七香の中のヴァイスを討伐してから二週間ほど経ち。
ただ、そのために多くの人々に目撃され、あっという間に魔法少女の噂が広まってしまうという、天理にもディアナにも嬉しくない状況になってはいたが。
そんな訳で、今朝の教室では天理が疲れた顔をして、小さく溜息を吐いたりしていた。
(……魔法少女の噂、収まってくれないものでしょうか?)
ディアナが心に直接語りかける。天理は心の中で言葉を返す。
(多分、もう無理だよ。それこそ数ヶ月は何もしないとかじゃないと。でも、今更そんな事しないよね?)
天理が問いかけると、ディアナは一瞬言葉に詰まり。
(……そう、ですね。ヴァイスの気配を感じたなら、やはり何とかしたいと思ってますから)
(それは、私だって同じだよ)
どちらかといえば受動的な天理だが、七香を助けたことで普段より能動的な思考になっているようだ。
(……まさか天理から、その様な意見を聞くことになるとは)
(……確かに私らしくないけど、ちょっとヒドいと思うよ?)
さすがの天理も、ほんのちょっとだけご立腹だった。
昼休み。食事(外パン)を食べ終えた天理が向かったのは校内の図書館。少し舞嶋の歴史を調べようと思い立ったのだ。
中に入ると。
『うう~っ! か、かっこいい…。ま、真っ赤です!
消防車…。今の時代はこんなものが闊歩してるんですね…!』
遠くの方からそんな声が聞こえてくる。
(……なんだろ?)
少しばかり気になる天理だが、関わり合いになると面倒なことに巻き込まれそうだと思い、無視をして資料を捜すことにした。
(ところで天理。どうして舞嶋の歴史を調べようと思ったのですか?)
(うん…。ディアナ達が封印してた悪魔の魂、あれって人間も関与してたんだよね?)
(はい。私達が人柱となって
ディアナの返答を聞いてから、天理は答える。
(……もしかしたらその話が、伝承みたいなもので残ってないかなって思ったんだ。ディアナ達が封印してから後のことは、さすがにわからないよね?)
(なるほど。確かに結界の外で何があったかは、天理と出会ったあの時までは一切わかりませんね)
天理の説明に、ディアナも納得した。そうとなれば早速と、カウンターへ尋ねることにする。しかし。
「……」
「……」
カウンターの向こう側に座る図書委員の少女は、一冊の小説を熟読していた。それでも声をかければすむことなのだが、コミュ症の天理はより一層躊躇ってしまい。
(……自分で探そう)
(天理…)
結局声をかけることは諦め、そんな天理を情けなく想うディアナだった。
それでも、目的の物が郷土資料に分類されることはわかっていたため、比較的早くに、目的に見合った資料を発見することが出来た。
「【舞嶋の神話・伝承】…。子供向けだけど、これくらいの方がわかりやすいかな。ええっと…、帯出可だね」
それを確認した天理は、再びカウンターへと向かい。そこで目にしたものは。
『す、すみませーんっ!』
『……!?
……
……
……何か、用でござるか?』
『……ござる?』
『……!!』
遠目に見ながら、天理は思う。
(なんか、親近感が湧くなぁ)
(……天理と同類みたいですね)
ディアナは半ば呆れながら突っ込んだ。
『消防車が載ってる本、他にないですか?
…………あの?』
『……ほ、放課後に、来てください』
『ほうかご? 放課後ですか?』
そう言って消防車少女(仮)が詰め寄るように尋ねた、その時。
ドロドロドロドロ…
消防車少女(仮)の髪飾りが、おかしな音を響かせ。
(天理。図書委員の娘から、古悪魔の気配がします)
ディアナがすまなそうに、天理に告げるのだった。
放課後。図書委員の少女と消防車少女(仮)がどうなったのか気になり、図書館へとやってきた天理。中に入り、カウンターへと向かうと、そこには。
(……えっ?)
消防車少女と後ろ姿の男子生徒、そしてその前に、山ほどの本を台車に積み上げ現れた、図書委員の少女。図書委員の少女は本について説明を始めた。
(458冊…)
(とんでもないですね。……ですがこれも、古悪魔の影響かも知れませんね)
(あ、そうか。ヴァイスのせいで異常な…え?)
(天理?)
突然戸惑いを顕わにする天理。その視線の先には、一冊の本を手に取る、男子生徒の横顔が。
(……桂馬、くん?)
その翌日、天理とディアナは図書委員の少女に接触しようとするものの。
『全部スキャンしちゃえば、本なんか全部捨ててしまえるよ』
『ば…ばかぁー!』
更に翌日。
『訂正もすぐ出来ないなんて、本はやっぱり前時代的だな』
『あ…あほぉおぉ!』
もうひとつ翌日。
『視聴覚ブースなんて出来たら、あなたみたいな人ばかり来て、私の図書館が…。
ずわー! 私…!!
思ってる事と話してる事が逆になってる!!』
『ボクの本…』
駄目押しに翌日。
『ボク、桂木桂馬だ』
『……し…汐宮栞…ですが…』
といった感じで、中々接触が出来ないでいる。唯一の有益な情報と言えば、たった今、図書委員の少女の名前が[汐宮栞]と判明したことくらいか。
(それにしても、あの男はなんなのですか。ことごとく私達の邪魔をして。……そう言えば、天理はあの男を知っているようでしたが?)
(……うん、知ってるよ。彼は桂木桂馬くん。私の、幼馴染みだよ)
そう言った天理は、懐かしむような表情を浮かべる。もちろん、天理の中にいるディアナには知るよしもないが、それでもその感情は感じとっていた。
(……天理?)
(……ううん。何でもない。それより汐宮さんをどうするかだよ)
(……取り敢えずは、明日も来てみましょうか。確か[視聴覚ブース]設置のための作業があったはずです。上手く潜り込めれば…)
ディアナの提案に、渋い顔を作る天理。
(出来たら、あまり多くの人と、接触したくないなぁ…)
(……また、噂が広がりますからね)
(うん)
一気に憂鬱な気分になる二人(?)だった。
そして翌日、事件は起きた。天理が舞校の図書館までやって来ると、館内に入れない図書委員達の姿あった。何事かと思っていると。
『しおりー? こらー、汐宮ー! 開けろー!!』
左右に分けたお下げ髪の、眼鏡の少女が声をあげる。そうして理解をする。
(汐宮さん、図書館に籠城しちゃった?)
(その様です。これも、古悪魔の影響なのでしょうか)
予想外の事態に、ディアナは頭を悩ませる。
(と、取り敢えず、入れる場所がないか、探してみよう)
天理は提案をしてから、図書館の周りをぐるりと巡ってみる。考えることは皆同じだったようで、図書委員のメンバーも手分けをして、入れそうな場所を探しているのが遠目にも確認できた。しかし同時に、成果が無いのも見て取れる。
やがて図書委員達は、正面入口前に戻っていった。
(……仕方がありません。屋上に穴でも開けて、強引に潜入しましょう)
(気が進まないけど、しょうがないかぁ。……ディアナ、念のためにマジカルディアナの格好になって。もし見つかったら拙いから)
(それもそうですね。では)
そう答えると天理の身体が輝きだし、それが収まると天理とディアナは入れ替わり、衣装も魔法少女のものになっていた。
ディアナは軽くしゃがみ込むと。
「はっ!!」
気合いと共に跳躍する。そして目的のとおり、図書館の屋上へと着地した。
「あわわっ!? ど、どなたですかーっ!?」
突然かけられた声に視線をあげるディアナ。するとそこには見覚えのある顔があった。
「貴女は、消防車少女!?」
「しょ、消…!? ええっと私、桂木エルシィって言います」
「……桂木?」
ディアナは呟くと、エルシィの横に空いた大きな穴を見る。
「どうやらまた、桂木桂馬さんに先を越されたようですね」
「ええっ! 神にーさまをご存知なんですか!?」
「神にーさま?」
ディアナは訝しむが、すぐに思考を切り替える。
「それはともかく、古悪魔を退治するため、私もこの穴を利用させてもらいます」
「こ、古悪魔の退治!? あ、あなたは一体!?」
「……私は、マジカルディアナ」
それだけ答えると、ディアナは穴の中に飛び込んだ。
ディアナが本棚の上に着地し、辺りを見渡したその時。突然館内の電気が消え、厚手のカーテンで外光を遮断していたこともあり、穴から差し込まれる光の下にいたディアナの周辺以外はかなり暗くなる。
一瞬、エルシィが何かをしたのかと疑うが。
(多分、図書委員の誰かがブレーカーを落としたんだよ。そうすれば、電子キーの暗証番号がリセットされるはずだから)
(なるほど。そういう事ですか)
天理の推測に納得する。とは言えそうなると、それほど間を置かずに図書委員達が突入してくるだろう。それまでには何とかしなければと、古悪魔の放つ瘴気を辿って行き。
(見つけ…え?)
その現場を見たディアナは、思わず絶句する。
『ボクは、
栞は今、本を守りたいのか? それとも、外の世界からの逃げ場所を守りたいのか?』
崩れ落ちた本の中で語る桂馬。その言葉は、今の栞の心の本質を突いている。後から覗き見ているだけのディアナでさえそれが感じ取れ、思わず黙り込んでしまったのだ。
桂馬が突きつけた言葉が頭の中を駆け巡り、やがて諦めそうになる栞。しかし桂馬は彼女の腕を引き。
『……勇気、あげるよ』
そう言って、栞と唇を重ね合わせる。
(!!)
(!?)
その光景に、天理とディアナは息を飲んだ。だが驚きは、それだけでは終わらない。次の瞬間には栞の体から、ヴァイスが飛び出したのだ。
その光景を見た一瞬の後、ディアナは冷静さを取り戻す。
「まさか、彼女の心の隙間が埋まったのですか?」
ぼそりと呟くが、そこは静かな図書館の中。桂馬が反応をして振り向いた。
「お前は誰だ? ……いや、その取って付けたような魔法少女コス。そして今の発言。お前が噂の魔法少女か」
あっさりと結論を導いた桂馬に驚きはするものの、ディアナは平静を崩さない。
「……桂木桂馬さん。貴方こそ何者なのですか?」
「……そうだな。お前と同じで駆け魂…ヴァイスだったか。それを追い出し捕らえる者だ。ボクは追い出す方担当で、やらされてるだけだが」
最後に愚痴が入る。
「……彼女、汐宮さんはどうなったのですか?」
桂馬の横で気を失っている栞を見て、質問をするディアナ。
「ヴァイスを追い出した後は、ボクが攻略した記憶は消されるらしい」
「そうですか」
桂馬の言葉から、簡単な概要程度だが状況を理解したディアナ。と、そこへ。
「神にーさまー!」
「エルシィ、遅いぞ! さっさと現状復帰して退散するんだ! 早くしないと図書委員の連中がやって来るぞ!!」
「あわわわ~! わ、わっかりましたぁ!! 羽衣さん、お願いしまぁす!!」
慌てて号令を出すと、エルシィが纏っていた羽衣がテキパキと本を片していく。その様子を見たディアナはひとつ息を吐き。
「それでは、私は退散させていただきますね」
「あ、マジカルディアナさん」
「おい。手伝っていかないのか?」
桂馬はその様なことを言うが、その表情には特に批難の色は見えない。
「今回、私は何もしてませんので」
「それもそうだな」
やはり予想していたのか、桂馬はあっさりと引き下がった。
「それでは失礼します」
そう言ってディアナは立ち去るのだった。
屋上から飛び降り、気付かれないように近くの繁みに身を隠すディアナ。そして天理と入れ代わる。が。
(……天理?)
茫然としたままの天理に声をかけるが、反応がない。
(天理!)
「ふぇっ!?」
ようやく気が付き、びっくりする天理。
(どうしたのですか、天理。心ここに在らずですよ?)
「あ…。ううん、何でもないよ。うん。何でもない…」
そう答える天理の、気持ちのモヤモヤに気付きつつも、ディアナは何も言い返すことはしなかった。
えり「桂木えりと…」
桂馬「桂木桂馬の…」
えり・桂馬「「あとがき代わりの座談会コーナー☆出張版!」」
桂馬「……って、2話目にしてようやくボク達の出演か」
えり「いちおー前回の、【マジカルディアナ】の方の座談会コーナーで、再現映像…文章?としては出てましたけどねー」
桂馬「一々【マジカルディアナ】の、とか【めがみ~な】の、とかつけるのは面倒くさくないか? ……あ、いやいい。座談会が長くなるからさっさと進めよう」
えり「ですね。では最初は…、栞さん攻略編ですねー」
桂馬「有言実行、しっかり話を飛ばしたな」
えり「え? どういう事ですか?」
桂馬「もちろん、美央とかのんの攻略…ではなく、地の文にあった『校外の女性』も本来ストーリーとして存在してたんだ。まあ、随分前に考えてたから、どういう展開にするかは忘れたらしいが」
えり「意味ないですね、それ」
桂馬「それはともかく、天理が図書館に行くんだが…。見つけた資料が[舞嶋の神話・伝承]だ」
えり「それって、【めがみ~な】の私が見つけた[舞島の神話・伝承]の舞嶋バージョンですね」
桂馬「もちろん書かれてる内容も若干違うが、それはいずれだな」
えり「その後は、天理さんが栞さんと接触を図りますけど…。にーさまが邪魔してますね?」
桂馬「と言うか、原作通りの展開なだけだ。むしろ、天理が邪魔をしなくて良かったと見るべきだな」
えり「そして栞さんの攻略完了して、ディアナさんと接触ですね」
桂馬「まあ、ボクの置かれた状況を手短に説明しただけだが」
えり「あとあと、原作で図書委員の皆さんがやって来た時、部屋が片付いていた理由もオリジナル設定で書いてますよ」
桂馬「それはそうだが、あんなのエルシィ…と言うか、羽衣さんの手助けがなきゃ、あんな短時間には出来ないだろ、普通」
えり「まあまあ、にーさま。いちおー作者さんが疑問に思って出した答えなので。
……ところでディアナさんは、天理さんの気持ちに気付いてないんでしょーか?」
桂馬「いや。作者曰く、ボクが幼馴染みだとディアナに語ったときに、愛の力は感じているらしい。だが、ボクと栞とのキスを目撃した手前、あまり深くは突っ込めなかったみたいだな」
えり「あ。天理編が無いから…」
桂馬「そういう事だ」
えり「とんでもないバタフライエフェクトですねー。
……ええと、大体こんなもんでしょうか?」
桂馬「ちょっと待て。終わらせる前に、サブタイトルについてだが」
えり「サブタイトル、ですか?」
桂馬「うむ。前回は、【機動戦士ガンダム】のパロディだと気付いた人も多いはずだ」
えり「ある意味、定番のネタですもんねー。あ、それじゃあ今回も、何かのパロディなんでしょうか?」
桂馬「ああ。わからない人も多いだろうからここで言うが、新井素子の小説【……絶句】からだ。本当は5点リーダーだが変換できないので、6点リーダーにしてる。
それはともかく、原作の栞編サブタイトルは新井素子の小説のタイトルが使われてるので、こちらでもそれに倣って付けたというわけだ」
えり「そういう事ですか。確かに、元ネタ知らないと意味ないタイトルですねー」
桂馬「さて。これで本当に終了だな。結局あとがきだけで、1000文字超えたし」
えり「この作者さんですからねー。
では皆さん。次回は【めがみ~な】の方になると思いますが、また見てくださいね」
桂馬「次回もロード、忘れるなよ?」