陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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2章ラスト回です。


14話

 部活が終わってから急いで家に帰ってシャワーを浴びた。雄弥の口ぶりからして、雄弥の仕事が終わるほうが遅いのはわかってる。だけどそれとこれとは別、運動系の部活で汗をかくのは当然のこと。だからアタシは汗の臭いを無くすためにシャワーを浴びたんだ。時間は余ってるんだけど雄弥から誘われるのは初めてだから落ち着かないんだよね。

 

 

「ふぅー、これでよしっと」

 

「リサ、シャワー浴び終わったのならちょっとお茶に付き合ってくれない?」

 

「いいよ〜」

 

 

 リビングに行くとテレビを見てた母さんにそう言われて、アタシは母さんと一緒に飲み物とちょっとしたお菓子を用意した。テレビは点きっぱなしになってるけど、もはやBGMって扱いになってる。

 

 

「いや〜長かったわね〜」

 

「へ?なんの話?」

 

「今日は雄弥くんからのお誘いでしょ?しかも初めての」

 

「うん」

 

「ということはついに結ばれるのね!」

 

「えぇ!そ、そういうことで、呼んだんじゃないと思うんだけど」

 

「…違うの?」

 

「だ、だってあの雄弥だよ?」

 

「……それもそうね。変わったのはお母さんも感じ取れたけど、いくらなんでも一瞬でそこまで劇的には変わらないものね」

 

「…うん」

 

 

 自分で否定したけれど、身内に言われるとちょっと心にくるものがある。本当のことを言うと、雄弥に誘われた時に期待しなかったわけじゃない。もしかしたら…なんて可能性を思った。

 雄弥はきっとこれからも少しずつ変わっていくと思う。アタシが雄弥と過ごすことでその力に慣れてるのかわからないけど、雄弥の力になりたい。そう思ってると母さんがわざと音がなるようにコップを置いた。アタシに何か話すことがあるみたい。

 

 

「…リサ一度だけのアドバイスよ。よく聞きなさい」

 

「…わかった」

 

「恋愛で遠慮なんてしちゃだめよ。雄弥くんを思ってる人は他にもいるようだし、リサもその子達の事を知ってるようだけどね。それでも遠慮なんてしちゃだめ。全力でぶつかりなさい。そのほうが返ってお互いのためになるのだから」

 

「お互い、ため」

 

「そう。雄弥くんは絶対に一度くっついた相手を離さない子だから、あなたの人生を掛けた大勝負になるわ。後悔したくないでしょ?」

 

「うん。…ありがとう母さん」

 

「どういたしまして。あ、でも焦っちゃだめよ?雄弥くんが人を意識するようになり始めたらそこからは駆け引きよ。余裕を持たないとできないからね?」

 

「わかった」

 

 

 母さんの言うとおりだよね。雄弥は相手を取っ替え引っ替えするようなちゃらんぽらんな人じゃない。アタシが好きになった雄弥なんだから。…余裕を持って駆け引きする自信はないんだけどね。

 

 

(よし!紗夜も日菜も強敵だし、友希那…はアタシにもよく分からないけど、負けないんだから!)

 

「そうそう、雄弥くんは夏休み辺りからどんどん忙しくなるみたいだから。一応頭に入れといてね?」

 

「え?そうなの!?」

 

「メンバーの子たちが夏休みに入ったらグループ単位で動きやすくなるでしょ?その影響みたいね」

 

「あ…そういうことか」

 

 

 結花が加入したことで、デビュー当初から数年間不在だったボーカルがついに決まった。そのことで話題沸騰中のAugenblickにグループ単位での仕事のオファーが来るのは当然だよね。

 

 

(…そっか、今年の夏はあんまり一緒にいられないんだ。…海もお祭りももしかしたらアタシの誕生日も)

 

「雄弥くんなら何とかして時間を作ってくれるかもしれないけど」

 

「…さすがに雄弥にそこまではお願いできないよ」

 

「そうよね…」

 

 

 夏までの短い期間でこの勝負に決着がつくとは思えない。そうなると夏休みは休戦期間ってことになるのかな。……勝負が終わる時期が予想できないや。

 

 

「わわっ、雄弥から電話だ」

 

「…お母さんさっそく心配になってきたわー」

 

「ちょっと静かにしてて!……もしもし雄弥?」

 

『ああ。リサは今大丈夫か?』

 

「うん。家にいるからね」

 

『そうか。仕事が終わる時間の目処が立ったから時間と場所を伝えようと思ってな』

 

「あ、現地集合なんだ」

 

『できれば迎えに行きたかったんだがな。その分の時間を考えるとちょっとな』

 

「ううん。気にしないでいいよ。あたしなら大丈夫だから」

 

『わかった。それで時間と場所なんだが──』

 

 

 雄弥から言われた場所はそんなに遠くないところだった。一つ隣の駅だし、時間も余裕だから準備できるね。

 

 

「それじゃあ母さんごちそうさま」

 

「お粗末さま。片付けはやっておくからリサは準備してきなさい」

 

「ありがとう♪」

 

 

 なんか普通の高校生じゃ行かなさそうな所に案内される気がするし、服も選び直したほうがいいかな?あとはお化粧とアクセもだよね。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 集合時間の10分前についたのに、そこにはもう雄弥が来てた。雄弥は変装とかせずに堂々としてるけど、何故かあまりファンに絡まれない。クラスの子が言うには寡黙な姿が様になりすぎてて、それで話しかけないことがファンの中で暗黙の了解になってるんだとか。

 …ということはガンガン話しかけてるアタシと日菜はファンの子からしたら目の敵にされてるんじゃ、とも思ったんだけど、日菜は同じ芸能人だからセーフで、アタシは雄弥の幼馴染として公言されちゃってるからセーフみたい。あくまで話しかけるのはセーフってことらしいけど。

 

 

「お待たせ雄弥。ごめんね?」

 

「大して待ってないから気にするな。…早速だが移動するぞ。時間も限られてるしな」

 

「う、うん…」

 

 

 せっかくいつもより気合い入れておめかしして来たのに、その反応はないよ。ちょっとぐらいコメントくれたっていいじゃん。アタシはその念を込めるように雄弥の手を握ったけど、雄弥に優しく握り返されるだけで終わってしまった。

 

 

「今日はここで食べるぞ」

 

「…ここってどういう所?」

 

「和食専門店だな。リサが好きそうな料理が多かったはずだ」

 

「わざわざ調べてくれたの?」

 

「調べてはいないな。話を聞いてみたら、リサが好きそうだなと思ったから呼んだだけだ」

 

「そうなんだ。ありがとう♪…でももし聞いた話で友希那が好きそうな所だったらアタシじゃなくて友希那を誘ったのかな?」

 

「…その場合はそうなるな。ただ、元から和食の店の話を聞くつもりだったからな。今日リサを誘うことは決まってた」

 

「そ、そっか……雄弥って変わったよね。今までは今日みたいに誘ってくることなかったじゃん?」

 

 

 嫌な質問をしたのに雄弥の答えはアタシの予想を超えてくるものだった。超えるっていうより違う角度からの回答だね。そんなことを予想してなかったアタシは、あからさまだけど話題を変えることにした。

 

 

「変わったっていう自覚は無いんだがな。ただまぁ、成人になるのが近づいてるからちょっと思うところもあってな」

 

「意識が変わったってことか〜。アタシは応援するよ♪これからも雄弥を支えたいしね」

 

「…ありがとうリサ」

 

「どういたしまして」

 

「ご予約の湊様ですね?」

 

「はい、そうです」

 

「ご案内します」

 

 

 うわぁ〜、内装すっごく綺麗!和風建築の建物ってだいぶ減ったって聞いたことあるけど、この店は昔の建築様式でできてるんだ〜。

 

 

「こちらの席でよろしいですか?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「ではこちらがお品書きになっております。ご注文がお決まりになられましたらお呼びください」

 

「わかりました」

 

「…雄弥って高級店に慣れてるよね」

 

「いろんな店を回った時期もあったからな」

 

「それは知らなかった。そもそも雄弥の芸能界関連は何も知らないけどさ」

 

「詳しくは話してないし、話そうと思ったこともなかったからな」

 

「話してくれたらそこ行きたい、とか言えたのに」

 

「値段が値段だからな。今は余裕があるからこうやって呼べるんだ」

 

「それもそっか」

 

 

 たしかにこういう所は学生じゃ来れないよね。……ん?この流れって前もあったような。

 

 

「もしかして雄弥、今日の支払いも全部自分で済ます気?」

 

「そのつもりだが?」

 

「少しくらい出させてくれるよね?」

 

「そんなわけ無いだろ。ここで使うぐらいならアクセサリーとか服とか楽器関連に使えばいい」

 

「だからさすがにそれは悪いんだって」

 

「これぐらい気にするな。リサには何も返せてないんだから」

 

「……バカ」

 

 

 そんなことない。むしろアタシの方が雄弥からいっぱい貰ってる。アタシの方こそ雄弥に恩を返さなきゃいけないのに。

 

 

「…わかった。けど今度からは少しくらいアタシにも支払わせてね?」

 

「考えとく」

 

「雄弥」

 

「…わかった」

 

「それならよし」

 

 

 それじゃあ何食べるか決めようかな〜。……何これ名前からして高そうなものばっかりなんだけど。値段は、書いてないんだ。そんな店初めて来たよ!これじゃあ安めのやつ頼むっていうアタシの目的が達成できないじゃん!

 

 

「…リサ、もしかして食べたいの無いのか?」

 

「へ?…そんなことないよ。むしろ逆かな〜、どれもアタシの好みっぽいのばっかなんだよね〜」

 

「それならよかった」

 

(値段を気にしてるってのもあるんだけどね)

 

 

 値段のことは一旦忘れるとして、ほんとどれを食べようかな〜。悩むー。…雄弥のもいつも通りアタシが選んでいいのかな?それならアタシが食べてみたい料理を二つ頼めるんだけど。

 そっと視線を雄弥の方に向けると、アタシの視線に気づいた雄弥が見つめ返してくる。恥ずかしくてすぐに視線をそらしちゃったけど、雄弥はそれだけで察してくれた。

 

 

「リサが俺の分も頼んでいいからな」

 

「あ、ありがとう」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 料理はどっちともすっっごく美味しかった!こんなに美味しい日本食を食べたのは今日が初めて。アタシの好きな佃煮も食べれたし大満足だよ♪

 支払いを済ませて駅に戻ってみると、駅前でイルミネーションが行われていた。なんのイベントなのかはさっぱりわからないけど、その光はとっても綺麗でアタシ以外にも思わず足を止めちゃう人がいるぐらいだ。

 

 

「……きれい」

 

「そうだな。まぁでも、リサほどじゃないんだけどな」

 

「…………ふぇ、な、なにゃなな…えぇ!?」

 

「すごい気合い入れてメイクも衣装選びもしてたみたいだが、思わず言葉が出なくてな。タイミングが今になった。ごめん」

 

「い、い、いやいや。き、気にしなくていいから……あ~もう!…ふぅーー、ありがとう雄弥。すっっっごーーく嬉しいよ♪」

 

 

 もう、変わったと思いきやこういうずるい所は一切変わってないんだね。変わっていくところとと変わらずに残るところ、きっと雄弥の根幹はその変わらないところにあるんだろうなー。…こうやって雄弥のことが分かっていける、これもアタシが好きなことの一つ。これからももっともっと雄弥の側で分かっていきたい。

 雄弥の顔をチラっと見てあたしは気づいた。気づいてしまった。雄弥が成人した後にやろうとしてることを。具体的なことまではわからないけど、けどなんとなくわかる。それは誰も望んでいないことで、みんなを悲しませるものだって。

 

 

(そんなの絶対に嫌!)

 

「リサ?」

 

 

 雄弥に抱きついて雄弥の胸に顔をうずめる。駅前ということもあって、通行人もそれなりにいるんだけど、今はそんなこと気にしていられない。雄弥はアタシの背中に腕を回して、アタシの気持ちを落ち着かせようとしてくれてる。

 

 

「…いきなりごめんね?」

 

「正直驚いたけど、これが必要なことならそれに付き合うぞ」

 

「…うん。……雄弥は、成人したらいなくなるの(この街から出ていくの)?」

 

「……さすがにリサにはバレるのか。…まだ確定はしてないけどな」

 

「なんで!?」

 

「もっと世界を知る必要があるからだ。俺は何も知らなさすぎる」

 

「意味がわからないよ!なんで…なんでぇ」

 

「……ごめんリサ」

 

 

 なんで、なんで雄弥は近づけたと思った時に遠くに行こうとするの…。アタシが迷惑なのかな。今まで否定してくれてたのは雄弥の優しさなのかな。本当は…ずっと……。

 

 

(そう考えるとアタシは雄弥にとって邪魔でかないよね)

 

 

 雄弥に抱きついていた力を弱めて雄弥から離れようとした。けど、アタシは雄弥から離れられなかった。雄弥と一緒に居たいという思いを捨てきれないから。

 そして、雄弥が力を強めてアタシを離さなかったから。

 

 

「…ゆうや?」

 

「リサ、お前馬鹿なこと考えるなよ」

 

「……馬鹿なことって?」

 

「リサが迷惑なわけ無いだろ。リサと一緒にいることも俺の生活の一部なんだから」

 

「…本当に信じていいの?」

 

「当たり前だろ。…そろそろ帰るぞ」

 

「…わかった。ちゃんと約束守ってね?」

 

「今日はリサの家に泊まるってやつだろ?守るに決まってんだろ」

 

「それならよし♪」

 

(不安は完全には拭えない。だけど、雄弥は『まだ確定はしてない』って言ってた。それならアタシは雄弥を引き止めれる存在になればいいんだ。もし雄弥が街から出ていったとしても帰ってくる居場所になればいいんだ)

 

 

 雄弥が決めたことは止めたくないけど、アタシの思いだってある。だから、お互いの妥協点を選べるような関係に、今までより上の関係を目指さないとね。みんなに負けるわけにはいかない!…あ、でも出ていくかもってことはみんなにも伝えないとね。

 

 




みんなで笑っていられることが好きなリサが、全力で勝負するように心を決める、ということを書きたかった。最後をうまく締めれない己の未熟さを痛感しました。
3章はガルパのイベントをベースに構成します。ベースって言っても作品内の時間の進み具合の基準程度に考えてください。1、2章よりは話に触れますが。
☆10評価 1NESSさん ありがとうございます!
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