雄弥は出てきません!
私と彼、秋宮疾斗くんは、幼馴染だけど、物心つく前から一緒というわけでもなく、親同士の付き合いがあったわけでもない。たまたま出会って、その後もよく会うようになって、気づいたらずっと一緒にいるようになってた。
出会ったときのことをよく覚えてる。疾斗くんも覚えてくれていて、私たちの始まりのとても大事な記憶。
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「ふぇぇー……ママどこー?……うぅ」
わたしこと松原花音は、"ほうこうおんち"というものらしいです。一人でおつかいをできたことはないし、気づいたら知らないところによくいます。だから、お外にいくときは、パパかママといっしょにいます。
今日はママといっしょにお出かけしにきたのに、ママがいなくなっちゃいました。ママがご近所さんとお話してる時にちょうちょを見てたらよくわからないところに来ちゃいました。
「ままぁー……うっ…うぅ」
呼んでもママはいなくて、どうしたらいいか分からないわたしは、とにかく歩くことにしました。そしたらママに会えると思って…。
歩いていると小さな公園がありました。その公園は、お花がいっぱい咲いてたけど、人がいませんでした。わたしは、その公園でママを待つことにしました。お花もキレイだし。
「あ、またちょうちょさんだ」
さっきとは別のちょうちょがフワフワしてて、わたしはそれをジーッと見てました。ちょうちょが他のお花のとこに行くと、わたしもそっちに動きました。そうしてたら、地面が急に柔らかくなりました。
「キャウン!?…グルルル、ワンワン!!」
「ふぇぇ!?わ、ワンちゃんさん、ごめんなさい!」
「グルルル…」
「うぅー…」
ワンちゃんの尻尾を踏んじゃったみたいです。謝っても許してくれません。…そ、そうだよね。踏まれたらイタイもんね。
涙目になりながら後ろ向きでそろーりと歩いていたけど、ワンちゃんもジリジリ寄ってきます。わたしは電柱にぶつかっちゃって、ワンちゃんがその瞬間走ってきました。
「ワンワン!」
「ふぇぇー!!」
その時でした。
「女の子をいじめるな!」
男の子が駆けつけてくれました。まるでヒーローみたいにわたしの前に現れて、ワンちゃんを叱ってました。ワンちゃんは急に出てきた男の子にビックリして、足を止めてました。男の子はワンちゃんの側にいって、いっぱいナデナデしてあげてました。ワンちゃんはそれで気分が良くなったのか、嬉しそうに鳴き声をあげてました。
「よしよし、それじゃあ許してあげてくれよ〜。な?」
「わん!」
「お前優しいなー!よしよし!それじゃあまたな!」
「わんわん!」
「いいやつだったなー。…っと、大丈夫?」
「へ?」
「怖がってたみたいだけど、もうあの子は怒ってないみたいだし、許してあげて?」
「う、うん。わたしが尻尾ふんじゃったから…」
「そうなんだね。ま、機嫌良さそうにしてたし、そこは大丈夫じゃないかな。あ、そうそう、僕の名前は秋宮疾斗!ヒーローやってます!」
「ヒーロー?」
「うん!ヒーローだよ!」
優しそうな笑顔をしてる男の子…はやとくんは、自信満々に「ヒーロー」だと言い切った。なんかわたしのイメージのヒーローとは違う気がするけど、それでもわたしにとっては、たしかにヒーローみたいな人だった。
「お名前は?」
「あ…、松原…花音、です」
「かのんちゃんかー。かわいい名前だね!かのんちゃんもかわいいし!」
「ふぇぇ!?そ、そんなことないよー」
「そんなことあると思うけどな〜。それはそうと、かのんちゃんは何してたの?一人なの?」
「…あ、……ぐすっ」
「えぇ!?どうしたの!?なんで泣くの!?僕傷つけちゃった?」
「ちが…あの、ね。ぐす、…ママと…はぐれちゃって……わたし…」
「あちゃー、まいごさんなんだねー。よし!それじゃあ僕が一緒にかのんちゃんのママを探してあげるよ!」
「い、いいの?」
「いいよ!なんたって僕はヒーローだからね!」
そう言って笑顔で差し伸ばしてくれた手を、わたしはすがるように握りました。強く握っちゃってると思うけど、はやとくんは笑顔のままで、少し強く、だけど優しく握り返してくれました。
「かのんちゃんは、どっちから来たのかわかんないんだよね?」
「う、うん」
「そうなると…うーん」
「ごめんね……えと、はやとくん?」
「あっちだね」
「へ?」
目を閉じてなにかを考えてたはやとくんは、ある方向に指をさしてました。本当にそっちなのかわかんないけど、はやとくんに手を引かれるままわたしはついていくことにしました。
「なんでわかるの?」
「なんとなく!」
「…え」
「大丈夫だよ!僕こういうので間違えたことないから!かのんちゃんのママのとこまで行けるからね!」
「…うん」
「あー!信じてないでしょ!」
「そ、そんなこと…ないよ?」
「やっぱ信じてないじゃん!」
怒ってるふりをするだけで、本当は全然怒ってないはやとくんを見てると、なんだか元気がもらえました。はやとくんが元気いっぱいだからなのかな?
はやとくんと色んなお話をしました。パパのこと、ママのこと、幼稚園のこともいっぱいいっぱい話しました。その時に知ってビックリしたのは、はやとくんが年上の人だったことです。小学校に通ってるみたいなんです。
「ご、ごめんなさい」
「急にどうしたの?」
「はやとくんが年上の人って知らなかったから、その…」
「気にしないでいいよ!僕達友だちなんだから!」
「ふぇ?おともだち?」
「うん!友だち!…嫌だったかな?」
「ううん。…うれしいよ、ありがとう!」
「よかった〜。かのんちゃん、やっと笑ってくれたね」
「え?」
「かのんちゃんは笑ってる方がいいよ!すっごいかわいいもん!」
「ふぇぇー!?そ、そそ、そんなことないよ〜。わたし、ドジっ子だし、弱虫だし…」
「そんなのどうでもいいよ!」
「へ…」
「弱虫とか、ドジっ子とか、そんなのどうでもいい。かのんちゃんはかわいい!それに、かのんちゃんは誰がどう言おうと弱虫でもドジっ子でもなくて、かのんちゃんなんだし、僕の大切な友だちだから!」
「はやとくん…。ありがとう♪」
「へへ、どういたしまして!」
出会ったばかりの、男の子だけど、はやとくんは本当にヒーローだって思いました。さっきまでの悲しい感じがなくなって、今わたしの心はポカポカでいっぱいだからです!はやとくんと一緒にいたら、頑張れるわたしになれる気がします。もっともっと素敵な人になれるってそう思えました。
いつもは、緊張して喋れないのに、はやとくんにならいっぱい喋れました。それで、気づいたら見たことある風景に戻ってきていて、ママがいました。ママには泣いて怒られました。わたしもいっぱい泣いて、ママに抱きつきました。
「花音を助けてくれてありがとう!…えっと」
「ママ、はやとくんだよ!わたしのお友達!」
「!もうお友達になったのね…。そう、花音に男の子の友だちが…。…本当にありがとうはやとくん。何かお礼をしないとね」
「いえいえ、泣いてる女の子を助けるのは、男の子として当たり前ですから!」
「…本当にいい子なのね。ますますお礼したくなっちゃったわ。…そうだ!今日マフィンを作るから、一緒に食べましょう?それぐらいならいいでしょ?」
「マフィン!やった!はやとくん、ママのマフィンって美味しいよ!」
「そうなの?それでは、お世話になります。いただきます」
「ふふっ、マフィンができるまで、花音と部屋で遊んでてちょうだい」
「はやとくん、いこ!」
「うん」
ママが呼びに来るまで、わたしははやとくんと絵本を読んだり、お人形さんで遊んだりしてました。いつもすることなのに、はやとくんとすると、いつもよりすっごい楽しかったです。
ママのマフィンを3人で一緒に食べながら、小学校の話になって、わたしもはやとくんと同じところに行けることが分かりました。小学校が楽しみです。
小学生になったら、はやとくんがいつも迎えに来てくれました。手をつないで、一緒に学校に行くのが楽しみでした。帰りは一緒になれないことのほうが多かったですけど。わたしは、知らない間にはやとくんのことを大好きになっていたけど、きっかけはきっとあの出会いだと思います。
だって、あの時からずっと、疾斗くんは私のヒーローなのだから。
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「…なんでアタシ、花音の惚気話聞かされてるの?」
「えへへ、いつもリサちゃんがすぐに惚気けるから、今日はそのお返しです♪」
「惚気てるわけじゃないんだけどなぁ」
「自覚ないなら気をつけたほうがいいよ?」
「…はい」
二人で疾斗くんのお祖父ちゃんの喫茶店に遊びに来てて、頼んだ飲み物とケーキを味わっていた。瑛太くん達が就職したからここも従業員が減っちゃったんだけど、雰囲気は変わらず落着いていた。それに今日は…。
「ハッハッハ!馬鹿めそんなのが客に出せるものだと思うなー!」
「ハッハッハ!新規開拓ぐらい挑戦しようぜ爺ちゃん!」
「なにをー!ろくに満足のいく味にできてない者がほざきよって!」
「爺ちゃんの好みの味じゃないだけだろが!」
「…元気だねー。また言い合ってるよ」
「ふふっ、でも二人とも楽しそうだよ?」
「たしかにね〜」
お祖父ちゃんはやっぱり孫に来てもらえるのが嬉しいみたい。口には出してないけど、疾斗くんもそれがわかってるみたいで、必ず同じノリで返してる。
「…ひ孫でも見せてあげたいなぁ」
「え"っ?」
「?リサちゃんどうかした?」
「う、ううん、なんでもない」
(口に出てたって気づいてないんだね。…黙っとこっと)
「??変なリサちゃん。リサちゃんだって雄弥くんとの子どもほしいって思ってるじゃん」
「ブフッ!ゲホゲホ、花音!?」
「ふふふっ、リサちゃんって人から言われるとそういう反応になるよね♪」
「…花音だってそうじゃん」
「私は最近割り切ってるから」
「……」
リサちゃんが黙り込んじゃった。私がこう返すって思ってなかったみたいだね。…正直に言うと私だって恥ずかしい。けど、もう我慢はしたくない。私だって疾斗くんにもっと甘えたい。過去の積み重ねなんて無いに等しい。だって、今を生きてるんだから。
「花音、リサはなんで真赤になって固まってるんだ?」
「疾斗くんは知らなくていいことです」
「…わかった」
「それより疾斗くん」
「ん?」
「私は疾斗くんとの子どもが欲しいな♪」
「大人になったらな」
「私はもう大人になったもん」
「そう言ってるうちは子供だよ」
「なら、子供になりたいなぁ」
「…強かになったな」
「えへへ」
一段落したのかな。疾斗くんは飲み物だけ持って私の横に座った。すぐに戻るわけでもないだろうし、ちょっとお話しようかな☆
「…花音さん」
「どうかしたの?疾斗くん」
「なんで腕を拘束してるのですか?わりと痛いんですけど…」
「…ねぇ、疾斗くん。正直に答えてね?」
「なにを…」
「この写真の子は誰なのかな?」
「うわー、疾斗それはないよー」
「いや、その子はだな…」
いつも通りのオチになるのはわかってる。
だって、疾斗くんは私のヒーローだけど、
けど、それでいい、ううん。それがいいの。そんな疾斗くんにドンドン惹かれたんだから。…これ以上疾斗くんの彼女が増えるのは嫌だけど。