俺たちAugenblickのライブがついに明日にまで迫ってきた。それはつまり今日がPastel Palletsのデビューライブということだ。観客に気づかれることなく、何もトラブルなく終えることができるのか…。
(疾斗の予想ではそれは無理なわけで、だからこっちも動いているわけだが)
何もないならそれがいいんだよな〜。彩のやつは口パクでやれと言われたのがショックだったみたいで、昨日話に付き合わされた。
ーーーーーーー
『私、ずっとアイドルに憧れてたんだ』
『知ってる』
『だから、2年頑張って…やっとの思いで仕事が貰えたのがすごく嬉しかった』
『だろうな』
『すごくすごく、嬉しかったから…だから一生懸命練習して、いっぱい練習して、歌えるようになったのに……』
『その必要がなかったわけだ』
『っ!!もう、わけがわからないよ……なんで、なんでなの!?たしかにギリギリまでできなかったけど、それでもやっと人前に立てるレベルになったのに!Augenblickのみんなもこれなら大丈夫だろうって言ってくれたのに!』
『そうだな』
とりあえず彩が落ち着くまで話に付き合うしかないか。…てかなんでこういう時って俺の部屋に来るんだろうな。いやまぁ、たしかに人目を気にしなくていいんだけどさ。
『…彩。泣きたきゃ泣け。吐き出したいことは全部今吐き出せ。そんなのを抱えたままじゃ明日もたないぞ』
『……でも』
『部屋に押しかけられてる時点で迷惑云々は今さらって話だ。遠慮しなくていい』
『う…うぅ……』
やれやれ、この時期ってのは女子が泣く時期って決まってるのか?大輝も愁も幼馴染がどうのって言ってたし。…疾斗は面白い子がなんとかしてくれそうとか言ってたが。間違いなく周りをブン回すタイプの人間だな。そういやこういうのも疾斗の方が向いてる気が…。
(…こうやって話を聞いても同情することがない俺はやっぱ人じゃないんだろうな)
『……ごめんね。もう落ち着いたから』
『ならいい。それはそうと、練習したことは無意味じゃない』
『うん。まだまだ先があるもんね。その時にいきてくるんだよね』
『それもあるが…珍しく半分正解ってとこだな』
『珍しくって……。それより半分ってどういうこと?』
『それは教えない』
『ええー!教えてよ!』
『教えたら明日集中しなくなるだろ』
『もう集中できないよ!』
ーーーーーーー
なんてことがあったが、どうせ緊張して忘れるのだろう。もし教えてたらそれ+緊張でライブどころじゃなかっただろうが…。
ライブは夕方から、それまでパスパレメンバーとAugenblickは待機らしいが、俺はそれを無視してギリギリまで休日を満喫する予定だ。ほんとは一人で過ごすつもりだったのだが…。
「どうかされましたか?」
「…いや、なんでもない」
「……そうですか」
今、紗夜と二人でスタジオに来ていた。今日はRoseliaの練習がないらしい。それでも個人練をするあたり紗夜のストイックさが出ているということだろう。リサ?あの子はバイトだよ。友希那は違うとこで練習してるだろ。
「紗夜って一人でも練習できるんじゃないの?」
「一人でもできますが、雄弥くんのアドバイスも欲しいので。全体で練習を見てもらってますが、個人でとなると今井さんと宇田川さんにつきっきりなので」
「まぁそうだな。レベルを均一にすることが今の指導の目的だからな」
「ええ。私もRoseliaのためにはそれがいいと思ってます。ですが、私自身も上達したいので……迷惑ですか?」
紗夜は眉を下げて不安そうにするが、迷惑なわけがない。そもそも俺が迷惑と思う事自体少ないし、紗夜は俺の都合を考慮してから呼んだんだろうしな。
「迷惑じゃないぞ。暇してたしな」
「そうですか。……ですが先程から雄弥さんの携帯に電話が何度もかかっていますよ?」
「気にするな」
「え」
「大した用じゃないからな」
「…そうだとしても電話に出たほうがいいのでは?何かあったのかもしれませんし、練習中に電話がくるのもなんですし」
「……たしかにな」
なるほど、無視し続けても駄目なら一回電話に出て黙らせたほうがいいのか。よし、そうしよう。
〜〜〜〜〜
雄弥くんは電話に出るため一旦部屋から出ました。その間に私はギターを用意してチューニングを始めます。アンプは……どうしましょう、一応用意だけしときましょうか。
まだ練習中の楽譜を鞄から取り出す。特にうまくいかないところには印がついていて、今日は雄弥くんにそこを中心にアドバイスを貰おうと思っています。そうだというのに先日の日菜との会話が脳裏から離れません。
ーーーーーーー
『日菜!何を部屋で騒いでるの!』
『あ、おねーちゃん。えへへ、ごめんなさーい。実は今日とってもるんっ♪ってくることがあったの!』
『るんっ♪って、あなたはまたわけのわからないことを…』
『ユウくんのことは覚えてるでしょ?』
『…ええ、もちろんよ』
『今日デートしてきたんだ〜♪』
『………え?で、デートってあなた』
『リサちーがユウくんのこと好きってのは知ってるし、奪おうなんて考えてないんだけどね〜。でもユウくんは今まで見てきた男の子で一番るんっ♪ってなるからさ〜』
『……そう。……今日はもう寝なさい。それと騒がないこと、いいわね?』
『はーい。おやすみおねーちゃん!』
ーーーーーーー
(雄弥くんとデートだなんて、日菜は何を考えて……。…今、私雄弥くんと二人きり?……いえいえ、何を考えてるの!今日は練習を見てもらうだけ!それ以外には何もありません!)
「……落ち着きなさい、落ち着くのよ氷川紗夜」
「ほんとな。言葉にして自分に言って聞かせるなんて久々に見たぞ」
「っ!!ゆ、雄弥くん!?いつ戻ったの!?」
「今戻ってきたばっかだが?それより準備はしたようだし、さっそく始めるか?部屋借りてる時間も決まってることだし」
「そ、そうですね…。よろしくお願いします」
「……紗夜敬語じゃなくていいぞ。前みたいにさ」
「…わかったわ」
ふぅー。雄弥くんが詮索しない人で助かったわ。詮索されたら練習に集中できなくなって、せっかく割いてくれた時間が無駄になってしまっただろうし。…それにしても、前みたいに敬語はいらない、か。私が勝手に距離をとってしまっていたようね。
「この印がついてるとこを重点的にってことでいいのか?」
「ええそうよ。どうにもそこの部分はうまくいかなくて…」
「…だろうな。ここのやつレベル高いし」
「雄弥くんでもそう思うの?」
「俺を日菜みたいな天才だと思うなよ。どちらかと言えば紗夜側だぞ。同い年の奴らが学校やら部活やらに費やしてる時間を全て技術向上に費やして今に至ってるからな」
知らなかった。努力家だということは今井さんの話から推測がついていたのだけれど。それよりも、
芸能界ならそういうのもそこまでは珍しくないのかもしれない。けれど彼が芸能界に入ったのは中学生の時のはず。今の話から考えたら中学生活もまともに送っていなかったということ。
「……雄弥くんは」
「ん?」
「…いえ、後にしましょう。今は練習だわ」
「なんのことかわからんが…。ま、いいや」
練習の後に聞けばいい。彼が話してくれるかはわからないけど、私は知りたい。彼のことを。そして、私一人で聞くわけにはいかない。おそらくあの二人も知らないことがあるはずなのだから。
「もう時間か」
「早いわね」
「それだけ集中できてたってことだろ。今日の課題自体は達成できたんだ。このあと使う人もいるだろうし手早く片付けるぞ」
「私の都合で付きあわせたのだから片付けも私一人でするわ」
「却下だ。俺も手伝う。早く片付ければ多少時間ができるし…なにか聞きたいことでもあるんだろ?」
「!!……ほんと、敵わないわね」
結局雄弥くんにも手伝ってもらって機材を片付けていく。といっても個人練習で使うものは少ないからあっという間に片付けることができた。部屋の鍵を受付の人に返して近くの喫茶店に行って向かい合うように座る。
「聞きたいことはなんだ?音楽の話じゃなさそうだが」
「聞きたいことは雄弥くん。あなたのことよ」
「俺のこと?…普段の生活か?」
「そうじゃないわ。私が聞きたいのはあなたの過去よ。あなたが芸能界に入った経緯を知りたいの」
「……なんでそんなことを聞きたいんだ」
「気になることはなくしておきたい性格なのよ。どうやら今井さんや湊さんですら知らないことがあるようだし」
嘘はついていない。むしろ彼のことを知りたいのは私の本心。彼の生き方は湊さんや今井さん(特に今井さんかしら?)の影響を受けているのが今までのやり取りでわかる。それなら彼が二人から離れること自体考えられない。だというのに彼女たちが知らない空白の時期がある。それを知りたい。
「…経緯というか、きっかけは打ち込めることを探したからだ。けど聞きたいのはこういうことじゃないんだろ?」
「ええそうよ。といっても今全てを聞こうとは思っていないの。…この話は湊さんも今井さんも交えて聞きたいと思ってるわ」
「二人も一緒に…か」
「珍しく渋るのね」
「渋るというか、聞かれたらそりゃ答えるけどな。問題はその二人の方だが」
「…どういうこと」
「それを俺が言う資格はない。二人から聞いてくれ。それで二人も話を聞くってなったらその時に教える」
「……わかったわ。この話はここまでにしときましょ。時間はまだあるかしら?」
「あるぞ」
「それなら少し買い物に付き合ってくれないかしら」
「いいぞ」
よ、よかった…。自分から異性にこうやって誘うのは初めてだったから緊張したけど、なんとかなったわね。…買い物、どこに行こうかしら。もう少し一緒にいたかったから誘ったけど、なにも考えられていないわ。
(日菜に対抗してとかじゃないのよ。今井さんがいるのだから。…けど、2年ぶりなんだもの、ちょっとくらいは……)
結局、服屋さんに行ってウィンドウショッピングということになった。なぜか私より女性物の服に詳しかったけど聞けば今井さんの影響なんだとか。…ここまで影響を与えるなんて、彼女は十分彼の中で大きな存在になっているのね。それを彼が認識できるのかはわからない。けれど彼にもわかる時がくるはず。だって、以前あった時より人らしさがあるんだもの。
試着なんかもして色々な服を試して、私が一番気に入ったものを彼は見逃さなかった。彼の生活圏内の服屋などはもう顔見知りばかりなのだとか。私が店員さんに話しかけられている間に服を買ってきて渡された時は唖然としてしまった。(目の前で店員さんと握手までしてたのだから)
「──ああ、すぐそっち行く」
「…もう時間なのね。ごめんなさいギリギリまで連れ回してしまって」
「気にするな。いい時間を過ごせた。それに紗夜に服を買ってやれたしな」
「こ、これは、…………ありがとう」
「どういたしまして。明日のライブ忘れるなよ」
「忘れないわよ」
マネージャーさんの車に乗り込んだ彼を私は手を振って見送った。…彼の手配で私まで別の車で家に送られるとは思ってなかったけど。
あれ、おかしいな。ライブが始まらない。
☆10評価 白虎七星士さん
☆9評価 秋月天夜さん えぇぇいままよさん
☆7評価 ローニエさん ありがとうございます!