俺は美女と付き合っているんだが、彼女は恥ずかしがって中々デレてくれない 作:ざるそば促進委員長
一週間を目安に投稿していけたらと思ってます。
スマホ投稿です。
授業終了を告げるチャイムが鳴り、生徒達が束の間の休み時間を過ごす中、卒業式を一週間後に控えた市立静清中学3年、冨島慎は焦っていた…‥
冨島にとってこの卒業は、最愛なる今村侑子との別れを意味していたのだ。
冨島が、今村に恋心を抱いたきっかけは中学一年の夏にあった。
当時、冨島は、自身の溢れんばかりの魅力に嫉妬した(あくまで冨島自身の見解。)一部のクラスメイト達が冨島の事を『デブ』『ブタメガネ』『ごみしん』等と罵ったり、無視したりといったイジメにあっていた。
そんな中、当時から学級委員長としてクラスのリーダー的存在だった今村侑子だけは、冨島のことを『とみしん』と呼び、優しく接してくれた。
容姿端麗、ふわふわとした空気感のあるロングヘアーに、澄んだ瞳……
学力も校内1で3年間連続して学級委員長を務め上げ、生徒は勿論、教師からの信頼も絶大だった。
そんな今村に対し、冨島が恋心を抱くのに時間はかからなかった。
何より、今村が自分に優しく接してくれるのは、今村自身も自分に対して好意を持っている証拠と解釈し、納得していた。
それからの冨島は、未来の妻となるであろう今村への『投資』を惜しまなかった。
親からの小遣いを貯め、ある時はブランド物の時計、またある時は、バッグやアクセサリー等。
正月にはお年玉を丸々手渡した。
お陰で、冨島自身は欲しい物を買うことができなかったが、今村の弾けるような笑顔さえ見れれば満足だった。
中学卒業後、2人は別々の道を歩むことになる。
今村は、日本中から秀才の集まる『天明高校』へ進学する……偏差値75の超名門校だ。
一方、冨島の進学先は、日本中から馬鹿達が集まる『東雲高校』……偏差値は35、あまりのレベルの低さから卒業生は、高卒の肩書きを得る代わりに、一生消えない恥を背負って生きることになる。
そんな、学力には天地以上の差がある2高だが距離はそこまで離れていない。
通う高校こそ違えど、会おうと思えば会えるのである。
そう、連絡先さえ分かれば……
勿論、冨島は今までも何度か今村に連絡先を尋ねていた。
恋人同士である以上、それはごく自然の事だったが、今村からの返答は『恥ずかしい』の一点張りだった。
(きっと照れてるんだな、何てかわいらしい。)
今までは、そんな今村の気持ちを尊重してきたが、最早時間が無い。
ただ、今までと同じ聞き方では、恥ずかしがり屋の今村は照れるばかりで教えてくれないだろう……。
(さて、どうやって聞き出そうか……。)
冨島が悶々と思考を巡らせていると、今村が冨島の近くまで来ていた。
(まさかの、向こうからキター!!!)
冨島は、思わず笑みをこぼしたが、今村は冨島の一列前の席に座る男子生徒に話しかけたのだった……
内心舌打ちをしつつ、聞き耳を立てることにした。
「卒業式の後、時間あったら打ち上げ行かない?参加できそうだったら教えてね!」
どうやら、学級委員長を務める今村が中心となり、学校の近くにあるカラオケで、お別れ会を兼ねた打ち上げが開かれるようだ。
恐らくクラスメイト達に、順番に参加の可否を尋ねて回っているのだろう……。
それは、冨島にとって願ってもないチャンスだった。
仲間達との別れを惜しむ会ともなれば、当然連絡先を交換する流れにもなるだろう。
(もしかしたら侑子のやつ……俺の連絡先を聞くために打ち上げを……)
冨島が妄想を捗らせていると、今村はすでに冨島の隣の席の女子に打ち上げの話をしていた。
(よし!次は俺か……!!)
しかし、そこでタイミング悪く休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。
(ま、まあいい…授業が終わったら誘われるだろ。)
しかし、結局冨島の元に誘いは来ず、とうとう卒業式当日を迎えた……
(恥ずかしがり屋の侑子のことだ、きっとどう誘うべきか悩んでるに違いない。)
卒業生代表として、出席者達に感謝の気持ちを述べる今村の声は、時折震えていた。
そんな今村を、背後から舐めるようにして見つめていた冨島は、自分との学校生活が終わってしまうことへの哀しみと解釈し、静かに頷いた。
卒業式が終わり、教室にて最後のホームルームが行われた。
卒業式の余韻に浸り、涙を流す生徒も居たが、担任の松永綾子先生は笑顔だった。
「みんな!卒業おめでとう!」
先生はその一言でホームルームを締めた。
打ち上げ不参加の生徒達が続々と引き上げる中、打ち上げに参加する生徒達は誰が何を歌うかの会話で盛り上がっていた。
今村もその和の中心におり、誘いを受けておらず、居づらかった冨島はカバンを机の上にに置いたまま、トイレに一時避難することにした。
きっと、心配した今村が一人教室に残り、一緒に打ち上げ会場へと連れて行ってくれるだろう。
20分ほど経っただろうか……
冨島が教室に戻ると、そこには誰もおらず冨島のカバンはゴミ箱に捨てられていた。
(何故だ……!!)
慌てて下駄箱を確認するが、自分以外は全て空だった。
冨島は打ち上げ会場のカラオケ店まで、全力で走るがみんなの姿は無かった……。
既に受付を済ませ、入室したのだろう。
冨島は仕方なく、カラオケの向かい側にある公園で時間を潰すことにした。
(ここなら、みんなが出てきたらすぐに分かるぞ)
あれから、どれだけ時間が経っただろうか……
時刻は既に19時を回っていた。3月になり、日中は暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷える。
ましてや、冨島は学ランのままだった。
何度も、諦めて帰ろうか迷ったがその度に、卒業式での今村の震えた声を思い出した。
(侑子は今頃、俺に会いたがってる……もう少し、もう少しだ。)
その時、カラオケ店の扉が開き、冨島同様の学ランを身に付けた男子生徒、セーラー服の女子生徒達が続々と店から出て来た。
しかし、肝心の今村が中々出て来ない……
他の生徒達に悟られぬよう、土管の陰に隠れながら監視を続けていると5分ほど遅れて、今村とその親友の田中明美が姿を表した。田中は、顔立ちは整っているが背が低いため、今村と並んで歩く姿は親子のようにも見えた。
今村は、田中と楽しそうに談笑しながら歩いて居たが、急に表情が険しくなる。
冨島の存在に気付いたのだ。
どうやら、田中も気付いたようで
「侑子、ごみしんが居るよ……。」
と耳打ちすると、今村はいつも通りの優しい笑顔に戻り、
「先に帰ってて」
と伝えた。
「本当に大丈夫?みんな呼ぼうか?」
不安そうに尋ねる親友の肩を優しく叩き、
「大丈夫だから……。」
そう伝え、今村はゆっくりと変態の元へ歩を進めた。
「やあ、打ち上げは楽しかったかい?」
低く不気味な声で、冨島が尋ねる。
「うん!凄く楽しかった!ごめんね、とみしんも誘おうと思ってたんだけど、何か恥ずかしくって……気付いたら今日になっちゃった。
それで、今日誘おうとしたら急に何処か行っちゃったから……。」
今村は透き通るような笑顔で、かつ、申し訳なさそうに言った。
(流石に無理があったかな……?)
そんな今村の心配を他所に、目の前の馬鹿は笑顔だった。
「侑子と二人きりになりたくて、邪魔者が消えるまでトイレで隠れてたんだよ、だからカバンを机に残したんだけど、気付かないなんて、侑子はドジだなぁ。」
冨島は下衆な笑みを浮かべ、今村の頭をポンと撫でた。
(冨島に……触れられた……!!)
今村の全身に鳥肌が走る、そんな心情を悟られぬよう笑顔を必死で保ち心にも無いことを述べる。
「前から思ってたんだけど、とみしんの笑顔ってカッコいいよね!!」
当然、目の前の馬鹿は真に受ける
「ススススス!!ススススス!!」(※冨島の笑い声)
(本当にキモい……。)
一刻も早く、冨島から離れたい今村は急いで話を進めることにした。
「と、ところでとみしん、何でこんな時間まで待っててくれたの?」
「そうだ、忘れるところだった。侑子の連絡先聞いとこうと思って。」
(やっぱりか……)
今村は迷っていた……。
今まではクラスをまとめる学級委員長として、冨島の様な学年最底辺の生徒にも優しくしてきたが、今日を持って中学は卒業し、進学先も違う。
今村には、3つの選択肢が浮かんでいた。
1.思うがままに罵倒し、完全に縁を切る。
2.他に好きな人が居ると優しく伝える。
3.連絡先を伝え、これからも道具として利用する。
(無難なのは1か2……でも……)
実は、今村にとって冨島は100%害というわけでもなかった。
冨島に優しくすることで周囲からの「かわいくて、頭も良い上、虫けらにも優しい完璧な美少女」というイメージを植え付けるだけでなく、虫けらの方からも沢山の貢ぎ物を頂戴してきた。
母親を早くに亡くし、以降父子家庭で育ってきた今村は、父親が大嫌いで、極力世話にもなりたくなかったため、お小遣いも貰っていなかった彼女にとって、虫けらの存在は大きかったのだ。
それに、1と2は多少の危険も孕んでいる。狂ったストーカーが逆恨みの末、想い人を殺害という事件はざらにあるし、今回の冨島の行動は常軌を逸している。
殺害まではいかなくとも、今村の身に危険が降りかかる可能性は小さくなかった。
熟考の末、今村は連絡先を伝えた。
それが、己の首を最も絞めることになる選択だったと、彼女が気づくのは、もう少し先のことだった。
今村の連絡先を携帯電話に登録した冨島は、荒い鼻息を立て、興奮している様子だった。
「じゃあ、私帰るね!バイバイとみしん!」
作り笑いを浮かべた今村が去ろうとすると、冨島が呼び止める。
「こんな時間に女が一人で大丈夫か?家まで送ってやるよ、変質者とか出たら大変だし。」
(それはお前だろ!!)
今村は心の奥底で叫んだ。
「いや、本当に大丈夫だから!それにいくら卒業したからって、とみしんと二人きりで帰ったなんて友達に知れたら嫉妬されちゃうよ。」
正確には笑い者にされるである。
しかし、やっぱり冨島は疑わない。
(確かに、うかつだった……危うく侑子がイジメの対象になるところだった。)
「それもそうだな、気を付けて帰れよ!」
こうして、2人の長い卒業式の夜は幕を閉じた。
次回から高校生活スタートです。