The Elder Scrolls FMC : ORARIO(旧題:ダンジョンで贅沢を目指すのは間違っていない。)   作:熱狂的なファン

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 朝。誰よりも早く目を覚ましたザールはベルを起こし、二人で朝食の用意をしてからヘスティアを起こした。

 今日の朝食は昨夜のサラダに使われなかった野菜を使ってのスープ、サケのステーキに編み込みパン。ドリンクにはミルクだ。

 ザールとベルは体力をつけなければと、スープを三杯おかわりし、パンは四つも食べた。

 だがヘスティアは微妙に食が進んでいないように見える。ザールは知らず、ベルは知っていることだが、彼女は結構食いしん坊だし、美味しい物は飛びつくように食べる。それが今はかなりゆっくりと物を口に運んでいるし、その視線は食卓ではなく、どこか遠くへ向けられているように見えた。

 

「あの、神様。大丈夫ですか?」

 

 ベルが心配そうに問いかけると、ヘスティアはハッとした様子で気が付き、食事のペースを上げた。

 

「だ、大丈夫だよ! 僕は今日も元気―――むぐぅ!」

「うわあ! 急いで食べるからですよ!」

 

 喉に物を詰まらせたヘスティアにコップを差し出す。彼女はそれを受け取り、物を流し込むように一気に飲み干した。

 

「ぶはぁー。助かったよベル君。ありがとう」

 

 そう言って微笑むヘスティアだが、ベルの目にはどこか乾いているように見えた。

 昨晩、ヘスティアは体調が良くないと言っていたし、何か病気でもしているのだろうか。神と言えど、地上に降りている者は権能を封じられ、その身体能力は定命の者と同程度に下がっている。重い病気で命を落とすことはないが、無理をすれば身体を壊すことは十分に考えられた。

 

「あの、神様。お体の調子が優れないようでしたら、今日のバイトは休んだほうが―――」

「な、何言っているんだいベル君!? 僕は元気だよ! 何の悩みもないよ!」

 

 口では大丈夫と言っているが、どう見ても狼狽している。

 

「……まあ、気付かない内に体調不良なんていうのはよくある事だ。帰りに何か精のつく物でも買ってくるよ」

「あ、ごめん。僕、今夜、いや、何日か留守にするんだ」

 

 ヘスティアはどこからか一枚のレターカードを取りだした。そこには『ガネーシャ主催 神の宴』と書いてあった。

 お祭り好きな神々は不定期的にだが宴を催す。開催場所や主催者はバラバラだが、オラリオの神が互いに顔を合わせ、情報交換や約束事をするのには良い場所となっているのだ。

 ヘスティアも宴に参加するつもりらしいが、ただ騒ぎたいだけなのか、それとも何か目的があるのかはわからない。

 

「そうですか……。わかりました。気を付けてくださいね?」

「二人もね。今日もダンジョンに潜るのかい?」

「ああ。だが安心してくれ。一昨日のような事は絶対にさせんよ」

「そ、それは気を付けますから」

 

 ケラケラとベルをからかいながら笑うザール。

 

「そっか……。でも、くれぐれも気を付けてくれよ。ベル君がミノタウロスに襲われた例があるように、ダンジョンじゃ何がおこるかわからないんだからね」

 

 朝食を終えた二人は食器を片付けると、すぐさま鎧に着替え、ベルトに武器を差して冒険者の装いになった。

 

「それじゃあ神様。行ってきます」

「うん! 行ってらっしゃい!」

 

 ベルは頭を下げ、ザールは片手を上げて、二人は部屋を後にする。

 

 ◆

 

「イヤァッ!」

 

 ダンジョン第4階層の中、正方形構造の天井の高いフロアに雄叫び声が響く。直後、ザールの手にある鋭い刃が巨大なトカゲ【ダンジョン・リザード】を真っ二つに切り裂いた。確認するまでもなく即死。

 続けざまに両脇に迫ってきていたコボルト二匹の攻撃を後ろに一歩跳んでかわし、コボルトたちがぶつかったところを見計らって剣を横に凪いで頭部と胴体を切断する。

 だがモンスターの群は止まらない。遠方からゴブリン数体が石を武器にして走ってくる。

 

「ライトニングボルト! ライトニングボルト!」

 

 ザールは左手を構え、すぐさまライトニングボルトで迎撃し、二発で三体のゴブリンを倒した。残りは以前と同じように剣で迎え撃ち、危なげなく倒す。

 自分の視界内からモンスターがいなくなり、周囲の()にも異常がない事を確認したザールは後ろの方で戦っているベルを見る。

 

『ブォア!』

「っ!」

 

 相手にしているのはザールと同じくダンジョン・リザードと数体のゴブリン。

 ベルはゴブリンの攻撃をよく観察し、右へ、左へ、後ろへと跳ねまわりながらそれを回避する。そしてイラついたゴブリンが大振りの攻撃をしようと腕を振り上げた瞬間を見計らい、その胸にナイフを深々と突き刺した。

 その直後、ベルの身体を覆うように大きな影が上から迫りくる。前後の足先の吸盤で天井に張り付いていたダンジョン・リザードが彼にのしかかり攻撃を仕掛けてきたのだ。

 慌てたベルはナイフを引き抜いてその場から飛び跳ねる。リザードの巨体がゴブリンの死体を押しつぶした。ほんの一瞬遅れていれば、ベルもああなっていただろう。

 体勢を立て直したベルはリザードに跳びかかり、リザードの背中に組み付いてそこへ逆手持ちにしたナイフを渾身の力で突き刺した。

 

「!」

 

 リザードは一瞬痙攣したかと思うと、すぐに力なく地面に倒れこんで動かなくなった。

 

「いって!」

 

 その直後、ベルの頭に衝撃が走り、金属音が鳴る。「痛い」と口に出したが、実際は衝撃だけで驚いただけだ。兜を被っていなかったらどうなっていたかはわからないが。

 直後、地面に石が転がる。それが跳んできた方向を見ると、焦った表情のゴブリンが片手を身体の前に出していた。どうやらヤツが投石したらしい。

 

『ギギィ!』

 

 大したダメージを与えられておらず、勝てない事を悟ったのかゴブリンは脱兎のごとくその場から逃げようとする。だがその進行方向上にはザールの左手が待ち構えていた。

 

『グギャッ!?』

 

 ゴブリンの首を掴んだザールは、その小さな身体を持ち上げて天井に向ける。ゴブリンはジタバタと抵抗し、爪でザールの腕を斬りつけるが硬いキチンの籠手に傷一つ負わせられない。

 ザールは手に力を込めてゴブリンの首をへし折り、離れた所に投げ捨てて周囲を見回す。他にモンスターはいない事を確認し、ザールは剣を鞘に納めてベルの所に近寄る。

 

「ふぅ、ふぅ……どうでしたか?」

「勘はそれなりに冴えているし、動きも素早いようだが、基礎はできていないし、無駄な動きが多い。ステイタスに寄りかかっている節がある。

それと、突き刺す時以外でナイフを逆手持ちにするのを止めろ。それは相手の頭上から跳びかかる時、背後から忍び寄る時、組み技で動けなくした相手に止めを刺す時の持ち方だ。力は入る反面、リーチが短くなる。お前が素早く相手の懐に飛び込み、弱点を的確に一突きにできるというのなら話は別だがな」

 

 ザールはそう言いながら先日買ったダガーを抜き、ベルに「持っていろ」と自分の剣を鞘ごと渡すと、壁の方へ向いて構えを取る。

 その直後、壁に亀裂が走り二つに割れる。そこから犬の頭に人間の身体を持ったモンスター【コボルト】が出てきた。

 

 モンスターはこのように、ダンジョンの壁から生まれてくる。歪な命の生まれ方もまた歪であり、それは生物の神秘に対する冒涜でもあった。

 

『グルルルルゥ!』

 

 コボルトは目の前にいるザールをすぐさま敵と判断し、臨戦態勢に入る。唇を震わせ、牙をむき出しにし、両手の爪を構えた。

 モンスターは生まれたばかりであってもすでに成熟しきっており、すぐに敵と戦えるのだ。

 

『グワウッ!』

 

 コボルトは後ろ足で地面を蹴ってザールに跳びかかる。その勢いで貫手を繰り出してくるが、ザールはそれを一歩だけ移動して直前で避け、ダガーを一振りしてコボルトから離れる。

 直後、コボルトの首筋がパックリと割れ、噴水のような血が噴き出す。コボルトはそれを抑えようと手を当てるが、もう遅かった。流れる血は止まらず、コボルトはだんだんと力を失っていき、最後には膝から崩れ落ちて絶命した。

 ザールはダガーを鞘に納めてベルの下へ戻り、剣を受け取ってベルトに固定しなおす。

 

「正面から敵と対峙する場合、ナイフは技量を要求する武器に変わる。剣や斧のように、与えた傷がそのまま致命傷になるという事は少ない。

今はまだ力任せに振っているだけで死ぬような敵しかいないが、ダンジョンは下に行くほどモンスターは強くなるそうだ。そうなると、今のままではお前の戦法は通じなくなってくる。

首や手首の動脈、足、腹。隙を見て相手の弱点になる部分を斬れ。不可能な場合は一度だけ斬りつけろ。相手が斬撃で傷つかないほど硬い場合に限り逆手持ちにしろ。

だが複数戦の場合、絶対に突き刺すな。骨や筋肉に引っかかって抜けにくくなれば、それだけで動きが止まるし、最悪その隙に攻撃を食らうことだってありえる。

これを良く覚えておけ」

 

 ベルはいつの間にか取り出していたメモ帳に大急ぎでザールの言った事、やった事をメモしていく。

 自身の技術を他者へと伝授する。ザールはこれまでにない体験に奇妙な充実感を覚えていた。だがそれはまだ早いと意識を改める。本当に満足していいのは、ベルがザールの教えによって成果を上げた時だ。それまでは満足などしていられない。

 

「小僧、バックパックの中身はどうだ?」

「ハイ! ええと、もうそろそろ満杯です。あとはさっき倒したモンスターの魔石の分くらいだと思います」

「私の方もだ。一旦地上に上がって魔石とドロップアイテムを換金してからまた戻ってくるとしよう」

 

 第1階層から第4階層までに出現するモンスターの魔石や素材は大して値段がつかないので、収納が満杯になったら地上に上がって換金。そしたらまた潜るといった事をした方が収益は良いとベルから教わった。地上への距離は差ほど離れていないが、戦闘時間を考えると、一日六往復が限界だろう。

 二人は一旦地上へ戻る事にした。道をよく知っているベルを先頭にし、ザールが周囲の壁や後方に気を使いながら戻る。行きとは逆の隊列だ。

 現れるモンスターを適当にあしらいながら進んでいき、第1階層の半分ほどの所まで来ると二人以外の冒険者の姿も目立つようになってくる。これからダンジョンへ向かう者、帰る者と様々だ。

 やがて二人は『始まりの道』という横幅が限りなく広い大通路を進み終え地上へと繋がる大穴下までやってきた。

 高さ10M、直径も同様の円筒形の穴で、円周に沿うように緩やかな銀色の螺旋階段が設けられている。それを登っていくとバベルの地下一階、初日にザールが追い返された所に出た。

 やはり広いが、何百人もの冒険者でひしめき合っている。二人はその人の波を避けるように壁際を伝って換金所へと向かう。

 

「あれ?」

 

 ふと、ベルが足を止めた。その視線は前ではなく、ダンジョンの穴から離れた場所に向けられていた。

 

「どうした?」

「ああ、いえ。あれ、なんだろうって思って……」

 

 ベルが指さした先には巨大な荷車と、その上に乗せられたこれまた巨大な物資運搬用の収納ボックスがあった。それも一つや二つではなく十数個もある。

 この手の荷車は大手のファミリアが遠征の時に用いる。食料、薬、道具、予備の装備の運搬、魔石やドロップアイテムの格納などに使われることが殆どだ。

 

「どこぞの派閥が長期的にダンジョンに潜るために用意しているんじゃないか? 確か、【遠征】とか言ったか」

 

 オラリオにおける遠征という言葉が覚えたてのザールは思い出すように言った。

 

「そうだと思っていたんですけど……あれ、動いていませんか?」

 

 その指摘を聞いて再度見直すと、確かに箱が動いていた。遠くからではわかりづらいが、目を凝らして見るとそれがわかる。内側に閉じ込められた何者かが暴れているようだが、荷台に頑丈そうな鎖でしっかりと固定されているため箱が揺れる程度に納まっている。

 

「箱の大きさを考えると、中に入っているのはモンスターか?」

 

 閉じ込められているのはモンスター。だがそう考えると不思議な事だ。

 バベルは遥か昔、デイドラと並んで世界を脅かしていた大量の【ダンジョンのモンスター】が地上に溢れてこないように、ダンジョンに蓋をするために建造されたという話がある。

 ベルを襲った【ミノタウロス】というモンスターは別の冒険者に一撃で倒されたというが、神の恩恵を受けていない兵士ならば完全武装の上、三十人規模で当たらなければ倒すことはできない。

 つまり、種類の差はあれどモンスターは一体だけでも十分に脅威なのだ。そういった怪物たちを地上へ出さないためのバベルであるはずなのだが、あの荷台は何故それを外に運び出しているのだろうか。

 箱の周りをよく見ると、箱の警護をしている冒険者とギルドの制服を着た人物が何やら話し合っている。つまり、この行為はギルドが関わっているという事だ。

 

「ん? おい小僧。これじゃないか?」

 

 ザールが壁に貼ってある張り紙を示す。そこには【怪物祭(モンスターフィリア)】なる言葉が大文字で記されていた。

 祭か何かのようだが、開催日以外に詳細は記されていないので具体的な内容はわからないが、言葉の響きからモンスターに関係のある物だという事は察せられる。

 

「怪物祭……うーん、聞き覚えがありませんね。僕がオラリオに来たのは一週間くらい前なので、もしかしたら毎年やっている事なんでしょうか?」

「さあな。だが祭か……美味い物と酒にありつけるチャンスかもな。よし、早く換金してまたダンジョンに入るぞ。開催日は数日後のようだし、それまでに金を溜めておこう」

「あ、待ってくださいよ!」

 

 足取りが軽くなったザールはベルを置いて急ぎ足に歩き出し、ベルは慌てて彼を追いかける。ベルはザールにも子供っぽいところがあるな、と内心呟くのだった。

 

 ◆

 

 バベルの頂上で、女神は窓に手を当ててオラリオを取り囲む外壁、その上の見張り台同士を結ぶ渡り道を見ていた。そこにはキチンの鎧で身を包んだ戦士と、白髪の少年が刃を潰した剣とナイフを使って訓練をしていた。

 この渡り道は滅多に人が来ないため、訓練をするには最適な場所なのだが、嫌な物がよく見えるため女神にとっては腹に据えかねる所でしかなかった。

 

(濁りはじめている……ほんのわずか、純水の中に一滴だけまじった泥水程度……でも、水の中には広がる)

 

 女神には定命の者の内に宿る物が見える。それは俗に言う魂だ。人種の物は基本的に黒い色をしているが、まれに彼女を魅了する美しい色を持った者がいる。そういった色の魂を持つ者には歴史を変える素質や才能がある。彼女はそういった魂を収集することが好きだった。

 だが、そのような魂を持っている者であっても、耐えがたい苦痛に苛まれたり手ひどい裏切りに直面したりして、色がくすんだり汚れたりしてしまい、素質が消えてしまう者がいる。

 女神が見る少年の魂は純白だ。世界で最初に振った雪のように、混じりけがない白。その筈だった。

 

(手を打つ必要があるわね……)

 

 オラリオの頂点で生まれた殺意は、静かに策謀を巡らせる。

 

 ◆

 

 夕陽に照らされたオラリオの城壁の上で、ザールとベルは刃を潰した武器を使って撃ち合い稽古をしていた。通常は木剣を使っての訓練で互いに怪我をしないようにするのだが、ザールは回復魔法が使えるので多少の怪我をしても大丈夫だった。

 

「うぐっ!」

 

 刃を潰したところで鉄の棒。それはベルの身体に強く打ち付けられる。

 

「目をつぶるな! 剣がお前の体を切り裂こうと視線を逸らすな!」

 

 ザールの指導は容赦がなかった。そう、多少の怪我の心配がないということは、少しも遠慮する必要がないということでもあった。すでに全身を痛みが爆走しているが、ザールの連続攻撃はベルに痛みに悶える隙を与えなかった。

 

「う、うおおおおおおお!」

 

 このままでは何もできずに痛めつけられるだけだと判断したベルは攻勢に出た。両足を踏ん張りナイフを振りかぶりながら前に出る。

 だがザールはそれに合わせるように後ろに跳び、目の前を通り過ぎようとするベルの腕を逆に打ち付けた。

 

「あぐっ!」

 

 痛みによってベルが取り落としたナイフを、ザールは横蹴りにして遠くに弾き飛ばした。思わずベルが目で追った所で彼の胴体に蹴りを入れる。

 

「落とした武器を追いかけるな!」

 

 蹴り飛ばされたベルは宙に浮いて床に投げ出される。口からは血が流れた。

 ザールは剣を鞘に納めてベルに近寄り、左手を向ける。

 

「【メリディアよ 光の女神よ 命の輝きに薪をくべよ】【治癒の光(ファースト・ヒアリング)】」

 

 全身の痛みが光に溶けていく。見えない所の傷も、内臓の負傷も癒えていく。だがこれは喜ばしいことではない。もしもザールの使った魔法が【治癒の光(ファースト・ヒアリング)】ではなく【ライトニングボルト】であったのならば、ベルは死んでいたからだ。

 そうでなくてもベルの身体を打ち付けた剣に刃がついていたとしたら、彼はすでに十回は死んでいただろう。

 

「そろそろ私の精神力が尽きてきた。今日はここまでにしておこう」

「ハァ、ハァ、ハァ、は、はい……」

 

 ザールが左手と入れ替えるように差し出した右手を掴み、ベルは起こされた。

 

「ほら、血をふけよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 差し出されたハンカチを受け取り、ベルは口元の血を拭き取った。

 

「今日は結構稼げたし、バスケットを返すついでに豊穣の女主人で夕食もすませていこう」

「わかりました」

 

 そう言って二人は本拠地へと向かう。訓練後の汗と血まみれの恰好で飲食店に入る訳にはいかないし、仮にそんな事をしたら女店主(ミア)に叩きだされるだろう。戦場でないなら身体は常に清潔に保つべきだ。

 ベルはザールの後についていきながら彼に言われた事を頭の中で復唱する。そして、先ほどの訓練の時にどうすればあれほどまでにやられなかったのかを考えることもした。

 

(目をつぶらなければ、あの時脇腹や足を斬られることもなかったよな。もしもあれがモンスターの爪や牙だったら、僕はもう餌になっていた。ダンジョンでは気を付けよう。

でも、武器を追いかけるなっていうのは、どうすればいいんだろう? 距離を取る? でもザールさんが相手だったらすぐに距離を詰められるよな……)

 

 うんうん唸りながら戦い方を考える。ベルもエイナによる【妖精の試練】を受けた事があるので考える事は慣れているが、今回の問題は難しく感じていた。

 ふと、ザールがベルの様子に気付いたように振り返る。

 

「大丈夫か? どこか治っていないところでもあったか?」

「あ、いえ! ザールさんの魔法のおかげで怪我は全部治りました! 大丈夫です!」

「そうか? まあ、念のために精神力が回復してきたらもう一度回復魔法をかけるか」

 

 再び歩きだす二人。

 もうすぐ本拠地という所で、ザールが口を開いた。

 

「お前はこれまで適切な訓練もなしに戦ってきたんだ。すまんが、矯正できるまでしばらくつらいと思うが、ついてきてくれよ」

 

 ザールの言葉はベルを気遣っての物だった。物を教える時や、訓練の時は鬼のようだが、それ以外では基本的に優しい。

 厳しくも、自身を気遣ってくれるザールの姿に、ベルは何か知らない感情が湧いてくるのを感じていたが、今はそれが何なのかは知る由もなかった。

 

「はい! 頑張ります!」

 

 ただ、今は力強く頷く他はない。

 

「そうか。なら明日はもっとボコボコにしてやるか」

「はい! ……え?」

 

 だが少し後悔もしていた。

 




いつの間にかお気に入りめっちゃ増えててビビった。
皆さんありがとうございます。
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