陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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12話

 秋宮くんのお爺さまが経営しているお店に、RoseliaとAugenblickのメンバーでお邪魔させていただくことになりました。ライブ後のドタバタがあったので既に時間は遅くなっており、全員ご家族に連絡して許可を取りここに泊まらせていただくことになりました。…客室があるのは普通の喫茶店ではないですよね?

 

 

「湊さんと雄弥くんは、ライブの後はご家族で食事をすると言っていた気がするのですが、突如中止になってよかったのでしょうか?」

 

「友希那がその予定を明日に変更って事前に言ってたみたいだよ〜。だから紗夜が気にする必要はないよ」

 

「…最近湊さんが末恐ろしく思えるのですが」

 

「あはは、友希那ってば友希那のお父さんの歌を歌ってから吹っ切れたみたいでさ。雄弥のことに関しては感性が超鋭くなってるみたいだよ?たまに監視カメラとか盗聴器でも仕掛けてるんじゃないかってぐらい見抜くこともあるし」

 

「私も同じ姉なんですけどね。…あの子ことはわからいことばかりです」

 

「日菜のことはわかる方が凄いよ。アタシなんてフィーリングで合わせてるだけだし。…けど紗夜なら分かるようになるよ。なんたって日菜のお姉ちゃんなんだし。なによりも!」

 

「なによりも?」

 

「アタシや日菜と同じで雄弥を好きになったんだから。それって感性が似てるってことじゃない?だからきっと大丈夫だって♪」

 

「…そんな理由で」

 

「悪い気はしないでしょ?」

 

 

 ニヤつきながらこちらを見てくる今井さんの視線をかわすように、私は反対側にぷいっと顔をそらしました。…これでは認めたということになるのかしら。

 私と今井さんはこのお店のテラスに出ています。雄弥くんもこちらに来るのですが、先程店長さんに呼ばれていたため今はいません。こちらに私たちだけなのは、三人で話ができるようにと皆さんが気を遣ってくださったのです。

 

 

(あね)さん!お飲み物を持ってきましたよ!」

 

「あ!モヒカンくんありがとう〜。久しぶりだよね?みんな元気にしてる?」

 

「はい!お久しぶりっす!中の様子でこれでもかと伝わるかと思いますが、ご覧の通りみんな元気っすよ!資格の勉強も順調で、実は過去問で全員が合格点を超えるようになったんですよ!」

 

「えぇ!?それほんと!?」

 

「もちろんっす!」

 

「凄いじゃん!これなら全員合格も目指せるね♪」

 

「はい!期待しててほしいっす!」

 

「うん!全員合格できたらここにケーキ持ってきてあげるね?お祝いしよ♪」

 

「ケ、ケケ、ケーキっすか!?も、もしかしてそれって(あね)さんの手作りであらせられますか!?」

 

「あはは動揺しすぎ!も・ち・ろ・ん、アタシの手作りだよ?お菓子作りは自信あるから期待してて♪」

 

「は、はい!」

 

 

 この方、見た目は素行が悪い不良のようですが、それは間違いでしたね。資格の勉強と言っていましたから真面目な方のようですし、みんなと勉強してるということはご友人を大切にされているのですね。人は見かけによらない、を体現されてますね。

 

 

「今井さん。こちらの方は?」

 

「あ、ごめん紗夜。置いてけぼりになってたよね」

 

「いえ、それは構いません。お知り合いのようですから」

 

「あ、姉さん。こちらの美少女はいったいどなたですか!?」

 

「あはは!ほんとに女の子慣れしてないよね〜。この子は氷川紗夜。アタシと同じRoseliaのメンバーでギター担当なんだ〜」

 

「ご紹介にあずかりました、氷川紗夜です。よろしくお願いします」

 

「は、はい!自分、宮瑛太と申します!よ、よよ、よろしくお願いします!」

 

「…何気にアタシ初めて名前知ったんだけど」

 

「そういえば前回のときは名前を言ってませんでしたね。あまりお邪魔をしたくなかったので、最低限の接客だけをしてましたから」

 

「今井さんはここに来たことがあるのですね」

 

「うん。今日で2回目なんだけど、前は雄弥に連れてきてもらったんだ♪」

 

「……そうなんですか。それは良かったですね」

 

「さ、紗夜さん。何かオーラが出てるっす!」

 

 

 オーラなんて出るわけないじゃない。何を言っているのかしら。私はただ嫉妬という感情をわかりやすく表そうとしているだけなのよ。

 

 

「そ、そうだ宮くん。アタシこの機会に他の人たちの名前を知りたいんだけど」

 

「あ、すみません姉さん。名字呼びだとモヒカン全員が反応するっす」

 

「えぇ!?全員同じ名字って兄弟なの!?」

 

「に、賑やかなご家族ですね」

 

 

 店内の方に目を向けると、中では秋宮くんや梶くんと一緒に騒いでる方たちが…。あの人数、10人はいますね。

 

 

「…いえ、血の繋がりはないんすよ。俺たちは全員家族との仲が悪くて自分から家を飛び出したり、勘当されたりした奴の集まりっすから」

 

「…え?」

 

「俺たちは本当に荒れてたんすよ。家にいれなくなったからそのストレスを喧嘩で発散してたんっす。似た境遇の連中とつるむようになって、集団で暴れ回っていたんす。そんなある日、疾斗の兄貴と雄弥の兄貴と出会ったんす」

 

「その時期ってたしかまだ雄弥たちが中学生の時だよね?」

 

「はい。…俺たちもなんでこんな中学生がって思ってたんすけど、二人に負けた時に疾斗の兄貴に言われたんす。『人の役に立つ喜びを教えてやる』って」

 

「中学生が年上に言う言葉じゃないですよね…」

 

「ははっ、俺たちもそう思ったっす。けど喧嘩に負けた以上言うことを聞くしかなくて、それでボランティア活動に連れて行かれたっす。見返りがないことをしてなんになる、なんて思ってたんすけど、活動中や終わった時に人に感謝されて、感動したんす。俺たちでも人の役に立てるって。それで改心したんす」

 

「そうだったんですね」

 

「それでその後はここに案内されたの?」

 

「詳細を省けばそうっすね。帰る家がないと知った疾斗の兄貴にここを教えてもらったっす。事情を聞いた店長が俺達全員と養子縁組を結んでくれて、旧姓である"宮"という名字をくれたんす。それで、その後はここでバイトさせてもらって、店長から常識を叩き込まれたっす。今は『帰れる家がある』その喜びをきっかけに、家を建てる仕事をしようとみんなで話して勉強中っす」

 

「…ぐすっ、…いい話だね」

 

「あ、姉さん。俺らなんかの話で泣かないでくださいっす!これ雄弥の兄貴に見られたら…」

 

「その時は私が話しますのでご安心を」

 

「ですが」

 

「ごめんごめん、…あアタシ最近涙もろくなっちゃってさ」

 

「い、いえ。俺たちみたいなゴロツキのこんな話を聞いてくれたのは、女の子で言えば結花さん以来っす。話せると結構胸がスッキリするんすよ」

 

 

 そういった宮さん…いえ、瑛太さんは本当に爽やかな笑顔をされていました。中々人に話せる内容ではないですから、話せたときは本当にスッキリするのでしょう。…私もその気持ちがわかります。日菜とのことを雄弥くんに話せたときは気持ちが軽くなりましたから。

 

 

「…と、すみません長話をしてしまいました。雄弥の兄貴ももうこっちに来るようですし、ご注文が決まられましたらそのボタンを押してください。店内で聞こえるようになっているのですぐにお伺いします」

 

「うん。ありがとう。接客も様になってるよ♪」

 

「ええ。私もそう思います。ご立派ですよ」

 

「きょ、恐縮です」

 

「なんだ、随分仲良くなったな」

 

「兄貴お疲れ様です」

 

「だから兄貴はやめろって…。まぁいいや。今日はあのバカがいるから遅くまで騒ぐだろうけど、よろしくな」

 

「はい!最後には店員とお客さん関係なくなりますから!」

 

「よくわかってるな」

 

 

 店員さんも混ざるということですね。…なるほど、中の様子を見る限りそうなるのは間違いなさそうですね。秋宮くんは、弦巻さんや戸山さんのように周りを巻き込む力が強いようですから。

 瑛太さんと入れ替わるように来た雄弥くんは、私たちの向かい側の席に着席しました。少し空気が重たい気もしますが、それはムードメーカーである今井さんが黙ってしまっているからなのでしょうか。…原因を彼女だけにしてはいけませんね。私が気落ちしていることも関係しているはずです。

 

 

「二人は注文何にするか決めたのか?」

 

「え…あ、いやまだだよ。さっきまで瑛太くんと話してたから」

 

「名前教えてもらったのか。…じゃああいつらの話も?」

 

「うん。…雄弥が兄貴って呼ばれるようになったのもその時からなんだね。まさか知らない時期に喧嘩してるとは思ってなかったよ…」

 

「既に芸能界入りしてたんですよね?よく喧嘩なんて」

 

「あの時は疾斗と二人で楽器屋に行くつもりだったんだ。路地裏にある隠れた場所の割には品揃えがいい楽器屋に。その途中で疾斗が急に走りだしてな、それを追いかけたらあいつらの溜まり場について、成り行きでそうなった」

 

「あー、やっぱりそういうパターンか。あの頃の雄弥なら普通首を突っ込まないもんね」

 

「ですがそれでも荒事は控えるべきです」

 

「わかってる。注目されるようになってから疾斗も抑えてるからな。人助けはやめないからたまに荒事もあるが」

 

「人助け自体はいい事ですから」

 

「まぁな。…それで、何食べる?」

 

「アタシはこれかな〜。雄弥のはこれでいい?」

 

「いいぞ。ここのメニューは制覇してるからどれでもいい」

 

「制覇したんだ…」

 

「私も決まりました」

 

 

 ボタンを押して瑛太さんに注文を頼むと料理がすぐに届きました。私と今井さんはその早さに驚きましたが、雄弥くんは一人納得したような反応をしてました。

 

 

「…雄弥」

 

「中があの調子だろ?こういう時って全メニューをすぐに作れるようにスタンバイしてるんだよ」

 

「ですがそれでも早すぎます」  

 

「予想してたんだろ。あの爺さん相手を見て、その時の調子も見て何食べるか予想するんだよ。ちなみにそれで外したことはないぞ」 

 

「すご…」

 

「ま、食べるぞ。せっかくすぐに届いたんだ。冷ましたら店長に悪い」

 

「…そうですね」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 料理は大変美味しかったです。口に入れたら旨味が広がったと言えばいいのでしょうか。不思議と手を止めることなく食事をしていました。

 食器を下げていただくと雄弥くんが、テーブルに頭がつくんじゃないかというぐらい頭を下げていました。

 

 

「雄弥!?」

 

「謝らせてほしい。俺は馬鹿だから、自分のことで手一杯になって周りを見れてなかった。それでリサや紗夜を傷つけてしまった。だから、謝らせてくれ」

 

「雄弥…」

 

「雄弥くん。ですがそれは必要なことだったのでしょう?雄弥くんだけじゃない。藤森さんのためにも今回のライブの演出は必要なことだったはずです」

 

「そうだよ!謝らないといけないのはアタシだよ!…そもそもアタシがあの時雄弥の携帯を見なきゃ」

 

「…リサが携帯を見てたことはなんとなくわかってた」

 

「……ぇ」

 

「部屋に戻ったらリサがどこかいつもと違ったからな。寝る前に結花からのメッセージを見てもしかしたらって思ったんだ。…けど俺は馬鹿で不器用だから、ライブの内容を伏せてリサに事情を説明することができなかったんだ。だからリサが謝ることなんて何もない。リサ、紗夜、本当にごめん」

 

「「雄弥(くん)…」」

 

 

 …本当に不器用な人。きっと前までの雄弥くんなら、私たちもライブでショックを受けることもなかったのでしょう。怒りと呆れが半分半分で済んでいたのでしょう。

 けれど雄弥くんは変わり始めた。小さな変化から始まり、意識して変わろうとし始めたのは日菜との天体観測の日から。優しいけど不器用で、それでも真っ直ぐ進もうとする彼は難題に挑んでいる。それを知っていて、彼に恋愛の理解を期待している分余計にショックだったのです。

 だとしても、それでも事情を知れば怒りなんて湧いてこない。嬉しさと呆れでいっぱいですよ。

 

 

「顔を上げてください雄弥くん。私たちは雄弥くんを許していますから」

 

「…なん、で」

 

「だって恋愛を理解するためにやったことでしょ?それなら怒る理由なんてないじゃん。まぁお咎め無しってのはむしが良すぎるけどね」

 

「…今井さん。何を考えてるんですか」

 

 

 私が半眼で今井さんに視線を送ると、今井さんはまるで小悪魔のように軽く舌を出しながら笑う。まぁ彼女なら常識的なことしか言わないだろうと思い、ため息をつきながら話の続きを促しました。

 

 

「紗夜にも良い話なんだけどね?雄弥!アタシ達とデートすること!セッティングも全部雄弥がしてね?それが雄弥への罰ゲーム」

 

「そんなんでいいのか?」

 

「うん♪」

 

「リサと紗夜と三人でか?」

 

「違うよ!それぞれとするの!」

 

「あぁ。わかった」

 

「よろしくお願いしますね?雄弥くん」

 

「やれるだけやってみる」

 

「それじゃあ、アタシ達も中に入って混ざろっか!友希那と燐子が大変そうだし?」

 

 

 そう言って今井さんはすぐに店内へと戻っていった。その瞬間さっきまで以上に盛り上がり始めていましたが、何が原因……。あ~、手作りケーキの件ですね。

 

 

「雄弥くん」

 

 

 私は続いて中に入ろうとする雄弥くんの服を掴みました。こちらに振り返る雄弥くんを見上げると、真っ直ぐと視線が重なり合う。それが恥ずかしくて、だけど愛おしくて、早くなる鼓動を認識しながら背伸びして雄弥くんの唇を奪う。前回とは違って何秒も口を重ねる。息が苦しくなったところで口を離す。

 雄弥くんは肺活量が多いのでしょうか。私ほど息切れしてませんね。何故か悔しいです。

 

 

「紗夜…なにを」

 

日菜と同じことをされたなら(・・・・・・・・・・・・・)雄弥くんでも分かるでしょう?雄弥くん、私はあなたのことが好きです」

 

 

 言った。言えた。言ってしまった。

 

 私の心に沈めていた気持ちを。

 

 日菜に焚き付けられて再び燃え始めたこの気持ちを。

 

 私は雄弥くんに伝えた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「むむっ!なんかピンってきちゃったな〜」

 

「日菜ちゃん何言ってるの?」

 

「彩ちゃんにはわからないことだよ?」

 

「そうだろうけどさ〜」

 

「日菜ちゃん。そろそろポテト食べるのやめたら?日菜ちゃんが食べすぎてお店の方が困ってるわよ?」

 

「そんなん別にいいじゃん。売上に貢献してるわけだしさ」

 

「そ、そうだけど。…あのライブのことで怒ってるの?」

 

「へ?なんで?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 

 なんかみんな意外そうな顔をして驚いてるけど、その反応があたしには驚きだよ。

 

 

「日菜さんはあの演出に怒っていたわけじゃないんですか?」

 

「違うよ麻耶ちゃん。だってあのライブって怒る理由(・・・・)|なんて≪・・・≫|ない≪・・≫じゃん」

 

「どういうことですか?」

 

 

 うーん。みんなには分からないか〜。まぁユウくんのことを、あたしだけが分かってるって思うとるんっ♪てするからいいんだけどね。

 あたしはあのライブの真意であろうことを話した。もちろんあたしが話したことが全てじゃないってことぐらいみんなも分かってる。それでもある程度納得がいったからなのか、みんなはそれ以上ライブの話を口にしなかった。

 

 

「それにしても、あたしはどうしよっかな〜」

 

「日菜ちゃん、なんの話?」

 

「あたしの話。…うーん、うん!きーめたっと!!ユウくんとまたデートしよ!」

 

 

 彩ちゃんが「だからアイドルは〜」とか何か言ってるけど、そんなの知ったことじゃないよね。あたしはあたし。ユウくんが大好きなんだから。デートするのもあたしの勝手だよ。あたしの恋を妨害する権利なんて誰も持ってないんだから。例えあっても無視するけどね。

 …あたしの邪魔をできるのはお姉ちゃんとリサちーだけ。それ以外は認めないよ。友希那ちゃんはユウくんと姉弟だから例外だけどね。




まさかここまで話が長くなるとは…。
倦怠期が続いて申し訳ないです。3章も終盤辺りなのでもう少しお付き合いください。またイチャイチャ話が帰ってきますので。
次回はまたガルパのイベントの話ですよ。
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