西住みほをヒロインにしようとしたら何故か斜め上の方向になったお話   作:通天閣スパイス

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Q.プロットとか細かいことを全部放り投げたらどうなるんですか?

A.こんなんなりました。


全部酒と新井と秋山殿が可愛いのが悪い。


オンラインゲーム、はじめます

「……んー?」

 

 草木も眠り、やるべき用事も既に終えた平日の夜。明日が祝日だということもあり、心行くまで趣味のネットサーフィンに興じていた、その最中。ふと気がつくと、見知らぬページに飛んでいた。

 サイトの名前は、『アニゲーオールスターバトルオンライン』。名前と構成を見る限り、どうやらオンラインゲームのメンバーズサイトのようだ。

 こんなサイトに移動しようとした覚えはないが、無意識に広告でも踏んでしまったのだろうか。一応ウイルス対策ソフトで検索をかけてみると、幸いフィッシングサイト等の悪質な類いのものではないらしい。

 聞いたことのない名前のゲームだが、少しサイトを見て回った限りでは、色々と面白そうなゲームではある。アカウント作成や基本料金は無料、アイテム課金制のプラウザゲームという最近のテンプレな形式も合わさって、どうせなら少しやってみようかという意欲がむくむくと沸いてきた。

 

 早速『アカウント作成』と書かれたボタンを押して、メールアドレスやパスワード等を入力画面に書き込み、決定ボタンを押す。

 利用規約を熟読してからの同意画面、入力情報の最終確認画面というお決まりのプロセスを挟んで、ようやくゲームの開始画面へと移動した。

 

『名前を入力してください』

 

 凝った画像の背景に、そんな表示と空欄がシンプルに存在している。名前はどうするべきか、ネタに走るか中二でいってみるか等と暫し悩み。数分思考を巡らせた後、結局本名の下の名前をカタカナにしただけのもので行くことにした。重複は運良く無かったようで、名前を入力して確定するとそのまま次の画面へと移動する。

 続いての画面もこれまたシンプルなもので、凝った背景に空欄が一つという先程と同じような構成である。異なるのは表示されている文章で、今度は『好きなキャラクターの名前を入力してください』とあった。

 いったい何の意味があるのだろうか、と若干訝しがりつつも、とりあえず好きなアニメのキャラクターの名前を入れてみる。パンツじゃないから恥ずかしくない某アニメの、ファンの中で一、二を争う人気キャラ――『サーニャ・V・リトヴャク』と入力して、確定ボタンをクリックしてみたのだ、が。

 

『そのキャラクターは既に召還されています』

 

 そのような表示が出て、入力を弾かれてしまった。

 念のためにもう一度試してみても、やはりダメだった。どうやら、他人が既に入力したキャラクターは選べないらしい。略称、渾名、苗字や名前といった色んな種類で試してみてもダメだったところを見るに、随分と徹底した措置がなされていた。

 

 まあ、仕方ない。どうしようもないことだからと割り切って、次に浮かんだキャラクターの名前を入力していく。

が、そのどれもが既に入力済であったり、あるいは『戦闘力のバランスに支障をきたすキャラクターは召還できません』、という表示が出て弾かれたり――その際に入力したのが西尾維新だったり某形成位階云々のゲームだったりのキャラだったので、残念がるよりもまずある種の納得を覚えた――して、中々選択出来るキャラクターが見つからない。

 

 十分ほど画面との格闘を続けた頃だろうか。ふと自暴自棄になって、どうせ無理だろうと避けていた有名作品のキャラクター達の名前を適当に入力していた時のこと。やはりというか入力済みの表示が続く中、予想外に、フィルターを通る名前があった。

 

『【西住みほ】を召還します。よろしいですか?』

 

 通った瞬間、思わず驚きで目を見開いた。ブームを作り出し、地域の活性化まで担ったアニメの主人公が何故誰にも入力されていないのか、喜びよりもそんな疑問が先に来る。

 とは言っても今分かることではないし、ここでうだうだやっている間に誰かに取られてしまっても嫌なので、我に帰るとすぐに確定ボタンを押した。

 そこで暫しの、間。何やら重い画面を表示しようとしているのか、それとも急に回線が重くなってきたのか、画面の読み込みが二十秒近くも続いた。

 

 これはどうしたことだろう、と少々首を傾げている内に、その読み込みは終わって。次の画面が表示されると同時に、突如――――

 

「――――きゃあっ!?」

 

 ドスン、と。俺の背後で何か、重いものが床に落下する音がした。それと共に何故か甲高い誰かの声が聞こえたため、ついついその方向を振り向いてしまう。積んであった資料の山でも崩れたのか、等と最初は思っていた。もしかしたら幽霊の仕業だろうかという、冗談半分の期待も少々持っていた。

 しかしどうやら、その妄想よりも斜め上の事態が発生したようだ、と。それを理解するのに、俺の頭は少々の猶予が必要であった。

 

「あた、た……。もう、何で私、いきなり尻餅ついて……」

 

 視線の先には、一人の少女がいた。

 聞き覚えのある声、綺麗な茶髪に、白を基調にした制服。少し涙目になりながらお尻を擦っているその少女は、先程名前を入力したキャラクター、すなわち『西住みほ』の姿とあまりにも酷似している。

 外見もアニメ調をリアルチックにしたような感じで、可愛いとは思うがとても現実のそれとは思えない。しかし何故だが現実空間と妙な調和を見せており、違和感による気持ち悪さはさほど感じられなかった。

 そんなアニメの世界から飛び出してきたような彼女は、やがて立ち上がるとキョロキョロと何かを探すように周囲を見渡して。呆然と彼女を見つめていた俺と視線が合うと、「あ」と短い声を漏らした。

 

「……あのー、すいません。『シンイチロー』さんで合ってます、よね?」

 

 彼女は丁寧な態度で、そう尋ねてくる。パニックが一周回って逆に落ち着いたのか、突然の超展開にも関わらず、一度我を取り戻してしまうと俺の頭脳は驚くほど冷静だった。

 事態の認識を放り投げているだけかもしれないが、俺は変にどもったりすることもなく、平坦な心地で対応することが出来て。「そうですけど」と短い言葉で返すと、彼女はホッと安心したような笑顔を浮かべた。

 

「そうですか、よかったぁ……。あ、申し遅れました。お呼びいただいた西住みほです、これからよろしくお願いします」

 

 そう言って軽く一礼し、こちらに柔らかな微笑みを向ける彼女を横目に、冷や汗をかきながらパソコンの画面に視線を向ける。おそらく、というよりほぼ間違いなくこのオンラインゲームが、状況証拠的にこの事態の犯人なのだろう。

 画面に『【西住みほ】を召還しました』という文章が表示され、クリックして進めた画面で始まったチュートリアルの最初の項目が、『まずキャラクターと交流をしてみましょう』という時点で有罪認定待ったなしである。

 残念なことに、夢ではない。おもいっきりつねりあげた頬はしっかりと痛みを感じて、放した後もヒリヒリとした痛みが若干ある。酒を飲んだ覚えはないし、薬物なんぞは論外だ。昨日はちゃんと寝たから徹夜の睡眠不足の線も除けば、残ったのはこれが遺憾なことに現実である、という信じがたい状況であった。

 

 いやさ、確かに召還します、とは書かれていたけどさ。だからといって本当にキャラクターが現実に出てくるなんて思いもしなかったし、よくあるカード系ソーシャルゲームの類いかとしか予想もしていなかったのだ。

 いっそ全てを夢にして布団にダイブしたい、という抗いがたい欲求を何とか振り切って、とりあえず何をするべきかと思考を巡らせて。……ゲームなんだからチュートリアルに従えばいいか、という半ば諦めに近い意識の切り替えをして、ニコニコと笑みを浮かべたままの彼女へと視線を戻した。

 

「えっと……。西住みほさん、だっけ?」

「はい。県立大洗女子学園普通?科A組、西住みほです」

「ガルパンの?」

「がるぱん……。すいません、ちょっと聞いたことないですね」

「コスプレとかじゃあ、なくて?」

「え、やだなぁ。私なんかのコスプレなんかしてどうするんですか。ただの高校生ですよ、私」

 

 あはは、とおかしそうに笑う彼女の姿は、見る限りではとても嘘を吐いているようには見えなかった。彼女にとって自分は一介の女子高生で、あまり特別な存在だとは思っていないのだろう。すなわち、自分がアニメの登場人物である、ということも自覚していないに違いあるまい。

 ということはもしかしなくても、目の間の彼女は本物の、アニメの世界から出てきた『西住みほ』なのだろうか。外見や声といった要素で判断するなら間違いないと判断できるが、どうしてもというか、理性的な部分で完全には納得できない。

 

 まあ、いきなり少女が現れたことに変わりはないのだから、この際彼女が本物かどうかなどあまり意味もないか、と。深い思考に陥りかけた脳を無理矢理引き戻して、彼女との会話を続ける。

 

「呼ばれた、とかさっき言ってたけどさ。この状況のこととか知ってるなら、ちょっと説明をお願いしたいんだけど」

「説明、ですか? 具体的には……」

「どうやって君がいきなり現れたのかとか、やっぱりこのゲームに関係あるのかとか、何で君が出てきたのかとか。とりあえず、分かることなら全部聞いておきたいというか」

「成程。分かりました、まずは一つ一つ答えていきますね」

 

 彼女はコクリと頷いて、律儀に言葉通りの回答を行った。

 まず、彼女がこの世界に来た方法。これは彼女にも分からないそうで、気がつけばいきなり移動していた、という感覚に近いらしい。ゲームとの関連性については勿論イエスで、俺が彼女の名前を入力したから彼女が現れたのだそうだ。だから先程は『お呼びいただいた』と口にしたのだ、とのこと。

 そんなことが分かるならゲームのシステム面について大層詳しいのではないのか、と少し疑ったけれど、残念ながらそう旨い話はないようで。幾つかの自分に関係する情報は何故か頭に無理矢理インプットさせられているが、その他のことは自分では分からないと、彼女は申し訳なさそうに頭を振った。

 

「このゲームがどんなゲームなのか、とかも分からないの? 普通のゲームじゃないのはもう理解してるし、オカルトに片足突っ込んでるっぽいのは間違いないんだろうけど……」

「すいません、ホントに分からないんです……。

 私が分かるのは『このゲームが原因でこの世界に来た』ことと、『貴方が私を呼んだ』こと、『私は貴方と一緒にいればいい』こと、『元の世界は心配しなくていい』こと、それくらいで……。しかも漠然と、ただそうあるものだと深層心理に刻み込まれてるような感じですから、何か理由があって知ってるわけでもないんですよ」

 

 つまり、真相解明等には自分はほぼ役立たずである、と。彼女は申しわけなさげに、そう自嘲した。

 

「あ、あと、ここが私のいた世界とは違う世界だ、ってことも分かってます。……と言っても、これもそうだって知ってるだけで、ここがどんな場所かなんて全然分からないんですけどね」

「……つまり?」

「ああ、えっと、その。あくまで私はただの女子高生で、知識や記憶はそれ相応のものしかない、と言ったらいいんでしょうか。こちらの世界は私にとっては異世界なので、もしかしたら共通点はあるかもしれませんが……ううん、すいません。上手く言葉に出来ないです」

「……いや、大丈夫。大体何となく把握できたから」

 

 簡単に言えば、彼女は文字通りアニメの世界からそのまま飛び出してきた、ということなんだろう。原作での知識はあるし、おそらく能力も原作相応のものを持っているのだろうが、現時点ではそれ以上でも以下でもない。

 彼女の場合は、戦車道には秀でていても普段は心優しいどじっ子でしかない。彼女がどう伝えたかったのかは別として、本質的にはおそらくそういうことのはずだ。

 まあ、その辺りは別に、さして問題にはなるまい。幸いガールズ&パンツァーは現代日本の近似的な世界が舞台で、彼女がカルチャーショックに苦しむということは考えられず。女子高生だからといって、それが多大なデメリットを引き起こす、ということもあまり考えられなかった。

 

 問題なのはこれからどうすればいいのかということであり、現状についての完全な理解は難しい以上、一先ずは何らかの目標を定めてそれに向けて動く他ない。

 アニメのキャラクターが出てきた、それはいい。いやよくないのだが、それをいつまでもどうこう言い続けても何も進まない。何のためにキャラクターが出てきたのか、俺は何をすればいいのか、それさえ分かれば事態は進むのだ。

 そしてこれまた幸いに、道標らしきものは分かりやすい形で存在している。彼女の説明が一段落したところで、俺は話を切り上げて。その道標――ゲームのチュートリアルの続きを行おうと、パソコンの画面へと向き直った。

 

『キャラクターとの交流は済みましたか? キャラクターとの関係は今後のゲームプレイにおける重要な要因です、出来る限り仲良くするようにしましょう』

 

 クリックして進んだ画面では、そんな文章が映し出される。

 いつの間に移動したのか、俺の背後で肩から覗き込むようにしてパソコン画面を見つめている彼女に一瞬視線をやって。やはり何の理由もなく召還されたのではないのかと、先程からの推測をさらに強めた。

 

『このゲームは、キャラクター達と一緒に冒険し、施設を育て、他のプレイヤーと戦うオンラインゲームです。不完全ながらも現実とのリンクを実現した、世界初のゲームとなっています』

「……現実とのリンク? どういうことですかね、これ」

「いや、普通のゲームは本当に女の子は出てこないし……」

「ああ、はい。そういう……」

 

 時折彼女と言葉を交わしながら、二人でチュートリアルを読み進めて行く。

 どうやら基本的なシステムは他の、勿論非現実的な事象は及ぼさないゲームとあまり変わらないらしい。まず、プレイヤーには一人につき一つの『拠点』が与えられ、そこで施設を建設したり施設のレベルを上げたり出来るようだ。施設を建てることによって様々な恩恵が得られたり、武装の開発や生産を行えるとのこと。

 次にそうして作った武装を持って、キャラクターと一緒に『ダンジョン』や『マップ』へ進撃する。どうもこれがこのゲームのメイン要素のようだ。ダンジョンではRPGではお馴染みのモンスター達と戦い、アイテムや経験値を稼いでキャラクターを強化することが出来る。マップではその強化したキャラクターと一緒に自分の領地を広げ、他のプレイヤーとの領地を巡る対人戦を行えるらしい。

 

 キャラクターを育て、拠点を育て、他プレイヤーとの戦争に勝利する。このゲームの目的を簡潔に説明すれば、つまりはそういうことだ。根っこの部分は、よくあるオンラインストラテジーゲームと変わらない。大戦略だの、恋姫だの、言ってしまえばそういったものにトンデモ要素が加わっただけのものである。

 しかし、そのトンデモ要素――キャラクターが実際に現れるという仕様があるだけで、おそらく既存のゲームとはハコは同じでも中身はかなり違うものになるはずだ、と。俺の頭はふと、そんな確信を覚えた。

 

『ではまず、拠点に行ってましょう』

 

 画面を進めると、そんな文章が出た。もしやゲームの世界にでも無理矢理入れられるやも、と一瞬身構えたが、意外なことに変化はパソコン画面の中だけで。移った画面は半透明に升目が表示された空き地という、この手のゲームではよくあるものが表示されていた。

 そして次に要求される行動も、まず施設を建ててみようといった、テンプレートの域を出ないものであり。少し拍子抜けしながらも、その指示通りに進めて行く。

 

『資金100と引き換えに、【本部】を建設します。よろしいですか?』

 

 表示されたその問いに「はい」を選ぶと、資金の数が100減少すると同時に建設が始まる。

 このゲームでは単純化が図られているのか、よくあるようにコストが複数種類あったりはしない。プレイヤーは其々の『資金』を有し、施設の建設やレベルアップといった行動にはそれを消費する必要がある。つまり資源が資金に一本化されている、といえば分かりやすいだろうか。

 

 アイテムの購入や武装の生産といった行動にも資金が必要になるため、随分と重要度の高いものになりそうだ。課金、即ちリアルマネーを換金することで大量の補充が可能みたいだが、残念なことに一大学生たる俺ではそうそう取れる手段ではない。毎月のバイト代と仕送りの額を考えれば、精々月に数万が限度である。

 初期費用としてそれなりの額が配布されているが、施設の建設コストを見る限りではそこまで安心出来る余裕はない。数日全力で拠点の強化に取り組めば、あっという間に底をついてしまうだろう。

 とりあえず、無駄な浪費は避けるべきだろうな、と。続いて幾つもの施設の建設を終えながら、そう心の隅に留め置いた。

 

『これにて拠点の準備は一先ず完了です! では次に、ダンジョンへ向かってみましょう』

 

 一通りの施設を建設し終わると、続いてそんな表示が出る。先程は肩透かしだったこともあり、どうせこれも画面上のことだろうと、気軽に次の画面へと飛んで――――

 

 

 

 クリックをした瞬間に、俺達の周囲の光景は変わっていた。

 

 




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