北海道で撮影を行うために朝早くの飛行機で向かうらしい。事務所が車を用意してくれてそれで空港まで向かうとのこと。そんな大物になってないはずなのだが高待遇だ。
「わざわざ見送りなんてしなくていいだろ。昨日さんざん話したんだから」
「それとこれとは別!見送りって言っても家の前までなんだしいいでしょ?」
「雄弥は何をするかわからないから」
「弟をトラブルメーカーみたいに言うなよ」
俺は言われてないことは基本何もしないぞ。しなさすぎるのが問題みたいだがそれは知らん。
「昨日の約束忘れてないよね?」
「毎日連絡することだろ?覚えてるよ」
「ならよろしい!」
「…リサのほうが姉らしいことしてるわね」
「いえ、母親かと」
友希那は変なとこで落ち込むな。友希那がリサみたいにしてきたら風邪かと疑うんだが…。それとスタッフ、それ女子高生相手に言うことじゃないだろ。
「絶対連絡忘れないでよ〜」
「わかってるって、遅いと思ったらリサから電話かけてきてもいいぞ」
「な…、そ、それは迷惑かなぁって思ったり」
「ふーん」
リサのことだから電話する時は時間を気にするだろうに。こういう時けっこう遠慮するよな。
「そろそろ時間だ。またな」
「うそ、もうそんな時間!?行ってらっしゃい!気をつけてねー!」
「迷惑かけないようにしなさい。それと怪我しないでちょうだい。リサが泣くから」
「泣かないってば!」
「了解。リサは泣かせるとしんどいからな」
「……なっ!」
正直に話しただけなのにリサが顔を赤くして黙り込む。友希那に目で助けを求めるとジト目とともにあとは何とかするという返事が返ってきた。
俺が何をしたというのだ。
〜〜〜〜〜
「リサもう学校に着くわ。いい加減機嫌を直したらどうかしら?」
「だって雄弥ってばほんとずるいんだもん!それにしんどいって何よしんどいって!アタシの気も知らないでさ〜!」
「雄弥は元からそうだったでしょ」
「そうだけどさ〜」
はぁー、友希那の言うとおりいつまでも引きずってはいられないかー。昔から変わらないってのはそうなんだけど……、あれ?アタシ昔から雄弥に振り回されてる?いやいや2人の時は別に…、3人でいる時はそうなるのか〜。
「まさか友希那が伏兵だったとは〜」
「なんの話?」
「ううん、こっちの話。よし、今日も張り切っていこー♪」
「……いったいなんなのかしら」
なんか今日は調子がいい気がするな〜。授業もいつもより集中できてるし。バイトもいつもより上手くできるし。
「リサさん今日はなにかいいことあったんですか〜?」
「へ?特にはないけど…、どうしたの急に」
「いや〜、今日のリサさんはいつもよりノリノリな感じだったんで〜」
「ノリノリって…」
うーん、浮かれてたってことなのかなぁ。けど別に浮かれるようなことがあったわけじゃないんだけど。
「彼氏さんとなにかありました〜?」
「か、かれし!?あ、アタシ彼氏なんていないよ!?」
「え〜、よく一緒にいる人は彼氏じゃないんですか〜?」
「よく一緒に……、あー雄弥は幼馴染でお隣りさんなんだー。だからよく一緒に歩いてたりしてるってわけ」
「なるほど〜」
ふぅーー。あぁびっくりした〜。まさか雄弥がアタシの彼氏って思われてたなんて…。
って噂をすれば雄弥からメッセージが来た。
『今日の分の仕事は終わった』
……たしかにちゃんと連絡は来たけど。いやこういうことじゃなくてさ、あーでも今日アタシがバイトあるってのは雄弥も知ってるからこの連絡なのかな?
そう考えると、ちゃんとアタシのことも考えてくれてるって思えて思わず頬が緩む。隣にこういうときに弄ってくる後輩がいることを忘れて。
「リサさーん。何ニヤニヤしてるんですか〜?あの人からの連絡でした〜?」
「も、モカ…。別にニヤついてなんかいないよ、うん。連絡相手は雄弥であってるけど」
「わーいモカちゃん大正解〜。リサさん、すごい乙女な感じしてましたよ〜?エモエモでしたよ〜?」
「だからしてないってば!」
あ~もう!早く退勤時間になってくれないかなー!それか喋る余裕なくなるくらいにお客さん来てくれないかなー!
「それじゃあリサさんお疲れ様で〜す」
「うん、モカもおつかれ〜」
やっと今日のバイトが終わったよ〜。あの後結局暇だったからモカに弄られまくったし、いつもの何倍も疲れた〜。
「仕事終わったって言ってたし、今なら大丈夫、だよね…」
緊張なんてアタシらしくない、いつも通り電話していつも通り今日の出来事を話すだけでいいんだし。
『どうした?今日の連絡はしたと思うんだが』
やっぱりそうだったか〜!うん、そうだよね!雄弥は相手の考えが全くわからないしそもそも汲み取ろうともしないから直球で言わないと通じないよね!
「あ、あはは〜。うん、たしかに連絡は来たんだけど。そうじゃなくて、こうやって電話しようってことだったんだよね〜」
『それならそうと言ってくれ。それにリサのバイト時間を考えたら電話じゃないほうがいいと判断した』
「うん。あの時間は電話じゃないほうがよかったね」
ほんとずるいな〜、ちゃんと考えてくれてたんだ…。と、いうことは雄弥の頭の中では1日に1回の電話かメッセージで終わりって解釈だったってことだよね。……うん、それはいただけないね☆
「ねね、今日の撮影はどんなのだった?北海道だと自然が綺麗だと思うんだけど」
『そうだなー、たいして面白いと思えることはないと思うが──』
雄弥の話を聞きながら家に帰って、ご飯を食べるために一旦通話を切る。ご飯とお風呂が終わったらまた電話して雄弥から聞き出せることをいっぱい聞き出した。
『もう話すネタがないんだが』
「あはは〜、いっぱい聞いたからね〜。面白かったよ♪」
『そうか。……』
「…?雄弥?」
『リサ、友希那を外から見守るだけでいいのか?』
「へ?」
珍しく、本当に珍しく雄弥から踏み込んだことを聞かれた。こんなのまだ片手で数えれる回数しかない。けれどこういう時は必ずアタシにとって大切なこと。
だから、この時の質問も大切なことで、今後のアタシの生活に大きな影響を与えることだった。
『友希那がバンドを組んだとき、リサはその中と外どっちにいるんだ?』
〜〜〜〜〜
昨日雄弥に電話で言われたことが頭から離れない。アタシは友希那を見守るだけでいいのか、それとも……。
「……サ、リサ」
「…っとなに?」
「リサあなた大丈夫?」
「うん大丈夫大丈夫。考え事してただけだから〜。それでなんだっけ?」
「はぁ。昨日ギターの子が見つかったのよ」
「え!?そうなの?……そっか見つかったんだ」
嬉しいような、寂しいような。友希那がバンドを組むことを応援してたのはたしかなんだけど、いざそれが実現し始めたら……。
「えぇ。彼女、紗夜とならFWFを目指せるわ」
「けどバンドって3人以上なんじゃ」
「そうよ。だから他のメンバーも急いで探さないと」
バンドのメンバー、か。アタシはどうしたらいいんだろ。雄弥、に聞いても返ってくる答えはわかってるし。
「友希那さん!」
「お断りよ帰って頂戴」
「わたし友希那さんが歌う曲全部叩けるようになりました!1曲だけでいいので聞いてください!」
「時間を無駄にしたくないの」
「ちょっ、ちょっと待って!話が見えないんだけど!」
友希那の様子からしてあこは何回も友希那に頼み込んでるんだよね?それに叩くってもしかして…。
「あこってドラム叩けたの?」
「あ、リサ姉!うん、いっぱい練習してきたんだ!友希那さんがメンバーを探してるって知って、それで!」
曲を全部叩けるようになったってのも本当みたいだね。あこが持ってるスコアがボロボロになってる…。
「1曲だけ聞いてあげてもいいんじゃない?」
「リサ?」
「え!?」
「ほら友希那見て。あこが持ってるスコアがボロボロになってる。それだけ一生懸命練習したってことでしょ?それに雄弥だって言ってたじゃん?ライブハウスで演奏してるバンドだけじゃメンバー探しに限度があるって」
「…そうだけど。……はぁ、わかったわ。1曲だけよ。それで納得できなかったら二度と来ないでちょうだい」
「はい!……ありがとうリサ姉ー!!」
よかった〜。あこがここまで本気になるなんてなかったからなんとかしてあげたいって思ったけど、第一関門クリアってやつかな?
「友希那アタシもスタジオ行っていい?」
「リサ今日はどうしたの?いつもスタジオには近づかないじゃない」
「たまにはライブハウス以外でも友希那の曲を聞きたいな〜って思ってさ。見学だけだから!」
「…わかったわ」
頼んでみるものだねー。紗夜って子にも合うことができるし、あこがメンバーになる瞬間に立ち会えるかもしれないし。
〜〜〜〜〜
う〜ん、スタジオのこの空気懐かしいなぁ。
「スタジオに来たのって中ニが最後だったっけ?」
「中一よ。二年生のときは海にばっかり行ってたじゃない」
「そうだっけ〜?」
「え、友希那さん海に行ってたんですか?」
「私は行ってないわ」
あの時も友希那は音楽に熱心だったからね〜。
「湊さんこの人たちは?」
「あ~ごめん。アタシは今井リサ、友希那の幼馴染で今日は見学に来たんだ〜」
「宇田川あこです。オーディションを受けに来ました!」
「オーディション?」
「勝手に決めてごめんなさい。リサが……いえ、私が許可を出したの」
「つまり実力があると?」
「少なくともその努力はしているみたいよ。練習時間が減ってしまうけれどいいかしら?」
「湊さんが決めたのなら私はそれでいいです」
友希那と同じ感じだなぁ。音楽だけって感じがする。意識が高いのも友希那が認めたことに納得がいく。雄弥が知ったら喜ぶ……わけないか。ちょっと興味を示すかもってぐらいかな〜。
「リサ姉みててね!あこ合格もらってくるから!」
「うん!頑張りなよ〜!」
っといけないいけない。いつの間にかもうあこのオーディションが始まるみたい。アタシもついていかなきゃ。
「ベースもいればリズム隊として評価ができるんですけど…」
「今は仕方ないわ」
ベース、か。
『リサはその中と外どっちにいるんだ?』
アタシは……。
「ベースならアタシが弾くよ」
「リサ!?」
「ちょっとスタジオの人に借りてくるね」
スタジオの人にお願いするとすぐにベースを用意してくれた。しかもアタシにとって使いやすい大きさのを。
「お待たせ〜、借りてきたよ」
「リサ姉ベーシストだったの?」
「昔弾いてた時があったんだ〜」
「湊さん、今井さんの実力は?」
「ブランクはあるけど譜面を見ながらなら申し分ないはずよ。私の身内が技術を叩き込んだから」
「……あれはしんどかったな〜」
「リサ姉目が死んでるよ!?大丈夫!?」
いやホント容赦なかったな〜。アタシが本気で教えてって頼み込んだんだけどさ〜。それでもあれはしんどかった。けどちゃんと休憩時間も確保してくれたから体調崩すことなかったし早いペースで上達できた。
「…あの、湊さん今井さんは過去にどんな練習を?」
「紗夜、知らないほうがいいこともあるのよ」
「友希那さんまで!?」
「いったいどんな練習を…。いえそれよりオーディションです!!」
「「はっ!!」」
「戻った!」
あれは忘れたい記憶だけど…いや考えることも止めとこ。
オーディションの結果は文句なしの合格。あこは無事に友希那と紗夜に認められた。
「リサ姉さっきの演奏凄かったよね!キセキみたいな!」
「そうだね〜!マジックって感じ?」
「そのような言葉は肯定したくありませんが、たしかに素晴らしい演奏でしたね。これであとはベースとキーボードですね」
「え?リサ姉は?」
「いやー、アタシは合わせるためだけに演奏したわけだし」
「けど凄い演奏できたんだよ?メンバーになったらよくない?」
「…それは」
「バンド組もうよ!この4人で!」
「え?」
あこって勢いがすごいな〜。それがプラスになることが多いのは育ちの良さもあるし、周りの理解もあったりするのかな。あこの提案に友希那と紗夜が思案顔になってる。そんな友希那の携帯になにかメッセージが届いたみたいで、それを見た友希那はまっすぐとあたしを見てきた。
「友希那?」
「…リサ、バンドに本気で取り組む気はある?」
「……え」
それは思ってもみなかった友希那からの勧誘だった。
バンドストーリーをもとにした話ですが、多少変えますし、そのうち完全オリジナルになっていきます。音楽の知識ないですから!