神のみスピンアウト・魔法少女めがみ〜な   作:猿野ただすみ

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女神の名前、魔法少女の方は地の文の場合、[]で囲んで区別することにしました。過去の作品も既に修正済みです。


悪魔7・月と女神とはぐれ魂

日曜日の怒濤の説明会から三日後、週の真ん中、水曜日。いつもの学校のいつもの教室で。

 

「ねえ、アンタら、何かあったん?」

「……え?」

 

ぼーっとしていた歩美は、話しかけられたちひろへの返事が遅れてしまう。

 

「ほら、ボーッとして人の話も聞いちゃいない。

それにえりだって」

「え? 私がどうかしましたか?」

 

席に戻ろうと移動していたえりは、いつもと変わらない調子で返事をする。が。

 

どがしゃあん!

 

ちひろへと視線を移した瞬間、机の脚に自分の足を引っかけて盛大にコケてしまった。

 

「ほら、えりのドジっ子属性がいつもよりも激しいし」

「ちひろさ~ん、少しは心配して下さい~」

 

したたかに打った顔を押さえながら、文句を言うえり。一方、歩美は。

 

「ちひろ。属性って、まるでゲーマーみたいだよ?」

「うえっ、冗談でもンなこと言わないでよ」

 

本気で嫌がるちひろに、軽くため息を吐く。

 

「そうですよ、歩美さん。じゃないと、にーさまが本気で怒りますよ?」

「えりは兄貴目線かよ!」

 

えりにツッコミを入れるちひろ。

 

「まあ、確かにゲーマーなら、『現実の女と一緒にするな!』とか言いそうだねー」

 

歩美が気のない答えを返すと、ちひろがおや、という表情をする。

 

「歩美って、ゲーマーとそんなに親しかったっけ?」

 

最初、ちひろの言ってる意味が分からなかった歩美は呆けた顔をしていたが、すぐに理解して苦笑いを浮かべる。

 

「あー、違う違う。最近知り合った子がゲーマーと幼馴染みでね。

日曜日にその子の家に行ったらゲーマーも呼んでてさ、もう、散々だったよ」

 

手をパタパタ振りながら言う歩美を見て、ちひろはフム、とうなずき。

 

「よーわからんけど、ふたりの様子がおかしいのはそれが原因かぁ」

「えっ、ちょっとちひろ!」

「どうしてそーなるんですか!?」

 

ちひろの発言に驚くふたり。ちひろはキョトンとして。

 

「違うの?」

「えっと、いや…」

「そのとおり、ですけど…」

 

ふたりは歯切れ悪く答える。

 

「あーもう、煮え切らないなぁ!

お昼休みにでも、ふたりで話し合いなよ」

「いや、別にケンカしてるわけじゃ…」

「だったらなおさらだよ! ケンカもしてないのに余所余所しいなんて、よっぽどのことじゃんか!」

(余所余所しい…。そうか、ちひろにはそう映ってたんだ)

 

歩美はそんなつもりはなかったのだが、ちひろからはそのように見えていたのだと気がついた。それはえりも同様である。

 

「……分かりました。

歩美さん、お昼休みに屋上に行きましょう!」

「えっ、あ、うん…」

 

えりの、気持ちの切り替えの早さに戸惑う、歩美だった。

 

 

 

 

 

お昼休み。歩美とえりは無言のまま、校舎の屋上へと向かっている。

 

(うう、なんか気まずいなぁ)

 

心の中で呟きながら、歩美は階段を登っていく。

登り切った先にある扉を開けて踏み出すと、転落防止の金網の先に、舞島の町並と海が一望できる。

しかし今の歩美は、景色を楽しむような気にはなれなかった。

 

「え、えーと、えり?」

 

取り敢えず声をかけてみるものの、そのあとが続かない。すると、えりの方から語りかけてきた。

 

「歩美さん。私の考え、どう思いますか?」

 

これは日曜日、ハクアに対して言い放った事だろうと、今の歩美にはすぐに判った。何しろ、今のふたりがギクシャクしてるのは、えりのあの口上が原因なのだから。

別に歩美に向かって言われたわけではないが、えりの意外な一面を見たような気がして、どう会話していいのか分からなくなってしまったのだ。

えりに至っては、思わず強く言ってしまったことに軽い自己嫌悪を抱いている状態。それ故に行動が空回りをして、いつも以上にドジな場面を引き起こしていた。

 

フゥ…

 

歩美は軽く息を吐き。

 

「はっきり言って私、すごく驚いたんだ。えりがあんなこと言うなんて、思ってもいなかったから」

「……」

「でも、すごくえりらしいとも思ったよ。友達のために、あそこまで言えるんだもん」

「歩美さん…」

「私は魔法少女だからえりのお手伝いは出来ないけど、気持ちはえりと同じだよ。

えりは、何も間違えてなんかないよ!」

 

歩美の力強い励ましに、えりはうっすらと滲んだ涙を袖で拭き、満面の笑顔を浮かべ。

 

「ありがとうございます。歩美さん!」

 

力強くお礼を述べた。

 

『……私も、歩美と同じ意見だよ。理由は違うけどね』

「えっ、メル?」

「メルクリウスさん?」

 

髪飾りからの声に、驚くふたり。

 

『今の私たちは、人間の力を借りなければその力を振るうことはできない。

だけど本来、人間を巻き込むのは私たちの本意じゃないんだよ。だから…、汐宮栞を庇ってくれるのは、嬉しくもあるんだ。

……まあ、困ったことでもあるんだけどね』

「メル…」

 

ふだんはあまり、やる気が感じられないメルクリウス。そんな彼女が、僅かながら語ってくれた本音は、だからこそ真摯に受け止めなければならないと、子供心ながらに思う歩美だった。

 

 

 

 

 

「……歩美さん、教室に戻りましょうか」

「うん、そうだね」

 

歩美とえりは憑きものが落ちたかのように、いつもと変わらぬ雰囲気になっている。

 

(これは、ちひろに感謝だね)

 

そんなことを考えながら、扉の取っ手に手をかけようとした、その時。

ガチャリ、という音と共に扉が開き、ひとりの少女と鉢合わせする。

その子は金髪でウェーブのかかったロング。背は歩美たちよりやや低い。

しかしそれよりも目立つのは、その腕に抱えられた、大きな西洋人形だろう。正確に種類が分かるわけではないが、なかなか高価なものだと思われる。

歩美とえりは、思わずその子に見入ってしまった。

 

「……そこを、退()いてもらいたいのですね」

「あっ、ごめん!」

 

少女の進路を塞ぐ形で立っていた歩美は謝りながら、慌てて横へ避ける。

少女はお礼も言わず、そのままスタスタと通り過ぎていった。

一瞬。

歩美には少女の頭から、何か紐状のものが伸びているように見えた。

 

 

 

 

 

「あー、その子なら多分、2組に転校してきた『九条月夜』だと思うよ」

 

教室に戻った歩美がちひろに尋ねると、そんな答えが返ってきた。

 

「『大きな人形を持ち歩く変わった子』って、結構有名だよ?」

「へー、そうなんだ」

 

ちひろの情報通に、感心しながら応える歩美。

 

「あの、月夜さんはクラスに溶け込めているんでしょうか?」

「え? どういうこと?」

 

えりの発言に、歩美が聞き返した。

 

「先程の屋上でのことですけど、月夜さん、歩美さんに対してかなりツンツンした態度を取ってましたよね?

それに歩美さんが退()いたあとも、お礼もなにも言わずに通り過ぎていきました」

「んー、確かにそうだったね」

 

歩美も月夜の態度を思い浮かべて頷く。

 

「月夜さんは、自分ひとりの世界にいることを望んでるのかも知れません。まるで…」

「……まるで?」

「あっ、いえ、何でもありません!」

「?」

 

慌てるえりを疑問に思うものの、歩美は深く突っ込まなかった。

 

ガラララ…

 

「ほらみんな、午後の授業を始めるわよ」

 

藤村先生が教室に入ってきた事で、歩美たちの会話は終了した。

 

 

 

 

 

再び屋上。そこには教室へ戻らず、空を見上げる月夜の姿があった。

 

「……月は、美しいのですね」

 

空に浮かぶ月を眺めながら、月夜は呟く。

 

(それに比べて、どうして人間はあんなに醜いのかしら)

 

月夜は自分の両親を思い浮かべた。

彼女がこの学校へ転校してきた理由。それは夫婦仲の不和による別居。

月夜は母親に連れられ、実家のあるこの町へとやって来たのだ。

 

「私には、他人なんて必要ないのですね。私の世界には、ルナと月さえあればいいのだわ」

 

そう言いながら、人形を強く抱きしめる。

その時。人形(ルナ)の瞳が怪しく光ったことに、月夜が気がつくことはなかった。

 

 

 

 

 

それは突然だった。本当に、気がついたら消えていたのだ。高原歩美が。

当然、教室は騒然となった。藤村先生がみんなを落ち着かせようとはするものの、先生自身も軽いパニックを起こしている。

そんな時。

 

「もしかして、ヴァイスの仕業…?」

 

そう、えりが呟いた。

 

「ヴァイスって、私に取り憑いたり1組の事件を起こした、アレだよね?」

「はい。こんなこと出来るとしたら、ヴァイスくらいじゃないかと…」

 

聞き返すちひろに、答えるえり。

 

「ちょっと、それって大変じゃないの!」

 

ふたりの話を聞いていた先生が慌てるが、えりは冷静に返す。

 

「大丈夫ですよ。きっと魔法少女さんたちが、何とかしてくれます」

 

 

 

 

 

この異変は1組でも起きていた。その対象はもちろん。

 

「どうしよう、天理ちゃんが…」

 

1組の担任、あおい先生が、鮎川天理が忽然と姿を消すという想定外の状況にアタフタとしている。すると。

 

「オタオタしてないで、さっさと授業を進めたらどうだ?」

 

桂木桂馬がゲームをしながら、先生に授業の進行を促す。

 

「ちょっと、桂馬くん。それは無いんじゃないかなー?

天理ちゃんがこの間みたいなことに、巻き込まれているのかもしれないし」

 

先生は桂馬を諭すように言うが、それに異を唱えたのは別の子だった。

 

「それなら、なおのこと大丈夫ですわ。

きっと、魔法少女が助けてくれますもの。私のときと同じように」

 

それは、白鳥うらら。駆け魂に取り憑かれ、ふたりの魔法少女に助けられた少女だ。

 

「桂馬ちゃんも、そう思いますわよね?」

「……まあ、な」

 

桂馬は答えたあと、心の内で、

 

(その天理が、魔法少女なんだけどな)

 

そう洩らした。

 

 

 

 

 

ドロドロドロドロ…

 

屋上に駆け魂センサーが鳴り響く。しかしそこにいたのは、エルシィただひとり。

 

「これは、どういうことなんでしょうか?」

 

状況を把握できないエルシィは、ただオロオロするばかり。

すると、右手に持っていた『女神のオーブ』が輝き。

 

『これ、たぶん結界だよ』

 

そう言ったのは、ミネルヴァだった。

 

「結界、ですか?」

『うん。自分の心のセカイをこのセカイにシンショクさせたんだと思う。

ヴァイスのいる子は、心がつくりあげたセカイにいると思うけど、結界の中に入るのはかなりギジュツがいるよ』

『フム。こうなると、汐宮栞と契約できなかったのが悔やまれるのう。

あの娘と波長が合ったのは、ミネルヴァじゃったからの』

 

などとアポロが言うが、他校の生徒である栞を今、ここに連れてくることは難しいことに、気づいていないようだ。

 

「うう~…。

あっ、そうです! メルクリウスさんの力を借りれば…!」

 

いいアイデアとばかりに言ったエルシィだったが。

 

『残念だけどメルとディアナ姉さまは今、歩美たちの相手をしてるよ』

「はえっ?」

『高原歩美と鮎川天理は、この結界に閉じ込められているようだ』

 

マルスのセリフに間抜けな返事を返したエルシィ。そんな彼女に、ウルカヌスは説明を始める。

 

『ふたりとも天装を纏っていないとはいえ、僅かながらも魔法少女としての恩恵は受けている。

故に、本来なら弾かれるはずの結界内に取り残されてしまったのだろう』

「そ、それじゃどうすればいいんですか。新しい魔法少女候補の方の反応、()()()()()()()()()()()?」

『む、うむ…』

 

そう。エルシィがここへ来たのは駆け魂の反応があったからではなく、魔法少女候補の反応があったから。

そもそも駆け魂センサーはそれほど性能がいいわけではなく、広域モードを使ったとしても、あまりにも離れた場所からは感知することが出来ないのだ。

 

「それなら、私が連れて行ってあげる」

 

後ろからかけられた声に、思わずビクリとするエルシィ。彼女がゆっくりと振り返ると、そこにいたのは…。

 

 

 

 

 

「……それじゃ、この原因はやっぱり駆け魂なんだね?」

 

歩を進めながらメルクリウスに確認を取る歩美。その隣には天理もいる。

 

『ああ、間違いないよ』

『ここは、ヴァイスの影響を受けた子の心象世界のようですね』

 

ここは、不思議な世界だった。

黒く分厚い雲がかかった空、草木も生えずむき出しになった、ひび割れた大地。しかしその先の一画は、雲にポッカリと穴が開き、月の光が煌々と降り注ぐ緑の絨毯があった。

 

『さあ、ふたりとも。そろそろ変身した方がいい』

「あ、うん。そうだね。

……天理」

「う、うん」

「「天装!」」

 

メルクリウスに促されたふたりは、めがみ~なへと変身する。

 

「さあ、急ごう!」

 

そう言って差し出された手を、[ディアナ]はしっかりと握り。

 

「全速力、いっくよー!」

 

[メルクリウス]は[ディアナ]の手を引き、一気にトップスピードへと達した。

 

 

 

 

 

「ああ…、やっぱり月は、美しいのですね…」

 

草の絨毯に仰向けに寝転びながら、月夜が呟く。しかしその瞳からは、意思というものが感じられない。

と、そこへ。

 

「月夜さん!」

 

[メルクリウス]と[ディアナ]が駆けつけた。しかし[メルクリウス]の呼びかけに、月夜からの反応は全くない。

 

「これって、ヴァイスの影響で…?」

 

疑問の言葉を口にして、[メルクリウス]は草の絨毯へ一歩足を踏み出す。すると。

 

カタタッ

 

月夜の人形が宙に浮き、[メルクリウス]たちに向かって突進してきた。

ふたりは慌てて避けるが、人形は再び突っ込んでくる。

 

「このぉッ!」

 

[メルクリウス]は拳に魔力を込めて反撃をしようとするが。

 

「駄目っ!」

 

[ディアナ]が飛びつき、押し倒すような形で人形をやり過ごす。

 

「駄目、だよ。あの人形は、あの子の大切なもの、なんでしょ?」

「あ…」

 

[メルクリウス]、いや、歩美は、人形を大事に抱える月夜の姿を思い出した。

 

ビュン!

 

またもや襲いかかる人形を躱しながら、[メルクリウス]は。

 

「それじゃあどうしろって言うのよっ!」

 

そう叫ぶ。

---この場に桂木桂馬がいたら、きっとこう言っていただろう。その発言はフラグだと。

 

ギイッィィィ……ン!

 

突然の耳をつんざくような音と共に、空間の一部が歪み、そこからふたりが見知った顔が現れた。

 

「エルシィさん!」

「あっ、メルクリウスさん! ディアナさん!」

 

そう、エルシィだ。

返事を返すエルシィの元へ駆け寄るふたり。すると人形はピタリと攻撃をやめる。

訝しんで周りを見回し、気がついたのは[ディアナ]だった。

 

「もしかしたら、草の生え際が境界線なんじゃ…」

「言われてみれば…」

 

襲われたときの状況を思い出し、[メルクリウス]は成る程と頷く。

 

「そこは彼女が自身の心を守るための不可侵領域(テリトリー)。ヴァイスはそこにつけ込んでるの」

「え…?」

 

エルシィの、さらに後ろから聞こえた声に視線を移し、[メルクリウス]は驚きの表情を露わにする。

 

「あなたは、プロセルピナさん!」

 

そう。そこにいたのは、うららの時にアドバイスをくれた謎のお姉さんだった。

 

「プロ、セルピナ…さん?」

 

一方、[ディアナ]は戸惑った表情で呟いたが、それ以上は何も喋らない。

 

「今は私のことより、彼女の方が重要だよ」

「そ、そうです! 『女神のオーブ』によると、あそこにいる方が次の魔法少女候補なんです!」

 

エルシィの説明を聞き、イヤな顔をする[メルクリウス]。

 

「また、魔法少女候補の子にヴァイスが入ってんの!?」

 

しかしプロセルピナは首を横に振り、そして言った。

 

「ヴァイスは、彼女の中にはいないよ。ほら、よく見て」

 

みんなは人形と月夜を注視する。するとプロセルピナが言った意味をすぐに理解した。

 

「月夜と人形が、変なヒモみたいなので繋がってる?」

「……人形に、ヴァイスが取り憑いてるの?」

 

ふたりの意見を聞き、エルシィが思い出して言った。

 

「もしかして、はぐれ魂ですか!?」

「はぐれ魂?」

「はい。本来はさ迷っている駆け魂のことを言うんですけど、取り憑かずに悪さをしたり、あるいは物に取り憑いて行動するモノも、はぐれ魂と言うことがあります」

「つまり…」

 

[メルクリウス]は人形に視線を移しながら。

 

「人形に取り憑いたヴァイスが、月夜をどうこうしてる、みたいな感じなの?」

「そんな感じ、ですかね?」

 

ボキャブラリーの足りない質問をし、エルシィが微妙な答えを返す。

 

「でも、中に入ったら人形が攻撃してくるし、だからといって反撃するわけにもいかないし」

「……あの人形、結構速いから、ヴァイスを追い出すのも難しいと思うよ」

 

どうしようと悩む魔法少女たち。

 

「……それなら、女神に頼めばいいよ」

 

そう言ったのはプロセルピナ。

 

「あ…?」

 

エルシィからひょいとオーブを奪い取ると、彼女はひとりの女神に話しかける。

 

「彼女を助けられるのは、多分あなたしかいない。お願いできますか、ウルカヌスさん?」

 

するとオーブが輝き。

 

『……お主には聞きたいこともあるが、今はそれどころではないな。

分かった。月夜の事は、私に任せるのだ』

 

ウルカヌスがそう答えるとオーブは一層輝き、一条の光が月夜へと照らされる。

 

 

 

 

 

『月夜、聞こえるか?』

 

---私を呼ぶのは、誰?

 

『ああ…、私の声は、届いておるようだな。

私の名は、ウルカヌス。天界の女神だ』

 

---女神、さま?

 

『うむ。……月夜よ。其方はどうやら、人間を醜いものだと思っているようだな』

 

---!? どうしてそれを……

 

『そのようなこと、月夜が創ったあの世界を見れば、容易に想像ができる。

枯れた大地に暗雲立ちこめる空。打って変わって、緑生い茂る地に輝く月。

まさに月夜から見た外の世界と、月夜の内なる世界の投影であろう?』

 

---……

 

『しかし人間とは、果たしてその程度の存在なのかな?』

 

---……え?

 

『今、月夜を助けようとしているふたりの娘がおる。しかし、お主の人形が邪魔をして近づく事が出来ぬ。

だが、重要なのはそこではない。何故なら、彼女らの実力なら強引に近づくことも出来るからだ。

では、何故そうしないのか。……それはな、その人形が、月夜が大切にしているものだからなのだよ』

 

---!

 

『確かに人間は醜くもあるが、同時に神をも凌ぐ美しさを見せることもある。

月夜よ。どうか絶望などせず、人の世の美しさを探し出して私にも見せておくれ』

 

---わた、しは…

 

 

 

 

 

ぴくり、と人形が震える。さらにカタカタと震えだし。

 

ばしゅっ!

 

月夜へと繋がっていたヒモのようなモノが弾け、同時に月夜の身体が輝く。

光が治まるとそこには、身を起こし、魔法少女の姿をした月夜がいた。

 

「……ああ、本当に情けないのですね。悪魔ごときに心を弄ばれ、ルナまでいいように扱われて。

ルナは私の大事なお友達よ! 出て行って!!」

 

月夜の叫びに人形は、黒いオーラを吹き出して月夜に向けて襲いかかろうとし、……ピタリと動きを止めた。

 

「ものを操る力は、ウルカヌスの方が上みたいなのね」

 

人形(ルナ)の動きを止めた月夜は[メルクリウス]たちへ視線を移し。

 

「……お願い。今のうちに、ルナから悪魔を追い出して」

 

彼女たちに懇願する。すると[メルクリウス]は、クスリと笑い言った。

 

「そんなの、とーぜんじゃない!」

 

その横では[ディアナ]も頷いている。

 

「いくよっ!」

 

言って駆け出す[メルクリウス]。

 

(……え、身体が軽い!?)

 

先程よりも軽快に動く身体に驚く[メルクリウス]は、魔法少女が増えるごとに能力が上がる、と言う話を思い出す。

[メルクリウス]は以前よりも速く、されど身体が流されることもなく、相手を円で囲う。

 

浄化の六芒(カタルシス・ヘキサ)!」

 

光の結界によって、人形に憑いていたヴァイスは強制的に弾き出され。

 

結束の矢(バインド・アロー)!」

 

[ディアナ]の矢によって動きを封じられ。

 

「勾留ビンッ!」

 

エルシィに勾留されるのだった。

 

 

 

 

 

ヴァイスが勾留されると、月夜の心理世界は崩壊してゆき、その景色は学校の屋上へと変わっていった。

 

「ようやく戻ってきたか」

「みなさん、無事でよかったです~」

「えっ、ゲーマーとえり!?」

「桂馬くん…」

 

なんと屋上には、桂木兄妹(きょうだい)が待機していた。

 

「全くお前たちは、魔法少女もののお約束をしっかり受け継いでるな!」

「別にそんなの、受け継ぎたくも…、ん?」

 

気がつくと、プロセルピナの様子がおかしい。

 

「どうしたの、プロセルピナさん?」

 

[メルクリウス]が声をかけるが、どうも耳に入っていないようだ。そしてプロセルピナは、小さな声で呟いた。

 

「……お兄ちゃん?」

 

と。




月夜「九条月夜…」

ウルカヌス「ウルカヌスの…」

月夜・ウルカヌス「「あとがき代わりの座談会コーナー☆出張版!」」

月夜「って、私の話の時にセッティングするなんて、作者はあざといのだわ」

ウルカヌス「作者があざといのは、出張版2回目で判明しておるがな」

月夜「……まあ、いいのですね。それよりも、解説の方を始めるのですね」

ウルカヌス「うむ。まずは冒頭三人の掛け合いだが、小阪ちひろは使い勝手がいいと作者が重宝しているな」

月夜「使い勝手って、どういうこと?」

ウルカヌス「ちひろは原作において、平凡を体現したキャラクターとして描かれているが、実はそれなりに個性も描かれてもいる」

月夜「口の悪さ…?」

ウルカヌス「それが一番目立つが、それだけではない。
ちひろの個性とは、気まぐれで気分屋、ということだ」

月夜「ああ…。原作の桂馬がちひろを選んだ理由、『思い通りに動いてくれない』に繋がる特性なのね」

ウルカヌス「そう。つまり、どういう行動をとらせても、また、以前と矛盾していても問題ないということだ」

月夜「それは、確かに重宝するのですね」

ウルカヌス「もちろん、ちひろ本来の性格や根幹となる部分、根は優しく女の子らしいところを逸脱するわけにはいかぬのだが」

月夜「それは当たり前なのだわ。
……さて、次はえりについてなのだけど、これほど悩みを引きずるような子だったかしら?」

ウルカヌス「いや、引きずることもあるな。原作の檜攻略の後などがそうだな」

月夜「そ、それはネタバレ…。
ううん、納得したわ。さすがルナなのですね」

ウルカヌス「どうしたのだ、月夜。(ルナ)を生暖かい眼差しで見つめたりして。……まあ、よい。
因みに、メルがえりにかけた言葉は、我々女神の総意と思ってもらってよい」

月夜「ディアナとルナ、ううん、ウルカヌスは真面目な分、特にその思いが強いみたいね」

ウルカヌス「ディアナは、真面目を通り過ぎて生真面目過ぎるが。
さて、次は月夜だが、心のスキマに関して言えば、実は原作と殆ど変わってはおらぬ」

月夜「まだ小学生なのと、心のスキマに取り憑いたわけではなかったから、比較的ストレートな表現で異変が起きたのですね。
そういえばあの結界、うららのものと同質なの?」

ウルカヌス「いや、うららの場合は『こうあったらいい』という、理想の発露。月夜の場合は心理世界の具現化だ。
某作品で言うところの、固有結界だな」

月夜「そういえば、ミネルヴァの説明もそんな感じだったような…。というか作者、所々Fateネタを(はさ)んでいるわね」

ウルカヌス「今は3組の担任の、下の名前も同じにするかで悩んでいるらしい」

月夜「どうでもいいのですね、そんなこと」

ウルカヌス「そして最後は、月夜も私と契約し魔法少女になったことだな。うむ、この様な姿の月夜も美しい」

月夜「やめて、ルナ。別の私でも恥ずかしいのですね」

ウルカヌス「今度、月夜の御母堂に頼んで…」

月夜「それはダメーッ!? そんなの、ルナでも許さないんだからっ!!」

ウルカヌス「う…、そ、それでは仕方がないな」

月夜「もう…。今回はこれで終わりにするのだわ」

ウルカヌス「お、おお。では読者諸君、次回もまた見ておくれ」
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