邪霊ハンター   作:阿修羅丸

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エピソード4
幽霊マンション その1


 板張りの道場で、剣道着姿の久我憂助は木刀を正眼に構えていた。

 奇妙なのは、彼が手拭いで目隠しをしている事だ。

 そして更に奇妙なのが、同じように目隠しをし、同じように木刀を正眼に構える剣道着姿の男がいる事である。

 憂助と向かい合う、口髭をたくわえたその男の名は久我京一郎。憂助の父だ。

 父子は木刀の切っ先を相手に向け合ったまま、じっとしている。まるでビデオの静止画像のように、微動だにしない。

 ──かと思うや否や、憂助の木刀が動いた。電光石火の突きが父親の喉元目掛けて繰り出される。

 京一郎の木刀がかすかに揺れて、憂助の木刀に触れた。

 その瞬間、憂助の身体はポーンと宙に跳ね上がり、大きな弧を描いて京一郎の背後の床板に叩きつけられた。

 彼の木刀は、京一郎の木刀に磁石のように吸い付いていた……。

 

「ちちっ……!」

 

 派手に落下した割りには、憂助にダメージはなさそうだ。すぐにムクリと起き上がって腰をさすると、目隠しを取った。

 

「ふむ……『(たい)の起こり』は完璧に消せとうが、『気の起こり』はまだまだやのう」

 

 立ち上がった息子に、京一郎は同じく目隠しを取りながら、木刀を返してやった。

 起こりとは、簡単に言うと、技を出す際に生じる予備動作の事である。『体の起こり』がまさにその事で、『気の起こり』とはこの場合、攻撃しようとする意思を指す。いわゆる殺気と呼ばれるものだ。

 

「お前はどうにも気性が荒いきのぉ……お母さんは菩薩様んごと優しい人やったき、やっぱりじいちゃんに似たんやろうな」

「嘘つけ、じいちゃんメチャクチャ優しいやねぇーか。遊び行ったらいっつも小遣いくれるし、でけぇヤマメ食わしてくれるぞ」

 

 福岡の山奥に一人隠居している、祖父の久我玄馬を思い出し、憂助は優しい祖父の名誉のために抗議するが……、

 

「そらお前、じいちゃんからしたらたった一人の孫やき、優しくもなるわ。そやけどじいちゃんああ見えて、若い頃はものすご怖かったぞ? 名前にかけて『鬼より怖い久我閻魔』っち呼ばれとったらしい。父ちゃんも小さい頃は、悪戯するたびに泣くまでぶっ叩かれてなぁ……怒ったじいちゃんを止められるのは死んだ婆ちゃんくらいやったわ。

 ──じいちゃんがお前に甘いのは、昔の自分を思い出して親近感湧くからかも知れんのぉ」

「……あのじいちゃんが……?」

 

 憂助には信じがたい話のようだ。

 しかし、自分の両頬をバチンと叩いて、気持ちを切り替える。

 

「それはそれとして、親父、もう一丁!」

「そろそろ朝飯作らなならんきの、続きは、仕事から帰ってからな」

 

 京一郎は自分の木刀を壁に架けて、道場を出ていった。

 父一人、子一人の久我家では、週ごとに交代で食事を担当しているのである。

 

 

 父がその話を切り出したのは、夕食の素麺をすすってる時だった。

 

「のう憂助。せっかくの夏休みやし、バイトしてみる気はねえか?」

「……また面倒事か?」

 

 憂助が不機嫌そうに聞き返した。

 

 京一郎は調子の良い性格と、笑うと適度に間抜けになる顔つきのせいで、大抵の相手と仲良くなってしまう。そのためか、とても広い人脈を持っていた。

 しかしその人脈を通して、時に面倒事が持ち込まれる。なまじ念法の技で解決可能なせいで、余計にその手の相談が持ち込まれた。

 憂助は中学に上がる頃から、その面倒事の処理を時折父から押し付けられていたのだ。『ちょっと出稽古のつもりで行ってこい』と言う場合もあれば、今夜のように『アルバイト』と表現する場合もある。

 もっとも、バイト代をもらった覚えは一度もない。ただ、その日の夕食が豪華になるくらいである……。

 

「今度は何か」

 

 憂助は尋ねながら、食卓の中央の大皿から箸で素麺を取って、麺つゆの入った自分の器に浸した。

 

「おう、寺沢のおいちゃん知っちょうやろ? そのおいちゃんの経営しとるマンションに幽霊が出るっち言うての、住んぢょう人からクレームが入っちょうらしい」

「おいちゃんとこマンション新築やねーか。確か一昨年の春に出来たやろ。何も事件とか起きてねーし、幽霊とか出る訳ねかろうも」

 

 バッサリ言い捨てて、憂助は素麺をズルズルとすする。

 

「だいたい、気の流れも良いき繁盛するやろうっち言うて、親父があそこに建てるよう言うたんやねかったんか。おいちゃんはそう話してくれたぞ」

「おう、それよ。実際今年に入るまでは上手く行きよったらしいんやけどのぉ、春辺りから急にそういうクレームが出始めたらしい。さすがにあの場所を薦めた身としては、責任感じてのぉ……」

「責任感じてんなら自分で行けや」

 

 憂助が至極真っ当な反論をした。

 

「憂助。俺等念法家は、生まれてから死ぬまでが修行やぞ。ちょう出稽古のつもりで行ってこい」

「バイトやねかったんか……バイト代なんぞいっぺんも貰った事ねーけどのぉ」

「除霊出来たらおいちゃんが焼き肉奢ってくれるっち言いよったぞ?」

「明日行ってくるわ」

「さすが憂助! 男の中の男! 日本一!」

 

 京一郎はパチパチと手を叩き、息子を大袈裟に褒め称えた。

 

 

 ──そんな訳で、憂助は着替えやその他の生活に必要な品を詰め込んだリュックサックを背負い、山沿いにあるマンション『グリーンハイツ寺沢』を訪れた。午前11時を過ぎる頃である。

 服装は、グレーのTシャツとジーパン。その上からお気に入りのフード付きの黒いベストを着ていた。

 

 マンションは鉄筋コンクリートの六階建て。建物の向かって右側が広い駐車場で、左側が公園である。公園は道路に面した側に高いフェンスが設けられていた。

 その道路を挟んだ向こう側が河になっている。河原は整備されて広場になっており、そこに下りる階段にはご丁寧に手すりまで付いている。夏休みという時期もあってか、小学生が三人、魚釣りに興じていた。

 

「おぉーい、憂くぅーん!」

 

 大声で呼ばれた憂助がそちらを見やると、マンションの前に立った一人の男がいた。

 白いポロシャツとベージュのスラックスを身に付けた小太りの男で、憂助に向かって両手を振っている。

 父の知り合いで、このマンションを経営する寺沢俊夫。今回の依頼人でもある。

 

「おいちゃん、こんちは」

 

 憂助は彼の元へ来て、ペコリと小さくお辞儀した。

 

「元気にしてたかい? ごめんねぇ、夏休みでのんびりしたかっただろうに……」

「うん。だき、さっさ終わらせて、夏休みの間はここでのんびりさせてもらうわ」

「おお、そうかそうか。よしよし、じゃあ早速お部屋に案内しようね」

 

 寺沢は憂助に背中を向けてマンションの中に入る。憂助はそれに続いた。

 玄関ホールの左手に管理人室があり、正面がエレベーター、右手が階段である。

 階段の手前には、来客用のソファとテーブルが置かれてある。

 寺沢は憂助を連れて、エレベーターで最上階の六階に上がった。

 エレベーターを出ると、左右に伸びる廊下の左手一番奥、非常階段に出るドアの手前の部屋へと憂助を案内した。

 

「暮らしていくのに必要な物は、一通り揃えたつもりだよ。冷蔵庫には飲み物も入ってる」

「お世話になります」

 

 憂助は寺沢に改めてお辞儀をした。

 

 除霊に成功すれば焼き肉を奢って貰えるだけではない。『アルバイト』を引き受けたら、夏休みの間だけ一部屋ただで貸して貰えるという話になっているのだ。家賃や光熱費は全て寺沢が出してくれると言う。

 夏休みの間と言っても、お盆を過ぎて残り二週間ほど。その間の高校生の一人暮らしで発生する費用など、胡散臭い拝み屋に払う金に比べればはるかに安い。寺沢はそう判断したのだ。

 

 部屋に上がった憂助は、リュックサックを下ろしてリビングの隅に置いた。

 その間に寺沢が冷蔵庫からオレンジジュースのペットボトルを取り出し、棚から出した二つのグラスに注いでテーブルに置く。

 ガラスのテーブルには、既に大きな封筒が置かれてあった。

 憂助がソファに座ると、寺沢はその封筒を開けて中身を広げる。このマンションの、各階の見取り図である。部屋のいくつかに、赤丸がされていた。

 

「この赤丸がしてある所が、幽霊が出るとされている部屋だ。出るタイミングも出るものもまちまちで、中には昼日中から見た人もいるらしい」

「出るものもって?」

「夜中に知らない女が部屋の廊下を歩いてたという人もいれば、朝から知らないおばあさんが玄関の土間に座ってたという人もいる。小さな子供だったり、男だったり、見える姿も全身だったり手や足だけだったりと、目撃証言が一致しないんだよ」

「うーん……」

 

 憂助は小さく唸り、とりあえずオレンジジュースを一口飲んだ。

 

 そんなにバラエティー豊かな幽霊が一ヶ所に出るとすれば、マンションが建つよりもずっと以前から土地に由来するものなのだろう。

 だが、だとしたら父がそれに気付かぬはずはない。地元の歴史には明るくなくとも、たくさんの幽霊が出るような土地に対しては、勘が働くものだ。多くの死者を出すような事件・事故・災害……それ等の現場となった場所には良くない気の流れが発生する。憂助以上の念法家たる京一郎なら、リンゴを見て『これはリンゴだ』と認識するのと同レベルでそれを知覚出来る。

 その京一郎が、マンション経営を始めようという知人にそんな土地を薦めるなど、絶対に有り得ない。

 

(……誰か、いらん事しくさりやがったな)

 

 憂助は胸の内で、そう結論付けた。

 幽霊騒ぎ自体が、今年の春から急に発生したのだ。人為的に引き起こされた霊現象であろうと考えたのである。

 

「おいちゃん。今、この幽霊が出るっちいう部屋には、誰か住んどうと?」

「いや、みんな出ていってしまったよ。今はどの部屋も空き部屋だ」

「んじゃちょうどいい。ちょっと見てみるか」

「今から?」

「今から。おいちゃんも早めに片付いた方が助かるやろ」

「まぁ、そうだけど……」

「鍵貸してくれたら、俺が勝手に見て回るき、無理して付いて来んでもいいよ。おいちゃんも忙しかろ」

 

 憂助はオレンジジュースを一気に飲み干し、立ち上がる。

 

「い、いやいや、さすがにそれは困る。一緒に行くよ」

 

 寺沢も慌ててソファから立ち上がった。

 二人で部屋を出ると、隣の部屋のドアが開いた。

 中から、金髪の女性が姿を見せる。

 グレーに細い白のストライプが入ったシャツと、お揃いのグレーの短パンを身に付けていた。

 短パンから伸びる白い太ももが、ムッチリとした肉感的なラインを描いている。

 胸元も大きく膨らんでおり、シャツの裾を持ち上げているため、チラチラと白いお腹が見えた。

 肩まで伸ばした髪はウェーブの掛かった金髪だが、染めた物ではない生まれつきのものだと、彼女の顔つきと白い肌でわかった。早い話が、彼女は外国人なのだ。

 

「ハァイ、大家さん」

 

 彼女は軽く掲げた手を振って、朗らかに挨拶する。とても流暢な日本語だった。

 

「クリスさん、お出掛けですか?」

「ううん。声がしたから、新しく越してきた人がいるのかなーって、様子を見に来たの」

「ああ、そうでしたか。こちら、私の知人の息子さんでね。勉強に集中出来る場所が欲しいと言うので、今月いっぱいまでこの部屋を貸してあげる事にしたんです」

「……ども」

 

 憂助はボソリとつぶやくように挨拶し、小さくお辞儀した。

 その様を見て、クリスと呼ばれた女性の口角がかすかに上がる。

 

「そんなに緊張しなくていいわ。私、クリスティーナ・ノーランド。クリスと呼んでね?」

「久我憂助です」

「ユースケ? 可愛い名前♪」

 

 どこがじゃ。

 と反論したかったが、出来なかった。クリスティーナがいきなり憂助を抱き寄せて、その豊満な胸に顔を埋め込んでしまったのだ。

 憂助の顔いっぱいに広がる感触は妙に柔らかかった。ブラジャーを着けていないのかも知れない。

 

「困った事があったら、私の事本当のお姉ちゃんだと思って何でも言ってね? あなたみたいなキュートな男の子になら、何だってしてあげる」

「──あざっす」

 

 憂助はクリスティーナの肩に手を掛けて、やや強引に彼女の胸のグランドキャニオンから脱出した。

 

「それじゃあクリスさん。私はこの子と下でまだお話がありますので、失礼します」

「ハァーイ。ユースケ、また後でね。一緒にお茶でもしましょ?」

 

 クリスティーナは憂助に投げキッスをして、また部屋の中へ入っていった。

 

 

 エレベーターで一階まで下りた二人は、管理人室から部屋の合鍵の束を取って来て、早速現場の調査を始めた。

 マンションは各階に七部屋あり、出る場所は下から104号室、204号室、301号室、403号室、504号室、604号室と、各階に一部屋ずつある。

 どの部屋も、照明を点けてもなお薄暗く、空気も淀んでいる。

 憂助は部屋に入ると、まずはパン! と拍手(かしわで)を打った。彼を中心に八方へと涼やかな風が吹き、部屋中を駆け抜ける。すると部屋全体を覆う薄暗さがなくなり、空気も爽やかなものに変わるのである。

 

「とりあえず。応急処置やけど」

 

 憂助は最初に入った104号室でそれをやった際に、そう言った。

 体内で練り上げた念を、拍手の音に乗せて放出し、部屋に充満していた邪気を祓ったのである。全ての出る部屋で、これをやった。

 それから、部屋の中を、家具の裏や、壁と天井の境目などの、死角になりやすい場所を中心に調べて回った。

 憂助の仮説通りなら、どこかに霊を招き寄せる印なり札なりがあるはずだった。

 しかし、何も見付からなかった。

 ベランダに続くサッシの上まで覗いてみたが、それらしきものは一切見当たらなかった。

 全室、結果は同じである。

 次いで憂助は外に出て、マンションの周りを調べてみた。建物の壁、周辺の電柱などを見て回ったが、やはり怪しい物はない。

 そうやって調べて行きながら、マンションの裏側に回っていった。

 裏側は、道路とフェンスで仕切られた広い庭になっている。その一角に、大きな蘇鉄の木が植えられていた。

 

「…………」

 

 憂助はその蘇鉄が、妙に気になった。

 木の幹に手を触れる。

 念法によるサイコメトリーで、この木の過去を探ると、すぐに映像が頭の中に浮かび上がった。

 黒ずくめの人物が、夜中に木の根本に何かを埋める場面が。

 

(やっぱりか……)

 

 その『やっぱり』には、二重の意味があった。

 一つは、やはり幽霊騒ぎは人為的なものであったかという意味。

 もう一つは、その原因がこの木であったかという意味である。

 この木の生えた地点を境に、気の流れの性質が変化しているのだ。清らかで善良だったエネルギーが、突如どす汚れた禍々しいものへと変わっている。流れる河の中に毒物が沈められて、その毒が下流へと流れていくように、この木の根本に埋められた何かが気の流れの性質を歪ませて、邪な気をこのマンションへと流し込んでいるのだ。

 根本を掘り、その何かを取り出して処分すれば、気の流れはすぐにかつての清浄さを取り戻すはずである。

 憂助からその旨を説明された寺沢は、急いでシャベルを持ってきて、根本を掘ろうと地面にシャベルを突き立てた。

 そして、凍り付いたようにその手が止まった。

 突然、無数の視線が寺沢の身体に突き刺さったのだ。

 思わず顔を上げると、いつの間にかフェンスの上にカラスの群れが止まっている。数は三十羽以上いるだろう。

 

 ガァァーーッ!

 

 やけにしわがれた鳴き声が響いた。

 どこからかは、わからない。少なくとも目の前の群れのどれかが鳴いた訳ではない。

 しかしその一声を合図に、カラスの群れは黒翼を広げてフェンスから舞い下り、寺沢目掛けて襲い掛かって来た。

 寺沢はシャベルを落っことし、頭を抱えてその場にうずくまる。

 憂助がその前に立った。さっきまでは空っぽだった右手には、木刀を握っていた。

 

「エヤアッ!」

 

 鋭い気迫と共に、木刀が虚空を薙いだ。すると小竜巻にも似た激しい風が吹き荒れて、カラスたちを蹴散らしていく。

 

 ガァァーーッ!

 ガァァーーッ!

 

 さっきのしわがれた声が再び響くと、遠くから別のカラスが群れをなして押し寄せてくる。

 

「そこかぁっ!」

 

 憂助は何を思ったか、蘇鉄の幹を木刀で打った。

 その打撃に込めた念が、不可視の波動となって蘇鉄の上へと広がっていく。

 

「ギャウッ!」

 

 蘇鉄のてっぺんで、明らかに人の声で、そのようにうめく者があった。弾かれたように枝と枝の間から空中に躍り出たのは、やはりカラスであった。

 だが、大きい。大人の背丈ほどはある。

 そしてその顔は、頭の禿げ上がった人面であった。

 思わず顔を上げた寺沢が、一瞬『なんでこんな所に禿鷹が?』と思ったほどである。

 憂助はフェンスを蹴って、空高く舞い上がった。

 人面の大ガラスが、恐怖にひきつった顔を見せる。

 その顔に白い光線が走ったかと思うと、真っ黒な羽毛に覆われた巨体が頭頂部から幹竹割りにされ、黒い塵となって消滅した。

 近付いていたカラスの群れは、散開してそのまま姿を消した。

 

 

 寺沢が掘り出したのは、ソフトボールほどの大きさの玉だった。

 材質はわからないが、毒々しい紫色に光っている。

 長らく土中に埋められていたはずだが、生き物のような温かさがあった。

 

「たぶんこいつが、良くないものを招き寄せとったんやと思う」

「しかし、誰が何の目的で、こんな物を……というか、こりゃあ一体何なんだい?」

「わかんね」

 

 憂助は即答した。

 

「でも、おいちゃんも見たやろ? さっきのカラスの化け物は、こいつを守っとった。そのカラスの化け物がやられて、玉も掘り出されたとわかれば、埋めた奴は必ずこいつを取り戻しに来る。そこをふん捕まえる。そうせんと、俺がなんぼ邪気を祓っても同じ事だ」

「そうかぁ……その辺は、憂くんに任せるよ」

「んじゃあ、この玉っころは預かるきね」

 

 憂助は玉をベストにくるんで、部屋に持ち帰った。

 部屋に戻った憂助は、ベストにくるんだ玉をリビングのソファの上に置くと、冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出し、直接口を付けてゴクゴクと飲んだ。

 フウッと息をつきながらペットボトルを冷蔵庫に戻した時、インターホンが鳴った。

 リビングの壁に設置された小さなモニターが点灯し、玄関前の様子を映す。

 上から見下ろすアングルで、隣人のクリスティーナが映し出されていた。服を着替えたらしく、素肌の上から薄水色のキャミソールワンピースを着ている。

 元々そういうデザインなのか、豊満過ぎる胸がほとんど露出していた。明らかに、ブラジャーを着けてはいない……。

 さっきの「一緒にお茶でもしましょ?」という言葉を思い出した憂助は、たぶんそのお誘いだろうと思った。

 辞退しようかとも思ったが、夏休みが終わるまでの間でも隣人は隣人である。無下な態度を取る訳にも行くまい。

 憂助は玄関のドアを半分開けて、顔を覗かせた。

 

「ハァイ、ユースケ。大家さんとのお話は終わった?」

「ええ」

「それじゃ、オネーサンとお茶しましょ?」

 

 そう言ってクリスティーナは軽く前屈みになり、自分の豊満な胸を見せ付けた。たわわな膨らみがたゆんと揺れて、今にもこぼれ落ちそうだ。

 彼女は、自分の胸が男の視線をどれだけ引き寄せるか、男たちがどれほど自分の胸に夢中になっているのかを、よくわかっていた。そして胸元に集中する視線の熱さを、心地好いとすら思っていた。

 

「まぁ、お茶くらいなら……」

 

 憂助はしかし、彼女の自慢の戦略兵器には目もくれず、そう答えた。あくまでもご近所付き合いの一環として応じただけである。

 そのどこかつれない態度に野良猫的な可愛さを見出だしたクリスティーナは、下腹部がキュンキュンと甘くうずくのを感じた。

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