陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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雄弥が昼間にしていたことの話です。


9話

 今日の放課後に友希那と出かけることになったが、それでも友希那が学校に行っている間暇なことに変わりはない。マネージャーから電話が入るのは昼頃の予定だから本当に暇なのだ。疾斗みたいにバイクを持っていれば何処かへフラフラっと行けるのだろうが、バイクが無ければそもそも免許もない。

 

 

(今度バイクの免許でも取りに行くか)

 

 

 ライブ関係では一切役に立たない気がするが、移動で車酔いするより自分でバイクで移動する方が良さそうだ。ヘルメットだから外の空気を吸えるはずだし。

 そんなことを考えながら家で時間潰せることはないか模索していたのだが、結局なにも見つからなかった。友希那は家でゆっくりしてて欲しいと言っていたが、もしそれが無理なら外に出かけるのもいいんじゃないかとも言っていた。

 

 

(家の中にいても仕方ないし、友希那の助言通り外に行ってみるか。もしかしたら何か発見があるかもしれない)

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 戸締まりを確認して家を出発して5分、さっそく退屈しなさそうなものを発見した。いや、人なんだけど。

 

 

「ここ、どこぉ〜」

 

 

 迷子である。その子がどういう子なのかは見たらすぐにわかる。制服を着ているからどこかの生徒なのだろう。朝ということを考えたら学校に行こうとして迷子になったのだろう。珍しい子だ。これは退屈しない。

 

 

「迷子?」

 

「へ?…ま、迷子じゃないです。ちょっと道がわからないだけです」

 

「制服ってことは学校に行くんでしょ?それなのにこんなとこにいるってことは迷子じゃん」

 

「うぅ…、迷子、です」

 

「…なんで泣きかけてるの」

 

 

 涙もろい子なのかな。こういう子のことを小動物系とでも言うのだろうか。ということは気弱な子が小動物系ということか。それはともかく自己紹介しないとな。お互いの名前がわからないと不便だ。

 自己紹介したら意外なことにこの子、松原花音と共通の知り合いがいることが判明した。世の中は狭いものだ。

 

 

「疾斗の幼馴染の子であってる?」

 

「は、はい。疾斗くんとは幼稚園の時からの仲です」

 

「敬語じゃなくていいぞ。同い年なんだし」

 

「はい…じゃなかった。よろしくね雄弥くん」

 

「こっちこそよろしく、疾斗の彼女の花音」

 

「ふぇ〜。か、かか、彼女じゃないよ〜」

 

「……あ、婚約者か」

 

「こ、こんやく……」(ぷしゅー)

 

「…気絶、一歩手前か。危ないとこだった」

 

 

 反応がすごい。こういう子が初というのだろうか。……あー、リサがよく初って言われるのと一緒か。花音と話していたら退屈しない気がするが、花音は絶賛迷子中だ。学校に行かなければいけない。

 

 

「それじゃあ学校に行くか」

 

「ふぇ〜……え、送ってくれるの?場所わかるの?」

 

「調べながら行く。それに、また迷子になるだろ?俺も退屈してたしお互いにメリットがあると思うぞ」

 

「退屈してたって…、雄弥くんは学校行かないの?」

 

「そこは聞いてないのか。俺高校に通ってないから。中卒で就職ってやつだな」

 

「えぇ!?な、なんで?」

 

「ま、色々とな。…元から通うことは考えてなかったってのもあるけど」

 

「そ、そうなんだ」

 

 

 高校は退屈しないところなのだろうか。人によってそれは変わるらしいから俺にとってはどうなのかがわからない。リサは友達がいっぱいできるから楽しいと笑顔で言っていたが、友希那はそれなりにとしか言わなかったしな。

 とりあえず携帯で花音が通う高校を調べてナビを開始する。位置関係を見たから携帯はあまり見ないんだけどな。ナビは念の為だ。

 

 

「そういえば花音って疾斗とは違う高校に通ってるんだな。あいつ共学のとこだから一緒に通おうと思えば通えたんじゃないか?」

 

「う、うん。そうだったんだけど、周りの人たちが女子校に行けって」

 

「疾斗はなんか言ってた?」

 

「何も言ってくれなかったよ。花音の進路なんだから自分で選べって、ただそれだけ」

 

「なるほどな。それで自分で考えた結果女子校にしたと?」

 

「…うん。親に言われたのもあるんだけど、疾斗くんの迷惑にはなりたくなかったから」

 

「迷惑?」

 

「私、こんなんだから昔っから疾斗くんに助けてもらってばっかりで。疾斗くんは気にするなって言ってくれてたんだけど…時間を奪ってたのも事実だから。女子校なら男の子に絡まれたりしないと思って。…私男の人苦手だし」

 

 

 疾斗は人助けが大好きな人間だから全く気にしてないと思うんだがな。ま、俺がとやかく言うことでもないし、そこまで深く聞きたいわけでもないからこれくらいでいいか。それより…

 

 

「女子校だろうと今日みたいに迷子になってたら男に絡まれるだろ。それと俺も男なんだけど?」

 

「雄弥くんは疾斗くんの友達だから大丈夫だと思って。それに私まだ迷子の時に絡まれたことないし」

 

「疾斗への信頼が厚いな。これから絡まれることもあるかもしれないが…っと、着いたな。案外近かったというか、よく迷子になれたな?」

 

「それは言わないでー」

 

 

 また赤面し始めた。実は赤面症なのだろうか。そんなことより、これ入れるのか?門が閉まってるようにしか見えないぞ。

 

 

「裏口とかから入るのか?」

 

「えっと…たしかここのインターホンで」

 

「おや?遅刻ですか?」

 

「は、はい。ごめんなさいー」

 

「いえいえ、学校に来ているのですから咎めませんよ。男の子を連れてきたのはどうかと思いますが」

 

「連れて来られたのではなく、俺が迷子になってた彼女を連れてきただけですよ」

 

「逆でしたか。それは失礼しました」

 

 

 このお婆さん…、ラフな格好してるけど用務員とかじゃないな。そういうふうにカモフラージュしてるだけで、実際には結構上の人か。

 

 

「気にしてませんので。それより花音は学校入れよ。授業だろ?」

 

「あ、そうだね。ごめんね雄弥くんわざわざ送ってもらって。今度お礼するから」

 

「別にいらないから。仮に貰うとしても花音がまた迷子になるだろうし」

 

「むぅ、そんなことないもん。疾斗くんのお家までは行けるんだよ?」

 

「お隣とか向かいの家とかそういうのはなしな」

 

「………」

 

「おい」

 

「うぅ。迷子にならずにお礼するもん!それぐらいできるもん!」

 

「何で怒ってるんだよ…」

 

 

 絶対に今度お礼するから!と言った花音が校舎に入っていくのを見届ける。この距離でどこかに迷子になるなら見てみたいと思ったが、流石に迷子にならなかったようだ。

 

 

「君はどうするんですか?学校はサボりかな?」

 

「特に予定は無いですね。学校には通ってないので」

 

「おやそうなのかい。…ふむ、それじゃあ今日はこの学校の生徒になってみるかい?」

 

「ここ女子校でしょ。それにそんなこと思いつきでできないでしょ」

 

「そこは私がなんとかしてみせようかね。…どうだい?女子校とはいえ高校なわけだし、新鮮味があって退屈しないんじゃないかい?」

 

「はぁ。あなたの気まぐれにのってあげますよ。校長先生」

 

「おやおや、いい線いってるじゃないか。けど残念だったね。ワタシは校長じゃなくて理事長ですよ」

 

(予想以上の大物と遭遇したもんだな。なるほど理事長か。それなら多少の無茶は押し通せるのか)

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「生徒になってみるって言ったって具体的に何をさせる気ですか?」

 

「どこかのクラスに今日だけ混ざってもらうだけですよ。年は17歳でしたね、さっきの子と親しげだったということはあの子がいる学年だね」

 

 

 ということは高校2年生として今日過ごせばいいのか。他に知り合いがいたりするのかな。…それより理事長室のソファってふかふかだな。これは睡眠を誘ってるようにしか思えないな。

 

 

「決まりました。このクラスの生徒として過ごしてください」

 

「悩んでると思ったらあみだくじ作ってたんですね」

 

「ぶっちゃけたらどこでもいいもの」

 

「ぶっちゃけましたね」

 

『理事長失礼します』

 

「どうぞー」

 

 

 ここの理事長ってノリが軽いな。学校のトップは暇ってのは聞いたことあったけど本当のことだったのか。現に目の前の理事長も今の状況を楽しんでるし。

 扉を開けて入ってきたのは眼鏡をかけた先生で、見た感じだと呼ばれた理由がわからないって表情をしてる。

 

 

「私に何かごようでしょう…か…………な、なぜ男子がこの学校に!?」

 

「ふふふっ、いやぁ相変わらず素晴らしいリアクションを取ってくれますね〜」

 

「り、理事長、授業中にこのようなお戯れはやめていただきたいと何度言えば」

 

「暇なのよ!」

 

「知りませんよ!」

 

 

 この人も苦労してるんだろうなぁ。ヒートアップしたら胃薬とか飲みそう。まぁどうでもいいんだがな。

 

 

「この子には今日一日この学校の生徒になってもらいます」

 

「は?」

 

「ですから、この学校を体験してもらうのですよ」

 

「…なぜ男の子に?」

 

「面白そうだからよ。彼も退屈してたようだし丁度いいじゃない」

 

「……」

 

「あら、ツッコミが無くなってしまったわ。仕方ありませんね、湊くんを案内してあげてください。クラスはこのクラスで」

 

「ワカリマシタ」

 

「それじゃあ理事長行ってきますね」

 

「楽しんでちょうだい♪あ、そうそう、言い忘れてたわね。ようこそ花咲川女子学園へ」

  

(願わくば今日の経験が彼の中の小さな変化を良い方向へ導いてほしいわね)

 

 呼び出された先生は魂が抜けかかっているが、きっと防衛本能でも働いたんだろうな。ずっと相手してたら仕事する体力が無くなるのだろう。その原因である理事長はいい笑顔でサムズアップしてたけど。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「……ここがあなたが今日一日過ごすクラスです。問題を起こさないように」

 

「不純異性交友でもきにしてるんですか?そんなことしたら命がないことぐらいわかってますし、家族に迷惑をかけたくもないので何もしませんよ」

 

「失礼。疑ってしまったわ」

 

「気にしてませんので、当然の警戒ですから」

 

「話は理事長がとうしてるようなので、入ったら自己紹介ののちすぐに用意された席に着席してください。授業の最中ですので」

 

「休み時間に加わってもよかったんですけどね」

 

「理事長がそれは面白くないと言うので」

 

「苦労しますね」

 

「……ノーコメントです。それでは中へどうぞ」

 

 

 ノックをして中に入ることを知らせると授業をしている先生から「どうぞ」と言われた。静かにドアを開けて中に入り、しっかりとドアを閉めてから教室をざっと見渡す。突然の男子の登場で全員が固まっているが、先生は俺を黒板の前に招き自己紹介を促す。

 

 

「初めまして。知っている人もいるかもしれませんが、湊雄弥です。理事長の思いつきで今日一日だけここのクラスの生徒になります。よろしくお願いします」

 

 

 当たり障りのない丁寧な挨拶を心がけたが果たして反応はどうだろうか。騒がれても面倒だし、むしろ沈黙でいてくれてもいいのだが。

 

 

「し、質問いいですか?」

 

「…先生」

 

「んー、手短にね」

 

「は、はい。湊くんって、あのAugenblickの湊くんで合ってますか?」

 

「合ってるよ」

 

 

 そういった瞬間クラスで歓声が湧き上がった。別にライブしに来たわけじゃないんだが、何をそこまで盛り上がるのだろうか。あ、でも盛り上がらずに静かにしてる生徒もいる。というかあれは固まってるのか。

 

 

「紗夜、燐子今日はよろしくー。このクラスにいるとは思ってなかったけど」

 

 

 この発言もまずかったのだろうか。紗夜は顔を赤くして反対に燐子は顔を青くしてしまった。少し遅れてクラスで今度はさっきよりも大きな歓声というか悲鳴?が上がった。授業が崩壊した瞬間だった。

 

 

(先生ごめん。授業潰れちゃった)

 




☆10評価 アスティオンさん
☆9評価 クァルタさん 
☆8評価 翡翠(S-R)さん ありがとうございます!
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