陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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3章の初回は友希那回です。
前後編にします。その分今回は短いです。ごめんなさい!
そんでもってスランプ気味です。ここからだというのに!


3章:思考
1話


 紗夜が妹さんと取り決めていた期限がこの間ついに切れたみたい。つまり氷川姉妹が雄弥にアプローチをかけるようになったということ。といってもバンドに影響は一切出ていない。むしろ紗夜のキレはさらに増したと言えるわね。リサも雄弥と食事に行ってから、決意に満ちた表情をするようになった。

 では私はどうなのだろうか。過去では間違いなく雄弥のことが異性として好きだった。親友のリサの気持ちにはすぐに気づいたし、負けたくないと思ってた。だけど、雄弥を否定したあの日から私はその気持ちを閉ざした。閉ざして音楽に集中することでその気持ちを消していった。

 だけど、最近の雄弥の変化を見て、雄弥のことに目を向けるようになってからは分からない。家族として好きな気持ちと異性として好きな気持ちが入り混じっている。リサたちの気持ちを知っているから…中途半端な私はどうすればいいのだろうか。

 

 

「…どうしたら」

 

「悩みごとか?」

 

「っ!雄弥、部屋に入るならノックしてちょうだい」

 

「ノックしたんだがな、友希那の返事が無かったから入ってきた」

 

「…そう。それで何か話があるのかしら?」

 

「まぁな。その前に友希那は何か悩みごとあるのか?」

 

「……いえ、これは自分で解決しないといけないことだから」

 

「そうか。…異性の俺に言いにくいことなら同性の友達に相談してもいいんじゃないか?」

 

「行き詰まったらそうしてみるわ」

 

 

 なんでそんなこと分かるのよ。雄弥は異常なぐらい核心部分を察してくるわよね…。それに助けられることもあるのだけれど、たまに踏み込まれることもある。

 

 

「それで雄弥の話はなんなの?」

 

「ロケがあるから明日からしばらくは家に帰らないってことを言いに来た」

 

「それなら朝でもよかったんじゃ…」

 

「朝早いからな。友希那が寝てる間に家を出ることになるから今日のうちに言った」

 

「そういうことなのね。今回はどこまで行くのかしら?」

 

「今回はたしか山口県だな。萩に行くらしい」

 

 

 山口県の萩市、名前は聞いたことがあるわ。たしかドラマの舞台になったところよね。…結局どのあたりなのかしら。

 

 

「萩は山口の北側だな。町が完全に山と海に囲まれてるところらしい」

 

「そうなのね。この話はリサたちにもした?」

 

「リサにはさっき電話してる時に話した。お土産を頼まれたな。……たち?」

 

「紗夜と妹さんにはしたの?」

 

「妹さん…あー日菜か。日菜には事務所で会ったときに話した。日菜が紗夜に伝えとくって言ってたから、紗夜には直接は言ってないな」

 

「彼女がそう言ったのならちゃんと伝わってるわね。それと、もうすぐ私たちの次のライブがあるわ。ちょうどそのロケとは被ってないはずよ」

 

「じゃあ見に行く。どのぐらい成長したか把握できるからな。ただでさえ最近は練習見に行けてないし」

 

「来るのは仕事に支障が出ない程度でいいのよ」

 

 

 もし頻繁に来られたらみんなが雄弥のことを心配して返って練習にならないでしょうしね。…次のライブ、配分される時間からして出来るのは3曲ね。セットリストを各自で考えてくるように明日の練習で伝えないと。

 

 

「明日早いのならそろそろ寝なさい」

 

「そうする。おやすみ友希那」

 

「ええ、おやすみ」

 

 

 毎日言ってる言葉。毎日聞く言葉。それが心地よく思えるようになったのはいつからだったかしら。それすらも忘れてしまう程私は心を閉してしまっていたのね。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 翌日、私が起きた時には雄弥は言っていた通り既に出発していた。たまに雄弥は平日でも遠い場所にまで仕事に行く。雄弥が社会人の枠組みに入っているからなのだろうけれど、時に心配になる。雄弥が人に迷惑をかけることはないと信じているし、何か事件に巻き込まれることもないと思っている。けれど、それでも万が一があるんじゃないかと心配してしまう。

 その不安を私が表に出すことは滅多にない。なぜなら、私以上に顕著にそれを表す親友がいるのだから。自分と同じ感情を自分以上に表す人がいたら逆に冷静になることってあると思うのよ。私はよくあるわ。

 

 

「…リサ、今回は飛行機じゃなくて新幹線らしいから前より事故の危険性はないはずよ」

 

「そうなんだけどさ〜。万が一のことを考えたらやっぱり不安じゃん?」

 

「それでよく昨日はお土産をお願いできたわね……」

 

「あ、あはは〜、あの時は流れでさ…」

 

「はぁ、何にしても雄弥が仕事で遠出することは何度もあったじゃない。海外ならまだしも日本よ?」

 

「けど最近って何かと物騒じゃん?」

 

「それを言ったらスタッフさんたちといる雄弥の方が安全よ。私たちの方が危ないということになるわ」

 

「それもそうだね…」

 

 

 ひとまずは落ち着かせることができたかしら。私はこういう役回りが得意ではないのだけれど、雄弥の姉として振る舞うことである程度はできるようになったのかしら。

 ここからいつも通りのリサの調子に戻せるかしら…。そう思っているとある意味適任とも言える人物がやって来た。

 

 

「なになにー?ユウくんの話ー?」

 

「日菜…。そうだよ〜、雄弥が今回は山口県まで行ってるんだよね〜」

 

「あーロケで行ってるんだよね。何のロケかは教えてくれなかったんだよね〜」

 

「日菜も知ってたんだ…」

 

「うん!事務所で会った時に教えてもらったんだ〜」

 

「…会ったというより会いに行ったの方が正しそうね」

 

「あはは〜バレちゃった?あ、もしかしてユウくんから聞いたの?」

 

「いえ、そこまで聞いてたわけじゃないわ。ただの予想よ」

 

 

 前に「最近俺の部屋が溜まり場みたくなってる」って言ってたことを思い出しただけのこと。来るのは基本的に氷川さんか結花の2人らしいけど。…結花とはこの前知り合ったわ。具体的には雄弥が朝早くからリサの家に行った時ね。

 

 

「んーー」

 

「日菜どうしたの?」

 

「友希那ちゃんってあたしのこと名前で呼んでくれてなかったなーって思って。なんで?お姉ちゃんのことは名前で呼ぶのになんであたしは名字なの?」

 

「あはは、だってさ友希那」

 

「…あなたとはあまり知ってないからよ。普通はそれなりに打ち解けてから名前で呼ぶのだと思うだけど」

 

「そっか〜、けどあたしたちこうやって喋ってるわけだし名前でよくない?あたしは名前で呼んでるんだから」

 

「……わかったわ。日菜、これでいいのでしょ?」

 

「うん!すっっごいるんっ♪てきたー!ありがとう友希那ちゃん!」

 

「これぐらい、礼を言われることじゃ…」

 

「あー友希那照れちゃって〜。可愛いなぁ」

 

「……!」

 

 

 この二人が相手だと調子が狂うわ。私は多くを話すタイプじゃないんだから。まぁけどリサの調子が戻ったのならこれも悪くはないわね。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「今日の練習はこれぐらいにしましょう。次のライブで私たちが歌えるのは3曲だけ、あなた達の意見を聞かせてくれないかしら」

 

「アタシたちの曲はペース速いのが多いからな〜。3曲とも突っ走っちゃう?」

 

「それもいいですが、そうなると3曲目がとても重要になりますね。変化を加えるためにあえてペースが違う曲もいいかもしれません」

 

「はいはーい!あこは全部盛り上がるやつがいいです!」

 

「それだと一番宇田川さんがしんどいですよ。体力は大丈夫なんですか?」

 

「い、いっぱい練習して体力つけます!」

 

 

 今の私たちでできる最高のライブにしないといけない。私たちRoseliaは頂点を目指すバンドなのだから。変化を加えるという紗夜の意見も妥当だし、全部盛り上がる曲というリサとあこの意見も妥当な考えね。

 

 

「……あ!あこ新曲やりたいです!」

 

「新曲?」

 

「はい!せっかくのライブだし新曲を3つ目にするのはどうですか?」

 

「新曲を今から作って練習だなんてどれだけ無謀かわかってますか?私たちは中途半端な演奏なんてしないんですよ?」

 

「でも…」

 

「とりあえず…一旦個人で…考えてみませんか?」

 

「そうね。燐子の言うとおり各自セットリストを考えておいて。明日の練習で決めましょう」

 

「りょーかい♪」

 

 

 …新曲、たしかにそれなら3曲目に持ってくることでこの問題も解決できるだけれど、期間が短すぎるのも事実ね。

 私なりにセットリストを考えていたらいつの間にか家についていた。今まで演奏した曲のスコアは、押し入れにある。それらを出そうとすると見慣れないカセットテープがあるのを発見した。

 

 

(このカセットテープに書いてある字は…もしかしてお父さん?)

 

「確認のために聴いてみようかしら」

 

 

 カセットテープを再生すると流れてきたのは、激しいシャウト。胸を熱くさせるような、音楽への純粋な思いが詰まっていることがそこからヒシヒシと伝わってくる。それに…

 

 

(お父さんのこの声…すごく楽しそう)

 

 

 私もこの歌を歌いたい。Roseliaでこの曲を次のライブでやりたい。だけど…、はたして私にこの歌を歌う資格はあるのかしら…。これを歌っている時のお父さんは間違いなく純粋に音楽を楽しんでいる。気持ちよく歌っている。

 そんな曲を私は音楽を楽しむためじゃなくて、頂点へ立つ手段の一つとして歌おうとしている。

 

 

「私に歌う資格なんて…」

 

 

 こういう時にすぐに相談できる雄弥は、今はいない。しばらく帰ってこない。電話をしてもいいのだろうけれど、これは私の問題…なのよね。




☆10評価 Luna_さん 天駆けるほっしーさん ありがとうございます!
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