開けた視界が始めに捉えた景色は、知らない天井だった。
古びた天井。木造だがしっかりとした作りではあるようで、年季は感じさせるもののボロいという印象はない。
むしろ、古木特有の落ち着いた印象を受ける、田舎のおばあちゃんちみたいな安心感があった。
「さて……」
大体検討はついているけど、まずはここがどこなのかを確認すべく、いつの間にか横になっていた体を起こす。
正面に見えたのは、所々破けたボロの障子。
続いて回りを見渡すと、天井と同じ材質の木材があしらわれた、薄暗い部屋の中にいることが分かる。
丁度陽が登ってきたようで、一筋の光が破れた障子の隙間を通って差し込んできた。
今得られた情報はそれだけ。けれど、僕にはここがどこかきちんと分かっている。
「……やっぱり、スタートは博麗神社だ」
そう、ここは博麗神社に違いない。霊夢を選んで始めたのだから当たり前みたいな感じがするけど、予想通りだ。
自分が居る場所は寝室だろうか。いつか三月精のコミックで、こんな部屋を見た気がする。
ということは、もちろん。
「おおっ」
自分の両手、そして着ている衣装を見て思わず声を上げる。細くて綺麗で、繊細そうな女の子の両手。これが霊夢の両手なんだ。なんだか感動。
しかしそれよりも驚いたのが、衣装である。巫女服を着ているのかと思ったけど、なんと上半身はさらし一枚で下半身はドロワーズのみだった。なんとまあ刺激の強いこと!
(初期装備みたいな物なのかな)
RPGなんかだとよくある、初期装備が布の服一枚にステテコパンツみたいなものなのだろうか、と考える。
ひょっとして着せ替え要素もあるゲームなのだろうか。防御力とかあったりするのだろうか。贅沢だ。
とはいえ、今のままだと博麗霊夢として圧倒的に足りない。やっぱり紅白巫女じゃないと。
……こういう時、大抵はタンスやクローゼットをいじれば他の装備品が出てくるものだ。
もう一度周囲を見渡して、それらしき家具に手を伸ばす。
しかし、
『~~~~~……』
突然、音のなかった世界に自分以外の声が聞こえてきた。
……人?
声は段々と近付いてくる。
「ですから、~~~……」
「そんな、~~~…!!」
一人はしわがれた爺さんみたいな声。そしてもう一人は、一段と大きな声を出す少女の声。
何やら言い争っている様子だけど、それよりも一体誰なのかが気になる。
博麗神社に他の少女は……たくさんいた。けれど、爺さんの声は誰だろう。もしかして、玄爺? 新生だからそれもあり?
何て考えていると、
「何度もいいますが、もう手遅れかと……」
「だから私はそんなこと聞いてないんだぜ、黙って診察だけしてくれ!」
声がはっきりと聞こえてくる位置まで接近してきたようだ。手遅れ、診察……あまり良くない単語が気になる。
会話の内容から察するに、爺さんは医者だろうか。それと、少女のほうはもしかして、霧雨魔理沙?
へえ、公式ではこんな声になったんだ。
……しかし、医者はともかく、魔理沙の方は不思議と違和感がなかった。
初めて聞いたはずの声なのに、もう既に何度も聞いてきたかのような……。すんなんりと受け入れられる。
「とにかく、金は出てるんだ。しっかりと治療するんだぜ!」
魔理沙らしき少女の大きな声に続いて、「は、はぁ」と困ったような医者の声が聞こえ、ずっと聞こえていた足音がやむ。
しかし、誰が病気なのだろう。手遅れかどうかって話が出る辺り相当重症のようだけど。
タンスを漁るよりそちらに興味が勝り、声のやんだ方を向く。
……そこには、障子に映し出される二つの人影があった。
「え?」
二人がどこに向かったのかと思えば、どうやらここらしい。あれ? ここは霊夢の寝室のはずだけど、どこに病気人が?
ぱっともう一度周りを見渡すも、自分以外の人間はいない。
これはもしかして?
……と思うも、答えを見つけるより先に障子が物凄い勢いで開かれた。
「霊夢、おはよう。三日ぶりの医者を連れてきた……ぜ?」
「はあ。失礼しま……」
そして、その瞬間二人同時に固まる。
ああ、魔理沙だ。セレクト画面でも見たけど、こうしてモデルを見るとやっぱり新鮮だ。思っていたよりも可愛い子だったんだなー……と感慨深く思えたのも、同じく一瞬。
医者の幻でも見ているかのような呆けた表情と、彼女の見開いたブロンドの両目に、僕は貫かれて動けなくなってしまっていた。
そして、直感する。
ああ、これはやっぱりそういうことなのかと。
「目が覚めたんだな、霊夢……」
おぼつかない足取りでゆっくりと近付いてきて倒れこむように胸に抱きついてきた金髪の少女を見て、恥ずかしさやら戸惑いやら感動やら、何やらを全て置いてけぼりにして……僕はただ困惑する。
どんな設定なの……と。