陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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師走

「ふんふふ〜ん♪」

 

 

 時期はもう12月。1年で最後の月。この月を師走っていうのも、お師匠さんも忙しいからとかそんな理由だった気がする。現代においては12月下旬が超忙しいのなんの。クリスマスがあって、1週間で年末。アタシはこういうイベント事が好きだから、もちろん両方楽しみたい。

 

 

(それに、今年は雄弥と結婚して最初の年だからね)

 

 

 雄弥との結婚式は高校2年生の時。でも入籍したのは高校を卒業してから。日にちは雄弥と出会った時にした。友希那は今でも『雄弥を拾った』なんて言うけど、言い方ってものがあると思うんだよね〜。さすがに今じゃその日のことをアタシ達の結婚記念日って言ってくれるけど。

 雄弥はアタシ達が高校を卒業したら次の日には湊家を出た。もともと家を出るって言ってたから誰も止められなくて、入籍した日にアタシもそこに転がり込んだ。雄弥に反対されたけどいつも通り押し切ったんだよ。父さんも母さんもイケイケって後押ししてくれたし、友希那達もゴーサインを出してくれた。それもあって雄弥も折れたんだよね〜。

 

 

「もうすぐで雄弥帰ってくるかな〜」

 

 

 大学1年生なわけなんだけど、これまた新婚生活1年目でもあるんだよね〜。雄弥との生活は本当に幸せだ。お互いの部屋でお泊りをしたことは何度もあったんだけど、一緒に住むとなるとやっぱり違う。雄弥の仕事に左右されることもあるけど、基本的には一緒に家を出て大学に行って、一緒に授業を受けて一緒に帰る。四六時中雄弥と一緒にいられると言っても過言じゃない。

 最初に雄弥に「おはよう」って言えるのもアタシ。雄弥に直接「おやすみ」って言えるのもアタシ。一緒にご飯を食べることができて、ほぼ毎日一緒に寝ることができる。すぐ側に好きな人が居てくれて、今日だって「おかえり」って言うことができる。当たり前のことなんだけど、その当たり前が幸せなんだ。

 

 

「ただいま」

 

「あっ、帰ってきた。おかえり〜♪ ご飯にする? お風呂にする? それともアタシ?」

 

「出かけようか」

 

「むぅー、アタシって言ってくれな……出かけるの?」

 

「ご飯はまだ作ってないだろ? それなら出かけよう。リサがよければだけど」

 

 

 雄弥の感覚は鋭いから、アタシがまだご飯作ってないのも見抜かれちゃった。何を作ろうか考えてたってのもあるし、雄弥と作りたいなって思いもあったから。まぁこれから出かけるなら、雄弥とご飯作るのはムリなわけだけど。

 アタシの返答を待っている間に雄弥はスーツとネクタイを外した。出かけるならこのまま着替えを続行して、家ならシャツとかを着たままにするんだろうね。どうするのか目で問いかけてくる雄弥に、出かけることを伝えたら着替えを続行した。アタシは慌てて視線をそらして、支度するために部屋に行った。

 

 

「雄弥はなんで遠慮ないかな〜。アタシの方が恥ずかしいよ」

 

 

 鏡を見たら少し顔が赤くなってる自分が写ってる。相変わらずこういう事には慣れなくて、大学の友達がたまーにする彼氏とのエッチな話を聞くと耳まで赤くなる。高校の時は不安や焦りに駆られて、雄弥に子供作ろって迫ったこともあった。今思うとよくそんな行動できてたなってなるし、それだけアタシは余裕なかったんだろうね。それはともかくとして、雄弥の着替えを見るだけで逃げちゃうのに、果たしてその時(・・・)のアタシは大丈夫なのだろうか。

 

 

絶対ムリだよね……

 

 

 感情が芽生えた雄弥だけど、羞恥心は芽生えてくれなかった。だから雄弥はその時(・・・)も平然としてるはず。だけどアタシはムリ。雄弥の裸見るだけでも顔が熱くなるぐらい真っ赤になるだろうし、ましてやアタシも裸になるなんてムリ。雄弥に見られるって思うだけでも、今想像しただけでも恥ずかしくておかしくなりそうだもん。

 

 

『リサ準備できたか?』

 

「あ、うんできたよ〜。今出るね」

 

「……その格好寒くないのか?」

 

「ファッションは我慢ってね☆」

 

「風邪ひかないでくれよ」

 

「大丈夫だって〜。アタシ滅多に風邪ひかないもん」

 

 

 高校の時もたしか風邪引いたのは一回だけだった。小学生の時も中学生の時も全然風邪ひいてなかったかな。アタシって結構丈夫だな〜なんて思いながら雄弥と手を繋いで家を出る。今住んでる家はアパートで、雄弥は元々一人暮らしを予定してたから二人でってなるとちょっと狭いかも。一人だと少し大きい。二人だと物足りない。そんな感じのアパート。

 アタシたちが大学生の間に瑛太くんたちが家を建ててくれるみたいだから、それまではここがアタシと雄弥の家。雄弥がアタシ用に部屋をくれた分、雄弥の部屋が無い。当然反対したけど雄弥が引かなくて結局アタシが折れた。

 

 

「出かけるってどこ行くか決めてるの?」

 

「まぁな。リサと洒落た店でも行こうかと思って」

 

「それもゆりさんに聞いたやつだったりするの?」

 

「今回は違う。大絶賛した店があるってのは聞いたが、そこは秘密にしたいんだとさ。だから自分で見つけたんだが、……なんで毎回ゆりさん疑うんだよ」

 

「雄弥がゆりさんとよく会うからね〜」

 

「主に愚痴を聞いてるだけだが」

 

 

 アタシがそっぽを向くと雄弥が手の繋ぎ方を恋人繋ぎに変えた。こうやって雄弥の方からしてくるのは珍しくて、それだけでも嬉しいんだけど、単純だって思われたくないからニヤけそうになるのを我慢する。

 

 

「リサ前見てみろ」

 

「……前? ……わっ、きれい」

 

「最近忙しくて忘れてるかもしれないが、今日はイヴだぞ」

 

「あっ、そっか。そういえばそうだったね」

 

 

 家のカレンダーにも、クリスマスは目立つように印を付けていたのに、なんか頭から抜け落ちてた。雄弥がこうやって出かけるのを持ちかけてきたのも、雄弥は覚えてたからなんだね。

 恋人繋ぎしてる手はそのままに、体を雄弥に寄せて反対の手も使って腕に抱きつく。見上げれば雄弥と視線が重なって、ちょっぴり恥ずかしいのを誤魔化すようにはにかむ。雄弥に見抜かれてるだろうけど、何も言わずに笑みを返してくれる。二人で雑談しながらイルミネーションで彩られてる町中を歩いていった。

 

 

「ここ?」

 

「そうだな」

 

「よく見つけたね」

 

「散策してる時に見つけた」

 

 

 それで見つけられるものなんだね。これも一種の嗅覚ってやつなのかな、なんて感心しながら雄弥の後ろを付いていく。アタシがどうするか分からなかったから予約はしてないみたいだった。だけど雄弥が名前を言ったらVIP対偶されてて、たまたま近くにいた他のお客さんはもちろん、アタシもビックリして固まっちゃった。雄弥と手を繋いだままだったから、引っ張られて部屋まで行って気づいたら席に座ってた。

 

 

「な、なんでVIP対偶なの?」

 

「俺達Augenblickが資金提供した店の一つだからだろうな。ここに店を構えてるとは知らなかったが」

 

「そんなことまでしてるんだ。……一つ?」

 

「他にもあるからな。途上国に行って援助活動することもあるし」

 

「それはテレビで見たよ。なんで結花とイチャイチャしてたのかは聞いてないけど?」

 

「いやそれは結花が」

 

「拒まない雄弥も雄弥だよね?」

 

「そこはたぶん編集の時にカットされてる」

 

「一部始終撮影したのを疾斗が送ってきたけど?」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 雄弥たちの絆の強さも仲の良さも広く知られてる。メンバー間でそういう関係になることがないってことも。だけど、それでもそこを突いてくる人もいる。嘘だって分かりきってることだけど、それでもいい気にはならないよね。

 結花だって弁えてる。それはアタシや友希那がよく知ってる。だけども結花が愛に飢えてることも同じぐらい分かってる。雄弥は身内にはとことん甘いから、結花の要望を極力聞くようにしてる。アタシも度が過ぎなければそれを認めるようにしてる。それでもやっぱりキスしてるとこを見ると思うことがあるわけで。

 

 

「際限ないことじゃん?」

 

「まぁ沼だな。でも、それでも結花をあそこから連れ出したのは俺だ。選択肢を与えて、あの環境から抜け出せるようにしたのは俺なんだ」

 

「だから結花が取る行動の責任を取るって言いたいんでしょ。……ま、それが雄弥だもんね」

 

「リサを裏切ってるよな」

 

「ううん。そんなことにはならないよ。結花を想って、責任なんて取ろうとしての行動だって分かってるから」

 

「……あの人が帰ってきたら結花も落ち着くはずだ」

 

「そうだね」

 

 

 嫉妬はしちゃう。でも許せないってわけじゃない。今なら花音が言ってたことも分かる。『最後には自分のところに帰ってきてくれる』『自分が一番愛されてる』そう心から信じていられるから、だから許せる範囲が広がった。大学入学したての頃とは正反対だね。あの時は雄弥に近づく女性がみんな敵に見えたから。高校の時から知ってる子はそうじゃないけど。

 一般の大学生じゃそうそう来ないような店に来てるけど、どっちも未成年だからアルコール飲料は飲めない。飲めたらもっと大人な雰囲気を出せただろうけど、それは成人してからのお楽しみだね。いつか子供ができたら、子供を連れて来てもいいかもね。あ、これがセレブの発想ってやつかな。運ばれてきた料理を食べながら、金銭感覚が狂わないようにしなきゃって使命感を覚えた。

 

 

「そうだ! 人生設計しようよ!」

 

「人生設計? ある程度してるだろ」

 

「大まかなことはね〜。でも、子供のことは何も決めてないじゃん?」

 

「そういや考えたことなかったな」

 

 

 コース料理だから、食べ終わったらすぐに片付けられて次の料理が運ばれてくる。さすがにイヴなだけあって忙しいらしく、料理を待つこともあるけど、時間を気にしてるわけじゃないから無問題。雄弥も他のテーブルを優先するように店員さんに言ってる。

 

 

「子供ができたら何させたいーとかさ。雄弥はないの?」

 

「……子供には子供の道を進んでほしいな。多くの道を示して、その中から選んでくれてもいいし、自分で見つけた道を進んでくれてもいい。必要なら手を差し伸べたり、背中を押したりはする。でも、自分で考えて、決めて、行動してほしい。ただでさえ俺たちの子ってだけで周りから見られる目が特殊なんだから」

 

「優しいような厳しいような……。でも、たしかにそうかもね。アタシたちの存在が子供の負担になってほしくないもんね」

 

「ああ。リサは?」

 

「アタシ? アタシは元気でいてくれたらそれだけでいいよ。何があってもサポートしてあげようって決めてるし、変な道に進みそうになったら全力で止める。たとえそれで嫌われてもね」

 

「リサだけにその役目は負わせないぞ?」

 

「あはは、だよね。アタシも雄弥がいてくれないと厳しいや」

 

 

 いつか見られる日が来るだろうアタシたちの子供。どっちに似るのかもわからないし、髪色とかもどうなるのか分からない。性格もそうだし、もしかしたら隔世遺伝なんてするかもしれない。雄弥の産みの親がどんな人か分からないけど、アタシの方は……隔世遺伝してほしくないかも。

 明るい未来の話を愛してる人とするとほんっとに楽しくて、幸せが待ってるって思える。その先に悲しいことが待ってるのが分かってるけど、それでもその時まできっとアタシは、雄弥の隣で笑顔でいられる。

 

 

「さすがに帰りの方が寒いね〜」

 

「だから言っただろ。……ほら入れ」

 

「ありがとう♪ お邪魔しま〜す」

 

 

 雄弥は大きめのコートを着ていて、アタシはそこに入れさせてもらった。コートは当然一人分の大きさだから体が密着するんだけど、その分暖かいからいいかな……なんて。雄弥の左側に入ったんだけど、雄弥は左腕を袖から抜いてて、その分アタシにちょっとしたスペースができてた。アタシは雄弥のコートを掴んで、雄弥はアタシの肩を抱き寄せてくれる。コートの前側を締めれないけど、それでも風が気にならないような暖かさがここにあった。

 

 

「ねぇ雄弥。雄弥はアタシのどういうとこを好きになってくれたの?」

 

「いきなりどうした」

 

「いや〜、聞いたことなかったかなって思って」

 

 

 家に帰ってお風呂も済ませて、布団を並べて敷いたら横で寝てる雄弥に聞いてみた。アタシが聞いたから雄弥も体の向きをこっちに向けてくれて、暗がりの中だけど雄弥の顔がはっきり見える。それはそのぐらい距離が狭いってこと。アタシは今も暗いとこが苦手だから、布団を2枚敷くけどもできるだけ雄弥の方に寄ってる。雄弥もアタシの方に寄ってくれるから、こうやって顔を合わせたら暗くても見える。

 

 

「人形同然だった俺をずっと隣で支えてくれたところ。俺だけじゃなくて周りの人にも目を向けて、気にかけて、力を貸す。そういう隔たりない優しさ。何度も不安にさせて、傷つけて、怒らせて、リサにはずっと酷い目に合わせてしまったのにそれでも離れないで好きでいてくれた愛情の深さ。周りを心配させるぐらい努力を惜しまないところ。これは直してほしいけどな。感性が豊かで涙脆いところも、今みたいに暗がりを怖がるところも好きだし、支えたいって思う。意見の衝突が嫌いでみんなが笑える方法を模索するところも、自分の中で強い芯を持ってるところも、大切なことは決して譲らないところも好きだ」

 

「ぁぅ……」

 

 

 いきなりこんな質問したら雄弥も迷ったりするかなって思ったけど、全然そんなことなかった。矢継ぎ早に雄弥がアタシに思ってくれていることを上げていくから、聞いてるアタシの方がノックアウトされた。

 顔を手で覆って仰向けに変えたけど、覆っていた手をどけさせられた。もちろん目の前には雄弥がいて、アタシの両手はどっちも雄弥の手と重ねられてる。

 

 

「ゆうや……?」

 

「理由はあげていったけど、リサだから(・・・・・)好きなんだよ」

 

「ーッ!……それ反則だよ

 

「リサ。愛してる」

 

「……うん。アタシも愛してるよ、雄弥」

 

 

 そっと唇を重ねる。

 

 何度だって思う。

 

 この人に出会えて、好きになってよかったって。

 

 この人に選ばれてよかったって。

 

 




【おまけ】

「ママー。きれいになったー?」

「うん♪ 愛彩が綺麗にしてくれたからきっとジィジたちも喜んでるよ〜」

「やった〜!」

「パパ。お花の交換できた」

「上手だなー汐莉。すごいぞ」

「えへへ、うん!」


 今日は親父の墓参りに四人で来ている。墓の手入れと報告ぐらいなんだが、そのためにはイギリスに来ないといけない。母さんの墓がこっちにあって、親父のもこっちに作ったからな。


「……お義父さん、お義母さん。三人目の子ができました」

「拝めなくて残念だったな」

「もぅ。そんなこと言わないの!」

「なんか親父相手になるとこうなるんだよ。……母さん、また来るよ。次は五人で」

「あはは、そうだね。五人で来ないとね☆」


 長く語ることはない。語ることだけを語ってここを後にする。俺が汐莉と手を繋ぎ、リサが愛彩と手を繋ぐ。いずれ一人増えてこのパターンも変わるんだろうな。


「ねぇねぇママー。ジィジたちってどんな人だったの?」

「お、愛彩は気になるー? 汐莉は?」

「気になる」

「そっかそっか♪ じゃあパパに教えてもらおっか☆」

「俺かよ」

「そりゃあ雄弥の両親だしね。補足はするからさ」

「はぁ。わかったよ。どっちから話したもんかな──」
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