とりあえず、導入はもう少し…のはず
やられるッ
そう思って身を伏せた。
それと同時に俺の体全体に何かが触れた。
死にたくねぇ
そう思いながら、俺は次に襲ってくるであろう激痛を待った。しかし、不思議と痛みは無かった。
おかしい。
グチャグチャと言う恐ろしい音は聞こえている。なのになぜ痛みがないのか?
俺は恐る恐る目を開く
眼前に映っていた光景に俺は困惑した。
あの狼人間が俺に抱きついている。
ソイツはヒュー ヒューと弱々しい呼吸をしながら何かを呟いていた。恐る恐る耳を傾けてみる。
「ロ…マ ロウ…ァ 朗磨 だいじょぶ…か」
戦慄が走った。この狼人間は俺の名呼びを俺の身を案じていた。心臓がバクバク鼓動を刻む 俺は目の前で起きていることが全く理解できず恐怖と困惑が入り混じって発狂した。
「うっわぁぁぁあ やめろぉぉ 」
叫ぶが狼人間は俺から離れない。
なんとか振りほどこうとするが俺を抱きしめる力は増すばかりである。
瞬間
俺は背筋がツーッと寒くなった。
その感覚正体は、目の前にいる奴よりも恐ろしい存在。俺の視界の奥にいる、佐渡響子の形をした何かの視線だった。
真っ直ぐこちらを見つめている。まるで、子供が興味を持った玩具に向けるような目で
グボンッ
という音が鳴ったのと同時に俺の視界のが真っ赤になった。
生温かい真っ赤な液体が
俺に抱きついていた狼人間の口から腹部から噴水のように溢れ出した。
そして狼人間の頭が俺の胸に落ちる。あれほど振りほどこうとして離れなかった体から力が抜けていくのがわかる。
「朗磨ァ …ニゲロ」
狼人間はその言葉を俺の胸の上で呟くとグッタリと俺に覆いかぶさったまま力尽きそして、二度と動かなかった。
「…ハ ハハッ だれ…誰か 助けてぇ」
動けなかった。逃げたくても、俺に覆いかぶさっている狼人間の死体が予想以上重くなり逃げられない。それ以前にもう体に力が入らない、いや入れられなかった。
そして、
ズブリッ と言う音とともに体を激痛が走り、息ができなくなった。気づけば、奴の腕のような部分が狼人間と俺の胸の部分を貫いていた。
ゴフッ ゴポォ
俺の口から吐瀉物と大量の血が溢れ出る
ニタァ と笑う佐渡響子だったものに、俺は殺されたんだ。
いや、殺されたはずだった。
貫かれた腕が引き抜かれ直後だった。
途端に胸を中心として体全体が熱くなってきた。
何が起きたのかというと、俺の上に乗っている狼人間が突然崩れ始めて俺の胸の傷口に入り込んできたんだ。
そして突然とんでもない激痛が体を走り抜け
朦朧としていた意識はバチッッと覚醒した。
「グガァァァァァァァァァ 」
無意識に怪獣のような咆哮をあげていた。
体が変化してる燃えるような激痛の中それをはっきりと感じた。
体の筋肉が膨張し鉄板のように硬くなる。
髪は伸び、口が変形していき牙が生える。
手はゴツゴツとした岩のようになり鋭い爪がギラギラと光る。
俺はあの日、訳の分からない事態に度々遭遇した。
何も理解することのできない状況の中で、あの時二つだけ理解出来たことがあった。
俺はまだ死んじゃいないって事。
俺があの狼人間となった、そう化け物になった事だった。
最初は理解が追いつかなかったが、自身の姿を見ることでその混乱を受け入れざる得なかった。俺の手はもはや人間の手と呼ぶにはいえないものになっていた。そして、口には耐え難い違和感を感じる。それに、さっきまで着ていた、制服は千切れ飛んでいる。
体が熱い。
そして、ガァァァァァァという獣のような声が自然に出る。そんな咆哮と共に体から力が湧き上がって来る。
目の前の「敵」を倒せ
その本能的な命令が徐々に思考を統一していった。
「カチカチカチカチカチカチカチィ」
佐渡響子の打ち鳴らす歯の音がどんどん早くなってき奴の顔が真っ二つに裂けた。
メキ メキィ ミシ ミシィ と、
アイツの体から音が聞こえ始める。そして、いきなり骨が皮膚を突き破り、奴の体を覆った。
また、顔の裂けた部分から口のようなものが生える。グロテスクな化け物だ。
ただ俺は不思議とその状況に疑問や恐怖は感じなかった。
「キィィィィィィィィィイ」
威嚇の声だろうか。佐渡響子が吠えた瞬間
俺は地を蹴り奴に突っ込んで行った。
奴のヘラのように鋭い腕が俺に向かって振り抜かれる。俺はそれに合わせて思いっきり爪で振り払う。
俺の腕から赤い液体が飛ぶ。しかし、痛みはなかった。逆に奴のヘラ腕が所々ヒビが入っていた。
「キィ?」
奴から間の抜けた声が出た、自分の武器が通用していない?とでも言いたそうな声だった。
俺は追撃の手を休めず、赤い液体に濡れた手で奴の腹をぶん殴る。
メキャァという音ともに、奴の体が湾曲し、
「ビギャァァア」 と奴が叫ぶ
奴はもう一本のヘラ腕で俺の腹を切り裂こうとするが、この狼人間の体は奴のヘラ腕を弾き返す。
そして、奴は敵わないとでも思ったのか、後退し始めた。損壊した腕で陥凹した腹を抑えながら、背中を向ける。逃げる体制に入った。
まるで、その姿はさっきまでの俺自身のようでひどく滑稽だった。
その姿を見て少しずつ
統一されていた俺の思考が回り始める。
「逃すかよ。」
佐渡響子だったものに俺は言う。奴を野放しにはできない、奴がヨコピー達を殺した確証はないが、現に俺は殺されかけた。このまま放って逃したらタダじゃ済まないだろう。
ここで倒す。
俺の中に漠然とした正義感が走り抜け、体より一層力がが入る。
そして、俺は奴の背中に向かって思いっきり突進していった。
「ぶち抜けェェェェェェェェェェェェェ」
叫びながら手を前に突き出し、佐渡響子…いや化け物を貫いた。
「ア゛ ウ゛エ゛エ゛ェェェェェェェェ」
絶叫と共に、やつの体が痙攣した。さらに、貫いた背中から滝のように血が噴き出し俺を濡らす。
ドクゥンッ
手の中に何か動くものが当たる。俺はそれを引きずり出す。心臓だろう。
それを思い切っり握りつぶす。
グシャァという音に混じってパリィンという音が聞こえた。
「ギィィィィィィィィイ 」
奴は、最後の叫びをあげた直後、その場に倒れ二度と動くことはなかった。
終わった…
そう感じた頃には、俺の体は人間に戻っていた。とは言っても、服は千切れ飛んでしまった為、裸のままであった。
頭じゃもう何も考えられない。事実をただありのまま受け止めるしかないんだと、
寒い
そんな意識も感じることが出来ず、俺はもう立ち尽くしていた。
-その現場近くで-
雨の中、廃工場近くの森の中に、赤い頭巾を被った子供がいた。
その子は片手にバケットを持ち、化け物と狼人間の一部始終を見ていた。
狼人間が化け物を殺した後、
その子はこう呟いた。
「美味しいパンに温かいワインお口に召されたかしら? でも、悪い狼が目覚めてしまったみたい。」
その子は踵を返しその光景に背を向ける。
「待っててね、お腹欲望を空かせ私を待っている
狼なんて怖くない。♪怖くない。♪怖くない。♪何故ってそれは、私達は選ばれた民だから♪ 今からそちらに行くからね、パンとワインを届けるため♪ うふふっ あはははっ♪」
不気味な歌は森に響く。しかし、その歌は狼には聞こえなかった。
朗磨の過去編終幕
*内容を編集、整理いたしました。
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