仮題: 神様はどうしても原作に沿わせたいようで 作:西向く侍
『何があっても、生まれてきたこの時代を憎まないで……!!人に褒められなくたって構わない!いつでも笑ってられる強さを忘れないで…生き抜けば必ず楽しいことが……たくさん起こるから!!』
誰だ…女の人の声…?
『俺たちに刃向かった罰だ』
なんだ、これ…ああ、そうだ、俺は———
「んん…」
ちょっとした倦怠感と共に目が覚める。
上半身を起こせば、見慣れたベルメールさんの家の景色だった。
何故だか俺は無意識に、額に手をやっていた。
さっきの夢は何だ?
はじめの女の人の声、あれはベルメールさんだ。前にそういったことを言われたのは記憶している。
でも、最後の男の声は…?
「アリカ!まだ寝てたの?」
考え込んでいたら、ふと名前を呼ばれた。
見るまでもなくわかる。ナミの声だ。
「んー、もうそんな時間か?」
夢のことは一度頭の隅に追いやって、俺は窓の外を見た。
みかん畑は柔らかな朝日に照らされている。
「まだ朝だけど、アリカが最後まで寝てた」
「そりゃ悪い」
俺は改めてナミの方を見る。
短いオレンジ色の髪は、先ほどまで目を向けていたみかんの色にそっくりだった。
俺がそっちを見た後に、ナミは扉の方に向かって歩き出した。
「ん?ナミ、何処か行くのか?」
「ちょっとね」
振り返ったナミの笑顔は、逆光で上手く見えなかった。
それからしばらくしてのこと。
ベルメールさんが置いてくれていた朝ごはんを食べ、また今日も海釣りに行こうかと思案していた時だった。
ドンドンドンドン!
「ベルメール、ベルメール!!出て来なさい」
ゲンさんの声と共に、扉が激しく叩かれる。
はぁ、とベルメールさんがため息を一つ吐き、ゲンさんに応対するべく扉を開く。
大方ナミが何かしたんだろう。
本を抱えてることからして、あの本万引きしたのか。
ナミの夢は世界中の海を旅して世界地図を作ること。
そのために航海術を勉強し、海図を描いている。
俺が度々出る漁の時には、特にナミの海図は役立っている。
あの年であんな正確に海図が描けるなんて、すごいよホント。
やがてゲンさんも帰り、欲しかったらしい本を手に入れたナミは笑顔でベルメールさんに謝っていた。
「欲しかったら、どうして私に言わないの」
「そうだぞ、別に俺に言ってくれたって、本くらい買ってやったのに」
俺には漁で得た魚を売って、僅かながら稼ぎがある。
おそらくナミは家計を気にしてベルメールさんには言わなかったんだろう。
俺にくらい、気を遣わず言ってくれれば買えたのに。
「え、アリカお金持ってたの!?」
どうやらナミはそのことも知らなかったらしい。
そういや言ってなかったか…?
「ああ、だから次からは欲しいものがあったら俺に言え。買える範囲でなら買ってやる」
「………わかった」
ナミがそう言った直後、何かが俺の頭に優しく載せられる。
ベルメールさんの手だ。
「?」
何だろう、と思って見上げたが、ポンポンと軽く頭を叩かれただけだった。
/
「さ!ナミ、できたよ!!」
そう言ってベルメールさんが広げたのは、大きくライオンが描かれたワンピースだった。
というかアレ見たことあるような…
「やだ。またノジコのお下がり」
「仕方ないじゃない。ナミはあたしより2つも年下なんだから」
ナミとノジコのその会話で思い出す。
ああ、あのヒマワリのワンピースか。
「よくヒマワリからライオンに変えたな、ベルメールさん」
俺はそれをまじまじと見ながら感想を告げた。
「私にかかればこんなもんよ」
ナミは不服そうだが、これはこれで完成度高いしいいんじゃないだろうか。
やっぱり年頃の女の子にはこれじゃダメなのか。
「私も新しい服着たい!!」
「あたしのだって古着よ!!あんたは妹だからあたしのがいくだけ」
俺がベルメールさんと話している間に、ナミとノジコは盛大に口喧嘩をしていた。
「でも本当の姉妹じゃないじゃない!!私達血がつながってないもん!!」
「何ですって!?あたしだってあんたなんか…」
…これは、止めなきゃまずいか。
そう思って俺が止める前に、ベルメールさんがナミをひっぱたいた。
「血がつながってないから何!?そんなのどうだっていいじゃない!!そんなバカなこと二度と口にしないで!!」
「なによ!!ベルメールさんだって本当のお母さんじゃないじゃない!私達なんて本当はいない方がいいんでしょ!?」
「…おい、ナミ」
ナミがここまで言うなんて珍しい。
俺が声をかけても止まる様子は無かった。
「私……!!どうせ拾われるならもっとお金持ちの家がよかった!!」
「ナミ!!」
目に涙を溜めたナミは、そこまで言ってようやく止まった。
「ナミ…そこまで
「ちょっとアリカ!」
ノジコが焦ったように叫んだ。
でもベルメールさんに止める様子はない。
「出てくわよ!!!」
バン、と扉を開け放ち、ナミはどこかへ走っていった。
ふう、と俺は気持ちを落ち着けるために息を吐く。
「悪い、ベルメールさん」
「いいのよ、あんたが言わなきゃ私が言ってたかもしれないし」
俺はナミが出ていった扉の方を見た。
ナミの姿はもう見えない。
「ごめんね、ノジコ。連れ戻してきてくれる?」
そう言ったベルメールさんは、辛そうだった。
ノジコが返事をして扉の向こうに消えていく。
「ベルメールさん」
「アリカ…ねえ、私ちゃんとお母さんできてなかった…?」
そんなこと、あるわけ無い。
俺が釣りで何とかしてるからいいものの、それが無かった時ベルメールさんはみかんばかり食べていた。
貧しくても、子どもにはちゃんと食べさせられるように。
俺たちに心配させないように“みかんダイエットだ”なんて言って。
そんなに、そんなに俺たちを思いやってくれる人なんて、母親以外に誰がいるんだ。
「少なくとも俺の母親は、ベルメールさんだよ」
ちょっと漁行ってくる、と俺は気まずさを誤魔化すように家を出た。
ナミは俺より1つ年下で、ノジコより年が近い。
ナミとノジコの喧嘩はよく見かけたが、俺自身ナミにあんな風に冷たく当たったことは一度も無かった。
思っていたより、ナミは大事な“妹”だったらしい。
自分で言ったこととはいえ、初めてあんな風に接して、結構辛かった。
漁に行く、とは言ったものの何となく釣りをする気にはなれなくて、俺は林をふらふらと歩いていた。
一人の時間が欲しかった。
/
村の方が騒がしい。
無心で林を歩いて奥の方まで来てしまったせいで気付くのが遅れた。
しかし、何があったんだ…?
そんな俺の疑問は、海の方を何となく見た後に一瞬で解決する。
「あれは、海賊船…!?」
くそ、だからこんなに騒がしいのか…!
何でもっと早く気づかなかったんだ、俺…!
無事でいてくれ、ナミ、ノジコ、ベルメールさん!
俺は必死に家に向かって走る。
「ベルメールを助けろ!!」
村の人たちの叫び声が聞こえる。
ベルメールさんに、何かあったのか!?
「ノジコ!!ナミ!!…アリカ!!」
ベルメールさんが、俺たちを呼ぶ声が微かにした。
ようやくその姿が見える。
ベルメールさんは、額に拳銃を突きつけられていた。
ナミとノジコはベルメールさんの後ろに二人で立っている。
「大好き♡」
銃声が、大きく響く。
「ベルメールさん!!」
ベルメールさんがゆっくりと倒れていくのがスローモーションのように感じられた。
俺は思わず撃ったヤツの前に飛び出した。
「ベルメールさあああん!!!」
ナミとノジコは悲鳴のようにその名を呼んだ。
血だまりは、ゆっくりと広がっていく。
「アリカ、離れろ!!」
海賊に立ち向かおうとする俺に、ゲンさんはそう言った。
でも、悪い。止まってやる気は無いんだよ。
「っんの、魚野郎っ!!」
勝算もなく掴みかかる俺を、あっさりとアーロンの取り巻きが押さえつける。
何で俺はこんなに無力なんだ。
何で俺は、…
その一人、鯖の魚人が銃を取り出す。
にやり、と笑ってそいつは俺に銃口を向けた。
そしてその引き金がゆっくりと引かれ———
「『俺たちに刃向かった罰だ』」
その言葉は、もう何度も聞いたものだった。
【stage:ココヤシ村 GAME OVER リセットを開始】
/
目がさめると、ベッドの上にいた。
慌てて額を抑えるが、傷も何もない。
「…やっぱり」
俺はこの日を、もう何度もループしている。
俺があの鯖に殺されるたびに、朝に戻ってるんだ。
まだ、わかったことがある。
それは、ここが俺の前世にあった漫画、『ONE PIECE』の世界であること。
そして———何度繰り返しても、ベルメールさんを助けることはできないということ。
何故か前回の死で、今まで記憶の無かった分の死の記憶まで蘇ってきた。
それはすべて同じというわけではなかったし、もちろん俺がベルメールさんを助けられたこともあった。
でも、その時は何故か、俺は
それとこのONE PIECEの原作知識も合わせて考えると、多少の改変は見過ごされるが、流石に人の生死を覆すのは無理ということだろう。
何度繰り返しても、変わらなかったことが1つだけある。
それは、俺が殺される時——必ずあの鯖の魚人に殺される、ということ。
これが何を意味するかはまだわからないが。
先は見えない。
それでもこのループは、終わらせなきゃいけない。
もう、何度もベルメールさんが死ぬ様を見るのはごめんだ。
俺は密かに心に決めた。
ちょっと補足。
ベルメールさんは三人分、15万ベリー払えています。
10万は原作通りベルメールのヘソクリ、後の5万はアリカのヘソクリです。
ベルメールさんはアリカのヘソクリの場所を知っていたので、命には変えられないと泣く泣くその分もアーロンたちに差し出しました。
という裏設定。