遠くの空を、鳥の群れが飛んでいる。
俺はそれを眺めながら、一口、林檎を齧った。
甘く芳醇な果汁が俺の口内を潤すのを感じながら、俺は小さな溜息を吐いた。
◆◆◆
エリドゥという都市は、「理想の都」と讃えられることがあるほどの立派なところだ。人々の暮らしは非常に豊かで、常に笑顔が絶えない。都市を囲む城壁のおかげでこの都市にだけは周辺の森に生息する凶暴な魔獣たちも入ることはできず、人々は安心して暮らすことが出来る。さらに街の中央に堂々と立つ清廉なる城には、至る所に花が咲き乱れ、その白き壁と相まって、その光景は俺から見ても感嘆するほど美しいものであった。
ああ、俺もその光景を心行くまで堪能したいものだ。
――もしも俺が、そこの王でなければ、の話だが。
俺の名はアルリム。現代に生きるこの俺の言葉を聞いている諸君にも、この名を聞いたことがいる人間がいるかもしれない。
後の世に書かれることになる「シュメール王名表」、その最初に書かれている名前である。
………そう、俺はこの世で最初の王、アルリムなのである。
だがだからと言って俺が例えば後に生まれるであろうあのギルガメッシュのような偉大な王であるかといえばそういうわけでもない。
そもそも別に俺は何かしらの行動を起こしたわけでも、人望が非常に厚かったわけでもない。
ただ単に神から「王権」とやらのよくわからんものを寄越されただけであり、その後神の指示に従っていろいろやってたらこんな風になってしまっただけである。しかもそのあとの統治は俺に丸投げされた。ふざけるな。
まあそんな感じなので、俺にはあまり王としての自覚はない。臣下も優秀だし、そもそもやる事なんて殆どない。
そんな訳だから当然傲慢にもなれようはずもなく、一応民衆や臣下などの前に出る時には威厳ある王のフリをしてはいるが、果たしてどこまで通用しているのか。
ただ、人を超えた能力を持っているということは自分でも理解している。
例えば先ほどから使っている千里眼。俺のこれは万象を見渡すことが出来、さらに目を凝らせば遥か先の未来や過去なども見ることが出来る。
この能力はなかなか便利で、未来の知識なんかを見て学ぶことも出来る。今のこの独白や現代の言葉もこの千里眼で学んだものだ。
また、全人類の持つ技や術などは全て俺も習得可能だ。だからその気になれば名画を書くことだってできるし、格闘技で獅子を殴り殺すことだってできる。自分で言っててなんだが結構なチートだ。
さらには王権と共に渡されたなんだかよくわからない杖のようなものもある。
神が言うには、どうやらこれは王権を具現化したものらしく、その気になれば人類すべてを言いなりにできるし、武器として使えば世界を滅ぼすことも可能らしい。その説明を聞いた時は失神するかと思った。一人の人間程度になんてもの渡してるんだ。
そして極めつけに魔術である。これは俺の臣下のオアンネスという優秀な半魚人がいるんだが、そいつに少し手ほどきしてもらったものだ。当初の俺は「手から火とか出せたらかっこいいかな」ぐらいの認識だったのだが、先述した人類の技術が習得可能な俺のチートボディと、やっていくにつれて上がっていった俺のテンションのせいで、もはやオアンネスと同じくらい使えるようになってしまった。
そんな俺なんだが、最近ある悩みがある。
民衆の俺に対する尊敬度が高すぎるのだ。
これだけ聞けば「別にいいじゃん、何ぜいたくな悩み抱えてんだこの馬鹿王」とか思うかもしれないが違う。
彼らの俺に対するそれはもはや神への崇拝と同等のそれなのだ。これが俺のような王でなければ何食わぬ顔をして受け入れていたかもしれないが、知っての通り俺は小心者なのでそんな過大評価を甘んじて受け入れられるほどの度量はない。しかも民衆だけならまだ耐えられたのに、臣下たちも彼らと同じような目でこちらを見てくるのだ。
俺が何をしたというのか。ただ椅子に座ってただけじゃないか。
当然友人などいないボッチな俺にはこの悩みを聞いてくれる人間はおらず、結果として俺の胃がきりきりと痛むこととなってしまっており、仕方なくこうして諸君らに俺の独白を聞いてもらった次第である。
長々と話してしまったが、なんだかんだ言ってこの生活が悪いとは思っていない。人を遥かに超えた能力があって、信頼できる臣下がいて、そして国には笑顔があふれかえっている。
願わくば、この理想郷が永遠に続いてほしい。
俺はそう願っただけだった。
俺がいなくても、この幸せがずっと続いて行ってほしい。
そう願った俺は、果たして悪い王だったのか。
何もない、虚空にそう問いかけながら。
たった一人、俺だけが残った理想郷で、俺は何度目かもわからない溜息を吐いた。
小説書いた後のこのやっちまった感はいいよな。なんていうかこう、血が冷たくなるっていうか...
続かないんじゃない?(適当)