陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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そういえば友希那回を一度もしていなかった。


8話

 目が覚めたからリビングに行って用意されている朝食を食べる。お父さんもお母さんも既に出かけているから今家にいるのは私一人だけ。学校に行く時に家の戸締まりを確認し忘れないようにしなければ。そう考えていたらまだ家にいた人物に声をかけられた。

 

 

「おはよう友希那」

 

「あらおはよう雄弥。てっきりもう家を出ていると思っていたのだけど」

 

「今日は仕事ないからな。……あると言えばあるのか」

 

「どっちなのよ」

 

 

 久しぶりに朝ゆっくりできるからか、まだねぼけた様子の雄弥を半眼で見ると、なんとか言葉を纏めようと唸り始める。この状態の雄弥を見ることなんて家の中でしかない。しかもリサが泊まりに来たときも見ることはない。

 

 

(家族だけが雄弥の見れる一面なのよね。こういう所は普段との違いが激しくて可愛いのよね)

 

「どうかしたか?」

 

「なんでもないわ。雄弥も朝ごはん食べなさい」

 

「そうする」

 

 

 まだ寝ぼけてるようだから結局雄弥は椅子に座らせて私が雄弥の朝食をテーブルに並べた。こんなことをするのはいつぶりかしら。

 

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。それで、今日の雄弥の予定がどういうことか今いちわからないのだけど」

 

「収録とかはない。新曲作りは俺にはできないし、ライブの予定もないから練習もない」

 

「それなら今日はオフってことにならないの?」

 

「オフだぞ?…ただ、次の仕事の予定の連絡は今日もらうことになってる」

 

「なるほど。そういうことなのね」

仕事に行く予定はないけど、仕事の話はするからさっきの返事になったってことなのね。

 

 

「友希那は今日も練習か?」

 

「今日のバンド練習は休みよ。リサがバイトあるようだし、あこも予定があるようだから」

 

「へー、じゃあ今日は個人練習か」

 

「そのつもりよ。いつもは私の予定を聞かないのに今日はどうしたの?」

 

「特に理由はない。聞かれたし、今日は暇だから聞いてみた」

 

 

 暇…、たしかに連絡を待つ以外やることがないなら暇よね。この前ちゃんと休めって言ったし、ゆっくりして欲しいんだけど…。

 

 

「…なぁ友希那」

 

「…予想はつくけど一応聞くわ。何かしら?」

 

「暇な時って何すればいい?」

 

 

 はぁ。思わずため息をついちゃったけど、やっぱりそうなのね。予想通りとはいえ、何をすればいいかなんて私にもわからない。同年代の男子で流行ってることなんて知らないし、そもそも女子で流行ってることも知らない。

 このまま意識が覚醒してない状態を1日維持してくれたらそれはそれで体を休められるんじゃないかしら?…いや電話がかかってくるならそれは望めないわね。

 

 

(ああ言った張本人の私がっていうのも気が引けるけど、…この状態の雄弥を放置するのも忍びないわね)

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 放課後になって私は校門の近くで待ち合わせをしていた。雄弥を呼び出すかは家を出るまで悩んだけど、どう時間を使うか悩んでいた雄弥を見て放課後に呼ぶことに決めた。

 

 

「お待たせ友希那」

 

「大して待ってないわ。集合時間より早く来てくれたもの」

 

「それならよかった。HRの時間がわからないって言ってたからな」

 

「今日はいつもより早く終わったわ。ある意味ベストタイミングね。それはそうと昼間はどう過ごしたの?」

 

「紗夜と燐子が通う学校に行ってた」

 

「…なにしてるのよ」

 

「体験授業」

 

 

 平然と言ってるけど常識外れにも程があるわ。一般常識に関しては私以上に身につけてるはずなのに。…当日にいきなり行ってそんなのさせてもらえるってどういうことよ。それ以上に

 

「あそこも女子校でしょう」

 

「理事長が許可くれたからな。狙ってたわけじゃないんだが、なんかそうなった」

 

「はぁ。それでそのきっかけは?思いつきなんかじゃないでしょ?」

 

「まぁな。散歩してたら迷子になってる子に遭遇して、その子を送り届けた先が学校だった。その後成り行きで授業に混ざることになった」

 

「…なんで自分が通う学校に辿り着かないのよ。…この話は終わりにしましょう。ツッコミは慣れてないのよ」

 

「そうするか。ところで、さっきから周りの人たちの視線が集まってるんだが、なんでだ?」

 

 

 言われて周囲に目を向けると、雄弥の言ったとおり珍しいものを見てるような、中には何故か目を輝かせてる人までいる。…雄弥が芸能人だから目立つのかしら。

 

 

「いやいや、女子校の前で男女二人が待ち合わせしてたら、そりゃあみんなの視線が集まるよ」

 

「リサ」

 

「今日はバイトじゃなかったか?」

 

「先生の手伝いしてたからね。これからすぐにバイトだよ」

 

「それで成績稼ぎか」

 

「違うからね?」

 

 

 リサが加わったことで周りの雰囲気がまた変わった。何やら話し声が……修羅場?どこが?そもそもあの子たちは何を修羅場と言ってるのかしら。

 

 

「リサ。なんでみんなあんなに騒いでるのかしら?」

 

「へ?…あー、アタシも加わったからかな〜」

 

「ますます意味がわからん」

 

「二人はそうだろうね〜。いい?ここは女子校だから男子が来るだけでもまず話題になるの。それと友希那はこの学校で有名だから、それで話が盛り上がってるの」

 

「前半はわかったが後半は意味がわからん」

 

「あはは、だろうね。つまりは二人が付き合ってるんじゃないかってみんな思ったんだよ。そう思ってたところにアタシも来たから、さらに話が盛り上がったってこと」

 

「女子ってわからない生き物だな」

 

 

 なるほど、そういうことだったのね。私たちは姉弟だからその話は的外れなわけだけれど、これ以上ここにいるのもよくなさそうね。

 

 

「雄弥、そろそろ行くわよ。ここに長居する理由もないのだから」

 

「それもそうだな」

 

「それじゃアタシもバイトに行こうかな〜。二人はごゆっくり〜」

 

「…リサ怒ってる?」

 

「そんなわけないじゃん?姉弟(・・)で出かけるだけでしょ?」

 

「なぜに強調した」

 

「……リサ今度雄弥を貸し出すわ」

 

「ナチュラルに俺モノ扱いされてるよな」

 

「ごめん、子供ぽかったね。ありがとう友希那」

 

「いいのよ。無理しない程度にバイト頑張って」

 

「りょーかい!友希那のその言葉だけでアタシ頑張れちゃうよ♪」

 

「頑張りすぎるなって言われたのにな」

 

「余計なこと言わない」

 

 

 リサと別れて学校から離れる。幸い追いかけて来るような生徒もいないからすぐに気楽になれた。思いの外周りに見られていることに緊張していたようで、肩の力が抜けていく。

 

 

「高校の校舎って綺麗なんだな」

 

「え?……たしかにうちの高校もあっちの高校も綺麗な方らしいわ。入学した時にリサがそう言っていたもの」

 

「そうなのか。じゃあ中学校みたいな見た目の高校もあるのか」

 

「そうなんじゃないかしら。少なくとも私立の高校は綺麗な校舎が多いようね。反対に公立だと中学校の規模が大きくなったという認識でも間違いではないわ」

 

「なるほど。…綺麗なところは綺麗に保つしな」

 

「そうね」

 

 

 進学校として知られているような学校は、多少校舎が汚れていようが真剣に進学したい人が集まる。…ここまで雄弥に話さなくてもいいわね。雄弥は高校に通いたいとは思ってないようだし。

 

 

「ところでこれはどこに向かってるんだ?」

 

「……何も考えてなかったわね」

 

「迷子…ってわけでもないな。まだ見知った町並みだし」

 

「ごめんなさい。誘ったのに何も考えてなかったわ」

 

「気にしてない。友希那のことだから休み時間とかは音楽のこと考えてたんだろ?」

 

「……えぇ」

 

 

 まるで私が音楽しかないみたいな言い方ね。それで合っているのだけれど、周りから言われても気にならないのに、雄弥に言われるとちょっと癪だわ。しかも言った本人は何事も無かったかのように空を眺めてるし。…この雰囲気だと今からの予定の案を考えてるわね。

 

 

「もう少しぶらついて気になった店があったらそこに行くか」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

「そういえば友希那と二人で出かけるなんて何ヶ月ぶりだろうな」

 

「…私も覚えてないわね。リサと三人で出かけることはあったけど、二人だけとなるとずいぶん前なのね」

 

「みたいだな。……あ」

 

「何かあった、の………にゃんちゃん」

 

「にゃんちゃん?」

 

「……!…そ、そうね猫ね」

 

 

 いくら家族の雄弥とはいえ、普段の私からかけ離れた状態を見られるのは恥ずかしい。…あら?この猫首輪がついてるわね。動く様子もないし、この喫茶店の猫なのかしら?

 

 

「そんなに気になるならこの喫茶店に入るか?」

 

「べ、別に気になってるわけじゃ…」

 

「そう言いながらチラチラ喫茶店見てるだろ。正確にはあの猫なんだろうけど」

 

「うっ、私は別に……にゃんちゃん

 

「…この喫茶店に入るぞ」

 

「え?」

 

「ここのパンケーキが美味しそうだから」

 

「そう。雄弥がそう言うならここに入りましょうか」

 

 

 これは雄弥のため、雄弥がここに入りたいと言ったから入るのよ。………雄弥が察してそう言ってくれたのは間違いないわね。感情を理解してないのにこういうとこは鋭いのよね。

 

 

「……猫だな」

 

「そうね!」

 

「…とりあえず空いてる席に座って注文するぞ」

 

「私はいつものでいいわ」

 

「いや分からないからな」

 

 

 雄弥が何か行った気がするけど私の耳には内容が入ってこなかった。ここはいわゆる猫カフェというところなのかしら、それなりに色んな種類の猫がいるわね。いつものところより猫の数が少ないけどその代わり落ち着いた雰囲気がある。

 

 

(ふふっ、ここの猫たちも人懐っこいわね。このコは大人しいわね、向こうのコはちょっとやんちゃなのかしら)

 

「ここもなかなかいい場所ね…って雄弥何してるの?」

 

「写真撮ってる」

 

「猫の?」

 

「そうだな。猫with友希那だな」

 

「なっ!け、消しなさい!」

 

「店で騒いだら他の人に迷惑だぞ?猫も驚くだろうし」

 

「っ……、その写真をどうする気なの」

 

 

 ここまで低い声が出るのか、と自分でも思うぐらい私は威圧するように雄弥を睨みつて質問した。けれど雄弥はそれを全く意にも介さずにスマホの画面を見せてきた。

 そこにはトークアプリの画面が表示されていて、その相手は私たちがよく知る幼馴染で親友のリサの名前が表示されていて…

 

 

「画像、送ったのね」

 

「見てみたいって送られてきたからな」

 

「……他のRoseliaのメンバーには内緒よ。いいわね?」

 

「りょーかい。リサにも伝えとく」

 

「お願いね」

 

 

 言っておけばリサだって口外することはない。口が軽そうだと思われてるらしいけど、リサはそんな子じゃない。相手が嫌なことは絶対にしないんだから。

 

 

「ここのパンケーキ美味いな」

 

「それはよかったわね」

 

「友希那も食べてみろよ」

 

「…ありがとう。せっかくだしいただくわ。……これはどういうつもりかしら?」

 

 

 雄弥はパンケーキをひとくちサイズに切り、それをフォークでさして私の前にその手を伸ばしてきた。雄弥は私に食べさせようとしてくれてるみたいだけど…。

 

 

「自分で食べれるわよ」

 

「そうか。こうやるのを頼まれたりしてたからつい」

 

 

 …頼まれるって、間違いなくリサと氷川さんよね。紗夜はこういうの頼まないでしょうし、…紗夜とも遊びに行ったのかしら?

 

 

(…今日くらい私も甘えてみようかしら)

 

あーん

 

「友希那?」

 

「…気が変わったわ。食べさせてちょうだい」

 

「わかった」

 

 

 少し、いえだいぶ恥ずかしいけど、周りにはそこまで人がいない。今のうちに食べてしまいましょう。……美味しいわね。

 

 

「どうだ?」

 

「美味しいわ」

 

「だろ?もう少し食べるか?」

 

「…いただくわ」

 

 

 結局雄弥と二人でパンケーキを半分ずつ分けて食べた。当然その間も猫を抱いて撫でていたわよ。食べたあとはゆったりと過ごしたわ。時間が過ぎるのは早いもので気がついたら日が暮れていたわ。

 

 

「猫に夢中だったな」

 

「…そんなことないわよ」

 

「コーヒー冷めるぐらいには夢中だっただろ」

 

「……」

 

 

 否定するのはやっぱり無理ね。雄弥相手に意地になっても仕方ないのだけど。…こうやって出かけるのも久しぶりなんだし、もう少し懐かしさを味わおうかしら。

 

 

「友希那?」

 

「手を握るぐらいいいでしょ?昔はよく手を握ってたのだから」

 

「そうだったな。じゃあ家に帰るまでこうしとくか」

 

「ええ」

 

 

 昔はあまり気にならなかった。だけど今は気恥ずかしさがある。お互い成長したからなのか、私の雄弥への気持ちが変わってきてるのか、コンテストに向けて集中してたからはっきりとは分からない。雄弥のことが好きなのは理解してる。だけどその”好き”は家族として、弟としてのもののはず。

 

 

「友希那今日はありがとう」

 

「突然どうしたの?」

 

「わざわざ練習の時間をなくしてまで俺に付き合ってくれたから。それに友希那に外に出歩くのいいんじゃないかって言われて出かけたら退屈しなくなったし」

 

「それは偶然でしょ。…これぐらいいいのよ。練習は大事だけどたまにはこういうことも、ね」

 

「それでも、ありがとう」

 

「…どういたしまして」

 

 

 握られている手がさらにギュッと握られる。私も力を加えて握り返す。ただそれだけのやり取りだけど、お互いの心が繋がったような感覚になる。

 

 

「友希那は歌うの楽しめてるか?」

 

「…分からないわ。今の環境が良い状態なのはわかるけど、私の目標がアレだから、純粋に音楽を楽しめてるかって言われると…」

 

「……そっか。けど友希那は友希那の道を進めてる。俺よりは断然楽しむ音楽だよ」

 

「雄弥…」

 

 

 雄弥たちはどう足掻いてもアイドルである以上売るための音楽という枠から出られない。私はもう雄弥たちのあり方を非難する気はない。可能な限り楽しむための音楽にしていると知っているから。では私はいったいどうなのかしら。

 果たして純粋に楽しむ音楽になり得るのか。その疑問は私の胸の中に残るのだった。




必然的にリサより近い距離にいる友希那は書くのが難しかったです。家族として見ているけれど、時たま異性として見ることも…。そんな風に書ける文章力、表現力がほしい。
☆9評価 凛華さん ありがとうございます!
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