ライブハウスに着いたはいいけど、やっぱ人がいっぱいだなぁ。ま、アタシたちみたいに後から来る人のほうが珍しいんだろうけどー。
「どこで見る?」
「うーん、前とかは無理そうだし、後ろからでいいかなぁ」
「了解」
後から来てるのに前の方に押し入っていくわけにはいかないしねー。この辺でも十分見えるし。雄弥は周りを見て誰か探してる? ……そんなわけないか、雄弥から他人の話聞いたことないし。
「リサあっちに移動するぞ」
「え?ここからでも見えるよ?」
「あっちのほうがよく見える」
「へ〜そうなんだ。よくわかったね?」
「なんとなくな」
なるほど〜、もっと見やすい場所を探してくれてたのか〜。って感心してる場合じゃなかった。付いていかないとはぐれちゃうよ。そう想って慌てて後ろをついていくと、人と人の間をすり抜けていく直前に手を握られる。
はぐれないように、か。これも特別な意味なんてないってわかってても、女の子としては嬉しいんだよねー。
「なんでそんな上手くすり抜けれるかなー」
「人の位置、意識の向いてる方向を把握すれば通りやすい」
「いやいや、そんなのわかんないから」
そんなのできる人他にいるのかな? 少なくとも日本には全然いない気がする。
「あ……」
「?」
「…ううん。なぁんでもない!……うわホントにここのほうが見やすい!」
「あまり騒ぐと他のやつも来るぞ」
「そ、そうだね」
はぐれる心配がなくなったから握っていた手を離しされた。恋愛どころか何に対しても無関心な雄弥に、期待するだけ無駄なんだけどさ〜。それでもデートみたいに楽しみたいって思っちゃう。
「友希那が出てきたぞ」
「へ? ……あ、ホントだ」
友希那が出てきただけですごい歓声。それだけ友希那は認められてるってことだよね!
〜〜〜〜〜
「いやー、友希那凄かったね! 昔から友希那の歌を聞いてるけど、アタシ興奮しちゃった!」
「みたいだな。……それでこの後友希那には会うのか? それともアクセサリーショップに行くか?」
「うーん、アクセサリーショップかな〜。友希那には明日にでも今日のこと言えるし。……バンドのメンバーを探すみたいだしさ」
「なるほど」
友希那がバンドのメンバーを探しているのは、最近になって始まったことじゃない。父さんの歌を認めさせるためにFWFに出る。そのためにバンドのメンバーを探してる。ただし自分が認めるほどの実力を持ち、真剣に音楽に向き合ってる人物だけを求めてる。
「今日出るグループにはいないだろうな」
「……なんでそんなことまでわかるんだか」
「ここはいろんなバンドが来るが、友希那の求めるレベルのやつはほぼいない。ここで見つけようにも限界があるさ」
「なんでそんな詳しいの…?」
「リサと友希那に連れ回されてるからな」
「うぐっ」
別に迷惑に思ってるわけじゃないんだがな。時間を有意義に使うことができているわけだし。
「ほらアクセサリーショップ行くんだろ?」
「そうだったそうだった。それじゃあ行こっか♪」
その後はアクセサリーショップで、リサが1番気になった物を今日のお礼としてプレゼントし、家の前で解散となった。お隣だから。
〜〜〜〜〜
ー翌日ー
「新しいアイドルユニット?」
「おう、なんかうちの事務所でそういう動きになってるらしいぞ」
「へー」
「なんだよ! 興味ないのかよ!」
「ない」
「こ、こいつ……」
「はっはっはっ、雄弥はそういう奴だろ」
職場、というか芸能事務所での合同練習の休憩中にそんな話題を振ってきたのは梶大輝(かじだいき)、宥めているのがリーダーの秋宮疾斗(あきみやはやと)、今ジャン負けで飲み物を買いに行っているのが毛利愁(もうりしゅう)。4人でバンドをやっていて、その女子バージョンが今度できるとのことだ。
「疾斗! 君が言ってた飲み物事務所の自販機ないじゃん!」
「だからちょっと遠いとこにあるって言っただろ」
「普通事務所で1番遠い自販機って思うじゃん! なんで駅前まで行かないとないやつ頼むの! 僕の休憩時間なくなるじゃん!」
「そんだけ元気なら休憩いらないだろ」
「雄弥は黙ってて! 休憩なしでも動けるの雄弥と疾斗みたいな人外だけだから!」
「この時間が勿体無いぞ?」
「ぐっ……はぁー、そうだね」
それぞれに頼まれた飲み物を手で渡していってから、愁は椅子に座ってひと息ついた。投げ渡さないんだな、男ならみんな受け取れるだろうに。
「それで大輝が言ってた話ってどこまで進んでるんだ?」
「お、疾斗がくいついた」
「そりゃまぁ後輩ができるってことだからな」
「雄弥も疾斗を見習えよ」
「帰っていいか?」
「自由だな!」
「練習がまだ残ってるだろ」
大輝の話が長くなって、時間が無駄になりそうだから、帰ろうと思ったんだがなぁ。愁のやつなんて仮眠取り始めてるし。
「話戻すけど、そのグループは5人組で、全員素人を集める気らしい」
「何を考えてるんだか…」
「んで白鷺千聖も話を持ちかけられたとか」
「それは愁から聞いてる」
「なんでだよ!?」
素人集団で作られたアイドル、か。
〜〜〜〜〜
練習が終わったからさっさと帰ろうとしてると、廊下に見知ったやつがいる。あのポンコツ気味のピンク頭は……。
「何してんだポンコツ」
「わわっ! びっくりさせないでよ〜。それとポンコツじゃないってば! 丸山彩って名前があるんだから」
「興味ないから覚える気にならんな。せめてデビューしろ」
「……うぅ、それを言われると…」
「?」
いつもならもう少し張り合ってくるんだが、今日はなんか大人しい。なにかあったのだろう。諦めたってことじゃないだろうが……。
「……ちょっと話聞いてもらっていいかな?」
「え、帰りたいんだけど」
「だからちょっとだってば!」
何を涙目になって訴えてるんだ。これは問答するほうが時間食うな。
「──で、要は次のチャンスでダメだったら諦めると」
「うん……。一言に纏められたけど、そうだね……」
「お前が決めたことなんだろ? それなら次に全てをぶつけるしかないだろ」
「そうなんだけど。……こう、もっと励ましてくれてもよくない? 友達なんだし」
「は? 友達?」
「いい加減私も泣くよ!」
泣きたきゃ泣けよ。優しい疾斗か愁が胸ぐらい貸してくれるだろ。
「ったく。……諦めきれなきゃうちに来い」
「……へ?」
「無駄に男だけだが、そこにこだわってるわけじゃないしな。メインボーカルも存在しないから空きはある」
「……それは」
「なんなら今からでもこっちに来るか?」
プライドがなければ断らないだろうな。それなりに知られてるバンドになってるから棚ぼたものだ。
「ううん。私雄弥君のバンドにはいかない。次のチャンスをぜーーーったい掴みとってみせるんだから!」
「だろうな」
「だろうなって……」
「お前は2年間腐らずにひたむきに努力をしてきた。それは
「!!」
「だから全力でぶつかってこい」
「雄弥君……」
「骨ぐらいは気が向いたら拾ってやる」
「台無しだよ!」
「ってことが今日あったことだが?」
「そう」
事務所から帰った俺は、友希那と一緒に食事を取りながら、今日あったことを話した。別にこういう趣味があるってわけじゃない。聞かれたらそれに答えるし、ほぼ毎日友希那に、その日のことを話すようになったのは、
「楽しそうね」
「楽しい、のか?」
「聞いている限りそう思えたわよ?」
「なら楽しかったんだろう」
ただ練習して、たまに雑談が広がって、帰る間際に今度は別の奴と会話した。それだけなのだが、それだけのことが楽しいことだったのか……。
「友希那の方は?」
「ギター候補が見つかったわ」
「へー、そんなレベルのやつが居たのか」
「ええ。志の高さも申し分ないわ。明日私の歌を聞いてもらってそれで決まりよ」
じゃあギターは確保できたも同然なのか。友希那の歌は俺たち4人の誰よりも上手い。プロレベルだ。
「ならあとはリズム隊のドラムとベースか」
「そうね。それとキーボードも欲しいわ」
「あと3人、ね」
ベースは、……リサが踏み切れたらそれで確定なんだが、本人次第だな。ドラムとキーボードは知らね。
「リサから聞いたわよ」
「なにを?」
「あの会場で見つけるのには限度があるって。どういうことかしら?」
「それのことか。……よくも悪くもあそこはバンドが集まる。そりゃあある程度の実力がないとオーナーが許可を出さないが、ライブができればそれで満足する奴らが多いのも事実だ。つまり友希那が求めるやつは他のバンドにはいないだろうさ」
「……そうね。彼女との出会いも偶然だったもの」
彼女、ギターの子か。友希那が認めたってことは演奏を聞いたということで、友希那のメンバー候補ということは、その子がいた所はその子の求めるバンドのレベルじゃなかったんだろ。
「雄弥の明日の予定は?」
「あーそうだ忘れてた。俺明日からしばらく家帰らないから」
友希那が目を見開いて、椅子から立ち上がるほど動揺した。しばらく家帰らないのは、前にも何度かあったんだが……。
「な、なんで? 私
「ごめん、言い方が悪かった。撮影でちょっと北海道行ってくるだけだから」
「そ、そう。それならよかった」
あぁ、そっか。あの事があったから、友希那は結構気にしてるんだった。友希那はクールな感じだけど、実際は超猫好きだし周りに気を遣える優しい性格なんだった。あまり知られてないようだけど。
「それリサには言ったのかしら?」
「言ってないな。今思い出したから」
「はぁ。この後すぐにでも言っておきなさい。何も知らされてなかったら、あの子私以上に慌てて泣き始めるわよ」
「そこまでか……。食器洗ったら連絡する」
電話で友希那に言ったときと同じように言ったら、リサが血相を変えて俺の部屋まで駆け込んできた。家のインターホン鳴らなかったんだけど? 友希那が開けてくれてた? さすが姉。
友希那の言ったとおり泣きそうになってるリサに、仕事だと伝えたら顔を真っ赤にしながら思いっきり怒られた。ついでにデートの約束も取り付けられた。