The Elder Scrolls FMC : ORARIO(旧題:ダンジョンで贅沢を目指すのは間違っていない。) 作:熱狂的なファン
夕方。ザールがこの街に到着してから大分時間がたち、太陽は巨大な外壁のすぐ上まで降りてきていた。
赤い夕陽が街を染め上げる。この時間帯になると薄暗がりも増えてくるので、それらをかき消すように魔石灯が点灯していき、夕方と昼の区別はなくなっていく。
夕陽に照らされた道を行くのはダンジョンから戻ってきたザールだ。腰のポーチの中には膨らんだ袋が入っており、中身は小さな魔石や魔物の身体の一部が詰まっている。オラリオの冒険者はこれを売ることで日々の収益を得ているわけだ。
今日のザールの稼ぎはどの程度になるかは知れないが、ゴブリンを50体は倒して得た物だ。相当な収益になるに違いないと彼は踏んでいる。期待に胸は膨らむばかりだ。
ザールは万神殿に到着する。ここにはアドバイザーの受付カウンターの他に換金所がある。ここで魔石を金に換えるわけだ。
「おい! 誰かいるか!? 魔石を換金したい!」
受付係の顔が見えない箱型カウンターに向けて叫ぶと、その一部が動いて引き出しが出てきた。中は空であり、ここに魔石を入れろということだろう。ザールはポーチから袋を取りだし、その口を開いて逆さまにする。小さな魔石がボタボタと落ち、小さな山になった。
引き出しが引っ込むと、十秒も経たない内に再び引き出しが出てきた。そこには魔石の代わりに金の入った袋が鎮座していた。
期待を込めて紐を解いたザールだったが、その表情はマスクの下で固まった。思ったよりも少ない。額にして2万3000ヴァリス、ザールの予想では5万ヴァリスにはなっているはずだった。少なくとも、オラリオの外の街や村ならあの量でそれくらいにはなる筈だが、これでは期待の半額以下だ。
「おい、これは適正価格なのか? ちゃんと計ったのか? 返事くらいしたらどうだ」
箱カウンターの格子に手をかけて呼びかけるが、誰もザールの声に応えなかった。換金に関するご意見、クレームは一切受け付けないということだろうか。
ザールはため息を吐く。よくよく考えてみれば、ここはオラリオ、魔石の原産地だ。輸送の手間はないし、ザールの持ってきた魔石よりも良質な物を大量に持ってくる冒険者は他にいるだろう。つまり、現状ザールに大金を払うほどの価値はないというわけだ。
金の袋をポーチに入れ、ザールは万神殿から去ろうとする。
「あ、レヴァン・ザール氏、ですよね?」
ザールが足を止めて振り向くと、声をかけてきたのはエイナだという事がわかった。彼女はザールの手にある袋を見て目を細める。
「ダンジョンに、行かれたのですね……」
「ああ。いやぁ、大金を稼げたよ」
トーンを落とし、皮肉を込めた声色で言う。一日2万ヴァリスという額は傭兵から見ても中々の稼ぎだが、オラリオの話を聞いていたザールからすれば少々期待外れであった。嫌味や皮肉の一つでも言いたくなったのだろう。
エイナはそんなザールの態度を特に注意する事はなく、彼の身体のあちこちを見ている。怪我でもないか探しているのだろう。
「明日はダンジョンに潜ることはお控えすることをお勧めします。少なくとも、担当アドバイザーとの話が終わるまでは」
「無論だとも。しばらくは様子見をしながらダンジョンに入るつもりだよ」
「なら良いのですが……どうかお気をつけて」
エイナのその言葉を聞いたザールは今度こそ万神殿を去った。
明日はもっと稼げているといいなと考えながら、ザールは廃教会へ向かう。
◆
廃教会の地下へ続く階段を降りてドアを開ける。
部屋のテーブルの上には揚げ物料理だろうか、ザールの見たことのない食べ物が置かれており、ソファに腰掛けているヘスティアともう一人がそれを頬張っていた。
「っ! んぐ……ッ! だ、誰ですか貴方!? 痛っ!」
「わー! ベルくん大丈夫かい!?」
ヘスティアの隣にいた白髪の少年が口の中の食べ物を慌てて飲み込み、ヘスティアを庇うように立ち上がろうとする。その拍子に脛をテーブルにぶつけて床にうずくまった。
ザールはその少年を情けないと思いつつも、どこかで見たことがあると記憶を探った。そうして思い出したのは、冒険者登録をした時に現れた血まみれの少年だった。たしか、名前はベル・クラネルといったか。
見知らぬ人間が家に入ってきたことを警戒するのは当然だが、ザールの事をヘスティアは話していないのだろうか。
「ヘスティアから私の事を何も聞いていないのか?」
「いつつ……。へ? か、神様。どういうことですか?」
ベルは脛をさすりながら顔を上げ、後ろにいるヘスティアの方を向いた。
「ほら、さっき話しただろう。彼がボクたちファミリアの新メンバー、レヴァン・ザール君だよ!」
ヘスティアがそう言うとベルは途端に笑顔になり、脛の痛みも忘れて立ち上がってザールに寄った。
「貴方が新しい団員の方ですか! あの、僕はベル・クラネルと申します! あの、まだ若輩者ですが、これからよろしくお願いします!」
ベルは背筋を伸ばしてお辞儀をする。
ザールは他人の礼儀など気にしないし、ベルに頼りない印象を受けていた。だがこれから同じ屋根の下、否、この場合は床の下で暮らす仲になるのだから、コミュニケーションをとらないという選択肢はないだろう。
(どれ、少し反応を探ってやるか)
ザールは兜を外して素顔を晒す。ベルの赤い瞳が丸くなった。
「傭兵、いや、元だな。元傭兵のレヴァン・ザールだ。見ての通り、アッシュランドのダークエルフだ。お前がどう思おうが知ったことではないが、これからよろしく」
ザールの自己紹介はベルの耳にはあまり入っていないように見える。恐らくダンマーを見るのは始めてなのだろう。
恐ろしいと思っているのか、醜いと思っているのか、どちらにせよベルの口から言葉が出ないのはザールの容姿のせいだろう。
「ほらほら! そんな所で突っ立てないで! ザール君も席について一緒にご飯を食べよう!」
「ああ」
呆けているベルの横を通りすぎてザールは二人が座っていた所の向かいにあるソファに腰掛け、隣に兜を置いて謎の揚げ物料理に手をつける。
ベルは彼の動作をただ目で追うだけだったが、ハッとなってヘスティアの隣に戻った。
「あ、す、すいません!」
彼は何に対して謝ったのだろうか。何にせよザールは気にしないが。
手に取った揚げ物料理に一つまみの塩をかけて口をつける。表面はサクサクとしていて、仲には温かく柔らかい物が入っていた。風味からしてジャガイモだろう。
この食べ物はザールの舌によく合った。元々、アッシュランドの主食は芋なので相性がよかったのだろう。
「うまいなコレは。どこで買ってきた?」
「お、気に入ったのかい? いいセンスしてるねえ。これはね、オラリオで人気沸騰中の食べ物で【ジャガ丸くん】っていうんだぜ。僕は昼にはジャガ丸くんの屋台でバイトをしているから、賄いで沢山貰えるんだよ」
「ククッ」
思わず笑いそうになるザール。
「あー! 今笑ったな!」
「ああ、神様。お行儀が悪いですよ!」
「神が……バイト……ククッ……」
髪を逆立てて抗議するヘスティアはどこへ吹く風と受け流すザール。彼の知る神の大体は死んでも定命の者の下につくことはしないだろう。だから神がバイトをするという事が少し可笑しかった。
「まったく! オラリオの零細ファミリアは主神も働かないとやっていけないんだぞ!」
「いやぁ、すまんな。それじゃあ、これで機嫌を直しておくれよ」
そう言ってザールはポーチの中から金の入った袋を取りだし、テーブルの上に置いた。ヘスティアとベルの視線がそれに向く。
「これは?」
「今日の稼ぎだ。思ってたよりは少ないがな」
「稼ぎって……ダンジョンに入ったのかい?」
「ああ。と、言っても、今日は様子見だがな」
ヘスティアは袋の中身を改めてギョッとする。いつものベルの稼ぎより何倍も多い。つまり腕が立つか、無茶をしたかのどちらかということだ。
「ちなみに! どの階層まで潜ったんだい? 回答によってはお説教をしなくちゃならないよ」
「たしか第三階層だったかな。ゴブリンやコボルトばかりで張り合いはなかったがな」
「三階層か……うーん、微妙なところだけどなぁ……」
そう言いながらザールはジャガ丸くんを頬張る。楽に金を稼げるならばそれに越したことはないが、ザールも戦士の端くれ。戦いには多少なりともやりがいを求めるタイプの人種だ。
ふと、ザールはベルが目を輝かせて彼を見ていることに気が付いた。
「……なんだ」
「す、凄いですよ! 僕なんて、ついこの間冒険者になったばかりの頃はゴブリンを倒すのもやっとって感じだったのに、いきなり三階層だなんて!」
現在、ベルの強さがどの程度なのかは知らないが、少なくともゴブリンを倒した程度で凄いと言う者を頼りにしようとは思わなくなった。
「あ、あの、ザールさん! もし良かったら、僕とパーティを組んでくれませんか?」
その申し出に対してザールは断りを入れようとしたが、その前にヘスティアが口を開いた。
「曲がりなりにも、ベル君はダンジョン探索においては君より(一週間くらいは)先輩なんだぜ? ダンジョン探索するなら、多少は知識がある人がお供にいると便利だと思うけどなぁ」
ヘスティアの言うことも最もだが、ベルはどう見ても戦いを生業とする人種には見えない。神の恩恵を受けているので見た目で強さは測れないが、ザールより強いということはないだろう。
だが、下手に断って同居人どうしの関係が気まずくなるのも気が引けたのでとりあえず首は縦に振ることにした。
「よかった! じゃあ明日からの探索は君もベルくんに同行してくれたまえ!」
「いや、それは無理だ」
ヘスティアがステーンとひっくり返る。
「な、なんでだよ! さっき首を縦に振ったじゃないか!」
「明日の昼はアドバイザーとの面談があるのでな。どのくらい時間が掛かるかはしらんが、同行は無理だよ」
「そ、それなら仕方がないな」
すごすごと引き下がるヘスティア。すでに予定がある人物に強要はできない。だがザールとベルが組めば今よりももっとダンジョンの攻略が進むだろう。ベルには明日はいつも通りに一人でダンジョンに行ってもらう他はあるまい。
皿の上のジャガ丸くんは全てなくなり、今日のヘスティア・ファミリアの夕食が終わった。
ジャンクフードしかなかったことは多少不満だったが、ザールはジャガ丸くんのことは大いに気に入った。何時か故郷の穀物であるアッシュヤムで同じ物を作ってみようかと考えるくらいだ。
「よし! じゃあ新メンバーも加わったことだし、僕たちの未来のためにステイタスを更新しよう!」
ヘスティアが立ち上がってそう言った。
◆
レヴァン・ザール
Lv.1
力 :0→7
耐 久:0
器 用:0→11
敏 捷:0→9
魔 力:0→17
魔法
【ライトニングボルト】
・速攻魔法
【嵐の精霊召喚】
・低級の雷の精霊を召喚する
【治癒の光】
・聖なる光が傷を癒す
スキル
【火山の民アッシュダンマー】
・炎への耐性
・炎による影響を50%カットする
「やはりゴブリン風情、幾ら倒したところでこんなものか」
普段着に着替え、渡された紙を眺めながらザールは愚痴るようにつぶやく。ステイタスは低いうちなら早く成長するという。自分のステイタスの伸び方が良いのか悪いのかはわからないが、彼としては殆ど成長していないように感じた。
「いやあ、最初にしてはかなり成長している方だと思うよ? でも耐久が全く上がっていないってことは、あまり攻撃は食らわなかったってことかい?」
「ゴブリンなどでは何匹いても私にかすり傷すら負わせられんよ」
ザールの場合、頭に袋を被せられて後ろ手に縛られているなんてことにでもならない限り、ゴブリンの攻撃に当たることはないだろう。
「そうやって油断していると足をすくわれるって話だよ」
「ハイハイ。まあ、気を引き締めなくてはならない一線は心得ているさ」
腕利きとはいえ、ザールは「自分が最強だ」などと自負するほど傲慢ではない。過去に命を落としそうになった事は何度もあった。ミノタウロス十頭を相手にした時は腹を破かれたし、ドワーフの古代遺跡に入った時は、古代ドワーフの作り上げた自動人形たちに矢の雨を浴びせられた。ドラゴンと戦ったこともあるくらいだ。奴らの炎は火に耐性のある筈のダンマーの皮膚でさえ焦がすほどだった。
つまりそれ位でなければザールを危機に陥れることは不可能だという事だ。無論、それ位になったら気を引き締めなくてはならないが。
「私の寝床はどこだ?」
「あー、まだベル君の分のベッドも用意できていないんだ。だからあの子と一緒にリビングのソファで寝ておくれよ」
「わかった」
リビングに向かうザール。それと交替するようにベルがステイタスの更新のため、ヘスティアの寝室へ入っていった。
「あんな小僧がダンジョンに潜るか……」
ザールとしては、ベルは戦場に出られるような人間には見えなかった。どちらかと言えば、平穏な田舎の村でクワを振るうか、家畜の世話をするかして穏やかな一生を過ごすのが似合いの少年。戦いには向いていない。
ダンジョンに潜っているという事は、それなりに力はついているのだろうが、それを考慮しても不安は払拭しきれない。
(まあ、私の足さえ引っ張らなければ良いがな)
ザールはソファの片方に身を投げ出し、右半身を下に向けて瞼を閉じた。
オラリオに来て初めての眠り。ダンマーはどのような夢を見るのだろうか。