The Elder Scrolls FMC : ORARIO(旧題:ダンジョンで贅沢を目指すのは間違っていない。) 作:熱狂的なファン
「そろそろ行くか」
ベルがサンドイッチを食べ終わった所で二人は立ち上がり、店探しに戻ることにした。
「オラリオ広し。とはいえ、良い店は中々見つかるものではないな」
「そうですね。何か、基準というか、指標みたいな物があればいいんですけど……」
歩き回っている内にそんな事を言い出したベルは、何気なくザールの鎧に目をやった。無駄を排除した流線形状の軽装鎧。実用性をかなり重視した鎧。
ベルとザールは知り合ってまだ三日だが、彼は本拠地で寝るとき以外はいつもこの恰好だ。ダンマーという自分の正体を隠すためでもあるのだろうが、恐らくは傭兵時代のクセが抜けていないのだろう。
そこで、ベルは気になることがあった。ザールの鎧は戦闘のプロである彼が選んだ物なのだから上物なのだろうが、よく見るとその装甲が何でできているのかわからないという事に気が付いた。灰色混じりの暗い黄色の素材で、恐らく金属ではない。どことなく生物的な雰囲気があるように見える。
ふと、ザールがベルの視線に気が付いたのか、足を止めて彼の方へ振り返った。
「私の鎧が気になるか?」
「はい。その防具の装甲って鉄、というか金属じゃないですよね? 何かの骨とかですか?」
「ああ。まあ、少し違うがな。これはキチンの鎧だ」
「キチン?」
聞きなれない単語に、ベルの頭の中に疑問符が浮かぶ。
キチンとは、節足動物や甲虫の外骨格のことだ。具体的に言えば、カブトムシやカニなどの甲殻がこれに値する。
「そうだ、キチンだ。私の故郷、アッシュランドに生息する昆虫の甲殻からできている。軽装にしては重たい方だが、非常に頑丈な上、構造的に優れていて非常に動きやすい」
「甲殻?」
幼少期、ベルは祖父と山に入ってカブトムシやクワガタムシを捕まえたりして遊んでいたことがあった。虫の外殻は確かに頑丈ではあるが、それを百匹二百匹分集めたところで剣の一撃に耐えられるとは思えなかった。
自慢の鎧の信頼性に疑いの眼差しを向けるベルに気付いたザールは、喉を一つ鳴らした。
「舐めるなよ。ダンマー秘伝の魔法鍛造で鍛えられた鎧だ。こう見えて鋼鉄よりずっと頑強に出来ている」
「おお……」
「秘伝の業で鍛えられた魔法の鎧」という物がベルの思春期男子特有の琴線に触れたらしく、疑いの眼差しは一変して憧れへと変身した。
それに気を良くしたザールはマスクの下でにんまりと笑う。
「秘伝といえば、私のこの剣もエルフ伝統の業で鍛造されたものでな――――」
ザールが自身の装備の事をベルに自慢している内に、二人は次の店の前にやってきた。表通りの店がしっくりこなかったので裏路地に入った所で見つけた。
巨大なハサミを模して造られた看板から、一見すると一般で使う金物屋のように見えるが店先の格子窓の内側にあるマネキンに鎧を着せているので防具も売っているようだった。
入り口から店の中に入ると、そこは薄暗い雰囲気のどんよりした所だった。両脇を建物に挟まれ、さらに入り口の方向も太陽光が入りこんでこないようになっているためそうなっているのだ。
だが陳列棚には冒険者向けの武器や防具がズラリと並んでいる。それも、どれもこれも丁寧に、客に見やすく配置されているため、この店の主人の几帳面さがうかがい知れる。
「ん? ああ、ようこそおいでやす」
二人の気配を察したのか、店の奥から一人の女性がやってきた。
身長は女性にしては高い方、167Cほどだ。上質なシルクのような白髪。それに合わせるような、新雪のように白い肌。
着ている服は黄色とオレンジ色のドレスだが、作業着に使われるような頑丈な布を材料にしているらしい。
黄色い目は眠たそうな半開になっているが、非常に整った顔立ちをしているし、神々しい雰囲気もある。どうやら女神のようだ。
「ああ、お客はんが来たのは久々どす。うちはヘカティア。ヘファイストスやゴブニュん
おっとりとしてはいるが、じれったくはない。独特なイントネーションの言葉使いは、ザールにロキを連想させた。
へカティアは優しい微笑を二人に向ける。ザールは特に何も思わなかったが、ベルは顔を赤くして目を逸らしてしまう。その様子が面白かったらしく、彼女は小さく笑った。
「フフフ、初々しい子ぉどすなぁ。可愛おす」
「女神、コイツを気に入ってくれたのなら何よりだ。今日はコイツの買い物なんでな」
「ほう、そうどすかぁ。うちでよければ案内するよ」
へカティアがベルの頭を撫で、「うちとおそろいどすなぁ」と笑う。
もはやベルは最初にザールと会った時のように、真っ赤なトマトみたいな顔になっていた。
「……フム。私はあっちで武器でも見ているから、自分で用件を伝えるんだな」
「え、ち、ちょ、ちょっと! レヴァンさん!?」
男にでもなれ、と言いたげにザールは二人から離れ、片手武器の陳列棚の方へと歩いていった。
今の所、ザールは自分の剣に満足しているので、しばらく買い替える必要はないと思っているので今日買う予定はないが、暇つぶしに見るのも悪くない。それに、剣はそうでも多目的用の短剣は今使っている物よりも良い物があるかもしれない。
(むう、良い剣だ)
目に付いて手に取ったのは鋼鉄の剣。肉厚で幅広だが、根本の部分は少し括れている。この意匠は軍神アレスが統治しているラキア帝国が昔使っていた剣に似ていた。
直剣にしては短いが、これには理由がある。ラキアはその昔、今の大帝国に発展する以前に北方の種族【ノルド】と戦争をしていた。当時のノルドは獣の毛皮の戦闘服を纏い、グレートソード、両手斧、戦鎚など、両手で持つような大型の武器を好んで使う、破壊力のある戦士たちだった。これに対してラキアが取った戦術は防御であった。
ラキアの兵士たちは自分の身体を隠すほどの大きな盾を持って身を守り、それをノルドが力任せに叩き割ろうと武器を振り上げたところで、小回りの利く短い剣を突き刺すという戦闘スタイルを取った。この戦法はノルドたちに対して非常に効果的であり、ラキアは彼等の国を征服して傘下に治めた。
現在は鎧の技術発達に伴い、武器は剣から打撃力を重視したメイスや斧などに取って代わられ、この様式の剣はラキアからなくなったが、正規兵でない帝国出身の傭兵や冒険者はこの様式の剣を持つことが多い。彼等の栄光への最初の一歩であるので、験担ぎの意味合いがあるのだ。
(確かに良い剣。だが、鋼鉄は私の剣に劣るし、何よりラキア式というのは気に入らん)
ザールは内心毒づいて剣を棚に戻した。
アッシュランドとラキアはかつて同盟を結んでいたが、ある二つの事件を発端として同盟は解消され、しかも戦争に至った。
戦争になる前に国力が弱まっていたアッシュランドは、何とか征服されることこそま逃れたものの、国土の一割に当たる広さの島を奪われたにもかかわらず、その島は火山灰を運ぶ風の直撃コースだったので資源に乏しく、貿易も少なくロクに支援されていないために半ば放置状態だ。自分たちの領地でないからアッシュランドが援助することもできないでいる。統治者が人格者でなければ、島の街はとっくに滅亡していただろう。
そんな経緯があるためザール、と言うよりも、ダンマーは帝国に対して良い感情を持っていないのだ。
(しかし、このラキア式の剣を除いても、他の武器も業物揃いではないか)
材料は青銅、鉄、鋼鉄など、オラリオの冒険者が長く使うには向かない物ばかりだが、その作りは達人の域にある。人間ではここまで極めるには寿命が足りないだろうし、エルフであっても200年は修行しなければ作れそうにない。恐らくへカティアが打った物だろう。
その割に、値段を見ると驚くほど安い。通常の物より高額だが、物と値段の価値が釣り合っていない。法外な値段というのは高すぎる物に使う言葉だが、これに限っては逆だ。新人冒険者には打って付けという他はないだろうが、何故こんな店が日の目を見ないのか、ザールとしては非常に不思議だった。
「ん、このダガーは良いな。買っていこう」
暫く陳列棚を眺めていて、手に取ったのは鋼鉄のダガー。ザールが今使っている物は刃こぼれがしてきていたため、買い替えるには丁度良かった。
清算のためにカウンターに向かった所で、調度ベルも目的の品を見つけたようでバッタリ出くわした。
片手には気に入った兜を持っている。だが不思議なのは、もう片方の腕にへカティアが絡みついていて、彼の顔にキスマークが大量についているという事だ。
「んもう、ヘスティアの子ぉならもっと早う言うとおくれやす。あの人の子ぉなら、うちん子も同然どす」
「レ、レヴァンさぁ~ん。助けてぇ~」
口では嫌がっている素振りを見せているが、その顔はうれしそうに見える。男になれとふざけた心境でベルを放置していたザールだったが、まさかこの短期間でこれほどまでに仲良くなるなど予想外だった。
だが、口ぶりから察するにヘスティアの関係者らしい。思わぬところで縁があるものだ。
「仲が良いのは結構だが、もう放してやってくれないか? そろそろ火山のように噴火しそうだ」
「ああん、もう、いけずぅ」
ザールはベルの手を引いてへカティアから引き離す。
「んもう。もしかして、羨ましいんどすか? あんたにも接吻してあげまひょか?」
そう言いながらヘカティアはザールに近寄って彼のマスクを外そうとするが、ザールは彼女の手首を握って「やめろ」と止めた。ダンマーの男に口づけしたがる異種族などいないと思っている故。
ヘカティアが唇を尖らせてすねたところでザールは彼女の手を放した。
「会計を頼む」
「はいはい、わかりましたよぅ。もう、お堅いお人は好かんどす」
ザールはヘカティアにダガーの代金を渡した。
「古いダガーの買い取りはやっているか?」
「ええ、やってますで。買い取りはそれでええんどすか?」
「ああ、頼むよ」
ザールは古い短剣をカウンターに置いてヘカティアに見せる。彼女は短剣を鞘から貫き、その刃を念入りに改める。
「随分と使いこんでますね。刃がボロボロ。これじゃあ、二束三文にしえらいてはりまへんけど、ええんやろうか?」
「ああ、構わん」
持っていたところで古い短剣を使う事はないし、それならはした金でも換金できたほうがいい。
ヘカティアはカウンターの上に100ヴァリスだけ置いて、ダガーをカウンターの裏にしまった。研ぎなおすか、溶かして再利用でもするのだろう。
「まいどおおきに。ほな、次はあんたのどすなぁ、ベルはん」
誘惑するような口調。ベルが代金をカウンターの上に置くと、ヘカティアはその手を優しく包んで微笑んだ。再びベルの顔は真っ赤になるが、多少は慣れたのかヘカティアの目を真っ直ぐに見つめ返していた。
「……んんっ! もういいか?」
居たたまれなくなったザールは喉を鳴らして二人のイチャイチャを中断させた。唇を尖らせたヘカティアはベルの耳に口を近づけると、何かをつぶやいて彼を解放する。
店を出て行こうとしたが、そう言えばとザールは聞きたい事を思い出して足を止める。
「そういえば、ヘスティアとはどういう知り合いなんだ? 随分と親しそうに話していたが」
ヘスティアの子供なら自分の子供と同じと言うほどだ。ただの友達という訳ではなさそうだ。
するとヘカティアは「ホホホ」と笑った。
「うちはヘスティアの姪どす。あの人の弟の娘なんよ」
「え、ええええええええええ!」
友達どころか二人は血縁者だった。衝撃の事実にベルは大声を上げ、ザールの鼓膜にダメージを与える。
「ぎょうさん可愛がってもろうて、ぎょうさん可愛がった。うちがヘラの阿婆擦れにいじめられた時は、おつむをよう撫ぜてくれた。あの人他の神様にからかわれた時は、うちがお返しに撫ぜたった。ほんまにええ
懐かしい記憶に浸りながらヘカティアは言う。二人の仲の良さがひしひしと伝わってきた。
「そういえば、地上に降りてからは会うてまへんどした。あの人は元気どすか?」
「まあ、神なんだから病気とかはしてないな。昨日はこの小僧のせいで肝を冷やしただろうが」
「ちょ、レヴァンさん、止めてくださいよ!」
ザールはベルの頭をつっつく。叫び声を間近で聞かされた事への仕返しも込めてだ。
「んん? 何の事かはわかりまへんけど、久しぶりにヘスティアに会いたいさかい、今度遊びに行ってもええどすか?」
「ええ! 是非!」
「フフフ、おおきに」
ベルは本拠地の場所を彼女に教えた。ザールとしてはヘスティアの面白い話を聞けそうだと、内心期待している。
目的の買い物を済ませたし、ヘカティアとの約束も取り付けたので店を出る。今日はもうダンジョンに入るには遅いので、二人はそのまま本拠地へと向かった。
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