The Elder Scrolls FMC : ORARIO(旧題:ダンジョンで贅沢を目指すのは間違っていない。)   作:熱狂的なファン

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永らくお待たせしました。
リアルでの事情がひと段落ついたので投降できます。
ちょっと短めです。


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 今日は年に一度、オラリオがいつも以上に湧き立つ【怪物祭(モンスターフィリア)】の日だ。

 ザールとベル、他の冒険者たちの殆どもこの日ばかりは武装を解除し、ダンジョンに潜らないで一日を楽しむ。

 有名店や的屋の屋台には異国の珍しい品、美味しそうな料理や飲み物などが並んでいた。

 

「いやぁ、これが怪物祭か。これまでいろいろな所の祭を見てきたが、オラリオ(ここ)程盛り上がっているところはそうそうなかったぞ」

 

 鎧を着ていないザールの恰好は伝統的なダンマーの衣装だ。アッシュランドに群生するキノコや植物を錬金術で加工した染料を用いて青色に染色されており、また過酷な火山地帯でも着用者を守るために防塵加工が施されている。

 その後ろについてくるように歩くベルだが、その表情はどこか落ち込んでいる。いや、落ち込んでいるというよりは、難しい課題に頭を悩ませているといったほうが正解だろう。

 あれからザールの言った事の答えを考え続けたが、結局怪物祭の日になっても結論は出なかった。

 

「おい、どうした?」

「……あっ! いえ! なんでもありません!」

 

 慌てて首を振るベル。心ここにあらずといった状態で、楽しみにしていた祭のことも頭から抜けていた。

 

「そうか。まあいい。それよりも、あの屋台に売っているものはなんだ?」

 

 そう言ってザールは少し軽い足取りで屋台へと向かった。

 ベルはその背中を見て、いつもの厳しい師匠とはとても思えないと考える。オンオフの切り替えも一流の戦士には重要なのだろうかと、少し深読みしすぎながらもザールを追った。

 

「おい! これ二つおくれよ!」

 

 客と応接する方に背を向けている、フードで頭まで覆った売り子にザールが声をかけた。すると、売り子の動きがピタリと止まった。

 

「その声は、レヴァン? レヴァン・ザールか?」

 

 驚いたようなしゃがれた声を出しながら売り子が振り向く。すると今度はベルとザールの二人が驚く番だった。

 フードから覗いている顔はまるっきりトカゲだった。緑色の鱗状の肌で、出っ張った口、離れた目は人より小さく瞳孔がまん丸だった。

 ベルは一瞬、地上にダンジョンのモンスター【リザードマン】が現れたのかと身構えそうになったが、服を着ているし、何より言葉を発した事でなんとか踏みとどまる。もしかしたら、いらない騒動を起こす可能性があると瞬時に察知したからだ。

 ザールはというと、その驚きはベルのものとは違っていた。

 

「お前、浅瀬の一等星か!?」

「そうさ。俺のことは忘れていないようだな」

「当たり前じゃないか! 友よ!」

 

 嬉しそうな声を上げながら、ザールは屋台のトカゲ人間、【浅瀬の一等星】と呼んだ彼の肩を叩いた。浅瀬の一等星の方は一見すると表情は変わっていないように見えるが、ベルの目にはニヤリと笑ったように見えた。

 

「元気そうで何よりだ。お前もオラリオに来たんだな」

「ああそうだ! お前が誘ったようなものだからな! 今はヘスティアという神のもとで働いているよ」

「ヘスティア……聞いたことはないな。最近発足したばかりの派閥か?」

 

 浅瀬の一等星の言葉に「ああ」と答えたザールは、今度はベルの肩を叩く。

 

「構成員は私とこの坊主の二人だけ。まだ発足して一月ほどだそうだ」

「なんだって? お前ほどの腕があれば、あのロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアにも入れたと思うが」

 

 ザールの表情が曇る。

 

「ああ、まあ、そうだな。その二つの所には行ってなかったが、その、面接を受けた所で不当に不合格を言い渡されてな。わかるだろう?」

 

 浅瀬の一等星はザールの事情を察したようで、コクリと頷いた。彼も同じような経験があるため、ザールの言いたい事はすぐにわかるのだ。

 

「まあ、暗い話はなしにしよう。どうだ? スローターフィッシュのケバブ。お前は友人だから、特別割引で提供してやってもいい」

「ほう、この辺りでは珍しいな。悪くない。二つくれ」

 

 ザールが財布を取り出して二人分の代金を渡すと、浅瀬の一等星がマチェーテ包丁を手に取り、魔石オーブンで回しながらまんべんなく焼かれている大きな魚の一部をそぎ落とし、それを薄い生地のパンに野菜と一緒に挟み、最後にソースをかけて二人に渡した。

 

「まいどあり。今度二人で飲みに行こうぜ、友よ」

「勿論だ。それじゃあ、また今度!」

 

 去り際にベルが浅瀬の一等星にお辞儀をし、ザールについて歩く。見ると、ザールは既にケバブに口をつけていた。どうやら歩きながら食べても問題なさそうだ。

 ベルも思い切ってケバブにかぶりつく。淡白な白身魚とシャキシャキのキャベツ、そして甘辛いソースが絶妙にマッチした味わいだった。

 

「モグモグ……あ、そうだ、レヴァンさん。あの、人……人? なんでしょうか? お知り合いですか?」

「うまいうまい……。ん? ああ、そうだ。ヤツは私の傭兵仲間、いや、元だな。元傭兵仲間の浅瀬の一等星だ。私がオラリオ(ここ)にくることのきっかけになった男だ」

 

 「きっかけ?」をベルは首をかしげる。

 

 何を隠そう、ザールがオラリオを目指すようになるきっかけを作った傭兵仲間とは浅瀬の一等星のことなのだ。彼が聞いた話によると、【イグ】という神のもとで働いており、現在はLv.2になっているそうだ。

 

(ザールさんには知り合いが多いとは思っていたけど、蜥蜴人間の傭兵だなんて驚きだなぁ)

 

 ぶっきらぼうだが面倒見がよく、酒もよく飲むから知り合いは多いだろうとベルは考えていた。

 

「わかるぞ。お前、蜥蜴人(アルゴニアン)を見るのは初めてだろう?」

 

 ザールの問いかけにベルは「はい」と答える。

 

「熱帯雨林の国【ダーク・スポット】の亜人種だ。犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)よりも動物に近い見た目が特徴だな。驚いただろう?」

「ええと、はい。今まで見た亜人の人たちは、どっちかって言うと僕たち(ヒューマン)に近い見た目でしたので」

「ダンジョンでそれらしい種族を見かけたら気を付けろよ。うっかり先制攻撃してトラブルに、なんてことになったらシャレにならん」

 

 実はその勘違いのせいでザールと浅瀬の一等星はひと悶着あった事があるのだが、今では友人と言えるまでに関係は修復している。

 

「あの、そう言えば、どうしてザールさんはあの人の事を二つ名で呼んでいるんですか? やっぱり、冒険者みたいに名の知れた傭兵同士も、そういう風に呼び合うものなんでしょうか?」

「二つ名? ああ! 違う違う。あれはあいつの名前だよ」

 

 ベルの頭に疑問符が浮かぶ。

 『浅瀬の一等星』。どう見ても普通の名前には見えない。称号とか二つ名としか言いようのない響きだ。その疑問にはすぐにザールが答えた。

 

「アルゴニアンの名前はヒューマンに近い種族には発音しづらい、あるいは聞き取れない物があってだな。ヤツの名前も音にすると、シューシューシュー、という感じだが、なんて言っているかわかるか?」

「い、いいえ。さっぱり聞き取れませんでした」

「そうだ。だからアルゴニアンには本名とは別に、人に近い種族に向けた【ヒスト名】という別の名前があるんだ。」

 

 ヒスト名はそのアルゴニアンの子供の頃の行動などにより決められる。例えば、沼地でよく動き回る子供時代だったのなら【湿地帯の斥候】という名前がついたり、こっそり酒を飲んで怒られたことがある者には【深酒を呑む者】という名前がついたりする。

 

「へぇ。じゃあ、あの人の名前の由来っていうのも、何かあるんですか?」

「ああ。確か前に聞いた話によると、密林を探検して迷子になった時、持ちだしていた魔灯石を光らせて大人たちに見つけてもらったそうだ。それで、いた場所が沼の浅い所だったからそういう名前になったと聞いているな」

 

 何とも間抜けなエピソードだったが、異文化というものに触れたベルはそれが面白かった。

 

「さて、スローターフィッシュのケバブはなかなか美味かったな。アイツもいい仕事をする」

「レヴァンさん! 次はあれなんてどうですか? ヤムヤム悪魔風卵って、なんだかおもしろそうな食べ物じゃありません?」

「おっと、待てよ。あっちのクアンタムジュースというのもなんだか気になるな」

 

 オラリオの珍しいグルメを存分に満喫する二人。また、グルメだけではなく小物屋が風変りなアクセサリーなどを売り出していたりもする。珍しいところでは木彫りの熊の置物が売っていた。

 オラリオの祭。それはザールが体験したどの祭典よりも、大きく賑わっていた。

 

「ん? おーい! そこの白髪頭とおっかない顔のおじさん! 待つニャー!」

 

 ふと、二人が呼び止められた。声をかけられた方を見ると、そこには豊穣の女主人の店員の猫人のアーニャがいた。彼女も両手いっぱいに食べ物や飲み物を抱えているようだが、私服ではなく給仕服なのはどういうことだろうか。

 

「サボりか?」

「ニャ!? ひ、人聞きの悪い事を言うものじゃニャいニャ! ミャーはシルの忘れ物を届けるためにちょいと抜けてきただけニャ!」

「忘れ物?」

 

 アーニャは食べ物を小脇に抱えて懐をまさぐり、そこから財布を取りだした。

 

「シルはおっちょこちょいニャ。店番サボって祭り見に行ってるのに、財布を忘れて行ったからミャーが届けに行ってやる所ニャ」

「どう見てもお前の方がサボって祭を楽しんでいるように見えるが?」

「ち、違うニャ! シルを探している途中でお腹がすいたからちょっと早めのランチを楽しんでいるだけニャ!」

 

 アーニャは慌てて弁明しながらベルに財布を持たせた。

 

「ミャーはそろそろ戻らないとヤバいニャ。だから白髪頭。シルのマブだちのおミャーが代わりに届けてくるニャ」

「ええっ。僕でいいんですか?」

「大丈夫ニャ! おミャーは食い逃げしたけど他人(ひと)の財布をパクるやつには見えないニャ! じゃ、しっかり頼むニャー!」

 

 アーニャはそう言い残して、すたこらと店のある方へ駆けて行った。

 

「ヤバいって、やっぱりサボってたんじゃ……。でも、僕たちシルさんがどこにいるかわからないんですけど」

「十中八九祭りの目玉である公開調教(テイム)を見に行ったんだろう。そっちに向かっていればそのうち会えるかもしれん」

「じゃあ行きましょうか」

 

 取り敢えず、二人も闘技場を目指して歩くことにした。無論、道中でグルメを楽しみながら。

 


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