陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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14話

「ユーウーくーーん!!」

 

「おっと。…せめて後ろから飛びつこうとするのはやめてくれ。日菜に反応できない時もあるだろうから」

 

「えー!ユウくんなら大丈夫だと思うけどな〜。だって今だって反応してくれたし、あたしも飛びつく前にはユウくんの名前を呼んでるわけだし」

 

「俺だって考え事することはある。その時は無理があるぞ」

 

「それもそうだね。…えへへ」

 

 

 こうやってユウくんに飛びつけたのはいつぶりだろう?結構前なのかも知れないし、意外と日数は経ってないのかもしれない。だけど、時間の流れなんて関係ない。あたしの心が久しぶりだと思っているのだから久しぶりなんだ。

 ユウくんの引き締まった体にあたしの体を押し付ける。何回もしてきたことだから、ユウくんはあたしが求めていることを理解して、抱きしめてくれる。あたしの体はユウくんの体にすっぽり収まるから、ユウくんに包まれるような感覚に陥る。それがあたしは大好きだ。好きな人をこれでもかと感じられるってるるるるんっ♪てするよね。

 

 

「今日はどうした?」

 

「ユウくんに甘えたい…。あたし達も仕事が少し増えて、ユウくんはずっと働き詰めだったから、なかなかユウくんと一緒にいれなかった」

 

「そうだな。友希那に怒られて仕事量は減らすことになったから、前よりは時間を合わせれるようになったぞ」

 

「ほんと!?ユウくんともっと一緒にいられる〜♪」

 

 

 まぁユウくんのことだからお姉ちゃんとかリサちーとかとも遊ぶんだろうけど、それでもいいや!ユウくんと一緒にいられることが嬉しいんだから。

 

 

「ねねっ!デートしようよ、デート!お互いの予定が合うときにさ!」

 

「デート好きだな。それで日菜の予定は?」

 

「えっとね〜、ちょっと見てみる」

 

 

 ユウくんに抱きつくのをやめないままスケジュール帳を取り出して確認する。正直予定ぐらいあたしの頭に入ってるけど、こうやってお互いにスケジュール帳を取り出して確認するのってなんだかるんっ♪てするんだ〜。

 

 

「この日なら合わせれるな」

 

「そうだね!あんま遠くない日にちで合わせれてよかった〜」

 

「パスパレはともかく、俺たちはある程度融通がきくからな」

 

「すごいことしてるよね〜。会社のトップと勝負って誰もしなくない?」

 

「まぁな。俺たちは結成当初、長くやるつもりなかったから退屈しのぎにしてたってだけなんだよ。そしたら、なんだかんだで今に至るってわけだ」

 

「なるほどね〜。ユウくん達らしいよね」

 

「結構はしょった説明だったのによく伝わったな」

 

「ふふーん。あたしだからね!」

 

 

 ユウくんがあたしの伝えたいことを把握してくれるように、あたしだってユウくんのことがわかるんだから。ユウくんが説明をはしょる時も、そのはしょり方でわかるんだよ。

 

 

「日菜ちゃーん!……あ、日菜ちゃんこんな所にいたんだ…って何してるの!?」

 

「彩ちゃんだ。やっほー、どうしたの?」

 

「やっほー、じゃなくて、もうすぐ休憩終わるから呼びに来たの。…って、それより!日菜ちゃんここ(廊下)で何してるの!」

 

「彩ちゃんでもこれぐらいは分かるでしょー。ユウくんに抱きついてるんだよ?」

 

「それは分かってるよ!そうじゃなくて、恋愛は」

 

「…あたしの勝手でしょ?彩ちゃんに邪魔できる理由があるの?」

 

「ひっ…。いや、あの…でも事務所的に」

 

「なら話つけてきたらいいんだよね?」

 

 

 あたしが今まで見せたことのない表情で、発してこなかった低く冷たい声で話すと、彩ちゃんは体を震わせて泣きそうになってた。彩ちゃんって面白くて、あたしも彩ちゃんのこと好きなんだけど、それでも踏み入ってほしくないことがある。

 あたしが彩ちゃんに冷たい態度でいると、あたしの頭は軽くチョップされた。犯人はもちろんあたしがひっついてるユウくん。見上げるとユウくんは呆れた顔をしてた。

 

 

「日菜、彩を困らせてやるな。彩は別に嫌がらせがしたいわけじゃないだろ」

 

「…でも、あたしは誰にも邪魔されたくない。お姉ちゃんとリサちーならともかく」

 

「それでも、だ。パスパレは日菜の居場所なんだろ?」

 

「そう、だね。…ごめんね彩ちゃん」

 

「う、ううん。私の方こそ余計なこと言ってごめん」

 

「さてと、それじゃあ日菜行ってこい」

 

「…うん」

 

 

 ユウくんから離れるのが名残惜しくて、最後にもう一度ギュッと抱きついてから離れた。同じ事務所にいるから、お姉ちゃんよりはユウくんに会いやすいんだけどね。

 

 

「あ、そういや」

 

「なにユウくん?」

 

「たしかこの事務所って恋愛にそんなうるさくないらしいぞ。詳しくは大輝に聞いてくれ」

 

「ええ!?私そんなの初めて知ったんだけど!?」

 

「彩ちゃんは恋してないからでしょ」

 

「グサッ。うぅー、そうだけどさ〜。私だって恋したいって思うことあるんだよ?」

 

「ユウくんは渡さないから」

 

「う、うん。もちろんわかってるよ!」

 

「俺は日菜の所有物じゃないんだが…。まぁいいか、早く戻らなくていいのか?」

 

「あ。…急がなきゃ!千聖ちゃんに怒られちゃうよ!」

 

「ユウくんまたね〜」

 

「今日はこの後予定あるから、また明日な」

 

「おっけー♪」

 

 

 彩ちゃんに手を引っ張られるから、あたしも練習場所に走らされることになった。ギリギリで間にあっても何か言われそうだけどなぁ。彩ちゃんはそのことわかってないんだろうね。…まぁその反応で楽しもうっと!

 

 

(それにしても、恋愛にはそんなうるさくない、か。いいこと聞いちゃったな〜。詳しくは大くんに聞けばいいんだよね?)

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 アタシは大急ぎで学校の正門に向かって走ってた。今日はRoseliaの練習があるし、メンバー全員でスタジオに向かうことになっていたから。

 

 

「みんな〜。お待たせー」

 

「リサ遅かったわね」

 

「いや〜、途中で先生に捕まっまちゃってさ」

 

「そう。それじゃあスタジオに向かうわよ」

 

「…あ、ごめん。電話にでるね」

 

 

 アタシの携帯がなったから電話に出ると、相手はバイト先の店長だった。店長の話によると、今日モカの代わりにバイトに来てほしいということだった。モカが風邪を引いてしまったらしい。

 

 

(モカからもメッセージでお願いされちゃってるな〜。けど練習もあるし…)

 

「リサはどうしたいの?」

 

「うーん。店長にはお世話になってるし、モカからもお願いされてるからな〜。けど練習があるわけだし」

 

「リサが行きたいなら行けばいいわ。練習には集中してもらいたいもの。だから後日2倍練習して」

 

「友希那ありがとう♪」

 

 

 店長に折り返し電話をして、アタシが代わりにシフト入ることを伝えた。そしたら今度は気になることを言ってた。スケットって誰のことなんだろ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「おはようございまーす!って誰もいないや。…えーっとなになに?」

 

 

 お店の事務所の机に置いてあった書き置きを見ると、店長からのメッセージが書いてあった。店長は緊急会議で来れなくなって、その代わりに面白いスケットを呼んだのだとか。アタシは首を傾げながらとりあえず制服に着替えて、タイムカードを押してレジのとこに行った。

 

 

「おはようございます……ってええ!?」

 

「おはようございます。そんな大声上げてどうかしたのか?」

 

「いやいや、ええ!?なんで!?なんで雄弥(・・)がここで働いてるの!?」

 

 

 そう、レジがあるカウンターには雄弥が立っていた。ちゃんとお店の制服を着て、しかも名札まである。雄弥ってなんでも着こなすよね〜、一緒の服着れてるのってなんだか嬉しいな〜ってそうじゃなくて!

 

 

「頼まれたから働いてる」

 

「いやそうじゃなくて!」

 

「ここの店長とはたまに連絡取るんだよ。麻雀仲間だからな」

 

「…もうなんでもいいや」

 

「いきなりそんな疲れて大丈夫か?」

 

「…誰のせいだと思ってるの」

 

 

 アタシがリアクションで疲れた〜ってすると、雄弥が優しく頭を撫で始めた。アタシがそれを受け入れて目を細めると、今度は髪を手櫛でといでくれた。学校で走って、バイトも急だったから急いできた。だからちょっと髪が乱れてて実はそれが気になっていたりした。

 

 

(雄弥はそこまで見抜いてないんだろうけどね〜。嬉しいからなんでもいいけど)

 

 

 長年アタシがこういうのをお願いしてたから、雄弥は髪を梳かすのが上手だったりする。心地いいし、しかも好きな人にしてもらえている。それはアタシをどんどん甘えるようにさせる一種の誘惑だ。その誘惑に抗えないアタシは、目を閉じて雄弥の胸に両手を添え、頭も預けた。

 

 

(ずっとこうしていられたらいいのに…)

 

「仕事中でしかもレジにいてよくそんなイチャつけるよね〜。結花ちゃんでも驚きだよ。なにそれ。みんなに見せつけるようにしてお客さん入ってこないようにしてるの?」

 

「ひゃあ!ゆ、結花いつの間に入ってきたの!?」

 

「リサが来る前だよ。さっきまで立ち読みしてんだー。いや〜おかげで良いものが見れたよ☆」

 

「うぅー。忘れて

 

「どうしよっかなぁ」

 

「せ、せめて誰にも言わないで!」

 

「もちろんこのお店の人には言わないから、そこは安心して?」

 

 

 よ、よかったぁ。もし店長とか社員さんの耳に入ったら問題だからね。ある意味それ以上に知られたくないのは、今日風邪をひいたモカだけどね。

 

 

「あ。今度リサと二人で遊びに行けるなら黙っててあげる」

 

「へ?そんなことでいいの?」

 

「うん♪リサとは遊んでみたかったんだよね〜。好みとか合いそうだし、きっと楽しめると思うんだ☆」

 

「それじゃあ今度遊ぼっか」

 

「予定はまた後で合わせよ。私は買いたいもの買ったし、これで帰るね〜」

 

「買いたいもの?」

 

 

 アタシはレジ打ってないんだけど、横を見ると会計を済ませて商品を袋に入れてる雄弥の姿があった。いったいいつの間に、しかも結花は話しかけてきた時何も持ってなかったわけで…。

 

 

「あっちのレジに置いてからこっちに来たんだ〜」

 

「…なんでまた」

 

「リサをからかいたかったから!」

 

「結花、商品とお釣りだ」

 

「ありがとう。それじゃあまたね〜」

 

「ああ」

 

 

 笑顔で手を振りながら出ていく結花を、アタシも手を降って見送った。結花がいなくなったから、今度こそお店にはアタシ達しかいない。べ、別にお客さんがいないからどうってわけじゃないんだよ?

 

 

「ふにゃ〜」

 

「緩みまくってるな」

 

「ゆうやがかみをとかしてくれるから〜。じょうずなんだもん」

 

「こうするのも久々な気がしてな。迷惑ならやめる」

 

「ううん。続けて」

 

「わかった」

 

 

 店長とモカにはある意味感謝だね〜。雄弥とこうして二人で働けるなんて夢にも思わなかった。…お客さん来ないから働いてるとは言えない気もするね。それはともかくとして、こうやって雄弥といられるのは嬉しい。

 

 

(……ん?店長いないんだよね?…ってことは)

 

「ああ!!」

 

「いきなりどうした」

 

「店長いないならアタシ達で事務作業しなきゃ!」

 

「事務作業?…あ~、ここに書いてある項目のことか」

 

「そうそうこれ!ってなんでもう終わってるの!?」

 

「店長からやる内容聞いて、暇だったからリサが来る前に終わらせた」

 

 

 …雄弥って実は今まででもコンビニで働いてたことがあるんじゃないの?そう思うぐらいアタシの大切な人はハイスペックだ。

 この後はお客さんがめちゃくちゃ来て、アタシと雄弥はお互いに名前を呼ぶだけで連携を取っていた。そのせいか、次の日には"若夫婦店員"がいるなんて噂が流れていた。…誰のことだろうね〜。

 




連携取って働くと効率いいですよね。前のバイトの時は友達とか先輩とかと「アレ」で通じるぐらいには仲良かったです。懐かしい。

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