なんのこっちゃ。
「
「できたよパパ」
「それじゃあママと
「うん。ママ、愛彩、行ってきます」
「行ってらっしゃーい!」
「気をつけて行ってね。雄弥も、ちゃんと汐莉のこと見ててよ」
「分かってるさ。夕方には帰るから」
「うん♪」
汐莉と手を繋いで、リサと愛彩に「行ってきます」を言って家を出た。今から行くところは別にそう遠いわけじゃない。車で行っても大丈夫なんだが、汐莉の希望もあって歩いていくことになった。普段行く範囲より少し先だから、どこか冒険感覚なのかな。
「あ、ワンちゃん。…かわいい」
「チワワか」
「ふふっ、パパとお出かけなのかな?」
「はい。湊汐莉って言います」
「あら、丁寧ですね。私は宮井
「そうなの?」
「まぁな。宮井さんは看護士さんで、パパが何回もお世話になったし、汐莉と愛彩が産まれるときも、宮井さんがママを支えてくれたんだぞ」
「ほぇぇー」
汐莉はチワワことリナちゃんを撫でながら、目を輝かせて宮井さんを見上げていた。自分が産まれる時に助けてくれた人って、やっぱり憧れるものなのかな。
「パパとママって助けてもらうことあるんだね」
「そっちか」
「え?」
「いや、なんでもない。…それと、パパもママも今だって色んな人に助けられてるからな」
「そうなんだ」
「ふふっ、雄弥くんもリサちゃんも、汐莉ちゃんからしたら憧れなんですね。なんでもできるように見えてるのでしょうか」
「そうなんでしょうか。まぁでも、たいていの子は親とか年上の兄姉に憧れるらしいですしね」
「そうですね」
まさか家を出て、しばらくしてすぐに宮井さんに会うとはな。今日は休みだったのか。それはともかくとして、ここで長く話し込むわけにもいかないし、そろそろ行かないとな。
「汐莉、そろそろ行こうか」
「…リナちゃん」
「またこの子とも遊んでくれますか?」
「はい。もっと遊びたいです」
「ふふっ、それなら次はいっぱい遊んであげてくださいね。今日はお出かけされるんでしょ?」
「…うん。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
さすが看護士。いろんな年代の人と接してるから、子供との接し方も見事なものだな。汐莉は恥ずかしがる方が多いんだが、宮井さん相手なら初対面でも話せてたし。
「パパ?」
「汐莉もちゃんと初めての人と話せてたな」
「宮井さん、話しやすかった。ママに似てて、なんか温かい人だった」
「…そっか」
(リサが聞いたらどう反応するんだろうな。宮井さん個人としてはリサも見習ってるとこがあるらしいんだが、母親としては複雑かな?)
「リナちゃんもかわいかった」
「そうだな。うちにも欲しくなったか?」
「お世話…できるかな?」
「飼う前提か…。お世話は汐莉と愛彩しだいだな。パパとママは必要な時しか手伝わないぞ?」
「がんばってみる」
「…まずはママに相談しないとな」
愛彩が聞いたら、飛び跳ねながら満面の笑みで買いたいって言ってくるだろうな。俺としても別に断る理由もないし。庭もあるからな。……リサのパターンからして、約束事を何個か決めてからオッケー出しそうだな。…あ、これ飼う流れが確定してるわ。
そうこうしているうちに、今日の目的地についた。昔ながらの和風の家で、それなりにデカイ。ここに住んでいる人物に今日は時間を作ってもらって会いに来たのだ。
インターホンを押すと、目的の人物が応対してくれて、少し待っているように言われた。汐莉は緊張しているようで、俺の後ろに隠れるようにして、ズボンを握りしめている。
「大丈夫だ。優しい人だから」
「……うん」
(緊張しちゃうのも無理ないか。前に会ったときのことは、たぶん記憶に残ってないだろうし、こういう大きな家に来るのも初めてだしな)
大丈夫だと安心させるためにしゃがんで、ゆっくりと頭を撫でてあげる。汐莉は目を瞑ってそれを受け止めつつも、それでも緊張はぬけないようで胸に飛び込んできた。
そのタイミングで門が開けられたから、俺は汐莉を抱っこして立ち上がり、その人物と向き合った。
「お久しぶりですね」
「そうだな。元気そうにしてるようでよかったよ。蘭」
「えと、その子が……汐莉ちゃんですよね」
「今の間はなんだ?」
「前にあった時から髪が伸びてるので、少し自身がなくて」
「会ってなかったらそうなるか。…ほら汐莉、挨拶しないと」
「……ぅー」
「とりあえず中に入りませんか?」
「蘭は甘いな」
「少し時間を上げたら汐莉ちゃんも落ち着くと思って」
蘭言い分もよくわかることだし、ここは蘭の提案に乗るとしよう。敷地内へと足を踏み入れ、蘭の案内に従って付いていく。俺も片手で数えれるほどしか来たことがないが、相変わらずいい家だな。
「お茶入れてきますから、ここで待っていてください」
「悪いな」
「いえ、お客さんをお持て成しするのは当たり前ですから」
律儀にも一礼して部屋を出た蘭を見送り、部屋を見渡す。案内された客室は、畳張りの部屋で、真ん中に机と座布団が置かれていた。いかにもな部屋だが、汐莉にとっては新鮮な部屋で、大人しくはしているがテンションが上がっていた。
汐莉も部屋を見渡し始め、
「…きれぇー」
「気に入った?」
「…ふぇっ!…ぁ…ぅ」
「この花の名前知ってる?」
「ぇ……ううん。知らない」
「これはね、ガザニアって名前なんだよ」
「ガザニア?」
「そう」
共通の話題があると打ち解けやすいものだよな。蘭は生花に向き合うようになって、いろんな花を知るようになったし、生花の腕も叔父さんが誇るほどになったらしい。
そして汐莉は花が好きだ。花畑に連れて行ったらずっと花を愛でるし、花が枯れてたり、傷んでたりすると、まるで自分のことのように悲しむ。それぐらい花のことが好きだし、心優しい子だ。
「全部の花に花言葉ってあるんだけど、知ってる?」
「ううん。それも初めて」
「そっか。花言葉を知ってたら、パパやママにお花をプレゼントする時に役立つよ。ちなみに、このガザニアは、"あなたを誇りに思う""きらびやか""潔白"って意味があるんだ」
「なんこも意味あるの?」
「うん。たいていの花はなんこか花言葉あるんだ。でも、プレゼントする時は、一つの意味だけ気にしたらいいからね」
「うん!…えと、…あの」
「どうしたの?」
「み、…湊汐莉…です」
「ぁ……。美竹蘭です。よろしくね、汐莉ちゃん」
「はい!美竹さん!」
「蘭でいいよ」
「へ?」
「父さんも母さんも美竹だからね。だから、蘭でいいよ」
蘭にそう言われたものの、本当にいいのだろうかと不安になった汐莉が、俺の方を見てくる。もちろん本人がいいと言っているのだから、ここで駄目という理由がない。
「汐莉、下の名前で読んでいいぞ。蘭本人がそう言ってんだからな」
「うん…。よろしく、お願いします。蘭さん」
「うん。よろしく」
改めて挨拶をすることができた汐莉を撫でてやり、汐莉も嬉しそうに顔を胸に擦りつけてくる。それを微笑ましく蘭が見守っていて、暖かな空気がこの部屋を満たした。
席につき、汐莉は俺の膝の上に座った。蘭は向かい側に座り、ようやく今日の本題に入ることができそうだ。といっても、さっきの様子からしてそれもすぐに終わるんだろうけどな。
「それで、雄弥さんのお願いってなんですか?」
「汐莉が花を好きってことは、さっきのでわかったろ?」
「はい」
「汐莉にな、生花を教えてやってほしいんだ」
「え…」
「お願いします。ママに綺麗なのプレゼントしたいんです」
「…そっか。……わかりました。時間を作って教えていきますね」
「悪いな。蘭の都合を優先してくれていいから。無理に時間を作るってことはやめてくれ」
「わかってますよ。『いつも通り』を壊したくないですから」
「ははっ、…そうか。それならよかった。…そういや愁は?」
「仕事で出かけてます。雄弥さんは聞いてなかったんですか?」
「うちのメンバー同士でそんな連絡を取り合うとでも?」
「そうでした…」
メンバーのその日のことなんて誰も把握していない。これは俺たちが結成当初から変わらずに続いていることだ。知っているのは、全体で集まるのがいつかということぐらいで、せいぜいその時に前後の予定を聞くことがあるぐらいだ。
「パパ、愁さんってピアノの人?」
「そうだな。正確にはキーボードだが。それと蘭の大切な人だぞ」
「ちょっ!何言って!」
「愁さんのこと好き?」
「うぇっ!?…いや…それは……その」
「パパとママみたいな感じ?」
「だから……その…えっと……」
「汐莉、それぐらいにしてあげような」
「??」
「別のことなら答えてくれるんじゃないか?」
「別のこと?……あ!愁さんとはいつ出会ったの?」
「愁と?……えーっとたしか…」
〜〜〜〜〜
たしかアタシが7歳の時だっけ。うちの隣の家が改装工事してたのは知ってたから、家を新しくして隣に誰か来るんだろうなぁって思ってた。
ある日、工事が終わって表札に前とは違う人の名前が書かれてた。"毛利"それが隣に引っ越してきた人の名前らしい。でも、まだ工事が終わっただけで、住人は来ていない。引越し業者もまだだからこれからなんだろうね。
Afterglowのメンバー、この時はまだバンドなんて考えてすらいなかったから、仲良しの幼馴染5人って感じ。いつも朝集まって学校に行って、いつも集まって帰ってくる。それがあたし達の当時の『いつも通り』だった。
「それじゃあ転入生を紹介しますね〜」
『いつも通り』のクラスに変化が出たのは、その日のことだった。変化って行っても、小学校のうちはわりと転校していく人や反対に転入してくる人も珍しくなかった。だから、大きく見たらこれも『いつも通り』…かな。
(もしかして、隣の家の人かな)
なんて考えたりもした。引越し業者はまだ来てないし、住人もまだ来てないから、それは違うだろうとも同時に考えてた。
「毛利愁と言います。よろしくお願いします」
でも、転入生はお隣さんだった。日本人の名前なのに金髪で青い目、つまり海外の人の見た目。ハーフってことかなって思ったけど、ハーフじゃないらしい。わけわかんない。
仲良しグループのモカたちは、あたしの隣に引っ越してくる人の名前が毛利ってことを知ってる。だから、漫画みたいな展開にモカとひまりは楽しそうにしてた。巴はあたしと同じように驚いてて、つぐみは転入生が来たことを喜んでた。
「それじゃあ毛利くんの席は、1番後ろのところね。あそこだけ机が三つ繋がってるでしょ?あそこに行ってね」
「はい」
3人席のうちの真ん中。それが用意された席だったみたい。両隣にサポートしてもらえるようにってことかな。そのうちの一人がつぐみだから、先生の人選は的確だろうね。
「私は羽沢つぐみって言います。よろしくね、毛利くん!」
「よろしくお願いします、羽沢さん」
ほら、さっそくつぐみが声かけてるもん。ああいうのって助かるよね。しかもつぐみは、狙ってやってるわけじゃなくて、つぐみの人柄がそうさせてるってわけだし。
休み時間には質問攻めにされたり、男子たちに引っ張られて外に遊びに行ったりしてた。転入生は人気者になるからね。そんなこんなで放課後になって、あたしはいつも通り5人で帰るって思ってた。でも、つぐみの行動力は上を行くね。
「帰り道同じみたいだし、毛利くんも一緒でいいかな?」
先に聞くんじゃなくて、毛利を自分のすぐ後ろにいさせて聞いてきたんだよね。あたし達なら断らないだろうって信頼があってやったことだろうし、でも勝手に決めることなんてつぐみはしないから、一応聞いてきたって感じかな。
「もっちろんだよ!」
「断る理由なんてないしな!」
「よろしくね〜。ほら〜、蘭も〜」
「わ、わかってるって…。えと、……よろしく」
「え〜、それだけ〜?」
「も、モカだって似たもんじゃん!」
「モカちゃんは〜、気持ちがいーーっぱい詰まってたのです〜」
「あ、あはは、ごめんね毛利くん、こんなで」
「みんな仲いいんだね」
「うん!みんな大切なお友達なんだ!」
「つぐー!私もそう思ってるよー!」
「わわっ、ひまりちゃん!?」
「蘭ー?顔が真っ赤だよ〜?」
なんでつぐみってこういうことをあんなにサラッと言えるんだろ。ニヤニヤしながら追求してくるモカを払いながら、歩き始めた。モカがみんなに声かけて、それでみんなもついてくる。
あたしが愁と話したのは、みんなと別れてからだった。あたしと愁の家が隣同士だから、必然と二人きりになる。そんな時になってやっと言葉を交わした。何を話したかは内緒。……だって…自分の話題性のなさが恥ずかしいし。ちなみに、学校に行ってる間に引越し業者が荷物を運び込んでたらしい。家の人…というか、お手伝いさんが何人かいて、家の前に出迎えてたのには驚いた。
出会いはそんな感じ。同じクラスになったっていうありきたりな出会い。家が隣ってのは、ありきたりでもないのかな。つぐみが声をかけたことで、自然とあたし達の『いつも通り』に混ざったんだよね。
朝もあたしと愁が一緒じゃなかったら、「今日はお休みなの?」って話になってたし。…いや、なんか恥ずかしくてインターホン押せなかっただけで…。学校の帰りは初日から一緒に帰るようになったけど、行く時が一緒になるようになったのは、3日後くらいからだったかな。モカが「朝、蘭と一緒に来なよ〜」って言ったから。
そうやって自然と『いつも通り』に入った愁と過ごしていって、あたし達が困った時にはすぐに気づいて相談に乗ってくれて、何度も助けてくれた。愁とは中学の時から違う学校になったし、Augenblickに入ったから会う時間も減ったけど、それでも困った時にはすぐに助けてくれた。あたし達との時間を必ず確保してくれたんだ。そうしていくうちに、気づいたら惹かれてた。
〜〜〜〜〜
「へー、そんな感じだったのか」
「私にもそんな人できるかなー?」
「汐莉にもできるだろ。まだ早いがな」
「へ?」
「雄弥さん…」
「あれ?雄弥たち来てたんだ」
「あ、愁。おかえり」
「うん。ただいま」
「愁さんこんにちは」
「こんにちは汐莉ちゃん」
「なんでお前自分の家に帰らないんだよ。隣だろ」
「いつもはあっちだよ。今日は食事に呼ばれててね」
「なるほどな」
この二人が交際始めた時の親父さんの反応面白かったんだよなー。話に聞いたぐらいだが、なにやら百面相し始めて葛藤してから了承したらしい。蘭のことを大切にしているけど、愁のことも信頼してる。認めたいけどまだ早いような、って葛藤だったらしい。
「さてと、そろそろお暇させてもらうかな」
「もう少しゆっくりしていってもいいのに」
「リサが夕飯作って待ってるからな」
「なるほどね」
「…そういや蘭は料理できるのか?」
「…………まぁ、多少は」
「蘭さん、今度私がお礼に教えてあげるね!ママに教えてもらってるから、ご飯作れるんだ〜!」
「うぐっ……。ありがとう」
過去話が短かったですかね。
まぁ、この二人にしても、大輝にしてもそこまでのハプニングがあったわけでもないので。