神のみスピンアウト・魔法少女めがみ〜な   作:猿野ただすみ

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長くなってしまいました。


悪魔17・悪魔と中二病少女とめがみ~な

舞島東小学校。午後の授業も終わり、帰りの会(SHR)が済んでさて帰ろう、と思ったその時、歩美の髪飾りから囁く声が聞こえた。

 

「(歩美、緊急事態だ。あの悪魔っ子が、急いで屋上に集まってほしいって)」

「(う…。せっかく早く帰れると思ったのに。……はあ、仕方がないな)」

 

愚痴は出るものの、基本いい奴である歩美は素直に屋上へと向かっていく。そして重い扉を開けると、そこには既に月夜がいた。

 

「月夜、随分早いね?」

「私は、月を見ようと屋上に向かってたから」

「あ、なるほど」

 

月夜の趣味を思い出し納得する。それに授業はきちんと受けているみたいなので、そちらに関して安心もした。

そんな会話をしていると再び扉の開く音がして、今度は天理が現れた。そしてふと、疑問に思う歩美。

 

「天理、桂木は?二人って同じクラスだよね?」

「あ、えと、桂馬くんは、ディアナから連絡来る前に帰っちゃったから…」

「桂木のやつ…。いやいや、今回は桂木が悪いわけじゃない」

 

ついつい桂馬に愚痴を言うものの、たまたまタイミングが悪かっただけと思い直す。歩美とて、それくらいの分別はある。

 

「あの、えりさんは?」

「あ、えりには言わなかったんだ。あとでバレたときに怒りそうだけど、緊急事態って話だし、さすがにえりを危険な目に合わせたくなかったから」

「そう。……うん。そうだね」

 

歩美の気持ちが良くわかるのか、天理は納得して頷いた。

 

「それより、エルシィさんはまだなのかしら」

「そう言えば、緊急事態って言ってたのにまだ見当たらないね?」

 

月夜の疑問を聞いて、歩美がキョロキョロと辺りを見渡すと、それに合わせたかのように。

 

「みなさーん、お待たせしましたあ」

 

そう言いながら、上空からエルシィが降り立った。

 

「エルシィさん、遅いよ!」

「すみません。他のところに寄っていたら時間がかかってしまいました」

「他のところ?」

 

歩美が聞き返すと、エルシィは羽衣から勾留ビンを取り出して、フタを開ける。すると解放された三人の姿がそこに現れる。

 

「あ。栞、かのん、結」

 

歩美は三人の名前を呼んだ。

 

「あれ? 神さまは?」

「桂木はもう帰っちゃったって。女神達からの連絡と行き違いだったらしいよ」

「そうですか…」

 

エルシィは少し落ち込んだ。しかしそれどころではないと、自身に活を入れ直す。

 

「いえ、落ち込んでる場合じゃありません! 実は舞島学園に駆け魂持ちの子がいたんです!」

 

と。ここまでなら、いつものパターンのひとつである。だが今回は、それだけではない。

 

「ところが、何故かヴィンテージまで来てて、今はプロセルピナさんがおとりになって、私を逃がしてくれたんですっ!」

『!?』

 

最近説明されたばかりの名前を聞き、一気に緊張が走る。

 

『ヴィンテージの事は、プロセルピナと接触したときに既に聞かされていた。その際に悪魔娘には姿を消し、我らには相手に悟られぬようにと言われたのだ。故に[(オーブ)]を通しての外界との接触は断っていたので、我ら女神が状況を把握したのは逃げ出した後だがな』

 

ウルカヌスが補足を入れた。

 

「つまり、駆け魂を何とかするだけじゃなくて、場合によってはヴィンテージも相手にしなくちゃなんないってワケ?」

「それだけじゃありません。もしまだプロセルピナさんが戦っているなら、助けてあげないと~」

 

歩美の発言に、若干の訂正を入れるエルシィ。これに反応したのは。

 

「……うん。絶対、助けないと」

「天理!?」

 

天理が珍しく、自己主張を強く表に出した。これには、同じコミュ障仲間の月夜が驚いたが、まあ、さすがに致し方あるまい。

 

「……まあ、そうだよね。プロセルピナさんには何度か助けてもらってるし」

 

歩美とて、助けることに関しては異論は無いのだ。

 

「私はその、プロセルピナさんって人とは直接会ったことはないけど、歩美さん達が助けてもらったんなら、やっぱり何とかしてあげたいかな」

 

かのんが言うと、栞もこくりと頷く。そして結が。

 

「物語では魔法少女は、誰かを救うために戦うものと相場は決まってます。理由なんて、それで充分ではないですか」

 

そう、締め括るように言った。

……まあ、桂馬がこの場にいたら、「それは[戦う魔法少女]の場合だろ」と突っ込んだだろうが、むしろいなかったために、綺麗に話はまとまるのだった。

 

 

 

 

 

所変わって、ここは舞島学園。

 

「ちいっ! すばしっこい!!」

 

ヴィンテージは羽衣を駆使しながら攻撃を仕掛けているが、プロセルピナは手に魔力で構成した鎌を創り切り裂きながら躱すを繰り返している。

 

「ええいっ! なら、これでどうだっ!!」

 

そう言って羽衣をプロセルピナの足元に取り囲むように飛ばすと、それぞれが金属の棒となって取り囲み、とどめとばかりに頂部で湾曲した先同士が繋がり、鳥籠のような檻を構成する。

 

「どう? これで逃げられないでしょ!?」

 

ヴィンテージは悦に入った声で言うと、更に羽衣で複数の剣を創りプロセルピナの周りを取り囲む。

 

(……マズい。このままじゃさすがに…。こうなったら…!)

 

決意を固めた表情に変わるプロセルピナ。そして。

 

「天魔て…」

 

何かを仕掛けようとしたそのとき、急に剣が向きを変えてヴィンテージへと襲いかかる。

 

「な!? くっ!」

 

ヴィンテージは慌てて剣を羽衣に戻して、難を逃れた。そして次の瞬間。

 

フィイイイイイイン!

 

ヴィンテージの駆け魂センサー…その実は女神センサーが鳴り響く。

 

「どうやら、間に合ったようなのですね」

 

そう言ったのは[ウルカヌス]。その能力で、剣を操ったのだ。

 

術式解体(ブレイク・スペル)!」

 

檻の前には[メルクリウス]が立ち、羽衣の術式を解いてプロセルピナを解放する。

更に、「ミネルヴァ」は結界を張り、[ディアナ]は弓に理力の矢を番え、[マルス]は理力の剣 ── ただし[祝福の剣(ブレス・ブレード)]ではなく、ただ理力を剣の形にした物 ── を構える。

 

(……私だけ、やることないなー)

 

[アポロ]がそんなことを思っていたりするが、この辺りは攻撃手段が[浄化の歌(仮)]なので致し方がない。

 

「……魔法少女! それにセンサーのこの反応。どうやら予想通り、女神が力を貸してるようね」

 

ヴィンテージの台詞を聞き、魔法少女達の表情が険しくなる。

 

「……やっぱり、二人は連れてこなくて正解だったみたい」

 

[メルクリウス]が呟くように言う。

 

「……二人? それってもしかして、桂木桂馬と桂木えりの事かしら?」

「なっ!?」

 

まさに青天の霹靂。既に桂馬とえりの身元が割れていることに、驚きを隠せない。

 

「どうして、二人の事…」

「まあ、私にはあんな人間なんて、どうでもいいんだけど。でも、私のパートナーがご執心なの。主に桂馬って方をね」

 

その説明を聞き。

 

「……パートナーって言うのは、協力者(バディ)の事?」

 

そう尋ねるプロセルピナ。

 

「……今更隠したって、しょうがないか。そう、私の協力者(バディ)。もちろん誰かは教えないけど」

 

そう言う仮面の下では、恐らく意地の悪い笑顔を浮かべているだろう、そんな雰囲気が感じ取れた。

 

「……なら、躊躇わない!」

「あっ、プロセルピナさん!?」

 

[メルクリウス]は、飛び出すプロセルピナに声をかけて手を伸ばすものの、僅かに間に合わない。

 

「私が、ただ意味もなく[駆け魂隊]に紛れ込んでいたと思ってたの?」

 

そう言うヴィンテージの手には、勾留ビン。その蓋が開かれて…。

 

ドロドロドロドロ…

 

突然駆け魂センサーが鳴り響き。

 

ズムッ!

 

「はうっ!?」

「プロセルピナさん!?」

 

今まで姿を消したまま声を潜めていたエルシィが、思わず叫び声を上げる。それでも辛うじて、言われたとおり姿を現さなかったのは、彼女にしては上出来だった。何しろ、プロセルピナの腹部から背中に突き抜ける形で半透明の腕が伸びていたのだから。

そして半透明の腕は引き抜かれ、プロセルピナは仰向けに倒れ込む。魔法少女達はあまりのことに、声を失っていた。だが。

 

 (これ、かのん!)

 

強く頭に響く声に、[アポロ]はいち早く正気を取り戻す。

 

「みんな! 守りをお願い!

……プロセルピナさんっ!」

 

みんなに簡単に指示を出すと、[アポロ]はプロセルピナに駆け寄り跪く。

 

「プロセルピナさん、今、()()()()()()!」

「……わたし、は、いい。時間は、かかる、けど、……これく、らいなら、自然に治、るから…」

 

かなり痛々しいが、(おもんぱか)った嘘を吐いているわけではないようだ。しかし。

 

「だめだよっ! こんな状態で、放っておけるわけないよっ!!」

 

そう、力強く返す[アポロ]。

 

「……なん、で…。初めて、会ったばかり、なのに…」

「そんなの関係ない! あゆ…メルクリウス達を助けてくれた、そんな人だから助けたい! ただ、それだけだよ!」

「……アポロ、さん」

 

プロセルピナは[アポロ]の名前を呟き、黙り込んでしまう。

 

「じゃあ、いくよ? ……聖なる癒し(ホーリー・ヒーリング)!」

 

[アポロ]の右手に一枝のローリエが現れ、彼女はこれを軽く振り術を発動させた。

そんな無防備な二人を守る[ミネルヴァ]は、しかし身体がガタガタと震えている。いや、それは[ウルカヌス]も同様だ。が、それも仕方がない。何しろ、人の腹が貫かれ、血を流して倒れるところを見たのだ。駆け魂(ヴァイス)の時とは違うのである。

しかし一方、[マルス]は動じることなく剣を構えているし、[メルクリウス]も持ち前の勇気で、何とかではあるが恐怖を押し留めている。むしろ意外だったのは、[ディアナ]が案外しっかりとした態度で弓矢を構えていることだ。

そんな彼女らが対峙しているのは、ヴィンテージが呼び出し、プロセルピナの腹を貫いた駆け魂。……いや。

 

「みなさん、気をつけてください! あれは恐らく、はぐれ魂です! しかもはぐれ魂を、羽衣で創った鎧で覆ってる…!?」

 

エルシィの注意喚起は、最後は自身の疑問で締め括られる。

 

「ふふっ、簡単な事よ。私はヴァイスと取引をしたの。再び結界に拘束されないよう、古き地獄の復活の日まで勾留ビンに匿う代わり、私に力を貸すように、ね」

「だから、取り憑いた駆け魂でも、奪い魂でもなくて、はぐれ魂…」

 

今、天理が言ったことが、まさしく正鵠を射ていた。自身の復活よりも、負の感情を取り込むことを優先したはぐれ魂との方が、この取引に応じやすかったのである。

 

「そういう事よ。……さあ、始めましょうか? 半数は戦闘に参加できなさそうだし、いくらヴァイス特効の攻撃があっても、私特製の羽衣鎧が防いじゃうから、結果はわかりきってるけど」

 

この場に桂馬がいたら、きっとこう言っただろう。「なんで悪役は、わざわざ負けフラグを立てたがるんだ?」と。

とは言えこの手のフラグ、すぐには回収されないのもまた事実。

 

「……神聖の矢(ホーリー・アロー)!」

 

先制して[ディアナ]が矢を射るが、はぐれ魂を守る鎧に触れた途端、はじけて消えた。

 

「なら!」

 

駆け出した[メルクリウス]が、はぐれ魂の周囲を素早く一周して。

 

浄化の六芒(カタルシス・ヘキサ)!」

 

術を発動させるが、はぐれ魂はダメージを受けた様子を微塵も感じさせない。

 

「でしたら!」

 

[マルス]は手にした剣を[祝福の剣(ブレス・ブレード)]に変えて、相手の懐に潜り込んで斬りつけようとした。が、その刃も羽衣の鎧が阻んでしまう。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」

「そ、そんな…」

 

煽るように言うヴィンテージに、エルシィは途方に暮れ、めがみ~な達は言い返すことも出来なかった。

 

 

 

 

 

そんな戦闘の様子は、舞島学園の生徒達、教師達によって観戦されていた。もちろん娯楽でないのはわかっているので、事の成り行きを見守るためだ。まあ、野次馬であることに変わりはないが。

そんな中に、浮かない顔の少女がひとり。

 

「……めぐみん、どうしたの?」

 

少女の隣に立つ少女…豊崎尚美が尋ねると、(くだん)の少女…高橋めぐみが、ビクリと身体を振るわせる。

 

「……どうした、とはどういう意味ですか?」

「あの戦いが始まってからあなた、かなり浮かない顔をしてるじゃない」

「それは…」

 

めぐみはその答えを言いあぐねている。

 

「それってやっぱり、めぐみんに憑いてるモノが関係してるの?」

「ロゼ!?」

「……やっぱり、そうなんだね? あなたには、ヴァイスが取り憑いてる。そしてめぐみん自身、その事に気づいてる」

 

尚美に看破されためぐみは、無言のまま頷いた。

 

『ふむ。まさか、親友に憑いた古悪魔(ヴァイス)に気づいているとは』

「「!?」」

 

突然聞こえた声に、二人は辺りを窺うが、周りの学生達にそれらしい人物はいない。

 

『すまぬな。私はあのヴァイスを使役している者らと敵対しているのだが、今は特殊任務中ゆえ姿を見せることが出来んのじゃ』

「それを、信じろと言うんですか?」

 

謎の人物の説明に疑ってかかる尚美。しかし謎の人物からは機嫌を悪くした雰囲気は感じられず、むしろ感心しているかのような気配すら感じる。

 

『いや、我ながら怪しいのはわかっておる。だから、これから話すことをアドバイスととるか、罠ととるかはお前ら次第じゃ』

 

そう前置きをして、話を続ける。

 

『そこの娘。魔法少女を助けられるのは、恐らくお前だけじゃ。お前が古悪魔(ヴァイス)に憑かれてから行っていたこと、観察させてもらったが、あの力ならばあそこのヴァイスの守りも貫けるはず。……後は、お前の気持ち次第じゃ』

「え、めぐみん? あの力って?」

 

謎の人物の話を聞き尚美が尋ねるものの、めぐみは口を閉ざしている。

 

『……最後に、ひとつだけ忠告をしよう。ヴァイスとは悪魔の魂。つまりその力は、所詮は悪魔からの借り物。例えお前の願いを叶えようとも、いずれは身を滅ぼす力じゃ。努々(ゆめゆめ)、忘れるでない』

 

そう言い残すと、その気配はすうっと遠ざかっていった。

 

「……めぐみん」

「……そう、ですね。謎の人物の言うとおりです。私は、この力を失うのが怖かったのでしょう。だからヴァイスを追い出したくはなかった。

ですが、もう迷いません。悪魔の力を借りて願いが叶ったところで、そんなのは私自身の力ではありませんから!」

「めぐみん」

 

めぐみの決意を聞き、尚美は笑顔で頷いた。

 

「さて。では最後に、一花咲かせるとしましょうか!」

 

 

 

 

 

めがみ~な達は苦戦をしていた。何しろ、女神の力が全く通用しないのである。かといって、物理攻撃もあの鎧で防がれてしまう。鎧を壊してから攻撃しようにも、それすら適わないのが現状なのだ。

更にはぐれ魂自体が、めがみ~な達の焦りなどから来る負の感情エネルギーを吸収して、若干ではあるものの強さを増していた。

 

「……アポロさん、もういい。私があの鎧を何とかする」

「ダメ! まだ傷口を塞ぎきってないよ! せめて傷口が塞がってからじゃないと…!」

 

プロセルピナの無理を押し止める[アポロ]。しかしそれほど切羽詰まった状況なのである。

 

「やれやれ。魔法少女ともあろう者達が情けないですね」

 

突然、対峙する横手から聞こえた声。全員がそちらを向くと、そこにはこちらに近づいてくる、剣道の胴着を着たひとりの少女の姿。

 

「え、誰?」

 

[メルクリウス]が呟くように言うと、それを聞いた少女は立ち止まり、突如高笑いをする。

 

「はーっはっはっはっは! 我が名は高橋めぐみ! 舞島学園中等部の二年生にして、ヴァイスに取り憑かれし者! されどその力をもって、悪を打ち倒せし者!!」

 

めがみ~な達よりも、余程堂に入った口上をあげるめぐみ。みんな…はぐれ魂でさえ、あまりのことに一瞬フリーズしてしまう。

しかし、駆け魂持ちと知っていたヴィンテージは、少しだけ早く立ち直る。

 

「はっ! ヴァイスのせいで心のスキマが広がって、そんな性格を発露している人間風情が、何寝言をほざいてる!」

「……どうやら勘違いしているようですが、私の中二病ははじめからこのレベルですよ? 確かに、みんなにばれたのはヴァイスの影響があったからかも知れませんが、今はむしろ清々としているくらいです」

「……は?」

 

ヴィンテージは、それはもう間の抜けた声を上げた。

 

(……やっぱり)

 

一方のプロセルピナは、自分の見立ての正しさを確認する。

 

「私の、()()心のスキマの原因は、この力を失いたくはなかったこと」

 

そう言って、胸の前に右掌を広げた状態で上に向け構えるめぐみ。するとその指先にひとつずつ、計五つの炎が点る。そして、はぐれ魂に向かって突き出しながら叫んだ!

 

五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!」

 

はっきり言おう。漫画に出てくる技である。めぐみの好きな、とある[冒険譚]。その登場人物が使った、魔法の応用技のひとつがこの、[五指爆炎弾]であった。

五つの火球がはぐれ魂へと同時に襲いかかり、爆焔を上げる。やがて爆煙が晴れると、はぐれ魂を覆う鎧の腹部が砕け散っていた。

 

「なっ!? くっ、すぐに修復を…」

「させません! 重圧呪文(ベタン)!!」

 

めぐみが続け様に放った術は、対象に重力による圧力をかけるもの。これによりはぐれ魂は動きを封じられると共に、鎧には更に亀裂が走る。

 

「これでも削りきれませんかっ!?」

「ううん、充分だよ。ありがとう」

 

スッとめぐみの横を通り過ぎた人影が、声をかけながら通り過ぎる。それは。

 

「プロセルピナさん!?」

 

「メルクリウス」がその名を叫ぶ。

そのプロセルピナは、右手に魔力を収束させて。

 

「偽・証の鎌!」

 

ハクアが持っている物と瓜二つの鎌を出現させた。

 

「ハアアアアアッ!!!」

 

裂帛の気合いと共に鎌を振り抜き、プロセルピナははぐれ魂の鎧を打ち砕く。

 

「ディアナさん!」

神聖の矢(ホーリー・アロー)!」

 

プロセルピナの呼びかけに、即座に矢を射る[ディアナ]。しかしまだ堪えている。だが、[メルクリウス]と[マルス]もたたみかける。

 

浄化の六芒(カタルシス・ヘキサ)!」

祝福の剣(ブレス・ブレード)!」

 

[メルクリウス]の浄化の光に[マルス]の浄化の斬撃。それでもはぐれ魂は堪える。と、その時。

 

---♪♪♪

 

[アポロ]の歌が響き渡る。

 

(かのんさんの、歌…)

(不思議と、恐怖心が薄らいでいくのですね)

 

[ミネルヴァ]と[ウルカヌス]の心を癒すその歌は、はぐれ魂へ確実にダメージを蓄積させていく。だがその時。

 

「くぅっ! 呪文の効果が…!」

 

めぐみの術の効果が切れ、はぐれ魂は慌てて上空に逃げる。勾留ビンに強制的に拘束するには、まだ力が強い。

 

「……メルクリウスさん、使って!」

 

[ミネルヴァ]はそう言うと散らしたように、はぐれ魂の周りに小さな、破片のような結界を無数に作り上げる。その意味を直感的に理解した[メルクリウス]は跳躍し、結界を蹴り進み、はぐれ魂へと肉薄する。そして、その小さな結界片を渡り歩きながら、はぐれ魂の周りを()()()()一周して。

 

「これが最後っ! 浄化の六芒(カタルシス・ヘキサ)ッ!!」

 

立体的に発動させた六芒星から光がほとばしる。この攻撃に、ついにはぐれ魂を完全に弱体化させた。

 

「エ…、ヴァイスをお願いっ!」

 

エルシィの存在を隠していることを思い出し、着地しながら言いかけた名前を飲み込む[メルクリウス]。

 

「はいっ! 勾留ビンッ!」

 

透明化したまま勾留ビンを使い、そして。

 

スポン!

 

バン!

 

「駆け魂勾留です!」

 

いつもよりも難敵だった相手を無事に拘束し、みんなが安堵のため息を吐き、残りの敵へと視線を戻す。が。

 

「えっ、いない!?」

「そういえば、プロセルピナさんもいないよ!?」

 

[メルクリウス]と、プロセルピナの治療をした[アポロ]が驚き戸惑う。

 

「勝ち目がなくなれば撤退する。敵も馬鹿では無いということです。プロセルピナという方はわかりませんが」

 

この場でもっとも頭が回るだろうめぐみが、現状から推察されることを語った。

 

「あ、ええと、めぐみさん?」

 

彼女が駆け魂持ちの子だというのはわかったが、初対面故に[メルクリウス]がどう切り出すか迷っていると。

 

「ふう。スッキリと、とは言えませんが、思い切り魔法が使えて満足しました。これで思い残すことはありません」

「え?」

 

めぐみの言葉の意味がわからずにいると、次の瞬間。

 

スポン!

 

と、心のスキマが埋まった彼女の体から、駆け魂が飛び出した。しかも、なんだかかなりヘロヘロである。

 

「え、ええと、こ、勾留ビン!」

 

戸惑いながらも新しい勾留ビンを向けると、何の抵抗もなく、あっさりと吸い込まれていく。

 

「あ…、駆け魂、勾留です?」

 

あまりにも呆気なく、エルシィには現実味が感じられなかった。

 

「なんだか、随分と弱っていましたね?」

 

[マルス]が疑問を口にすると、めぐみが「多分ですが」と前置きをして語り出す。

 

「私が使った五指爆炎弾は、物語の中では命を縮めかねない禁呪まがいの呪文です。もしそこまで再現されていたのなら、それを肩代わりしていたのはヴァイスの方ですから」

『うわぁ…』

 

つまり、本来なら心のスキマを広げるだろう行為が全て裏目に出て、ヴァイス自身を弱らせていたのである。みんなが変な声を上げるのも仕方がないだろう。

 

「それでは、これでそちらの用事も済んだはずですし、失礼させてもらいます」

 

そう言うと、めぐみは踵を返して去って行く。

 

「……なんか、釈然としない」

 

[メルクリウス]のセリフは、ここにいるみんなの意見でもあった。

 

 

 

 

 

「なるほど。そんなことがあったのか」

 

翌日の昼休み。給食の後に屋上で落ち合った桂馬は、昨日の出来事を聞き言った。

 

「ヴィンテージに、ボクに執着する協力者(バディ)か。となると今後、ボクは着いていかない方がいいのか」

「にーさま。それじゃあさすがに、エルシィさんがかわいそうですよ」

 

桂馬同様に落ち合ったえりが、桂馬を嗜める。因みに歩美が予想したとおり、えりは大層怒っていたが、今は既に落ち着きを取り戻している。

 

「ええと、これからは神様とえりさんは、私と一緒に羽衣で姿を隠す、というのはどうでしょーか?」

「……ちっ。どうしてこういうときに限って頭が回るんだ?」

 

せっかく関係を断ち切る口実が出来たと思ったのに、と内心で思っている桂馬だった。まあ、根は良い奴なので、結局なんだかんだで関わる事になるとは思うのだが。

 

「……まあ、いい。それで今回の駆け魂持ち、今はどうなんだ?」

「はい。相変わらずチューニ病?全開です。ただ、ハクアに聞いた話だと、今回は記憶消去はしてないみたいなんです」

「ん? どういう事だ?」

 

中途半端とは言え、エルシィの存在を臭わせた状況である。普通なら安全策として、記憶消去は行われてしかるべきである。

 

「ドクロウ室長からの命令なんですよ。何でも、わざとヴィンテージの存在を記憶に残すことで、ヴィンテージ達が表立って動けないようにするため、室長が上層部と掛け合ったそうです。勿論、私とハクアの事は内緒にして」

「なるほど…」

 

とは言うものの、桂馬はイマイチ浮かない顔だ。

 

「……エルシィさん。その話、聞いてないんだけど」

「私もなのですね」

 

歩美と月夜が目を据わらせてエルシィを見る。

 

「あ、ええと、今回は忘れてたわけじゃありませんよ? 話を聞いたのはここに来る直前でしたし、元々めぐみさんの報告と一緒にお伝えするつもりだったんです。……本当ですよ~!?」

 

最後のは、エルシィの心からの訴えだ。

 

「あー、わかったから、後で栞達にも伝えといてね?」

 

ため息を吐いてから歩美が言うと。

 

「あ。忘れてました」

「「「「……」」」」

 

四人は一旦沈黙し。

 

「このバグ魔がーーーーーっ!!!」

 

桂馬が盛大に突っ込むのだった。




ハクア「ハクアと…」

ノーラ「ノーラの…」

ハクア・ノーラ「あとがき代わりの座談会コーナー☆出張版!」

ハクア「って、本編メチャクチャ長いんだけどっ!」

ノーラ「作者はついに、本編の長さも気にしなくなったみたいね」

ハクア「……あ、いえ、ここに置いてあったメモに、小さな文字でなんか書いてあるんだけど。ええと、『ものすごく気にしてるけど、分割すると中途半端な場所で引きになるから仕方が無かったんですぅ』…って、なんか弱腰ね?」

ノーラ「待たせた挙げ句に無意味に長くなったんだし、反省でもしてるんじゃない?」

ハクア「そうなのかしら? 色々と言いたいこともあるけど、今回は話も長い分、こちらでも取り上げる場所が増えるはずだから、いい加減始めましょうか」

ノーラ「さんせー」

ハクア「やる気ないわねー。まあいいけど。それじゃあまずは…、歩美達の集合だけど。話が長くなってから削ろうかどうか迷ったらしいんだけど、結局残すことにしたみたい」

ノーラ「まあ、前回の引きを考えたら、入れないわけにはいかないでしょうねぇ。一応主人公だしー?」

ハクア「あと、作者的にも、これ以上座談会側の歩美を怒らせたくなかったみたい。本当にいつか倒されそうだって」

ノーラ「なっさけないわねー。……ま、いっか。
それで次は、ヴィンテージとプロセルピナとの戦いね。とは言っても、随分あっさりしてるけど」

ハクア「これは、既に長くなりそうな予感がしてたことと、前回からの攻略対象の出番が遅くなることを危惧したからね。でもここでは、結構重要な…というか、プロセルピナの正体に関わるセリフが出てるの」

ノーラ「……ああ。あの『天魔て…』ってトコね。あそこまで言ったら、なんて言おうとしてたかわかるんじゃない?」

ハクア「あっちの作品も読んでたら、っていう前提だけどね。それに、最後まで言う前に、歩美達は到着しちゃったし」

ノーラ「お約束ってやつねー。もしその場にいたら、桂木あたりがツッコミ入れてそう」

ハクア「いえ、桂木なら、『変なフラグ立てようとするな!』とか言って怒るんじゃないかしら?」

ノーラ「あー、確かに」

ハクア「……話を戻すわよ? 次は、地の文の[浄化の歌(仮)]だけど。これはこの技だけ名前がないから、かのんが取り敢えず付けたって事みたい。アポロからは『安直じゃのう』って言われたらしいけど」

ノーラ「ふーん。ルビは[カタルシス・ソング]とか[カタルシス・チューン]ってとこかしら?」

ハクア「あ。[カタルシス・チューン]はちょっといい感じね。もしかしたら採用するかも」

ノーラ「作者も単純ね?」

ハクア「だって、この作品の作者だし」

ノーラ「それもそうね。じゃあ次だけど…。ヴィンテージ…今回は名前出てないけどマイヤだっけ? しっかり桂木兄妹の事調べ上げてるわね」

ハクア「これは本編でも言ってるとおり、協力者(バディ)がご執心だったからってのが一因ね。……そういえばこの協力者(バディ)、【神のみ】本編の私達は会ったこともないのよね」

ノーラ「桂木と、本来は私達が憶えてないエルシィが、過去でなんやかんやあったときのキャラだからねぇ」

ハクア「名前言ってないけど、ほぼ正体ばらしてるわよっ!」

ノーラ「いーじゃん、別に。元々ほぼバレてんだしー」

ハクア「そ、そうだけど…。まあ、いいわ。で、そのヴィンテージに襲いかかろうとするプロセルピナ。だけど、ヴィンテージが勾留ビンを取り出して」

ノーラ「勾留…じゃなく、保護していたヴァイスに腹を貫かれる。うーん、なかなか私好みの展開ね」

ハクア「まあ、R指定は入れてないから、詳しい表現はしてないけど。そして、[アポロ]の治療が始まる…んだけど。この間の二人の会話の末にプロセルピナは黙ってしまうんだけど、その際の彼女のモノローグは作者がカットしてしまったわ」

ノーラ「は? なんで?」

ハクア「別のシリーズの方のキャラ名が出ている上に、いくらほぼバレてる状態とは言え、プロセルピナの正体が確定しちゃうようなセリフだったからね。本当は入れたかったけど、泣く泣くカットしたんだって」

ノーラ「無駄にこだわってるわねー。素直にばらしちゃえばいいのに。プロセルピナの正体は、k…」

ハクア「やめなさいって。で、話を続けるわよ。
ええと、[ミネルヴァ]と[ウルカヌス]はヴァイス相手に、恐怖で身体が震えてるけど、さすがにこれは仕方がないわね。因みに[ディアナ]が恐怖に打ち勝ってるのは、プロセルピナを助けたいって想いで、気持ちがガン決まりしてるから」

ノーラ「[マルス]は?」

ハクア「[美代姉様]と剣を交えるのに比べれば、全然たいしたことないから」

ノーラ「そいつ、どんだけバケモンなのよっ!」

ハクア「あくまで[マルス]にとっては、だから。まあ、結局[めがみ~な]の攻撃は一切通用しないんだけど」

ノーラ「で、場面が変わって、ようやく攻略対象のめぐみの登場ね。そしてめぐみ達に語りかける謎の声。って、この口調って」

ハクア「そう。私達も知る…」

ノーラ「アポロね」

ハクア「なわけないでしょ! いやまあ、ここで名前明かすわけにもいかないんだけどっ!」

ノーラ「冗談よ。まあ、原作キャラで特殊任務って言えば、さすがにわかるかしらね」

ハクア「そうね。因みに、特殊任務の内容は原作と同じよ。この頃はまだ、下調べの段階だけど」

ノーラ「よくやるわねー。出世や名誉は大好物だけど、コツコツ地味になんて、私にゃ無理だわー」

ハクア「ノーラの場合は雑すぎよ。……それはともかく、魔法少女の危機に颯爽と…颯爽? まあいいか。とにかく現れためぐみ。声高らかに口上をあげる。って、これは前回の座談会でも言っていたように、このキャラの出自が、某ラノベファンタジー作品のキャラの同位存在という設定だからね。口上の構成も、大体それに合わせてあるし」

ノーラ「うーん。でも、使ってる呪文って…」

ハクア「いえ、これもそっちの同位存在とおなじよ。そっちの作品でも、好きな[冒険譚]の呪文を異世で構築して再現してるから。あくまで同位存在で、同一人物じゃないって事ね」

ノーラ「……確かに、原作の歩美達が魔法少女なんて考えられないわけだし。あ、かのんは除く」

ハクア「あれもある意味パラレルだけどね。
話が前後するけど、めぐみは自分の中二病、それと心のスキマについて語ってるわね。実際はこれほどはっきり自覚する駆け魂持ちは珍しいわね」

ノーラ「強いて言うなら、小説版の阿倉川紫埜がそれに近いのかしら?」

ハクア「むしろ原作の、結と入れ替わった桂木の方が近いかも。駆け魂の影響はモロに受けてたけど」

ノーラ「要は、二人を足して2で割ったカンジなワケね」

ハクア「ありきたりな表現だけど、確かにそうね。
それで例の呪文を使って攻撃、更に別の呪文で防具へのダメージと足止め。そこをプロセルピナが攻撃を入れて、防具を破壊。その後、魔法少女達の怒濤のラッシュになるわけだけど。ここでまた、プロセルピナの秘密に関わるセリフが出てるわね」

ノーラ「[偽・証の鎌]ね? なんか、ほぼ確定ってカンジなんだけど?」

ハクア「あ、ホラ、形だけなら私達だって、羽衣使えば出来るわけだし!」

ノーラ「ま、そういう事にしといたげる。それでフィニッシュに、[メルクリウス]の必殺技の魔法陣が炸裂するけど、設置が地面に対して縦方向。理屈の上では可能だけど、人間の、しかも子供が発想するとはねぇ」

ハクア「あー…。本編には書かれてないけど、それは、メルクリウスの方がアドバイスしたのよ」

ノーラ「ああ、それなら納得ね。[メルクリウス]…って言うか、歩美にはそんな発想ムリっぽいもんねぇ」

ハクア「彼女には悪いけど、確かにね。因みにこの設置方法は元ネタがあって、【GS美神】の外伝読み切り、【GSホームズ】に立体展開した魔法陣が出てたらしいわ」

ノーラ「なんだ、パクリか。少しは作者を見直したのに」

ハクア「まあまあ。とにかくこれで、はぐれ魂を勾留。更に、満足しためぐみも心のスキマが埋まって駆け魂が飛び出し、これも勾留。一応、丸く収まったって訳ね」

ノーラ「……ねえ。なんかこの娘、心のスキマが埋まったら駆け魂が出るって、知ってるみたいな素振りね?」

ハクア「ああ、それは一応、駆け魂…ヴァイスは心のスキマに入り込むっていうのはある程度知られるようになってて、そこからめぐみは、そのスキマが埋まればヴァイスを追い出せるのでは、という憶測を立ててたのよ。
因みに、めぐみは学年トップ、尚美は2位の成績ね。五段階評価だと二人とも、桂木や天理、栞と同じ[5]になるわ」

ノーラ「それって桂木を基準とした五段階評価でしょ? バケモンクラスじゃない。しかも例によって、クセ強いし。尚美は常識人っぽいけど」

ハクア「いや、そうでもないんだけど、そこまで書いたら収拾つかなくなるから書かなかっただけよ。
それはともかく、翌日になって桂木とえりに報告したんだけど」

ノーラ「ドクロウ室長って原作だと、表向きはアレなのよね? よくあんな意見通したわね?」

ハクア「それはこっちの室長がどちらでも問題ないわ。もしアレじゃなければそのままの理由での進言だし、アレだった場合でも、派遣されたヴィンテージ達が身勝手な行為をして立場を悪くするのを抑える、という名目で進言していたわ。あくまで表向きの立場だから、本音は前者だけど」

ノーラ「どちらにしても、相変わらずの策謀家って事か。あーヤダヤダ。よくそんなめんどくさい事考えるわよねぇ」

ハクア「まあまあ。室長の性格もあるだろうけど、中間管理職は色々と大変なのよ」

ノーラ「極東地区室長が中間なのかはビミョーだけど、肝に銘じとくわ。出世は一気に駆け上がって、面倒事は下に押し付ける立場になってやる」

ハクア「全く、あなたらしいわね…。さて、今回はこんな所…って、文字数4000前後!? 最長記録って言うか、短めの小説1本分じゃない!」

ノーラ「拾うところが多かった上、説明にも結構文字数割いてたからねー。言い逃れは出来ないけど」

ハクア「やめてっ! 作者のライフはもう0よッ!」

ノーラ「ハクアにそんなセリフを吐かせてる段階で、反省してないわねー」

ハクア「……確かに。まあ、いいわ。
それでは皆さん、こんな情けない作者を生暖かい目で見守って、次回もまた見てくださいねー」

ノーラ「……最後にさらっと毒吐いたわね」
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