陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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18話

『紗夜。来週末の予定って空けれるか?』

 

 

 Roseliaの練習が終わり、家で次の日の授業の準備をしていたある日のこと。高校生になってから初めての雄弥くんの電話で聞かれた。それは以前に今井さんが雄弥くんに約束させたデートのお誘いだった。

 しかし、あいにくの事ながら来週末はどちらも予定が入っていた。それでも雄弥くんの忙しさを考えたら来週末にするべきだわ。どうすべきか悩んでいると、お母さんが日曜日の予定はキャンセルしていいと助け舟を出してくれた。

 

 

『日曜日なら俺も一日オフだからちょうどいいな』

 

「ええ。今回は全て雄弥くんが考えてくれるのよね?」

 

『そういう約束だからな』

 

「ふふっ、そうだったわね。…雄弥くん」

 

『どうした?』

 

「楽しみにしてるわ」

 

『期待に答えれるように最善を尽くさせてもらう』

 

「ええ。……もう少し話していいかしら?雄弥くんとこうやって電話するなんてそうそうないから」

 

『いいぞ』 

 

「ありがとう」

 

 

 雄弥くんが側にいるわけじゃない。だけれども雄弥くんとこうやって話していると、雄弥くんを近くに感じる。電話している彼が今どういう状況なのかを想像しながら他愛ない話を広げた。普段そんな話をあまりしない私が、だ。電話は日付が変わる前には終わらせて寝ることになった。…名残り惜しいと思ったのは内緒。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 デート当日、服装をどうするか悩んでいたけれど、私は日菜や今井さんのように可愛らしい服を持っていない。普段通りの服装にして、軽くアクセサリーをつけることで、ちょっとしたオシャレということにした。

 どこかで集合するのかと思っていたけれど、雄弥くんが迎えに来てくれるらしい。聞けば以前日菜がナンパされて少しトラブルになったのだとか。…『ユウくんがシュパパーン!ってやってたんだよ!』はこのことだったのね。

 

 

「時間は…まだあるわね」

 

「こんなにそわそわしてる紗夜を見るのはいつぶりかしらね」

 

「お母さん。私は別にそわそわなんてしてないわ。時間を確認しただけよ」

 

「5分おきにね」

 

「……そうだったかしら」

 

「それだったら時間を早めてもらったら?」

 

「駄目よ。雄弥くんは忙しい人なんだから。時間に余裕をもってもらいたいもの」

 

「なら家の前で待つ?雄弥くんは『家にいろ』とは言ってないのでしょう?」

 

「け、けど。迎えに来てくれることは、家で待つものでしょ」

 

「紗夜がそれでいいなら私ももう何も言わないわ。ただ、飲物は飲み干していってね。まだ一口も飲んでないでしょ」

 

「…あ。も、もちろん飲むわ」

 

 

 お母さんがせっかく入れてくれた飲物をまだ飲んでなかっただなんて…。それぐらいに私は落ち着けていなかったのね。コップを傾けてゆっくりと飲んでいると家のインターホンが鳴った。その瞬間私は一気飲みして玄関のドアを開けた。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ…お、おはようございます。雄弥くん」

 

「おはよう、紗夜。むせてるみたいだが、大丈夫か?」

 

「え、ええ。飲物が気管に入ってしまっただけよ」

 

「そうなのか。準備がまだ待つから、慌てなくていいぞ」

 

「いえ準備はできているわ。鞄を取ってくるからちょっとだけ待ってて」

 

「ああ」

 

 

 リビングに戻って用意しておいた鞄を持つ。必要最低限のものだけを入れた鞄だけど、こういう所も大切よね。私が再び玄関に向かうとお母さんもついてきて雄弥くんに挨拶してた。

 

 

「おはよう雄弥くん。今日はわざわざ紗夜を迎えに来てもらってごめんね」

 

「いえ。これぐらい気にしないでください。日菜のこともありましたから」

 

「…そうね。改めてお礼を言わせて。日菜を守ってくれてありがとう」

 

「私からもお礼を。ありがとうございます」

 

「いやいや、当然のことですから」

 

「ふふっ、本当に優しい子ね。紗夜のこともお願いね?」

 

「はい」

 

「それでは行きましょう雄弥くん。お母さん、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「水族館ですか?」

 

「ああ。疾斗に優待券余ったからって渡されてな。有効期限も近づいてたし貰ったものは使わないと悪いからな。…嫌だったか?」

 

「そんなことないですよ。私は雄弥くんと一緒ならどこでも構いません」

 

「それならよかった」

 

(それにしても優待券が余るっていったい何があったのでしょう…。そもそも優待券ってそんなに貰えるものでしたっけ?)

 

 

 そんな私の疑問をよそに、雄弥くんは私の手を引いて受付へと向かう。手を繋いでいるのは、『はぐれたら大変だから』で他意はないわ。本当よ?…手を繋いでいる私たちを見て、受付の人が凄い笑顔だったのが恥ずかしかったわ。

 

 

「すごい…」

 

「入っていきなりが巨大水槽だからな。種類も豊富だし」

 

「水族館なんて小学生以来だったけど、あの頃と今では楽しみ方が変わるわね」

 

「具体的には?」

 

「小学生の頃だと単純に色んな種類の魚を見るだけで楽しかった。今もその楽しみ方をできるけど、それ以上に……好きな人と来れるのが嬉しいわ

 

「………そうか」

 

「ふふっ、雄弥くんもしかして照れてるのかしら?」

 

「紗夜にそう言われると思ってなかったからな。けど紗夜だって顔赤いぞ」

 

「なっ…、き、気のせいよ」

 

 

 雄弥くんに真っ直ぐ言うだけでも恥ずかしいのに、まさか雄弥くんが照れるだなんて思ってなかった。そのせいで余計に恥ずかしいわ。

 お互いに無言で水槽を見ることで誤魔化しあったけど、その代わり繋いでいる手はさっきよりも強く握っていた。私の頬の赤さが引いたからか、それとも雄弥くんが落ち着いたのか、他の水槽も見に行くことを提案されて私も同意した。

 

 

「休日だと人が多いな」

 

「それはそうでしょう。色んな人たちが来ているようだけど、家族連れが多いわね」

 

「…家族か」  

 

「雄弥くん?」 

 

「いや、何でもない。お昼はどうする?混む前に行くか?」

 

「そうしたいところだけど、ここは順路が決まっているようだからやめときましょ」

 

「ならゆっくり見ていくか」

 

「ええ。それと…雄弥くん」

 

「どうした?」

 

「じ、実はお弁当を用意してあるの。だから、その…雄弥くんがよかったらお昼は休憩所でお弁当を食べない?」

 

 

 自分で料理することはあっても、異性にお弁当を作ったのは今回が初めて。料理は自分一人でもできるというのに、お母さんに助言をもらいながらお弁当を作った。だからぜひ食べてほしい。…だけど、私は今井さんほど料理が上手じゃない。

 

 

「わざわざ作ったのか」

 

「…迷惑、だったかしら」

 

「そんなわけないだろ。ありがとう紗夜。お昼は紗夜が作ってくれた弁当にする」

 

「…ぁ。ありがとう」

 

「ははっ、なんで紗夜が礼言うんだよ。礼を言うのは俺の方だろ。…っと紗夜」

 

「へ?きゃっ」

 

 

 いきなり腰に手を回されて強引に体を寄せられる。突然のことで躓きそうになった私は雄弥くんの胸に飛び込むような形になった。

 

 

(か、顔が近い……。ま、前にキスした時は周りに誰もいなかったからよかったけど、今は周りにいっぱい人がいるし…)

 

 

 私一人混乱しながら雄弥くんの顔を見ていると、雄弥くんの視線が私に向いていないことがわかった。視線を追うとそこには強引に人をかき分けて進んでいる男性がいた。

 

 

「…なんなのですかあの人は」

 

「ただの痴漢だ」

 

「へ!?」

 

「真っ直ぐ無理に進んでるように見えて必ず両側に女性がいる。当たった体にして体を触ってるんだろ」

 

「最低ね。……あ、もしかして雄弥くんはそのために私を?」

 

「そういうことだ。この人の多さだとアレを捕まえるのも一苦労だからな」

 

「けど放置するわけには!」

 

「大丈夫。もうすぐ捕まるから(・・・・・・・・・)

 

「何を…」

 

 

 なぜ断言できるのか疑問に思ったのだけど、さっきの男が進んでいった方向で歓声が上がった。その様子からしてさっきの男を捕まえた人が出たということがわかる。

 

 

「さてと、順路に従って進んでもアレがいる場所だが、…まぁ仕方ないか」

 

「水槽は周りにもあるわ。気持ちを切り替えましょう」

 

「…まぁ、そうだな」

 

 

 どこか引っかかるような反応をした雄弥くんだったけど、深くは考えないことにした。正確には考えられなかった。移動しようとした今になって、ずっと雄弥くんとくっついていたことに気づいてそれどころじゃなかったから。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「おっす雄弥!お、紗夜も一緒か」

 

「…やっぱりお前か疾斗」

 

「あ、あの。疾斗くんはこの人が周りの人に迷惑をかけてたから…」

 

「それぐらいわかってる。…気絶させてるのは、大方花音がターゲットになったからか」

 

「へ?」

 

「はっはっは!バラすなよ、恥ずいだろ!」

 

「はやとくん…わたしのために」

 

「秋宮くんと松原さんが見つめ合って動かないのですが…」

 

「二人の世界ってやつだ。気にするな」

 

「雄弥くんがそう言うなら」

 

 

 それにしてもこの人の多さだとこの痴漢を施設の人に引き渡すのも一苦労だな。こっちに向かってるだろうけど、中々近づけないってなってそうだし。

 

 

「そうだ。俺たちこれから休憩所で飯食うんだけど雄弥たちもどうだ?花音が作ってくれた弁当はやらんが」

 

「疾斗くん。それ嫌味に聞こえるよ?それと…は、恥ずかしいから」

 

「俺たちも休憩所で食べるつもりだったからちょうどいいんじゃないか?」

 

「へー、お前らも弁当か。リサがいながらお前も罪なやつだな」

 

「なんの話だ?それより、疾斗には言われたくないな。事務所でよくイヴとイチャついてるくせに」

 

「なっ!おまっ」

 

「疾斗くん?お話を聞かせてほしいな〜」

 

「花音目が笑ってないぞ?お、落ち着けよ、な?」

 

「私は落ち着いてるよ〜?」

 

 

 へ〜、疾斗がいる時って花音はここまで変わるのか。前あった時とは全然違うな。紗夜も驚いてるってことは、学校ではああいう状態の花音を見ることがないってことか。

 

 

「雄弥くん。施設の方が来ましたよ」

 

「みたいだな。…疾斗たちはあの調子だし、軽く説明してお昼にするか」

 

「そうですね」

 

 

 思ってたよりは早く辿り着いた従業員にこの男が痴漢で、あっちで夫婦喧嘩してる若いのが取り抑えたと軽く説明した。その時の状況を見てた周りの人にも発言してもらったからすぐに話は終わった。

 

 

「それで、お礼にこの部屋で弁当を食べていいと。知らない間に何があったんだか」

 

「お前らが夫婦喧嘩してる間にな。お偉いさんと話するときに使われる部屋らしいぞ。食事しながら鑑賞もできる」

 

「い、いいのかな。…私たちみたいな高校生が使っちゃって」

 

("夫婦"に反応しなかったな。…あー天然だからか)

 

「お礼らしいから素直に受け取るしかないだろ」

 

「それより、早く食べようぜ」

 

「食い意地張ってるな。……花音、疾斗が食べる量って尋常じゃない量だが、大丈夫か?」

 

「もちろん!疾斗くんのことは把握してるからね♪」

 

 

 さすが疾斗と一番付き合いが長い幼馴染だな。…リサと友希那がお互いのことを分かり合ってる、みたいなことか。……なるほど、たしかにこれはよくわかってる(・・・・・・・)。大きめの鞄だとは思ってたがまさか重箱が出てくるとは。

 

 

「…松原さんのを見たら私のがちっぽけに思えてきました」

 

「何言ってんだ紗夜。俺はあんな量食べれないからな?紗夜が作ってくれたやつで十分だから、そんな暗い顔するな」

 

「…はい」

 

「……ったく。…美味いな」

 

「本当ですか!?今井さんほどではないと思いますが…」

 

「いや美味しいよ。リサとは違った味付けだし、わりと好きな味付けだ」

 

「よかったです」

 

 

 四人で談笑しながらお昼を食べて、従業員に一言言ってから退出した。特別に元いた場所まで逆走させてもらって、水族館を満喫しなおす。まぁ四人で、なんだけどな。

 

 

「疾斗…」

 

「んん?…ちょっと待てよ」

 

 

 疾斗が花音にアイコンタクトを取って、花音がそれに頷く。これだけで二人の関係の深さが分かるものだが、残念なことに俺にはそれが測れない。花音は紗夜の腕を引っ張って"クラゲコーナー"に走っていった。

 

 

「そういやクラゲ好きだったな」

 

「空気を読んでくれる+クラゲがいるってことで花音は止められなくなるからな」

 

「クラゲだけで誰も止めれないだろ」 

 

「違いない。…花音は本当にいい子だよ」

 

「気弱そうに見えてそうじゃないからな」

 

「本人は自覚してないんだけどな。自分の中に確固たる芯が通ってるってことを」

 

「それで高校を別にしたのか」

 

「ああ。気付いてほしくてな。…まぁ去年まではそれが正解だったのかはわからなかったけど、ハロハピに入ってからの花音を見たらこれで良かったと思うよ」

 

「なるほど」

 

「それで?」

 

 

 空気を緩めるための話は終わった。俺は本題に入らないといけない。だが、俺自身答えを明確にはできていない。ぼんやりと輪郭があるだけ。

 

 

「恋愛って辛いものなんだなって最近思ってきた」

 

「9割方答えにたどり着いてるじゃねぇか。……それでもお前は立派だよ」

 

「どこがだよ。何もできてないんだぞ。ずっと周りに迷惑かけてきた。傷つけた」

 

「それでもだ。恋愛は誰も傷つかずにすむなんてことはない。知らないうちに惚れられて、知らないうちに傷つけることだってある。特に俺たちみたいなアイドルはそれが当たり前だ。知ってるか、知らないか、その違いしかないんだよ」

 

「そういうもの、なのか」

 

「…もう一度言うぞ。それでもお前は立派だ。俺は知ってる奴が傷つくのが嫌だから逃げ続けてる。…だから雄弥の方が人として向き合えてるよ」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「松原さんはクラゲが好きなんですか?」

 

「うん!見てると落ち着くんだ〜。特にねこのフォルムがねーー、」

 

(変なスイッチを押してしまったようですね…)

 

 

 松原さんによるクラゲトークが繰り広げられ、なにやら私までクラゲに惹かれそうになったところでなんとか話を止めることができた。あのままだったら洗脳されていたかも…。

 

 

「うぅ〜。ごめんね紗夜ちゃん。私クラゲのこと話し始めると周りが見えなくなっちゃって」

 

「構いません。松原さんの新たな一面が見れてよかったです」

 

「あ、あはは…。ちょっと恥ずかしい、かな。……雄弥くんたちの話が気になる?」

 

「は?…いえ、そういうわけでは……。気になります」

 

「だよね。きっと話の内容は……」

 

分かっています(・・・・・・・)。それでも…私は…」

 

「…ごめんね」

 

「謝られることではないですよ」

 

 

 そうだ。松原さんに謝られるようなことじゃない。雄弥くんとのデートができて良かった。今井さんが取り付けた約束とはいえ、彼に誘われて行った今日のデートは本当に楽しかった。

 

 

「……彼の中で答えがほぼ出たのでしょう」

 

「…うん。私もそう思う」

 

「…わかっていた…ことなんですけどね」

 

「紗夜ちゃん……」

 

 

 松原さんにそっと手を包まれる。彼女らしい慈愛に満ちた手の温もり。それに泣きそうになったのを我慢する。まだ彼の口からは言われていないのだから。

 雄弥くんたちと合流した時にはなんとか元通りになれた。四人でショーを見に行こうという話になり、四人で横並びに座る。私と松原さんが内側で、両サイドに雄弥くんと秋宮くんが座る。

 

 

「イルカショーでしょうか?」

 

「それもあるみたいだけど、ペンギンショーとアシカショーをやった後にイルカみたいだよ」

 

「豪勢だな」

 

「出し尽くしって感じだな」

 

「…っと、悪い、電話だ」

 

「誰から?」

 

「…瑛太?」

 

「は?なんであいつから……雄弥、ここで電話に出ろ。まだショーは始まってないから問題ない」

 

「わかった」

 

 

 瑛太さんから連絡が来ることが珍しいのかしら。それとも瑛太さんから連絡が来るのは、なにか問題が起きたということなのか。それは雄弥くんが電話に出ることでわかること。

 

 

「瑛太どうした?」

 

『あ、兄貴っすか?お、おお、お落ちついてきいてくだせー』

 

「お前が落ち着けよ。じゃないと俺は聞き取れないぞ」

 

『す、すいやせん。……すぅー。はぁー。…兄貴、大変なことになりました』

 

「大変なこと?」

 

『見ちまったんです。遠目だったんすけど、見間違いではないです』

 

「何をだよ。肝心なとこが抜けてるぞ」

 

『結花さんと姉さん(・・・)が誘拐される所を見たんすよ!』

 

「は?誘拐?誰がだって?」

 

 

 ゆう、かい?…瑛太さんと雄弥くんの共通の知り合いは、私が知る限りではRoseliaとAugenblickぐらいで。それで誘拐があって雄弥くんに電話が来たということは…。

 

 

「リサが…誘拐された?」

 

 

 今日のデートが終わった瞬間だった。

 

(けれど、大切なメンバーの身が危険に晒されているのだから、それに比べたら小事ね)

 




ある意味テンプレな誘拐ネタ!
ゲームとかでもこういう章の区切り方ありますよね!(RPGは軌跡シリーズしかやったことない)

脱字報告ありがとうございます!また見落としてしまった…。
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