「雄弥の…古巣?」
「まじで誰だお前」
短刀を片手にニヤけながらもこっちを観察してくる乱入者に意識を傾ける。部屋にはさっきまでいなかったことから、割れていた窓から入ってきて気配を消していたのだろう。切りかかって来る時まで気が付かなかった。
「…どうやらボケってわけじゃなさそうだな。あ~あ、せっかく
「俺の過去を知ってるようだな」
「ああ、よく知ってるぜ?」
「ま、待って!…今度こそってどういうこと!?それに生きてるだけでも奇跡ってそれじゃあまるで…」
「まるでじゃねぇぞ?美少女ギャル。俺はコイツを始末しようとしたんだからな」
「っ!?」
リアクションを取らない俺よりも、人として当然な反応をするリサが面白いのか、危険人物は愉快そうに口を歪ませた。だが、さっきの話で引っかかりがあるのも事実だ。『超えた証明』、『始末しようとした』、まだ超えていないのならなぜ俺は記憶を失ったのか。さして興味はないがな。
「ところで」
「あ?」
「お前は俺を知ってるようだが、俺は覚えてない。なんて呼べばいい?危険人物Aか?」
「は?…ははっ、はははははっ!この状況でそんなこと言ってくるとか。馬鹿なんじゃねぇの?…今の俺のコードネームはあんたから奪い取った"ファースト"だ。それでいいんじゃねぇの?元ファーストさんよ」
「俺の元の名なんてどうでもいいが…。じゃあファースト、帰れ」
「こっちも仕事なんでな。それは無理だ」
「どうせその無能は出るとこに出されてしょっぴかれるのがオチだぞ?」
「ははは!儂がそんなことになるわけがないだろう!後ろ盾があるのじゃぞ?組織の重役の一角の儂が捕まることなぞありえんわ!」
やけに機嫌がいいな、腹でも壊したか。それにしても裏にも染まれない中途半端な人間をそんな役職に置くと本当に思ってるのだろうか。変に絡んできた元社長を無視してファーストから目を離さないようにしとかないとな。
「ま、俺の上司はこの爺さんじゃ無いからな。俺は俺の仕事をするだけだ」
「あっそ」
「そろそろ始めるか」
「…好きにしろ」
「そうさせてもらうぜ!…………は?」
「……っ!!ぐっ!」
お互い様子見のつもりだった。もちろん手を抜くってわけでもないが。ファーストは当然俺が攻撃をいなすと思っていたのだろう。信じられないものを見るように目を少し見開いていた。
俺も当然攻撃をやり過ごすつもりでいた。しかし、
俺の意識は急速に遠のいていった。
〜〜〜〜〜
雄弥が斬られた。
大きく斬られてその傷口から雄弥の血が溢れて出てくる。アタシはこういうの苦手だけど、それよりも雄弥が出血してるの自体初めて見た。だからアタシの頭はパニックになって、塞ぎきれないのに持ってるハンカチで雄弥の傷を塞ごうとしていた。
「雄弥!しっかりして!……なんで、なんで!?なんでこんなことしたの
アタシは敵を見るように強く結花を睨んだ。だけど、当の本人の様子を見ると、わけがわからなくなった。だって結花は体を震わせながら泣きじゃくってたから。
「…ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。だって…こうしないと…私が」
「…なるほど、後ろからコイツにスタンガンを当てて俺の攻撃を避けれないようにしたのか。チッ!余計なことをしてくれたな。……あー、そうか、アンタが爺さんの…なるほどな〜」
結花から雄弥に視線を戻したら、雄弥の瞼はほとんど閉じかけていた。アタシは胸を締め付けられた。だって、こんなんの、こんなの!
「やだ!やだよぉ、雄弥死なないで!アタシを残していかないで!…ゆうやぁ。…ずっと一緒にいてよぉ…」
「悪いなギャル。そいつはもう無理だ」
「やだ!やだやだやだやだ!そんなのやだ!」
だって雄弥ともっと一緒にいたい。まだ海に行ってない。まだ夏祭りに行ってない。花火もまだで、アタシの誕生日だってまだで。友希那と雄弥の誕生日だってまだで、ハロウィンも、クリスマスもお正月だって。来年の春にまた花見に行く約束もしたんだ。雄弥と出会ったあの場所に!……なによりも、
──アタシの気持ちをまだ伝えられていない
「今度こそ雄弥は死んだようだな!はははっ!よくやった結花、ファースト!」
「チッ。爺さんのためじゃねぇよ。つまらないことしやがって」
「……」
「…ギャル。なんならアンタもそいつのとこに送ってやるよ」
「え…」
「貴様!その娘は儂の戦利品だぞ!」
「黙ってろ。アンタも送ってやってもいいんだぞ?」
「ひっ!!…こ、この儂にたてつきおって、後で覚えておれよ」
「そんなもん知ったこっちゃねぇよ。…で、どうする?」
雄弥を斬った短刀を手元でクルクル回しながら気楽に聞かれた。この人は、ずっと同じようなことをしてきたから、人を斬ることになんの抵抗もないんだ。
「もう…雄弥と一緒に……いられないんだよね?」
「ああ。そいつは助からないからな」
「そっ、か…」
雄弥がいない日常。一度それを味わったけど、あの時はただ雄弥が湊家から出ていっただけだった。それでもアタシはずっと寂しかったし、悲しかった。なんど涙を流したことか。
けれど今回は雄弥が帰ってくることはないんだ。
「……雄弥がいない世界なんて」
雄弥がいない生活。離れているとかじゃなくて、電話しても絶対に雄弥が出てくれない。顔を見ることも、声を聞くこともできない。あの温かさを感じることができない。あの輝いてる姿を見ることができない。そんな世界なんて…そんな世界なんか…。
「いらない」
「わかった。楽に死なせてやるよ……っ!テメェ!」
アタシの首にめがけて振るわれた短刀は、アタシに触れることがなかった。短刀を持っていた腕を
「…ゲホッ、ゲホッ。…リサ、簡単に命を投げ出すな」
「…ゆうや?」
「その傷でどうやって生きられるってんだよ!!」
「俺は丈夫だから…な。それに案外走馬灯って便利だな。…知らない記憶も見れたおかげである程度思い出せたぞ。
「限度ってもんがあるだろ!…くそっ、あの体勢からで腕へし折るのかよ。…そういや昔も常識外れだったな。異常なまでの頑丈さと回復力、それが
「そこで…ガフッ、ちょっと大人しくしとけ。…リサ」
へたりこんでるアタシに視線を合わせる雄弥からアタシは視線をそらした。アタシは雄弥に怒られると思ったし、それに今まで見たことがない目をしてたから怖かった。
「友希那が俺に言ってただろ?『自分を想ってくれる人のことを考えろ』って。リサも考えないと駄目だろ」
「けど、だって……アタシは」
「リサ、俺はリサのことがこの世界の誰よりも好きだ」
「…ぇ?」
「俺にはリサがいてくれないと駄目だ。リサ以外の人じゃ駄目なんだ。リサとこの先を二人で生きていきたい。駄目か?」
「駄目…じゃない。アタシも……アタシも雄弥のことが好き!世界で一番好き!雄弥とずっと一緒にいたい!雄弥と幸せになりたい!」
「よかった…ゲホッ。……じゃ、もう死ぬなんて言うなよ」
「うん!雄弥」
「どうした?」
「んっ」
軽く当てるだけのキスをした。雄弥は驚いてたけど、嬉しそうに笑ってくれた。初めて見た雄弥の優しい笑顔がアタシの心を溶かしていく。冷えていたアタシの心は雄弥の温かさでいっぱいになって、雄弥と両想いだってわかったら目頭が熱くなった。
今度はさっきまでとは違う、温かい雫がアタシの頬を伝った。
〜〜〜〜〜
「ハイハイおめでとさーん。今日一日だけのカップル成立だな。片腕折られたせいで拍手もできねぇよクソやろう」
「今度こそ息の根を止めてやれ!結花!お前も手を貸せ!」
「…わた、しは」
あの爺さんはホントにどうしようもないな。自分では何もしようとしないとは…。それはともかくとして、正直血が流れ過ぎててキツい。今は気力でどうにかしてるってとこだ。…リサの手前見え張ってるってのもある。ぶっちゃけファーストの相手をできる気がしない。だから先にすることは──
「…結花は元社長のいいなりでいいのか?」
「……」
「はっ!そいつは儂には逆らえんぞ!」
「親だからか?」
「「「!!?」」」
「なんだ兄貴知ってたのか」
「な、なんでそれを…」
「愁から聞いた。全部知ってる」
ファーストは今は動く気がないようだから、俺は結花の方に向き直った。結花は目を見開いていたが、俺と目が合うと顔を伏せた。結花はあの男に縛られている。だからこの日でそこから抜け出させる。これはAugenblickの意見だ。そして俺もそう思っている。
「その腹の傷も実際には子宮まで届いてないんだろ?ギリギリ子宮は無事。だけど結花は子どもを産めない」
「雄弥それってどういうこと?」
「そういう薬物の服用と従属を命じられて、その代わり母親の借金を肩代わりしてもらってる。そうだろ?」
「…よく調べたね。そうだよ。だから私は…」
「お前は馬鹿か」
「いたっ、雄弥?」
俯いている結花にチョップをいれると、やっと結花は目を合わせてくれた。なんか元社長が騒いでいるが、相手する気はないから無視。
「あのな、
「っ!…けど…こんなの…言えるわけないじゃん!」
「迷惑かけあっていいだろ?支え合うのが仲間だろ!?結花はAugenblickのボーカルなんだから。俺達を頼れ」
「…ごめん。嬉しいけど…やっぱり無理だよ。だって借金の金額が金額だもん」
「それぐらい一気に稼げばいいだろ。愁のやつが夏休みを使って海外ライブすることを企画してる。収入も莫大になるはずだ」
「海外、ライブ?」
「借金のことは気にするな。全員で手伝ってやる。それともこれからも、アレの下にいるか?…好きな方を選べ。強制はしない」
「……ほんとに、わがまま言っていいの?私…みんなのお荷物にしかならないよ?」
「わがままを言えばいい。結花一人ぐらい俺達四人でいくらでも背負ってやる」
「…私……私みんなと一緒にいたい!もうあんな薬飲みたくない!お願い雄弥、私を助けて!」
「任せろ」
「ふざけるなぁぁぁーーー!!」
さっきまで無視されてたのがイラついてたのか、元社長がさらに大声で怒鳴ってきた。さすがに煩いからそっちに目を向けると、短銃を構えていた。
「そんな勝手を許すと思っているのか!?父親を捨てるだと?この親不孝者が!!」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!先に捨てたのはテメェだろうがよ!利用するだけ利用して、結花の幸せを邪魔して、自分が困った時だけ父親ヅラしやがって!テメェなんかが父親を語るな!!」
「なんだとぉ!」
「まぁまぁ爺さん落ちつけって。アレは俺の獲物だ。爺さんは高みの見物でもしときな」
「ふんっ!細切れにしてやれ!」
「それは難しい…が、…今のアンタならヤれそうだな」
「やってみろ、ファースト」
啖呵を切ったのはいいが、さてどうしたものか。傷の具合から考えて超短期決戦にしないといけない。やるならカウンターが最適だが、それは向こうも分かってる。そう簡単には思い通りにならないだろう。
だから、俺から仕掛けるしかない。今出せる全ての力を出しきってどうにかするしかない。一瞬で距離を縮めるがファーストもその速さに対応する。折れている右腕を利用し、そちら側に回り込みながら戦う。だが、ファーストも短刀を逆手に持ち体を回すことで俺に仕掛けてくる。
攻撃をかわし、仕掛け、足を踏んで逃れられないようにする。こっちは出血で消耗が激しいが、向こうは片腕が使えない。
(目を見開け。何一つ見逃すな。指先一つまで神経を張り巡らせろ)
なかなか有効打が入らないでいると、足を踏まれていたファーストが反対の足で俺を蹴飛ばして距離を開けた。蹴られた衝撃でさらに血が流れ、その場に膝をつく。だがファーストは仕掛けて来なかった。通信が入ったからだ。
「その出血でなんで動けんだよ……くそ、通信?……どうした?」
『ファースト、今すぐそこから撤退しろ。報酬は貰ってるからソレは放っておいていい』
「それでいいならそうするが…今、元ファーストが目の前にいるんだ。コイツと決着つけてからでいいよな?」
『駄目だ』
「は?なんでだよ!?」
『"死神"もその建物内にいるぞ』
「…まじかよ」
『撤退しろ』
「…わかった」
通信が終わると同時にファーストから戦意が消失するのがわかった。短刀もしまったということは、戦わないのだろう。
「なんだ帰るのか?俺としてはありがたいが」
「ここにいたら命が危ないんでな。ここいらで「ここか」…もう来やがった」
「ひっ!き、貴様儂にそんなものを向けるな!」
「それは聞けないな。元社長の高尾宏太朗。あ、そうだあんたのあの趣味の悪い黒い車もついでに解体しておいたから。もう乗る機会も無いんだしいいだろ?」
「何を勝手なことを!ぐおっ!!」
「とりあえず黙っててくれるか?」
「なんだ疾斗か」
「疾斗?…こいつが秋宮疾斗か!」
「知られてるとはな〜。情報通だったりするのか?ファーストさん」
「はっ!あんたみたいな特異な奴は有名なんだよ。アイドル業も入れたらトリプルフェイスだしな」
「さてなんのことやら」
「けっ、…まぁいいや。爺さんは喧嘩売る相手を間違えたな。俺はトンズラさせてもらうぜ」
「二度と来るな」
「俺ももう来たくねぇよ。死神の相手はごめんだからな」
「なぁっ!儂を見捨てる気か!待て、助けていかんか!おい!」
疾斗に得物を突きつけられて動けない元社長の懇願は、虚しく響くだけだった。何とも呆気ない幕引きだ。だって、初めから疾斗と来ていたら斬られずにすんでたということだろ?
「まあアレは追いかけなくていいか。…って雄弥どうした!真っ赤じゃねぇか、イメチェンか?」
「よくネタをぶちこめるな。…ファッションに挑戦しただけだ。お前も遅かったじゃねぇか、迷子か?」
「ヤクザを拘束するためのロープとかテープとか、そういうの探してたんだよ。警察と救急車は愁が呼んでくれてる。これで終わりだな」
「結局呼んだのか。こいつ、上とパイプあるんじゃねぇのかよ」
「そ、そうだぞ。儂をこんな目に合わせよって、貴様らを捕まえてやるわ!」
「サイテー」
床に座り込んでる俺を心配して寄り添ってくれてるリサが、心底嫌った顔で元社長を睨んだ。まぁ当然だな。余裕そうな顔をしてる元社長はすぐに顔色を変えることになるわけだが。
「あ~そうそう。アンタは牢屋に入るからな?アンタは組織に捨てられたわけだし」
「何を世迷い言を。儂を捨てるだと?ありえんわ!」
「ならずっと勘違いしてたらいい」
「とりあえず煩いから黙れ」
「…貴様は必ず地獄へ落としてやるからな!確実に落とすまで何度でも襲撃してくれるわ!」
「夢ん中でやってな。…そういやお前リサの体触った上に泣かせてたよな?」
「それがどうした!」
「お前が先に地獄を見ろ」
「…エゲツな」
残ってる力を振り絞って一瞬で元社長との距離を縮めて本気で顔面を蹴飛ばす。若干意識が残ってそうだったから今度は全体重を込めて拳を振り下ろした。完全に意識を飛ばしたことを確認してから数歩下がって、また座り込んだ。
(コイツがリサにやったことに比べたら優しいもんだろ)
「…そろそろ限界だな」
「とりあえず傷口を覆うから寝転がってろ。応急処置すらできる用意もないが、何もしないよりましだろ」
「頼んだ」
仰向けに寝転んで疾斗に処置をしてもらう。どこからか取り出した大量のガーゼを傷口に当てられてた。まじでどこにしまってたんだよ。
頭を持ち上げられたと思ったらリサにそのまま膝枕された。泣きそうな顔をしてるのは、俺のせいか。笑顔にさせるのって難しいな。
「雄弥…ごめん、私のせいで」
「結花か。…死ぬ気はないから別にいい」
「そんなの私がよくない!」
「…じゃあ次のライブで罰ゲームな。それでチャラだ」
「…そんなのでいいの?」
「ああ…。…無茶ぶり…してやる」
「雄弥!」
「リサ…大丈夫死なないから。どうせ病院…運び込まれる…だろうからさ。…リサの料理……食べたい。……病院のご飯って…味がしないから」
「うん…作る…絶対に持っていくから」
「ありがとう。…疾斗、後で…紗夜に…謝っといてくれ…約束破ってごめんて」
「自分で言えよ。寝て休んで、目が覚めたときに謝れ」
「はは…そうだな。じゃあ…ちょっと休むわ」
「おう。ライブまでには復帰しろよ」
「当たり前だ」
俺はリサの膝枕という最高に寝心地がいい状態を満喫しながら意識を手放した。
戦闘描写とか無理だよ!→ほとんど戦闘らしい戦闘しなきゃいいか。ってなりました。
走馬灯で記憶が戻る?僕もそんなことは知りません。勝手に戻るということにしました。(。-∀-)
この作品で裏側の人間が出るのはこの事件が最後です。
☆9評価 愛と勇気だけが友達ださん ありがとうございます!