邪霊ハンター   作:阿修羅丸

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エピソード8
人形使い その1


 年が明けて、憂助は二年生に進級した。

 最近、チビ虎の様子がおかしい。

 憂助がどこへ行くにも、トットコトットコとついてくる。

 どこかの呪術師が蠱毒の呪法で以て造り上げた霊喰いの妖物であるが、普通の猫と同じ物も喰う。時には憂助のおやつやおかずを横取りしたりもする。しかし、かと言って憂助に飼われているという自覚は全くないので──そして憂助も憂助で、やはりこの鯖虎もどきを飼っているという自覚はないが──飼い主になついているという訳ではない。

 理由はすぐにわかった。

 最近、自分の周りを様々な雑霊が、やたら大量にうろついている。チビ虎の狙いはそいつらなのだ。元々、『こいつのそばにいれば喰いっぱぐれないぞ、やったー』という感覚で憂助のそばに居付いた猫である。なので、憂助は特に気にしなくなった。

 

 ──たった今までは。

 

 夜の8時を過ぎる頃、憂助はコンビニに買い物に出掛けた。チビ虎もトコトコとついてくる。

 その帰り道、チビ虎が不意に憂助の足下で、身を屈めて、肩に生えてある翼を広げたのだ。飛行能力を有する翼は、威嚇用のディスプレイも兼ねてある。

 憂助はしかし、小さな同居人には目もくれず、前方を見据えた。

 電柱に取り付けられた小さな外灯に照らされて、影が一つ、立っていた。

 形からして人間であろうが、外灯が地面に投げ掛ける小さな光の円の中にいながら、顔も服装もわからなかった。人の形に切り取られた黒い紙、もしくは板切れがそこに立っているかのように、全身が黒かった。

 しかし紙や板では、ない。

 漆黒の体には、確かに立体感があった。

 影が、かすかに身を屈めたかと思うと、憂助目掛けて走り出した。

 外灯の明かりから出て夜の闇の中に入ってもなお区別がつくほど、そいつは黒かった。

 ──故に、憂助は容易く見抜く事が出来た。そいつの手にナイフが握られている事を。

 逆手に握ったナイフを、影が大きく振り上げる。

 その時憂助は既に、相手の攻撃のラインから移動していた。

 右手には、いつの間に、そしてどこから出したのか、木刀が握られている。柄に手彫りで『獅子王』と彫り込まれた得物は、破邪の念を白い炎と燃え上がらせていた。

 

「エヤァッ!」

 

 鋭い掛け声と共に繰り出された抜き胴が、白い軌跡を闇に残して、影の胴体を両断した。

 離れ離れになった影の上半身と下半身がそれぞれ弾けて、黒い塵となる。

 その残骸に、チビ虎がパッと飛び付いて、ムシャムシャと食べ始めた。食べながら喉をゴロゴロと鳴らしているのは、やはり霊体が一番の好物だからか……。

 

 憂助は最後までチビ虎には目もくれず、木刀を左手の中に納め、コンビニに向かって歩き出した。

 

 

「……なぁ~んか、変やの」

 

 ソファに深く腰掛け、コンビニで買ってきたじゃがりこサラダ味をポリポリと食べながら、憂助は呟いた。

 ソファの後ろにはカウンターがあり、その向こうにキッチンがある。

 床は綺麗なフローリング。

 ソファは膝くらいの高さのテーブルを挟んで二つ。

 ベランダに面したサッシのそばに、薄型テレビ。

 ここは久我家ではなく、マンションの一室であった。

 進級した憂助に、父京一郎が突然

 

「社会に出た時に備えて、一人暮らしの練習しとけ」

 

 と言って用意したものであった。

 

「家ん中の事は一通り出来ても、それを全部一人でやるとかほとんどねかろうが」

 

 という父の言葉に納得しての事であった。

 マンションは父の知り合いの不動産屋が格安で用意してくれた。お調子者でいい加減だが、この人脈の広さには、憂助は尊敬の念を抱いている。

 しかし、そのようにして始まった一人暮らしがこれである。

 近くに霊の通り道がある訳でもなく、マンション自体に霊を引き寄せるいわくがある訳でもない。

 なのにチビ虎が居付くほど霊が集まり、ついには先程、明確な敵意を持って襲い掛かってきた。

 

「まさか、誰かが俺を狙っとう訳でもねかろうしのぉ……」

 

 と呟いたところで、ある名前が浮かんだ。

 

『天来教団』。

 

 思えば、成り行きとはいえそのメンバーである門倉楊堂を倒した。神道宗光も組織のメンバーだったという。そしてその天来教団所属の超能力剣士、飛鳥竜摩も倒した。

 心当たりがあるとすれば、奴等しかいない。

 

「そやけど、あいつ等の仕業にしちゃあ、しょぼいしのぉ……」

 

 神道宗光は両面宿儺や鵺を始めとした、怪物じみた人工霊を操った。

 門倉楊堂はゴリラと見紛うほどの巨大な猿の怪物を操った。

 飛鳥竜摩は、初戦で自分を殺したほどの念法使いだ。

 しかし、今周りに出没しているのは、近付きすぎてチビ虎の餌食にされたり、先程のナイフ使いのような、雑魚みたいな連中ばかりである。

 メンバー三人を倒された天来教団の報復だとするならば、あまりにも手ぬるい。

 

 ──もうしばらく様子を見るか。

 

 そう結論付けた憂助は、おやつを食べ終えると、歯磨きをしてさっさと寝室のベッドに潜り込んだ。

 

 

「おはよー、久我ちゃん」

 

 翌朝。

 無人の教室で一人黙々と小説を読む憂助に、女子生徒が声を掛けた。

 はだけた胸元から深い谷間を覗かせ、染めた金髪をピンクのシュシュでポニーテールにしてまとめている。

 左右の耳には、ハート型のピアスをしていた。

 同級生の八千代ゆかなである。

 しかしゆかなは、自分の席ではなく憂助の机の上に座った。

 

「今日早いじゃん、どったの?」

「日直が遅く来る訳にもいくめえも」

 

 憂助は本から視線を外さず、黒板を指差した。

 黒板の端っこに、今日の日付と日直の名前が名字だけ書かれてある。『久我』の隣には『金森』と書いてあった。

 

「あーそっか。んじゃ、金森は?」

「職員室に日誌取りに行っとう」

「ふーん」

「それより、下りろ」

「ういーっす」

 

 ゆかなはだらけた返事をして机から下りると、憂助の前の席の椅子に、彼の方を向いて座った。背もたれに豊満なバストが乗っかって、ボリュームをアピールする。

 

「お前こそ早いやねえか。どうした」

「あー、昨日夜更かってたらホラー映画やっててさー。13金モロパクりのクソつまんねー映画だったんだけど、カップルのセックスシーンがやたらガチっててさ、ちょっとムラムラして寝らんなかったんだよねー」

「そら災難やったの。次からは早う寝ろ」

「ういーっす。でもさでもさ、なんで外人ってあんなその辺のビーチとか森の中とかでやる訳?」

「日本男児の俺がそげなん知るか。ただのサービスシーンでそげ深い意味はねかろ」

「そーかなー、ホント凄かったんだよ? 繋がってるとことかは映ってなかったけど、男優とかすっげーピストンして女優もマジおっぱいブルンブルンでさ」

「…………それ、本当にホラー映画か? ホラーっぽいポルノ映画とかやねえんか」

「あー、そっか、そーかも」

「どっち道、夜更かしなんぞするな」

「ういーっす」

 

 ゆかなはわかってるのかわかってないのか判断に迷う返事をした。

 が、その後、何を思ったか憂助が手に持っている小説に指を掛け、グイッと下に下ろした。

 

「──何か」

 

 読書を邪魔されて、憂助は不機嫌そうな眼差しを向けた。

 

「久我ちゃんさぁ、最近どう?」

「フワッとした質問を投げ付けんな。日常生活において、特に不便はねえ」

「誰かに絡まれたりとか」

「しとらん」

「うーん、ならいいんだけどさ」

「なしそげなん聞くんか」

「久我ちゃんさぁ、四組の峰岸と付き合ってんでしょ?」

「うんにゃ」

 

 憂助は即答した。

 

「違うの? だって仲いいじゃん」

「良くねえ。ただの知り合いだ。アイツがどげしたんか」

「ほら、峰岸って可愛いしおっぱいデカくてエロいっしょー? それで狙ってる男がたくさんいるんだけどさぁー、そいつ等ん中で久我ちゃんが峰岸と付き合ってる事になっててさ、『マジ許せねえ、ぶっ殺す!』みたいな話になってんのよね」

「事実無根のデマですっち、そのアホどもに伝えとけ」

「うい~っす。でもさでもさ、久我ちゃんホントにマジで付き合ってないの? アイツおっぱいデカいしエロいし、カツオくんを野球に誘う中島くんみたいなノリでやらせてくれるよ?」

「だきっち俺が相手せなならん義務はねえし、やらせてくれる女がおるきっちホイホイ飛び付くほど男は安かねえわ」

「ふぅーん、そーゆーもんなんだ」

 

 ゆかなはとりあえずそれで納得したようだった。

 

「まー、それはそれとして、気を付けなね? 久我ちゃん可愛いし優しいから、何かあったらあーしが守ってあげる♪」

 

 そう言って、読書を再開する憂助の頭をよしよしと撫でてやった。

 

「だから、お金貸してくんね? お弁当持ってくんの忘れちゃった♪」

「利息は十一(トイチ)やぞ」

「利子取るの?」

「高校二年生にもなって、無利息で金の貸し借りが出来ると思うな」

「む~……利息はおっぱいじゃダメ?」

 

 身を乗り出して胸の谷間をアピールしたゆかなの額に、憂助のデコピンが炸裂した。

 

 

 放課後。

 

「おーい、久我ぁ~」

 

 校門を出た辺りで、峰岸葵が声を掛けて来た。

 

「ちょーど良かった。ね、一緒に帰ろ? みんなと都合合わなくって寂しいの」

 

 そう言って憂助の腕に自分の腕を絡ませ、自慢の101cmを押し付けてくる。

 

「……好きにせえ」

 

 憂助は振りほどいたりせず、歩き出した。

 

 ゆかなにはああ言ったものの、憂助の葵を見る目は、以前とは違ってきていた。

 神道宗光にさらわれた彼女を救出すべく単身乗り込んだものの、飛鳥竜摩に返り討ちに遭った。父が来なければ、葵は殺されていただろう。

 しかし葵は文句一つ言わず、こんな低能のうぬぼれ屋に優しくしてくれた。

 付喪神と化した母校を倒した時も、富士村静流と一緒に添い寝をして慰めてくれた。

 そういった事が理由で、今までのようなつれない態度を取れないでいるのだ。

 そんな憂助の心中を知ってか知らずか、葵は嬉しそうに憂助の腕にギューッとしがみつき、101cmの爆乳でホールドした。

 そうやって一緒に歩くうちに、ふとある事に気付いて、憂助に声を掛けた。

 

「ねぇ久我、アンタん家、こっちじゃないっしょ?」

「かくかくしかじかで、この先のマンションに住んぢょうんて」

「へぇー、一人暮らしなんだー、いいなー。ね、遊びに行ってもいい?」

「好きにせえ」

 

 憂助は素っ気なく答えた。

 もしも京一郎が見ていたならば、ガッツポーズを取っていただろう。

 社会に出た時に備えてというのは本当だが、それ以上に、高校生になっても浮いた話の一つもない息子を案して、女の子と二人きりになれる環境を用意することこそが、父の真の目的だったのだ。

 そんな父の心遣いなど露ほども知らない憂助は、葵に対する負い目もあってか、女の子を一人暮らしのマンションに連れ込むという大胆な事をあっさりと成し遂げてしまったのである……。

 

 商店街を見下ろすように建つ五階建てマンションの最上階に、憂助は住んでいた。

 部屋に案内された葵は憂助がミルクココアと一緒に出してくれたアルフォートを遠慮なく平らげる。

 

「結構綺麗だねー。男の一人暮らしだから、もうちょっと散らかってるかと思ってたけど」

 

 アルフォートを食べながら、葵は部屋を見渡す。

 マンションに元々標準で設置されてある家具や電化製品以外、ほとんど見当たらない。せいぜいテーブルの下の棚に本が二、三冊置かれてあるくらいだ。その本も、鳥や動物、外国の城などの写真を納めた物であった。

 中学三年生の時に付き合っていた大学生の小野原和彦の部屋の方が、まだ散らかっていた。もっとも、彼の場合はしょっちゅう友人が何人も遊びに来て、そのまま泊まり込む事もあったのが、散らかっていた原因だろう。葵は時々部屋の掃除をしてあげたり、彼等のための食事を作ってあげたりしたものだ。

 憂助の場合は、単に一人暮らしを始めたばかりでまだ散らかるほどの時間も経ってないだけだろう。

 

 憂助はテーブルを挟んで向かいのソファに腰を下ろした。

 

「おい、峰岸」

「なぁーに?」

「最近お前に付きまとっとる男とかおらんか?」

「うーん、付き合って~とか言ってくる奴ならたまにいるけどぉ? なんでそゆ事聞くの?」

「実はの……」

 

 憂助は今朝八千代ゆかなから聞いた話を、語って聞かせた。

 

「まぁ俺は自分の身くらい守れるきどうでもいいが……そいつ等がトチ狂ってお前にまでつまらん事しくさったらいかんき、注意くらいはしとこうと思っての」

「そーなんだ。でもさ、もしもアタシに何かあったら、久我が助けに来てくれるっしょ? ヘーキヘーキ」

「……あまり俺を当てにするな。力及ばん時もある」

 

 そう言った憂助の声色は、暗く沈んでいた。

 

「……この前のあれ、まだ気にしてるの?」

 

 察した葵は、憂助の隣に座り直し、太股の上に置かれた手を優しく握った。

 

「言ったっしょ? アタシは久我が助けに来てくれたのマジ嬉しかったって。パパさんに助けられたのは確かだけど、久我が来てくれなかったらアタシが殺されてたのも確かなんだよ? アタシがピンチの時には絶対に駆け付けてくれる久我は、マジでアタシのヒーローなの」

 

 言いながら、握った手を胸元へといざない、制服の中に潜り込ませた。

 

「だからさ、いつまでもクヨクヨしてないで、アタシのおっぱい揉んで元気出しなよ。アタシおっぱい触られるの大好きだから、声掛けてくれたら、いつでもどこでも何回でもオッケーだよ?」

 

 葵は憂助の手に自分の手を重ねて、グニグニと胸を揉ませる。

 白い頬に赤みが差し、瞳が潤って来た。

 シャツのボタンを外して、何の恥じらいもなく脱ぎ捨てると、ブラジャーも外した。

 

「からかってる訳でも何でもなくて、マジだから。アンタが元気になれるんならさ、おっぱい好きなだけ弄んでいいし、おっぱいだけじゃなくてアタシの身体全部あげる」

 

 優しくささやき、憂助を抱き締めて、自慢の爆乳の中に顔をうずめさせた。

 憂助はされるがままだ。

 

(──あ、これいけるんじゃね?)

 

 と、妙な手応えを感じた葵は、立ち上がり、憂助の両手を握った。

 

「ねぇ久我、エッチしよ? アタシとエッチして、溜め込んでるもの全部吐き出して、明日からまた頑張ろーよ」

「…………」

 

 葵を救えなかった事は確かに気にしてはいたが、別にそこまで大袈裟なものでもない。

 デコピンの一つもくらわせて叩き出そうかとも思ったが、憂助の中のもう一人の憂助がそれを止めた。

 一人暮らしで、やはり気持ちが開放的になっているのだろう。

 憂助はソファから立ち上がり、葵を寝室へと連れていった。

 

 

 夜の8時。

 憂助と葵は腕を組んで夜道を歩いていた。憂助は瞬間移動で送るつもりだったが、葵がもっと一緒にいたいと言うので──かと言って泊める訳にもいかないので──徒歩で家まで送ってやっているのである。

 

 憂助は今、とても複雑な心境であった。

 葵の事は嫌いではないが、こうもあっさりと関係を持ってしまっていいのだろうか?

 ア・イ・ウ・エ・オの五つの中から正解を選ぶ選択問題を解いていったら七問続けてウになっていた時のような、『本当にこれでいいのか?』という奇妙な不安感が、胸に渦巻いていた。

 ──が、それもすぐに消えた。

 前方に五人の男が、道いっぱいに広がっていた。

 全員が、布を口元に巻いたり目出し帽を被ったりして、顔を隠している。

 全員が、手に鉄パイプや金属バットを持っていた。

 全員が、目を黄色く濁らせていた。それは悪霊に憑依された人間の特徴であった。

 

「な、なに?」

「──下がっとけ」

 

 怯える葵を自分の背後に押しやり、憂助は右手を背中側の襟口に突っ込んだ。

 引き抜かれた手に握られているのは、愛用の木刀。木製の刀身から、破邪の念が白く燃え上がっていた。

 男たちが一斉に襲い掛かって来た。

 憂助も木刀を八双に構えて、前に出る。体の軸をぶれさせる事なく、滑るように駆けていくと、木刀が縦横無尽に翻り、白い軌跡を描きながら、五人の男を瞬く間に斬り伏せた。

 男たちは目や鼻、口、耳から白光をほとばしらせたかと思うと、黒い煙を吐いて倒れた。

 黒い煙は、憂助の念をくらって浄化された悪霊の残滓であった。

 

 ──カッ!

 

 と、別種の閃光がほとばしった。車のヘッドライトだ。しかもハイビームで、憂助の視界を白く染め上げる。

 

 ブオン!

 

 エンジン音が響いた。

 

 キュキュキュッ!

 

 とタイヤを軋ませて、急発進した自動車が突進してくる。

 憂助は目を閉じて、木刀を上段に掲げた。

 

「エヤァッ!」

 

 鋭い掛け声と共に振り下ろした一刀が、車のボンネットに流星めいて叩き込まれた。

 後方から見ていた葵には、電光を伴う白い波動が車体を前から後ろへと駆け抜けたように見えた。

 

 ──瞬間、車はピタリと止まった。ビデオの制止画像のように、或いは、時間が止まってしまったかのように、急発進で得た慣性などなかったかのように、静かに止まった。

 エンジンが止まり、ヘッドライトも消えた。

 車内には運転手が一人きりだったが、気を失っているようだ。

 

 静寂が、辺りを支配した。

 

「おい、行くぞ」

 

 木刀を背中にしまいながら、憂助が葵に呼び掛ける。

 

「でも、コイツ等どーすんの?」

「もう少ししたら起きる。死にゃあせん」

 

 憂助がそう言ってさっさと歩き出すものだから、葵は慌てて追い掛けて、その腕にしがみついた。

 

「アイツ等何だったの?」

「知らん」

 

 葵の問い掛けに、憂助はそれだけを答えた。

 

「知らんって、だってアイツ等、アンタの事殺そうとしてたじゃん」

「どっかの悪霊に取り憑かれたんやろ。そいつ等も浄化してしもたき、もうどうもならんわ。あいつ等に聞いても、ほとんど何もわかるめえ。ほっとけ」

「はぁ~い」

 

 葵は不承不承といった風に返事をした。

 

 憂助はこの時、八千代ゆかなから聞かされた連中の事を思い出した。

 しかし、ただの嫉妬でここまでするだろうか?

 襲撃者たちはその辺の暴走族のようだがが、そいつ等に悪霊を憑依させて操る事など、出来るものだろうか?

 天来教団の可能性も考えたが、彼等の行動の規模やスケールを考えると、まだまだみみっちいという印象が拭えない。

 

(さっぱりわからん……)

 

 憂助は口をグッと、への字に曲げた。

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