陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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12話

 とうとうPastel Palletsのライブが始まる。盛大に観客を騙す演出に不満を抱かないメンバーはいない(日菜は微妙なとこだが)。それでも与えられた初めての仕事、指示通りにするしかない。

 

 

「彩がテンパってトチるんだろうなー」

 

「……と、トチらないよ!…たぶん……」

 

「これは重症だな」

 

「ユウくーん!」

 

「…飛びつくなよ」

 

「えへへ〜」

 

 

 この二人は本当に正反対だな。凡人と天才。緊張しやすい人間とそんなものとは縁のない人間。才能も実力も性格も反対な反対な人間が同じバンドにいるなんて探してもなかなか見つからないぞ。…それでも理解しようとする彩は人がいいのだろう。

 

 

「もうすぐ開演時間だろ。喋る内容の確認はしなくていいのか?」

 

「そんなのあたしにはいらないよ〜。一回見たら覚えるもん☆」

 

「そうだったな」

 

 

 お前の発言に隣にいる彩が呆然としてるぞ。これじゃ確実にトチるぞ。俺は気にしないけど。…あー、日菜も気にしないか。

 

 

「そんなことよりもさ!あたしの衣装どう?似合ってる?」

 

 

 そう言って衣装の各所を見せるようにスカート部分をヒラヒラさせたり、その場でゆっくり一回転して見せてくる。そんなことされなくても衣装のことは大輝からアホらしくなるぐらいに語られているから知っている。衣装は5人とも一緒の白ベースでそれぞれのイメージカラーとして細部に違った色がある。彩ならピンクで目の前にいる日菜なら水色といった具合に。

 

 

「ああ、よく似合ってるよ」

 

「そっかそっか♪う〜ん!今日はドカーンっていけそうだよ♪」

 

「ライブを壊すなよ」

 

「そんなことしないもーん」

 

 

 どうなんだか…。日菜に自由にしていいって言ったら収集つけるの大変そうな気がする。もちろん手伝わないけどな。

 

 

「ひ、日菜ちゃん。もう時間だよ」

 

「もう時間か〜。それじゃあ行ってくるね♪」

 

「ほどほどにな」

 

 

 こうやって気楽に始まったデビューライブ。最初のMCで彩がトチるのも予想通り、そこでフォローを入れる白鷺はさすがと言ったところか。そこも込みで観客たちのウケはよかった。掴みも悪くない。

 

 だが、

 

 トラブルってのは起きるものだった。機材のトラブルなのか、ステージの方に問題があったのか、まぁそこは俺にわかるものじゃないからいいや。

 

 

(さてと、社長を引きずり下ろすか(・・・・・・・・・・・)

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

(な、なんで…、なんで音がなくなったの?)

 

 

 機材のトラブルで音が拡大できなくなった。それならまだなんとかなる。けど私たちはそうじゃない。演奏をしていないから、歌ってないから。だからこの状況は…。

 

 

「おいおいなんかのトラブルかよ」

 

「スタッフなにしてんだよ」

 

「おい、それよりこれ演奏してないんじゃねぇのかよ」

 

「まさか口パク?」

 

「ふざけるなよ!なんのために金払ってると思ってるんだよ!」

 

 

 ど、どうしたら…わからない。私にはどうしたらいいかなんてわからないよ…。

 

 

『みなさま静粛にお願いします』

 

「なにが静粛にだ!」

 

『Augenblickリーダーの疾斗です。みなさま静粛にお願いします』

 

「は…なんでAugenblickが…」

 

 

 私だけじゃない。千聖ちゃんたちもこのアナウンスのことは聞かされていないみたい。みんな何が起きてるかわかってないんだ。その場に固まってると舞台袖から雄弥くんと愁くんがステージに出てくる。

 

 

「ユウくん…」

 

「珍しく困り顔だな。さすがの日菜でも対応できないか」

 

「あたしユウくんが思ってるほど凄くないからね?」

 

「そうなのか?」

 

「雄弥それよりも」

 

「そうだな」

 

 

 雄弥くんと愁くんに呼ばれて私たちは1箇所に集まった。他の人に声が聞こえないようにってことみたい。そこで言われたことには驚かされた。だって、

 

 

「今から実際に演奏したところであまり効果はないんじゃないかしら?」

 

「焼け石に水ってやつだよね」

 

 

 そう、愁くんの口からは演奏しろという言葉が出てきた。千聖ちゃんはこの場は謝罪して中断したほうがいいと思ってるみたいで、日菜ちゃんは演奏する理由がわからないって感じかな?私たちもわかってないんだけどね。

 私たちがこうやって話してる間、疾斗くんがアナウンスでお客さんの怒りを抑えてくれてる。大輝くんはトラブルの原因の対処なんだとか。

 

 

「今は特に効果はないだろう。けど、明日には(・・・・)これが活きてくる」

 

「それってどういう…」

 

「……あなたたち、また勝負を始める気?」

 

「勝負…ですか?」

 

(…あ、聞いたことある。Augenblickの自由性は会社と勝負をしてそれに勝ったからだって)

 

 

 …まさか私たちもそれに巻き込まれるの!?デビュー1日目で会社に喧嘩売るなんてこの先芸能界で生きていけないよ!私は雄弥くんに助けを求めようと雄弥くんを見た。

 

 

「…勝負はしない」

 

「そうなの?」

 

「これは勝負にすらならない。出来レースだ」

 

「ユウくんそれってどういうこと?」

 

「お前たちは実際に演奏できるだけの技術を身につけてる。だからこそ演奏してもらう。そしてその事実を元にこの会社のトップの首を取る」

 

「雄弥言い方が悪いよ。身を引いてもらうだけだよ」

 

「どっちもどっちよ。そんなことをして何になるの?」

 

「疾斗の言葉通りに言うと『若者の夢が奪われることがなくなる』」

 

「!!」

 

 

 それって、こうやって口パクのエア演奏するなんてことが今後一切無くなるってことだよね。しかもそれはこの事務所だけじゃなくて芸能界から無くなるってこと。

 

 

(私みたいに泣く子がいなくなるんだ)

 

「…私は歌いたい。お客さんはきっと許してくれないだろうけど、それでも私は歌いたい。アイドルは自分の夢を達成して、人に夢を与えるものだって思うから。こんなことが無くなるなら私は今歌う!」

 

「彩ちゃん…」

 

「私も彩さんに賛成です!こんなことはやはりブシドーに反します!」

 

「自分も同じです!」

 

「イヴちゃんも…麻耶ちゃんまで」

 

「あはは、やっぱり彩ちゃんは面白いな〜。るんっ、いや、るるるんっ♪てなったよ〜。これは演奏するしかないんじゃない?」

 

「日菜ちゃんまで、……わかったわ。私も演奏するわ」

 

「千聖ちゃん!」

 

「ただし!全力を出しきること!みんなもいいわね?」

 

「「「「はい!(うん!)」」」」

 

「話は纏まったな。事後処理は任せろ。こっちが持ちかけたことだしな」

 

 

 雄弥くんはすぐに戻っていっちゃった。どうやら愁くんと大輝くんが最後まで見届けてくれて、疾斗くんと雄弥くんが後の対処をするみたい。

 

 

「それにしても千聖さん、こういうことって普通ないですよね?」

 

「もちろんよ麻耶ちゃん。愁や大輝くんはうまく折り合いをつけるようにするし、雄弥くんはそもそも仕事内容を気にするような人じゃない。つまり、疾斗くんの考えね」

 

「え!疾斗くんのほうがこういうことしなさそうなのに!?」

 

「彩さん。たしかに疾斗さんは争いごとが嫌いです。ですが、それ以上に嫌っていることがあります。それは人が悲しむことです。『みんな笑顔でいたいだろ?だから俺はそのためならなんだってする』そう言ってましたから」

 

「そ、そうなんだ」

 

「イヴちゃん詳しいね〜」

 

「ほ、本人から聞いたことがあるだけです!」

 

 

 むむっ、なんか乙女な雰囲気が出てきた。話を聞いてみたいけどそれはまた今度だね。トラブルも解決したみたい。愁くんに代わったアナウンスで私たちは演奏を始めた。

 

 

(緊張するけど、大丈夫。だって雄弥くんが『彩なら大丈夫だろ?』って言ってくれたから!)

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 社長室…ここに来るのは何回目だっけな。…3回目だな、あんま来ることないから片手で数えられる程度だ。

 

 

「疾斗、そんな顔じゃ話をうまく運べないぞ」

 

「……わりぃ。……ふぅー、よし」

 

「さっきも言ったがお前でなんとかしろよ。俺は別に上が誰だろうがどうでもいいからな」

 

「わかってる。けどもしもの時は頼らせてもらう」

 

「はぁ」

 

 

 正直ここについてきた意味がわからん。俺は誰かと交渉なんて禄にやってきたことがないんだ。必要に迫られたらやるが、自分からやるなんてことは滅多に無い。芸能界入ってからはマネージャーかメンバーがやるしな。

 

 

(……社長はいつの間にこんな禿げたんだろうか。ストレスでも溜まってんのか?)

 

「…今やってるライブ、また貴様らが首を突っ込んだようだな」

 

「えぇまぁ。観客を騙すなんて同じアイドルとして許せませんので」

 

「ふん。…だが話題作りにはもってこいの内容だっただろ?しばらくは仕事が無かろうが1、2年程度で大逆転だ。成功のための失敗、そのための仕様だが……貴様らにはわからんか」

 

「そうですね。理解できません」

 

「青二才が。…どうだ?Augenblickも」

「社長の愚かな思考は理解できませんね」

 

「なんだと!?」

 

「あなたの経営の腕の全盛期の頃はそれで通用したでしょうが、最早時代遅れです。現代ではそんなもの通用しません。時代にあったことをする。あるいは一歩先のことをする。そうでないと通用しない時代になったことすら認識できないのですか?」

 

「聞いていれば好き勝手言いおって!雄弥!こいつを連れ出せ!」

 

「却下」

 

「なっ!」

 

「論破されたなら大人しく身を引け」

 

「き、貴様まで…。誰が拾ってやったと思っている!恩を仇で返す気か!」

 

「恩なら返したろ。会社を大きくすることに手を貸した。十分な見返りになってる。それに、あんたよりも疾斗のほうが退屈しないで済むからな」

 

 

 しかも拾ったってのは今のマネージャーだ。爺さん社長に会ったのなんてAugenblickが結成した時が初めてだった。

 

 

「…どいつもこいつも、貴様らなんぞワシの私腹を肥やすためのコマだ!黙ってワシに従っておればいいのだ!」

 

「汚い大人だな」

 

「ま、自滅したし十分だろ」

 

「…自滅だと?」

 

「録音したに決まってんだろ?夢を追いかけるやつを泣かせるアンタのやり方は見過ごす気になれないからな」

 

「新社長も決まってるしな。従業員の総意で(・・・・・・・)

 

「な、な…」

 

「それではお世話になりました。社長も余生を楽しんでくださいね」

 

「き、さ、ま、らぁぁぁー!覚えておれ!必ず報いを受けさせてやる!」

 

 

 別に逮捕されるわけじゃないし、退職金もやるんだから文句言うなよ。それに信用を失ったやつに協力する輩っているもんなのか?ま、どうでもいいが。

 

 

「にしても高校生が社長の首をすげ替えるって、マスコミが知ったら騒ぐぞ」

 

「そこらへんは穏便に済ますさ。誰も疑問を抱かないやり方て話を進めてるからな」

 

「……買収か、吸収合併か。…知ったことでもないか」

 

「いやいや…はぁ、そういう奴だったな」

 

 

 ついでにこのことは翌朝にはニュースで報じられた。内容はたしかどこぞの巨大企業が事務所を傘下にしたとかそんな感じで。俺はニュース見るどころじゃなかった。友希那とリサに問い詰められてたから。…父さん、母さん、微笑ましそうに見るより2人を止めるのに手を貸してくれよ。

 

 

 

 




シリアス(?)は少なめにしたいとこですけど…勢いで書いてるので。
2章に入って少ししたらまたイチャついてもらう予定です。
☆9評価 無限に続く剣の丘さん 断空我さん 純宮さん 師匠@EDF隊員さん ありがとうございます!
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