ところで日菜さん、あなたのその左手が掴んでる所おかしくないかなぁ!!
「リサに何言ったの?」
「教える必要はないだろ」
「えー、気になるじゃん」
「教えないからな」
聞き出せないかー。リサのあの反応から考えたらある程度の推測はつくんだけどね。ま、そこらへんは突っつきすぎないようにしますか。
雄弥と一緒にパスパレのライブ会場に向かう。関係者用の入口から中に入ると私達以外のAugenblickのメンバーが揃ってた。みんな来るの早いよね。
「私たちが最後だとは思わなかったな〜」
「集合時間には間に合ってるから気にするな」
「朝に弱い愁に負けるのはちょっと…」
「結花ってだんだん毒を吐くようになってきてるよね…。それと朝弱いって言っても、集合時間が昼前だから大して困らないんだよ」
「…あー、女子は支度に時間かかるって言ってもある程度余裕あれば問題ないのか」
「僕は男だからね?」
「はいはい雑談はそこまで、今日の予定の説明するぞ」
全員が揃ったからか、時間を前倒しにして疾斗が仕事モードに入った。それに合わせて私たちも気持ちを切り替えたんだけど…。
「雄弥、見るからにやる気なさそうだね」
「やる気がないわけじゃない。説明の内容を把握してるから聞く必要が無いだけだ」
「なんで知ってるの?」
「疾斗が教えたのか?」
「いや話してないぞ」
「ならなんで?」
「…どうせパスパレのリハに付き合って後は見届けるだけだろ?それぐらい予想できる」
「ぶっちゃけたらそうだな!」
え?それだけ?説明も何もないじゃん!それってある程度自由に時間使っていいってことでしょ。それならこの集合時間の意味は?そう思ったのは私だけじゃなかったみたい。代表するように大輝が疾斗に聞いてる。
「この時間に集合した意味は?」
「久々にみんなで飯食いに行くための口実」
「いや最初からそう言えばよかっただろ」
「お前らが断るとは思ってないぞ?……この口実は別の奴を諦めさせるためだからな」
「……おつかれだな」
疾斗がなんか遠い目をし始めた。疾斗も大概人を振り回す側だけど、その疾斗を振り回す人物って…。やめとこ、関わらないほうが身のためな気がしてきた。
「それで何食べに行くんだよ」
「焼肉だな!」
「仕事前なのに!?」
「疾斗焼肉は夜のほうがいいでしょ」
「それもそうか」
「あ、俺夜は予定あるから」
「はぁ!?」
「じゃあやっぱ昼だな」
「焼肉は確定なんだね…」
雄弥が夜に予定、ね。リサだね。間違いなくリサとデートだろうね。夜は夜で雄弥抜きにしてどこか食べに行こうかな。……あ、面白いこと思いついた。
「結花、妙なこと企むなよ」
「や、やだな〜。私そんなこと企まないよ」
「目をそらして言っても説得力ないからな」
「まぁ結花は俺たちで見張ることにして、とりあえず早く焼肉行こうぜ!時間が足りなくなるぞ!」
「どんだけ食べる気だ…」
さすがに満腹になるまでは食べないよね?…疾斗は食べそうだけど、なんなら満腹まで食べて戻ってきた時にはちゃんと動けるようになってそうだけど。
〜〜〜〜〜
「むむっ!」
「日菜ちゃんどうしたの?」
「何かを察知されたような反応でしたけど」
「麻耶ちゃんいくらなんでも日菜ちゃんはそこまでじゃ…」
「ユウくんたちが何やらるんっ♪てくることを今からしに行きそう!」
「……千聖さん」
「…ごめんなさい麻耶ちゃん。日菜ちゃんは規格外だわ」
この時間からってことはどこかお昼でも食べに行くのかな?今日はあたしたちのライブだから、ユウくんたちはただ見守るだけ。前みたいに手助けはしないってことらしいし。…ずるいなー、あたしたちも連れてってくれていいのに。あ、そうだ!
「イヴちゃん。ちょーっと手を貸してほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「ワタシにできることでしたら」
「簡単なことだから安心して。彩ちゃんでもできることだから」
「私の扱い酷くない!?」
「それぐらいでしたらできますね!」
「イヴちゃん!悪気がないのはわかるけど傷つくよ!」
イヴちゃんと二人ですることは本当に簡単なこと。あたしがユウくんに電話をかけて、イヴちゃんは疾斗くんに電話をかける。ただ単に外食に混ぜてもらうだけ。そのお願いをするってだけ。
「は、疾斗さん、わわ、ワタシが…ですか」
「イヴちゃん慌てすぎー。疾斗くんは優しいからイヴちゃんがお願いしたらOKくれるって」
「で、ですが」
「ほいほいっと、ほら発信したから後はよろしくね〜」
「な…ひ、日菜さん!」
『もしもし?イヴどうかしたのか?」
「ひゃ!…は、はやとしゃん」
『大丈夫か?ちょっと深呼吸しろ。焦らなくていいからゆっくりな』
「は、はい」
……ま、なんとかなるかな。なんか彩ちゃんたちがこっち見てるけど気にしない。あたしは今からユウくんに電話しないといけないんだから。…イヴちゃんには後でちゃんと謝るよ。
「もしもしユウくん?──」
〜〜〜〜〜
日菜ちゃんに振り回された私たちは無事?にAugenblickと合流して焼肉を食べに行くことに。ライブ前なのに焼肉ってアイドル以前に仕事をする人間としてどうかと思うんだけど。千聖ちゃんもそこを指摘してたけど、夜だと雄弥くんがいないから昼に決まったとのこと。それと食べたい物を食べて何が悪い!って言い張ってた。ここまで来てやっぱりやめとくって言えないし、覚悟を決めるしかないね。
(そもそも私たちを誘う予定がなかったから焼肉なんだろうなー)
「10人だからテーブル二つで5人ずつかな?」
「そうだね。どう分けようか…」
「あたしはユウくんと一緒ね!イヴちゃんと疾斗くんもこっちに呼ぶとして、あと一人は適当で!」
「それじゃあ彩をあの魔境に放り込むということで」
「結花ちゃん!?」
「彩さん、お疲れ様です」
「彩ちゃんにしかできないことなの」
「二人にも見捨てられた!?」
「それじゃあ彩ちゃんこっちねー」
「わわっ、日菜ちゃん引っ張らないでー」
席順は奥に私、真ん中に雄弥くん、通路側に日菜ちゃん、対面に疾斗くんとイヴちゃん。…日菜ちゃんが遠慮なく注文しそうなのが不安だよ。ライブがあるのに。
「…焼肉の臭いを気にしても仕方ないぞ。店に入ってテーブルに座ってる以上食べようが食べまいが変わらないからな」
「そうそう。彩ちゃんも諦めていっぱい食べようよ」
「日菜ちゃんはもっと自重したほうがいいと思うんだけど」
「注文していいか?」
「疾斗が好きなように頼め。お前は自分で処理できる量しか頼まないから注文しすぎることはないしな」
「よっしゃ」
雄弥くんのゴーサインを貰った疾斗くんは、目を輝かせながら店員さんに次から次へと注文していった。注文の量が多くて店員さんも戸惑ってたけど、そこからさらに日菜ちゃんの注文があって正直可哀想に思えた。
それからはすごかった。網の上に何もない状態が一瞬も無かった。疾斗くんが焼きながら食べてるけどあれは真似出来ないね。ペースが尋常じゃないもん。火も強火だし。
雄弥くんのフォローおかげで私も自分のペースで食べれたし、日菜ちゃんも満足したみたい。…イヴちゃんはちょっと無理しちゃってたのかなー、疾斗くんが隣にいて意識してたみたいだね。今は疾斗くん以外はデザート食べて落ち着いてる。
「疾斗そろそろ時間だぞ」
「ここまでか!」
「…まだ食べれるのか」
「まだまだいけるぞ。…とりあえずテーブルにあるやつ全部詰め込むか」
「後から追いついてこいよ」
「わかってるって」
「え?え?」
「疾斗は置いてく。お前らもできるだけ早く戻ったほうがいいだろ。臭いも消しときたいだろうし」
「それはそうだけど…」
「気にしなくていいぞー。俺なんかよりライブを重視しろ。イヴもいいな?ライブ楽しませてくれよ?」
「もちろんです!楽しみにしててください!」
戻ってスタッフさんに怒られるかと思ったけど、一切何も言われなかった。むしろ「行けばよかったー!」って人が多かった。この会社ってそういうのが緩いのか、たまたまノリがいい人が多いのかな。
臭いを消すのに苦労すると思ってたらそれもすぐに終わった。スタッフさんが「焼肉の臭いなんて可愛いものですよ」って言ってた。Augenblickがはっちゃけた時は大変だったって言ってたけど、何したんだろ?
〜〜〜〜〜
「あ~、もうすぐ本番だよぉ」
「彩ちゃん緊張しすぎだってー。ライブなんだから楽しまなきゃ損だよ」
「…日菜ちゃんが羨ましいよ」
そんな緊張するかなー?練習してきたことをやるだけでしょ?失敗なんてするわけ無いと思うんだけどなー。
「あ…、彩ちゃんはMCで失敗するか」
「きょ、今日は大丈夫だよ…たぶん」
「むしろ彩ちゃんが失敗しなかったらあたしたちのMCじゃなくない?」
「そんなことないよ!?というかまだ2回目だから!そんな定番作らないから!」
「ほんとかなぁ〜?」
「うぅー、千聖ちゃーん」
「もう日菜ちゃん。彩ちゃんをイジメちゃだめよ…よしよし、安心して彩ちゃん。私たちがフォローするから」
「千聖ちゃんも成功するって思ってないんだー!」
「いえ、今のはそういうことじゃなくて!」
あはは!やっぱり彩ちゃんは面白いや。ううん彩ちゃんだけじゃない。パスパレのみんなは面白い。最初はパスパレに入ってもユウくんと遊べたらいいやって思ってたけど、今はパスパレがあたしの新しい居場所になってる。…失敗なんてしない、この居場所は無くしたくないから。
「彩ちゃん」
「…なに?日菜ちゃん」
「涙はまだ早い気がするけど……。ま、それはいいや。ライブ成功させようね♪」
「……ぁ、うん!私たちで、みんなでライブを成功させようね!」
「日菜さんがそんなこと言うとは…、自分もやる気が出てきたっす!」
「ワタシもブシドーに恥じぬライブにします!」
「そうね。みんなで成功させましょう。私たちならできるはずだもの」
みんなの気持が一つになったこのライブが大成功したのは、当然の結果だよね。大成功して嬉しかったみたいで、彩ちゃんはステージで泣いちゃってたけど、これであたしたちPastel*Palettesはやっとスタートラインに立てた。
そしてこの日を境に、つまり明日からはもう抑えなくていい、ユウくんに全力で当たっていいようになる。こっちもスタートした日になった。
(ユウくんは今日予定があるらしいんだよね〜。……まぁ用事っていうのはリサちーなんだろうけど。勝ち目は全く無いけど、諦めてちゃ面白くないし、せめてあたしの妥協点まではユウくんに付き合ってもらわないとね♪)
☆10評価 涼邑咲夜さん Syo5638さん ありがとうございます!