月狼記-ゲツロウキ-   作:ぱすえ

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狼と不良少女と警察官 その2

 

 

ベチャリッ

 

私の耳に嫌な音が響く。

 

化け物の舌なめずりの音だろうか?

私はそう考え、より一層体に力を入れて歯をくいしばる。

 

しかし、おかしなことに、化け物が掴んでいた手を離した。

 

それと同時に誰の叫び声が聞こえた。

 

「 オラァァァァァァァァァァァァア

その子を離せェェェェェェェェエ 」

 

そして、ゴンッと鈍い音が頭上に響き、化け物が少し後ろへ退いた。恐る恐る目を開けてその場を見ると、化け物に当たったのであろう紙袋のようなものと、生クリームとイチゴが散らばっていた。

 

 

「早くこっちに来るんだッ」

 

 

声が聞こえた方向に顔を向けると、そこにいたのは、さっき追い払った、小柄で作業用つなぎ着た男だった。

 

 

私は夢中で彼の方に向かって走った。

しかし、化け物も私を追いかけるようにしてこちらに向かって来る。

 

 

 

瞬間

 

 

 

 

 

ガァァァァァァア という咆哮が聞こえる。

 

 

 

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァア」

 

絶叫する。

 

恐ろしさのあまり、足がもつれその場に倒れる。折角助けてもらったのに、また私は、バカやった。

今度こそ死ぬ、そう思って振り返ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼のような化け物が私の前に立ち塞がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

ファン ファン ファン ファン

パトカーのサイレンがけたたましいほど鳴り、無線機には、名護田刑事の怒鳴り声が響く。

 

「 ヅー よく聞け、ついに現れやがった。

ヅー 今日の午後2時過ぎ、犯人と思われる人物が、県境にあるショッピングモールで暴れてるとの通報があった。

ヅー 武器を所持している可能性が非常に高く、すでに、仏さんが出ちまってる。

ヅー 現場近いパトカー、それと警官は現場にに急行ッ

ヅー 現逮でパクれェ 」

 

 

この一報により、小宮町周辺を巡回していたパトカーが一斉に現場へと走り出す。また、この小宮町を管轄している八起署でも動きがあった。

 

署に止まっているレクサスに、二人の私服警官が乗り込み動き出す。

乗り込んだ二人の警官こと、間田刑事と新庄刑事はパトカーをショッピングモールに向け飛ばす。

 

「相変わらず、ひどい無線ですね。新庄先輩…って何出してるんですか!」

 

運転をしていた間田巡査が隣を向くと、そこには、自分の先輩が腰のホルスターから拳銃を抜いていた。

 

「間田、もう複数死人が出ているということは犯人の野郎は人を殺す事に関して躊躇がない。前の2件の資料、お前も見たろ。」

 

 

「そ、それはそうですけど、本庁からも応援が来るんですよね?なら、我々は犯人を下手に刺激せずにいた方がいいんじゃ… むしろ、これ以上被害が出ないようモール内の人達を逃がす事が優先じゃないんですか?」

 

「その判断はあながち間違ってはいないさ。本来、所轄の仕事はそういうもんだ。

ただ、名護田さんも言っていた通り、うちの署は…そういうわけにはいかないんだ。」

 

 

「…噂、本当だったんですね」

 

ああ、と新庄が言うと同時にまた、無線機が鳴る。しかし、それは八起署のものではなく、本庁すなわち警視庁機動隊からの無線だった。

 

「ヅー 至急、至急、犯人はショッピングモール内に立てこもった模様。また、情報は定かではないが、二人以上の複数犯の可能性あり

ヅー各員注意されたし、繰り返す、各員注意されたし。」

 

 

 

事態は思っていたよりも深刻な状況に進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 あ、…あッ、 」

 

声にならない声が出る。

 

化け物が増えた。その事実に体が震え目眩が起きる。私はもう嫌だった、

 

『死にたくない、死にたくない、死にたくないィィ 兄さんッ 兄さんッッ 助けてェ』

 

私は必死で願い、今まで我慢していた感情が溢れ出す。顔は涙でぐちゃぐちゃになって目の前がよく見えなくなった。

 

 

 

 

「 泣かなくていいよ…こんな、なりでいうのもなんだけど 」

 

 

 

幻聴だろうか、声が聞こえる。

 

 

「 俺は君の味方だ 」

 

 

 

同時に体が何かにフワリと抱き抱えられ、柔らかな体毛が加耶の肌に触れる。

涙を拭い見ると、狼の化け物が私を抱えながら宙を跳んでいた。

 

「え?え?えぇぇぇぇぇぇぇぇッッ」

 

「ごめんよ、とりあえず君を安全な場所に運ばなきゃ行けないから。どっか怪我してないかい?」

 

狼の化け物はその大きな口から出したとは思えない程の優しい口調で、私に話しかける。

 

「ちょっ、離してェ 殺さないでェェェェ」

 

突然の出来事に混乱し、私は狼の化け物から逃げようと手足をジタバタさせる。しかし、それも優しく包み込まれて無力化される。

 

「大丈夫だよ。俺は君絶対にを傷つけたりなんてしない。言ったろ、俺は君の味方だって。おっと!着地するよ。舌噛まないようにねッ」

 

ドォン

 

狼の化け物が着地した所は、ショッピングモールの出口のすぐ近くだった。

 

「よっと、あれだけ体が動けば怪我はしてないかな?とりあえず、ここまでくれば大丈夫。でも、早くここから逃げて。俺はアイツをあの化け物を倒さなきゃなんない。だからもう行かなきゃ。」

 

そう言いながら私をゆっくり下ろしてくれた。そして、狼の化け物はこう言った。

 

「さっきはケーキ屋の場所教えてくれてありがとう。お陰で助かったよ!今度は俺が君を助ける番だ。」

 

 

コイツまさか…あの時の

 

加耶がそう考えた時、後ろからけたたましいほどのサイレンの音が聞こえて来た。

 

 

 

「あれ?結構早いな。でも警官もこの状況じゃ、突っ込んでは来やしないだろ。

じゃあッ早く逃げてね!」

 

「え?ちょ、ちょっと待ってッ。アンタ何者なの?」

 

ガッチャァァァアン

私の問いに被るようにガラスの砕け散る音がした。もう一体の化け物が私たちに向かい走って来たようだ。ショーウィンドウをぶち破り化け物はその姿をあらわす。

 

 

「やっべえ 奴さんがおいでなすったッ

そうだ!俺は、俺の名前は月原、

月原朗磨 !」

 

 

そう言うと狼の化け物は、もう一体の化け物に向かって走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後 PM ?:?? 八起署

 

新庄刑事こと、新庄忠巡査部長は頭を抱えていた。この一連の事件の中でも、今回の事件

あまりにも、不可解過ぎるからだ。

残虐すぎる殺し方、しかも、これで3件目。未然に防ぐことすらできない無力感。そして、起きた事件がこの八起署の管轄内又は、その周辺という歯痒さ。

 

だが、今は、そんなことが吹き飛ぶ程、新庄は焦り苛立っていた。

 

何とか気を落ち着かせようと、今日起きた事件まとめ、手帳にペンを走らせる。

 

 

 

正午未明

重要参考人である妹、新庄加耶が学校を無断早退。その後、県境のショピングモールへと向かう。

 

PM 14:00頃

妹が、ツキハラロウマと名乗った男に接触、妹への暴行などの形跡は一切なし。

 

また、妹が見た複数殺人を行なったという男を防犯カメラで確認。しかし、不自然な行動及び武器の携帯などは認められず。

 

 

PM 14:10頃

 

防犯カメラに男の犯行が確認される。この時点で5人の死傷者が出る。同時刻、赤い頭巾を被った少女も近くの防犯カメラで確認される。

 

その後妹と赤頭巾(赤い頭巾を被った少女の略)と接触。その数十秒後、犯人と接触。

殺されかけるが、間一髪ツキハラロウマという男に救われる。

ツキハラロウマが化け物と交戦。尚、妹の証言では狼のような姿になったとのこと。

 

PM 14:15頃

我々、警察が到着。妹に並びに負傷者の保護を開始。

それよりも先に到着した警官によると、容疑者と思われる化け物は狼のような化け物と共に逃走したとのこと。

 

 

そして、現在。

 

新庄は八起署の一室で妹、新庄加耶の聴取が終わるのを待っていた。

 

 

ガチャッ

部屋の扉が開く。そこには、今回の指揮をとっていた名護田刑事の姿があった。

 

「よう、新庄。ご苦労だったな。」

 

「はい、ありがとうございます。

…すみません。うちの愚妹がご迷惑をおかけしたようですね。」

 

ハハハと名護田刑事が笑う。しかし、その左頬は腫れている。

 

「いやぁ、ありゃ俺がいけなかったよ。妹さんが聴取の途中、俯いちまってるから気分悪いのかと思ってよ。

背中をさすろうとしたら鋭いビンタよ。

でも、あのくらいの元気がありゃでーじょぶだな!」

 

 

左頬をさすりながら名護田が言う。しかし、その顔は安堵の顔であった。

 

名護田はこう思っていた。

あの惨状から生き残ったのだ、精神的に相当疲れただろう。それに、自分の部下の身内だ。新庄にも相当負担がかかっているはずだ。

 

たまには休ませてやろう。

 

 

 

「新庄ッ。オメー今日は妹さんと一緒にあがれ。こんな事に巻き込まれちまったんだ。ちゃんと兄としてフォローしてやれ。

上には俺が有給で通しとく。」

 

「名護田さん。お気持ちは大変嬉しいのですが、私は捜査に私情を持ち込むのは良くないと考えています。折角のお言葉ですが、私は残ります。」

 

「コンニャロォ!頭まで律儀に下げやがって、今は仕事より、妹さんだろうが!今日と明日キッチリ休め。明後日からまた嫌ってほどこき使ってやらぁ。わかったか?」

 

「…すみません。名護田さんありがとうございます。」

 

そう言うと、新庄刑事は慌てて部屋を出て行く。その姿を見て名護田は苦笑と共に言葉を漏らした。

 

「ったく。珍しく焦ってやがったな。…唯一の肉親だからな。大切にしろよ新庄。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、名護田さんの言葉を聞くと、すぐに部屋を飛び出した。飛び出す間際に名護田が加耶は待合室にいると言ってくれた。

 

仕事の自分には私情は絶対に持ち込まない。

これが俺の信条だった。しかし、妹があの現場にいたと知った時、俺は仕事をすぐに投げ出して加耶元に行きたい衝動に駆られた。

 

 

それは加耶は俺の唯一の肉親だからだ。

 

 

俺の父と母は俺が高校生の時に交通事故に遭って死んだ。普通ならば親戚に引き取られるのだが、俺はそれを断固拒否した。

両親との突然の別れに、もうこれ以上家族を失いたくないそう思ったからだ。さらにその時、俺は丁度、警察学校への入校が決まっていた。加耶を養ってやるぐらいの金なら稼げる。そう押し通した。

 

加耶は俺が守る。…そう決めていたはずだったのに。

 

 

 

待合室まで行くと、

「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」と叫びながら俺の胸に加耶が飛び込んできた。

美人なその顔は涙まみれになり、化粧も崩れいてた。

 

普段は自分のことを徹底的に無視するくせに、今では「怖かったよぉ」と俺に抱きついて離れない。だが、この子は、紛れも無い俺の妹、新庄加耶だ。

 

いつの日からだったろうか。

警察学校を出て、色々な部署に回されながら俺は刑事課を選んだ。そして、許せない事件にもたくさん出会い、次第に仕事に没頭するようになってしまった。

俺の近くにある大切なものに気づかず、守ろうとしていたものを蔑ろにしていた。

 

今更、許されるとは思っちゃいない。でも、今の気持ちをちゃんと伝えたい。

 

「加耶ぁ…無事で、本当に無事で良かった。そして…今まで、すまなかった。」

 

 

俺は加耶を、二度と失いたく無い家族を、絶対に離さないよう力強く抱きしめた。

 

 




主人公完全に空気っすねェ



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