」

 

 だった。事実、対峙するモンスターや隣を歩くプレイヤーやNPCを見てもまさにファンタジー世界に迷い込んだと言っても過言では無いくらいにリアルだった。

 主目的であるアインクラッド攻略はVRMMOという新しいゲームスタイル故か、攻略に多大な時間を要した。

 第1層の迷宮区を踏破したプレイヤーがフロアボスのいる部屋の扉を発見してからフロアボスを撃破するまでに1週間掛かっている。

 第1層のフロアボスは「イルファング・ザ・コボルトロード」。右手に斧を左手にバックラーを装備している。HPバーは4本あり、最後の1本が危険域に入ると武器を湾刀に持ち替える。

 この情報はトッププレイヤーの度重なる偵察により齎され、後の第1層攻略に大きく貢献する事となる。

 因みに、この情報を手に入れたのは何を隠そう和人——SAOでアバターネームはキリトである——を中心としたトッププレイヤー達であった。

 

 そして、2ヶ月後——SAOのベータテストは終わりを迎えた。

 アインクラッドの攻略は2ヶ月で僅か8層。第9層攻略途中でベータテストは終わったのだ。やはり、従来のMMOとは違う戦闘システムに多くのプレイヤーが慣れなかった。

 だが、慣れなかったが故に慣れた時に感じる面白さ・楽しさに対する期待値はさらに高まっていった。

 

  ◇

 

 2022年11月6日。ソードアート・オンラインの正式サービスが開始された。ソフトの販売は10月31日に行われ、1ヶ月無料券付きとはいえ高額である3万9800円のソフトが瞬時に完売した。

 因みに、SAO同梱版のナーヴギアは12万8000円で販売され、此方も瞬時に完売している。

 ベータテスターである和人は優先購入権があったので苦も無くSAOを購入出来た。学校から帰宅した和人が早速SAOを始めようとパッケージに手を掛けたところで部屋の扉がノックされた。

 

「お兄ちゃん、ちょっといいー?」

「ああ、開いてるよ」

 

 声の主は妹——と言っても義妹であるが——の直葉であった。

 直葉に短く言葉を返すと扉が開かれ直葉が部屋に入ってくる。日頃から剣道を嗜み鍛えてはいるが生来の中性的な顔立ちに細身の体つきでナヨっとした印象の和人に対し、小柄ではあるが程よく引き締まったスタイルを持つ直葉は和人の自慢の妹だ。

 因みに剣道を勧めた祖父は既に他界しているが、和人も直葉もそれ以来剣道を続けている。特に直葉は週4だった稽古を毎日に変更し中学でも剣道部に入るぐらいに剣道にハマっている。

 

「明日、朝稽古の時に試合形式で稽古いいかな?」

 

 普段、家の道場では基本の動作や素振りなどの稽古しかしないが、偶に試合形式の稽古も行う。それは、直葉がどれだけ和人に実力的に迫ったかを測る意味合いが大きい。これまで数度試合をしているが全て和人の圧勝である。

 

 それ故に直葉の目標はずっと和人なのだ。

 

「ああ、大丈夫だ。だが、明日は学校だろう? 朝練は大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。いつもの朝稽古の延長って考えてるから」

「…まぁ、あまり無理はするなよ」

 

 そう言って優しく頭を撫でると照れくさげに俯く直葉。それを見て和人は優しく笑みを浮かべていた。午後から部活がある直葉は昼食を作ってある旨を和人に伝え自室に戻る。和人が下に降りリビングで昼食を食べ始める頃にバタバタと玄関から出て行く直葉。

 

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

 

 玄関を出る際言ったのだろう直葉の言葉に言葉を返し、用意された昼食——この日はオムライスだった——を平らげ、食器を洗い片付けてから和人は自室に戻った。

 自室に戻ると時計の針は昼の1時になる5分前を指していた。和人はSAOのパッケージを開けROMカードをナーヴギアのスロットに差し込む。電源を入れ主インジケータが点滅から点灯に変わったところでベッドに腰掛けナーヴギアを頭に装着する。ハーネスをロックしベッドに横たわる。

 ベータテストの頃より改良をなされたSAOに期待を募らせながら、ナーヴギアの顔半分を覆う半透明のシールドに表示される時計に視線を向ける。時刻は1時を表示していた。SAOのサービスが開始され、後は魔法の言葉を紡げば和人はSAOの世界へと旅立つのだ。

 和人は深く深呼吸し、その魔法の言葉を発した。

 

「リンク・スタート!」

 

  ◇

 

 第1層・はじまりの街

 

 SAOのサービスが開始され、第1層のはじまりの街はSAOのサービス開始を待ち侘びていたプレイヤーでごった返していた。

 空にはSAOのサービス開始を祝う花火が打ち上げられ、多くのプレイヤーが歓喜に沸いている。そんな雑多な中に和人——アバターネーム・キリト——が降り立った。

 因みに、キリトのアバターはベータテスト時に使用していたものだ。

 打ち上がる花火を少し眺めてから、キリトははじまりの街を歩く。向かう先は武器屋だ。武器屋と言っても様々ある。質の良くない武器を高値で売るところがあれば、良質な武器を割安な値段で売る優良店もある。

 ベータテスト時に見つけたその優良店に歩を向け歩いていると、

 

「おーい、そこの兄ちゃん!」

 

 唐突に横から声を掛けられた。辺りを見渡すと、此方に掛けてくる姿が一つ。赤い髪に少し悪趣味なバンダナを巻いた、端正な顔立ちのプレイヤー。いつか見た戦国時代をモチーフにしたゲームに出てきそうなイケメンっぷりである。

 そうはいっても、アバター作成時に余程でない限りはイケメンに仕上がる。キリトも出来るだけ和人の顔立ちにしたかったのたが、諦めて限りなく普通のイケメンにした。

 

 話を聞けば、キリトの迷いの無い動きでキリトをベータテスターと見抜き、不慣れなSAOでの序盤の動き方のコツを教えて欲しい、という事だった。

 クラインと名乗るプレイヤーは、ネットゲーム、とりわけMMORPGをやり込んでいるらしく、SAOのベータテスターは逃したもののSAO以前から付き合いのある仲間と共に正式版のSAOを手に入れ今日、一緒にプレイする予定だと言う。

 その際、仲間達にある程度教えられるように早めにログインし元ベータテスターに教えを請う腹積もりだったのだ。

 

「そういうことなら、喜んで指南しようか」

「おお、サンキュー! えーっと……」

「キリトだ」

「サンキューな、キリト」

 

 感謝の言葉もそこそこに、クラインと目的の武器屋で買い物を済ませ戦闘の基礎を教える為にキリトはクラインと共にフィールドへと向かった。

 

  ◇

 

「ぬおあぁぁぁっ!?」

 

 はじまりの街のすぐ近くにある西フィールドに、男の叫びがこだまする。叫び声の主は少し前にキリトが知り合ったクラインである。

 クラインが叫ぶ原因となったのは、目の前で草を毟り食べるフィールドモンスター「フレンジー・ボア」。猪タイプあるこのモンスターにクラインが体当たりを喰らったためだ。

 股座に体当たりを喰らったとはいえ、あまりにも大袈裟に痛がるクラインにキリトは無感情に声を掛ける。

 

「痛みは感じない筈だが」

「……あ、そっか」

 

 今までの悶絶が嘘の様にすっくと立ち上がるクライン。

 改めて手に持つ曲刀を構えフレンジー・ボアにその切っ先を向ける。そんなクラインにキリトは1つアドバイスを施す。

 

「ソードスキルで重要なのは初動のモーションだ」

「モーション……」

「モーションを立ち上げ、ソードスキルを発動させれば——」

 

 説明しながら、キリトが足元の小石を拾い構える。小石を持つ右手が赤い光のエフェクトを放ちフレンジー・ボアに小石を投げる。ただ投げるだけよりも遥かに威力のありそうな音を立て、赤いエフェクトを纏った小石が勢いよくフレンジー・ボアの尻に当たる。

 

 投剣スキルの基本技、シングルシュートが発動したのだ。

 小石故にダメージはあまり与えられないが、投剣を使えばそれなりにダメージを与えられる。今回はクラインに実演して見せる為に披露したのだ。

 

「後はシステムが技を命中させてくれる」

「ふむ、モーション……モーション……」

「少し溜めを入れて、スキルが立ち上がるのを感じたら技を敵に打ち込むんだ」

 

 この説明で解るか? と不安げなキリトだったが、ふと理解したクラインが腰を少し落とし右肩に曲刀を担ぐ様に構える。すると、曲刀に白みがかったエフェクトが放たれる。

 それを確認したキリトはフレンジー・ボアに近付き尻を蹴り飛ばす。後ろから近付いて蹴り飛ばしたので丁度正面にいたクラインに勢いよく駆け出して行く。

 

「だりゃあぁぁぁっ!」

 

 クラインの間合いに入ったところでソードスキルが発動。クラインが振りかぶった曲刀がフレンジー・ボアの首元を斬りつける。その一撃で見事にHPを削り切り、フレンジー・ボアがポリゴン片となって消滅した。

 表示される加算経験値、加算コルなどを見たクラインが先程とは違う叫び声を上げた。

 

「うっしゃあぁぁぁぁっ!」

「おめでとう」

 

 歓喜の叫び声を上げるクラインに祝いの言葉を投げかけ、右手でハイタッチ。しかし、キリトはクラインにある事実を伝えなければならなかった。

 

「……しかし、このフレンジー・ボアは他のゲームだとスライム程度なんだがな」

「ええっ、マジかよ!? 俺ぁてっきり中ボスくらいかと……」

 

 そう、SAOのフレンジー・ボアは某超有名RPGだとスライム程度のモンスターなのだ。驚きを隠せないクラインの視線の先ではクラインが必死に倒したフレンジー・ボアが数体ポップしていた。

 

「まぁ、慣れるまでは精進だな」

 

 その後はクラインがモンスターとのバトルに慣れるまでキリトが付き合い、フレンジー・ボアを撃破しまくった。

 

  ◇

 

「何度見ても信じらんねーよなぁ。ここがゲームの中だなんてよお……作った奴は天才だ」

「そうだな」

「マジ、この時代に生まれて良かったぁ」

 

 大袈裟過ぎるだろ、とキリトは苦笑いしながら夕焼けの空をクラインと眺めていた。

 結局、フレンジー・ボアを狩りまくり、途中クラインともフレンド登録し、気が付けば日は沈みかけの夕方になっていた。とはいえ、キリトは夕食までは時間はある。先程キリトが確認した時刻は午後5時15分だ。1度落ちるには良い時刻だ。

 

「さて、まだ狩りを続けるか?」

「ったりめえよ! って言いてえところだけど、腹減っちまった……1度落ちるわ」

「SAOの食事は空腹感を紛らわせるだけだからな」

「5時半にアツアツのピザを予約済みよ!」

「準備万端だな」

「おうよ! ま、飯食ったらまたログインするけどよ。あ、んでよ……そんときにさ別のゲームで知り合った奴らと落ち合うんだが、良かったらそいつらともフレンド登録してやってくんねえかな……?」

 

 クラインはこの短い付き合いで例えるなら、兄貴肌な男だとキリトは思う。今回はこちらが面倒を見ているが、おそらく現実世界なら確実にこちらが面倒を見られる立場な筈だ。

 そんなクラインの知り合いとフレンドになるのはゲーマーとしても1人の人としてもメリットは大きい。キリトはそう考えた。

 ただ、この思考中キリトが黙っていたため、クラインは少しの勘違いをしてしまった。

 

「ああ、別に無理にとは言わねえよ。その内紹介する機会もあるだろうしな」

「あ、ああ……そうだな」

 

 そんなクラインの勘違いにキリトはただ頷くだけだった。否定する事も出来たが、特にパーティを組んだりギルドに入るつもりは無くソロでやっていくつもりだった。

 勿論、クラインがそれ目的で言ってきた訳では無い事は理解している。だが、全く考えてない訳では無いだろう。レクチャーぐらいは頼み込んでくる可能性はあるのだ。

 取り敢えず基本はクラインに教えた。もし解らない事があれば連絡してくるだろうし、その時にレクチャーやフレンド登録すればいい、キリトはそう判断した。

 

 クラインの夕飯であるピザの予約時間が迫っていたので、2人は別れる事にした。感謝の言葉を述べるクラインに、困った事があれば連絡する様言い含め、最後に堅い握手を交わした。

 やはり、いいヤツだ。キリトは薄い笑みを浮かべながら後ろでメニュー画面を開くクラインを一瞥する。

 因みに、メニュー画面を開くには右手の人差し指と中指を立て、真下に振り下ろす。これにより鈴を鳴らしたような効果音と共にメニュー画面が開かれるのだ。

 キリトも1度ログアウトしようとメニュー画面を開こうとした時だった。

 

「……あれ、ログアウトボタンが無えよ」

 

 そんなクラインの言葉と共にこちらに視線が向けられる。

 何でも知ってる訳じゃないんだが。そう思いながらもキリトもメニュー画面を開いた。ログアウトボタンはメニュー画面のメインメニューの1番下にある——筈だった。

 

「……無い、な」

「だろ?」

「……今日は正式サービス初日だからな」

「あー、こんなバグもあるか」

 

 今頃運営は半泣きだろうな。そんなクラインの言葉にキリトは無言で時刻表示を指差し、それを見たクラインが悲痛な叫びを上げた。

 時刻は午後5時25分。5分でこのバグが直ればいいが、大抵こういうのは直ぐに直らないのがネットゲームに付き纏うあるあるだ。

 因みに、クラインが注文していたのは照りマヨピザとジンジャーエールだった。

 直ぐにGMコール——正式にはゲームマスターコール——をしたクラインだったが、反応は無し。

 しかも、ナーヴギアを使用するゲーム全てがメニューからログアウトをしなければ自発的にログアウト出来ない。クラインも頭では理解はしているだろうが、それでも他に方法が無いかと模索する。飛び跳ねながらログアウト、脱出、などワードを紡ぐが反応は無い。

 

「無理だ。マニュアルにも緊急切断の方法は載っていなかった」

「おいおい嘘だろ? あ、なら頭からナーヴギアをひっぺがして——」

「それこそ無理だ」

 

 自分の頭からありもしないナーヴギアを取ろうとするクラインにキリトが断言した。

 

 ナーヴギアは五感全てを仮想世界に飛び込ませる。その為ゲームでの動きが現実世界の肉体に反映されない様に、脳から発信される電気信号を途中で回収し遮断しているのだ。

 因みに、一定以上の痛覚もペインアブソーバ機能により遮断される。

 キリトの淡々とした説明に、クラインが顔を青褪めさせる。それもその筈、キリトとは暗に自分達プレイヤーがこの剣の世界であるSAOに閉じ込められたと言っていたからだ。

 

「つまり、ログアウトするにはバグが直るのを待つしかねえってことか……」

「後は強制的に頭からナーヴギアを外すか……だが、クラインは1人暮らしか?」

「あ、ああ。キリトは?」

「母さんと妹がいる。夕飯になったら起こしに来ると——」

 

 その時、クラインが詰め寄り両肩を掴んできた。咄嗟の事で反応が遅れて回避出来なかったが、何やら真剣な様子にキリトは訝しげにクラインを見る。

 ナーヴギアを外してもらったら助けを呼んで欲しい、とキリトは予想したのだがクラインはキリトの予想の遥か斜め上をいく言葉を発していた。

 

「……妹さん、幾つ?」

「……はぁ?」

 

 ログアウトが出来なくなったこの状況で、自分の妹に興味を持てるクラインにキリトは感心した。勿論、呆れ混じりだが。

 直葉は剣道をやっているので運動部系と言えるし、元来ゲーム嫌いのきらいがあったので俺達の様な人種とは合わないとキリトが説明するが、クラインは更ににじり寄って来る。

 キリトはそんなクラインを両手で押し返し、話を戻す。

 

「変だと思わないか? このバグ」

「……そりゃあ変だろ。バグなんだから」

「ログアウト出来ないバグなんて、今後のゲームの運営にも関わる大問題だ。普通ならサーバーを停止して強制ログアウトしてもいい筈なんだが……アナウンスすら無い」

「確かに、言われてみれば——」

 

 その時、クラインの言葉に重なるように大きな鐘の音が鳴り響いた。鐘の音ははじまりの街から鳴り響き、そして2人はブルーのライトエフェクトに包まれる。

 ブルーのライトエフェクトが発せられる状況は1つしか無い。

 

「転移……っ!?」

 

 2人がブルーのライトエフェクトに包まれ、光が引くと2人がいたのははじまりの街にある中央広場。

 中央広場には次々とプレイヤーが転移してきている。しかも、皆が皆何が起こっているか解らないといった風。

 

「強制転移……」

 

 鐘の音が鳴り止む頃。中央広場には全てのプレイヤーが集められた。果たして、これから何が起こるのか。キリトは嫌な予感がしてならなかった。頭の奥がピリピリとする、嫌な感じが。

 

「あ、上」

 

 誰が言ったか判らないが、言葉のままに上を見上げると夕焼けの空にそぐわない赤い六角形の何かが浮かんでいた。そしてそれは夕焼けの空を覆い尽くす様に広がりあっという間に空を埋め尽くした。

 

 "WARNING" そして "System Announcement"

 

 空を覆い尽くした六角形のそれの隙間から零れ落ちる、と言うよりは滲み出る謎の液体がゆっくりと何かの形を作り上げていく。

 現れたのは赤いローブ姿の巨人。手は見えるが顔が見えず、足も無い。GMか、とも思ったがベータテストの際に1度GMを見たキリト。少なくとも顔はあったし、あんな赤いローブ姿では無かった。

 そんな思考を働かせていると、赤いローブ姿の巨人がその見えない口を開いた。

 

『プレイヤー諸君。私の世界へようこそ』

 

 その言葉にキリトは疑問を抱き、すぐに声の主の正体に気付いた。そして、答え合わせは直ぐに行われた。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ』

 

 茅場晶彦。

 

 VRゲーム機であるナーヴギアをはじめとしたフルダイブ用マシンの基礎設計者。SAO開発ディレクターでもある。

 因みに、このSAOに使用されているVR技術のほぼ全てが茅場晶彦の理論を基に組み上げられている。

 量子物理学者にして、天才ゲームデザイナーである茅場は高校在学中から様々なゲームを開発し、18歳にして年収は数億を超えていた。更には日本有数の東都工業大学にストレート入学し同時にゲームメーカー「アーガス」の開発部長に抜擢され、茅場が関わったゲームは全て大ヒットを収めている。

 その一方、マスコミを嫌いメディアに姿を現すのは稀である。1度母さんが編集する雑誌が茅場を取材してから以降は全くと言っていい程に姿を見せていない。キリトも彼に関する著書は数冊持っている。

 

 そんな茅場晶彦がGMとしてここに現れる理由はなんだ?

 キリトの内なる疑問を完璧にスルーし、茅場はローブ姿の巨体を動かしながら鷹揚に語り出す。

 

『プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合では無い。繰り返す……不具合では無くソードアート・オンライン本来の仕様である』

「し、仕様?」

 

 クラインが戸惑うのも無理はない。キリトですら、茅場の言葉の意味を十全に理解出来ていないのだ。解るのはキリト達プレイヤーは自発的にログアウトする事が出来ない事のみだ。

 直ぐにその旨が茅場から伝えられ、その次の言葉によりキリトは驚きに目を見開いた。

 

『外部の手によるナーヴギアの停止、或いは解除もあり得ない。もしその行為が試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる』

 

 他のプレイヤーが呆れながら騒ぎ出す中、キリトは巨大なアバターを睨んでいた。中には中央広場を後にしようとするが、見えない壁により行く手を阻まれていた。

 ナーヴギアに関する書籍も手に入れ読んでいるキリトは茅場の言葉が嘘でない事を直ぐに理解した。

 

「……何言ってんだアイツ。頭おかしいんじゃね? なぁ、キリト?」

「いや、信号素子のマイクロウェーブは電子レンジと同じだ。リミッターを外せば人間の脳を焼くぐらいは出来る」

「じ、じゃあ、電源を切れば何とかなるんじゃ……」

「ナーヴギアには内蔵バッテリーが搭載されている。電源を切っても無理だ」

「っ……で、でも無茶苦茶だろ! 何なんだよ!」

 

 クラインの言葉に的確に反論し希望を消していくキリトの言葉に、思わずクラインが声を荒げる。キリトに、では無い。こんな事を引き起こした茅場にである。

 ただ、周りは未だに正式サービスによるデモンストレーションと受け取るプレイヤーが大多数であり、危機感は全くと言っていい程に無かった。

 そんな危機感の無いプレイヤー達は次の茅場の言葉により、絶望へと叩き落される。

 

『残念ながら、現時点でプレイヤーの家族又は友人が警告を無視しナーヴギアを強制的に解除しようとした事例が少なからずあり、その結果213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

 永久退場。つまりは、死。

 

 213人もの人間がナーヴギアによる高出力マイクロウェーブにより脳を破壊され、亡くなった。この平和な日本にとって、災害による死者を除けば戦後最大級の死者数であった。

 

「……じねぇ、俺は信じねえぞ!」

 

 クラインの言葉は至極真っ当なものだ。

 キリトですら、これが人の手により引き起こされたなどとは思いたくなかった。これが事故であるならば、と何度思ったか。

 他のプレイヤー達も茅場の言葉を聞いて、完全に黙り込んでしまった。だが、茅場はそんなプレイヤー達の思惑など意に介さず説明を続ける。

 

『ご覧の通り、多数の死者が出た事を含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言って良かろう。諸君は安心してゲーム攻略に励んでほしい』

 

 キリトはその言葉に怒りを覚えた。

 もう死ぬ心配は無いから安心してゲームを楽しめ。この状況でそんな事を言われてもはい、そうですかと言える訳が無い。

 こちらの声が聞こえるかは判らない。だが、叫ばずにはいられなかった。キリトの口が開かれようとしたその時、キリトの目にある映像が映った。

 そして、キリトが叫ぶ事を躊躇ったのを見計らったかの様に茅場の言葉が中央広場に再び広がる。

 

『しかし、十分に留意して貰いたい。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し同時に……諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

 キリトは茅場の言葉を聞き、やはりか、と思っていた。ナーヴギアの強制解除による死だけならばナーヴギアを解除しなければいい。昏睡したままだが、仮想世界で生きる事が出来る。

 たが、キリトが茅場の立場ならどうするか。キリトならばHPが無くなる事でも死を迎える仕様にする、と冷静な思考で考えたのだ。

 ……となれば、キリト達プレイヤーが解放される条件も自ずと見えてくる。

 

『諸君が解放される条件はただ1つ、このゲームをクリアすれば良い。今君達が居るのはアインクラッド最下層の第1層である。各フロアの迷宮区を攻略しフロアボスを倒せば上の階に進める。第100層の最終ボスを倒せばゲームクリアだ』

「クリア……? 第100層だと? 出来る訳ねえだろうが……ベータテストじゃロクに上がれなかったんだろ!?」

 

 茅場のゲームクリア条件は、キリトが予想した通りであった。しかし、その条件はベータテストをプレイしたキリトだからこそ無理がある、と思わざるを得なかった。

 ベータテスト終了時、クリア出来たのは第8層まで。2ヶ月で、だ。

 ベータテスト未経験のクラインが出来る訳が無い、と叫ぶのも無理からぬ事だ。何せ、2ヶ月8層と仮定しこのペースで行けたとしても2年以上掛かる。

 更に、階層が上がるにつれモンスターも強力になる。それを加味すれば2年どころかそれ以上掛かるのは自明の理だ。

 

『では最後に……諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してみてくれたまえ』

 

 クラインの言葉にも反応は見せない茅場から紡ぐ言葉にプレイヤー達は直ぐにアイテムストレージを確認する。

 キリトも茅場の言葉に従うのは癪ではあったが、メインメニューを開きアイテムストレージを確認する。そこには。

 

「……手鏡?」

 

 アイテムストレージから手鏡を選択すれば、現れるのは何の変哲も無い四角い手鏡。手鏡にはキリトのアバターの顔が映るだけーーの筈だった。

 

「う、うおぉぁぁ!?」

「クライン!?」

 

 クラインの戸惑いの叫びに振り向けばクラインは青みがかった白い光に包まれており、同様の現象が周りのプレイヤー達にも起こっていた。

 何かのトラップか、と思考を働かせた頃にはキリト自身も光に包まれ、やがて光は中央広場を埋め尽くしていく。

 

「大丈夫か、キリト」

「あ、ああ……大丈夫、だ……」

 

 光が収まり、声を掛けてくるクラインを見ればキリトは言葉を失った。戦国時代に出てきそうなイケメンだったクラインはどこぞの野武士の様な顔に変わっていた。だが、声はクライン。

 キリトは慌てて手鏡で自分の顔を見る。そこに映っていたのは現実世界での桐ヶ谷和人の顔だった。

 

「……オメー、誰だよ?」

「……キリトだよ、クライン」

「キリ……って、はぁっ!?」

「手鏡で顔を見てみろ。多分、現実の顔になってる」

 

 キリトの言葉にクラインは手鏡で顔を確認し、大きく驚いていた。驚くのも無理はない。何せ、現実の体がアバターになっているからだ。

 中には性別を偽ってアバターを作ったプレイヤー、主に女のアバターを使用していた男が酷い恥をかいていたが、これは自業自得と言えた。

 ナーヴギアは高密度の信号素子で顔を覆う形になっている。それ故に顔を把握、スキャンしアバターに再現させるまではキリトも予想がついた。しかし、体の体型まで再現は出来ない。

 その疑問に対する解はキリトの説明、そして疑問を聞いていたクラインから齎された。

 

「ナーヴギアを初めて装着した時に、キャリブレーション……とかで、こう自分の体のあちこちを触ったじゃねえか」

 

 キリトはナーヴギアを初めて装着した時に行ったキャリブレーションを思い出し、クラインの仮説に信憑性があると頷いた。

 とは言え、だ。身長から体格までの再現度は非常に高い。自分から見える限りでは全く現実世界の和人そのままだった。

 

「けど……何で、何でだ? そもそも何でこんな事を——」

「答えてくれるさ、茅場がな」

 

 クラインの疑問に答えるキリトの言葉通り、中央広場に茅場の声が響き渡る。

 

『諸君は今、何故……と思っているだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか、と。……私の目的は既に達せられている。この世界を作り出し鑑賞する為にのみ、このソードアート・オンラインを作った』

 

 それは、まるで金魚を飼った子供の様な理由だった。つまり、茅場の自己満足の為だけに約1万人のプレイヤーはSAOに閉じ込められたのだ。

 

『そして、全ては達成せしめられた。……以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

 その言葉を最後に、赤いローブ姿の巨大なアバターが現れた時を逆再生する様に消え、空も元の夕焼けへと戻った。

 この瞬間、ソードアート・オンラインは現実となった。HPがゼロになれば現実世界同様に死ぬ。キリトは雑誌に掲載されたSAOの紹介記事の一文を思い出していた。

 

 ——これはゲームであっても遊びではない。

 

 今更ながらにキリトは納得していた。

 茅場はSAOを作る前から、いやナーヴギアを開発する更に以前からこの光景を構想していたのかもしれない。

 例え1万人のプレイヤーの命を危険に晒したエゴイストと蔑まれようとも。

 だが、やはりこれは許されない。キリトが歯噛みし拳を握りしめた時だった。

 

「い……いやぁっ!」

 

 年端もいかない、それこそキリトよりも年下だろう少女の小さな叫びが引き金となり中央広場は怒号と絶望の入り混じる混乱の坩堝(るつぼ)と化した。

 

「クライン、ちょっと来い」

「え……のわっ!?」

 

 混乱が中央広場を征服する中、キリトはクラインを薄暗い路地に引っ張り込んだ。

 その目的は、キリトのアインクラッド攻略に付いて来るかどうかの意思確認の為だった。当初は1人でアインクラッド攻略に臨む腹積もりだったが、HP消滅=死という今の状況で知り合った初心者のクラインを放り出すのは危険と判断した為だった。

 それに加え、このゲームをクリアする為には只管に自らを強化しなければならない。

 VRMMOのリソース——プレイヤーが得られる金や経験値——は限られている。はじまりの街周辺のモンスターは直ぐに狩り尽くされるとキリトは判断した。

 ベータテスターであるキリトは次の街までの安全なルートを知っている。レベル1でも1人連れがいるくらいなら対処も出来る。それらを踏まえて初心者のクラインに同行を求めたのだ。

 

 しかし、クラインはこの説明を聞いた上で、拒否の意を示した。

 

「俺ぁ、他のゲームでダチだったヤツと徹夜して並んで買ったんだ。アイツら、広場に居る筈なんだ。置いては行けねえ……。それに、これ以上オメーに世話になる訳にはいかねえよ。だから、気にしねえで次の村に行ってくれ」

「……クライン」

「俺だって前のゲームじゃギルドの頭張ってたからな。オメーに教わったテクで何とかしてみせらぁ」

「……解った。なら、クラインに頼んでおきたい事がある。クラインと仲間達がある程度まで強くなったらはじまりの街で困ってるプレイヤーを助けてやってくれ」

 

 キリトの頼み事は今後のはじまりの街の状況を予想した上でのものだった。

 この混乱はしばらく続き間違い無く死者が出る。それは戦闘に限らず、心の不安によるものもあるとキリトは睨んでいた。

 そこで、クラインにある程度までレベルないしPS——プレイヤースキル—を上げて貰い、困っているプレイヤーを助けて貰おうと考えたのだ。

 とは言ってもクラインにだってやれる限界はある。そこは自己の判断に委ねる事になるが、それだけでも死者は減る、そう考えたのだ。

 

 これに関してはクラインも快諾してくれた。たがあくまでも出来る範囲でという事を念押し。クラインが頷いたところでキリトは背を向ける。

 

「ここで一旦サヨナラだ。……何かあったら直ぐにメッセージをくれ。駆けつける」

「おう、解った」

「じゃ、またなクライン」

 

 別れ、にしてはアッサリとした別れ。

 クラインは何を思ったのか、別れには似つかわしくない言葉をキリトに送った。

 

「キリト! オメー、案外可愛い顔してやがんのな。結構、好みだぜ!」

「……クラインも、今の野武士面の方が数段似合ってるよ」

 

 その言葉を最後にキリトは路地を駆け出した。

 

 2022年11月6日。

 

 デスゲームと化したソードアート・オンライン初日。

 

 キリトは1人、はじまりの街を後にした。

 

 




初投稿でした。

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