意外と熟睡できて朝を迎えた。麻酔が抜けたようで体を動かしやすく、隣で眠っているリサの髪を優しく撫でながら、入院中何するかを考えていると看護師が入ってきた。
「湊くん起きてます……か?」
「おはようございます看護師さん。えっとお名前は?」
「へ?あ、ああ、宮井です。湊くんの担当になりました。よろしくお願いします」
「宮井さんですか。これはご丁寧に、だいぶ苦労をかけてしまう気がしますが、よろしくお願いします」
「そんな、それが私の仕事ですから。……ってそれより!」
「はい?」
「なんで女の子がそこで寝てるの!?」
ビッと勢いさした指の方向は俺ではなく、少し下にそれて寝ているリサだった。髪を撫でると気持ちよさそうに身をよじるリサに目をやりつつ、なんと説明するかを考え、ある程度伏せながら事情を説明することにした。
「そ、そういうことだったんですか。それなら食事は二人分ですね」
「リサも俺と同じ物を食べるハメに?」
「罰ゲームみたいに言わないでください。リサさんには別のを用意します」
「俺もそっちでお願いします」
「駄目ですよ♪」
「残念です。それはそうと、リサの事情についてですが」
「口外しませんので安心してください。あ、でも湊くんの担当の先生には、湊くんから説明してくださいね?」
「それはもちろん」
「それでは朝の検診を始めますね?まずは体温を測ってください。その間にいくつか聞きますので答えてください」
「わかりました」
「ん、…ゆうや?」
リサも起きたようで眠そうに目を擦りながら体を起こした。けっこう寝てたなと思ったが、それだけ心労があったということか。渡された体温計で体温を測りながら、眠そうにしてるリサの髪を撫で続ける。
「おはようリサ。よく寝れたか?」
「うん…ゆうやがいたから。ゆうや〜」
「どうした?」
「んー」
「…なんだ?」
「……おはようのちゅーは?」
「そんなの初めて聞いたんだが、…わかったから叩くな」
寝ぼけてるからなのか、どこか幼児退行したようなリサは舌足らずになりながらせがむように甘え、不満を抱いたら叩いてきた。それでも怪我を気づかって腕を軽く叩くだけだった。リサが叩くのをやめたところで、左手をリサの頬に添えて顔を近づける。瞳閉じて待ってるリサの唇に俺の唇を軽く当てたところで体温計が鳴る。
「改めておはようリサ」
「おはよう雄弥♪体温計って、熱測ってたの?」
「ああ。朝の検診らしい」
「へー……ん?検診?」
「ほら、リサの後ろに看護師の宮井さんがいるだろ?その人が担当さんらしい」
「え"っ…」
何かを刻むようにぎこちなく自分の後ろに振り向いたリサに、検診表で目から下を隠していた宮井さんが申し訳なさそうに頭を下げる。後ろからだとよくわからないが、耳が赤くなってるということは、おそらくリサの顔が真っ赤になってるんだろう。
「ぁ…ぅあ…」
「えと、ごめんなさい。…けど大変仲がいいようですし!私は応援…しますよ?」
「もうやだぁー!」
「人の布団で包まるなよ」
「貸して!」
「いいぞ」
「いいんですね…」
「寝るわけでもないですからね。はい体温計。平温でしたよ」
「あれほどの怪我の後は熱が上がるはずなんですけど…。まぁいいです。元気なのが一番ですから」
「それで後は問診でしたっけ?」
「はい。楽な姿勢で答えてくださっていいですよ」
「わかりました」
問診は一日の間でも定期的にするらしい。患者の異常に逐一気づくためなんだろう。病院の人たちの気苦労は凄まじそうだ。
朝食をリサと病室で取り、今はリサと雑談しながら時間を潰している。携帯を見たら、友希那からほぼ毎日交代で誰かしら御見舞に来るというメッセージがきていた。昨日はろくに話せなかったからだろう。ちなみに今日は疾斗と結花らしい。
朝食も宮井さんが持ってきてくれて、リサと宮井さんはその時にすぐに打ち解けていた。お互いにすぐに仲良くなれる性格のようだ。リサは案外看護師がのような仕事が向いているのかもしれない。宮井さんもそう思ったらしく勧誘していた。言い方は軽かったが目は本気だった。
「アタシって看護師向いてるのかな?」
「リサはいつも笑顔だろ?入院してる人って不安になることが多いから、リサみたいな人がいると安心するんだろ」
「雄弥は?」
「うん?」
「雄弥はアタシがいたら安心する?」
「当たり前だろ。リサがいてくれる時が絶好調だ」
「そっかそっか。えへへ…進路の一つとして考えとこっと♪」
「Roseliaで続けていかないのか?」
「だから候補の一つだって。ずっとみんなといられるならRoseliaが一番だよ」
Roseliaはいつまで続けるのだろうか。少なくとも大学やら何やらに進学した後も続けるんだろうが、その後はわからない。その後も続けようと思ったら音楽で食べていくしかない。その辺は友希那次第か…。
「おっす雄弥!………お邪魔しましたー」
「え、なになに?二人は何してるの?」
「いやいや待ってよ!アタシ達が変なことしてたみたいな反応しないでよ!」
ベッドで横に並んで座っていたリサは慌ててベッドから降りた。疾斗も結花もノリでやってるんだろうが、知らない人からしたら本当に問題行動してるみたいになるからな?
「リサ!ついに雄弥くんの子供を!?」
「母さん変なことを大きな声で言わないでよ!って母さん!?」
「皆さん病院ではお静かに!!」
「宮井さんも大変ですね」
「湊くんが止めてくれたらいいんです」
「病院の人が言う方が効果的でしょ?」
「…はぁ。皆さんもう騒がないでくださいね」
「わかりました。私が見ておきますね」
「お願いします」
なるほど、母さんがいるならその辺はしっかりするか……母さんが来たのか。困ったな、反省することしかないぞ。母さん以外にも友希那と父さんもいるし、リサのお父さんもいる。…って湊家と今井家が集合してるのか。
「雄弥」
「ごめんなさい」
「まだ何も言ってないでしょ」
「父さんたちが言いたいことはわかるか?」
「身勝手に事件に首を突っ込んだこと、入院したこと、心配をかけたこと。反省はしてるけど後悔はしてない」
「ならいい。思っていた以上に状態も良いようだしな」
「あなた」
「リサちゃんも結花も雄弥も無事だった。それが分かれば十分だろ?」
「…わかったわよ」
珍しく父さんが母さんを説得した。いつもなら見守るだけなのに。…なにか裏があるのか勘ぐってしまいそうだ。
「雄弥くん私たちからもお礼を言わせて。娘を助けてくれてありがとう」
「いえ、結局俺はリサを泣かせてばっかですから。…教えてもらったことを守れてないですよ」
「ふふっ、今回は特例よ。覚えていてそれに気をつけているならそれでいいわ♪ね?お父さん?」
「ああ。退院したら改めてお礼をさせてもらうつもりだ」
「…わかりました。ありがとうございます」
「さてと、それじゃあ事の顛末を話させてもらおうかな」
疾斗がそう切り出すと病室にいる全員が疾斗に目を向ける。この場には関係者しかいないから疾斗も今話しときたいんだろう。…いや、そのために集めたのか。
「まずあの元社長は逮捕。叩けばいくらでも埃が出てくる男だから罪はだいぶ重たいだろうな。愁のやつも珍しく頭にきてたらしいから張り切って情報収集してたぞ。10年以上は牢屋ってとこらしい。それと結花の問題も片付ける目処がついたぞ」
「結花の問題?どういうことだ?」
「…結花話してなかったのか」
「話出せることじゃないよ…。けど、話さないとね」
結花が自分に関わる話を全て話した。話し終えると同時に結花は母さんに抱きしめられる。母さんは情熱的なとこあるからな。
「ごめんなさい。そんなのを抱えていたことを、私は気づけなかった」
「…隠してたんだから…当然だよ」
「大人は子供が隠そうとすることを気づかないといけないの!それが
「か、ぞく…?」
「そうよ。あなたはもう湊家の一員なんだから!だから…もうこういうことは隠さないで」
「あ、…あはは、家族…だなんて。私…こんなの…知らないよ。こんな…あったかいの…今まで…一度も。…ぅ…あぁぁ、うわぁぁぁ!」
家族、ね。本当に母さんは凄いな。結花が作ってた壁を一発で壊すんだから。友希那とリサと目線を合わせては微笑み合う。…俺が笑えてるかは知らないが。
ひとしきり泣いた結花は、ハンカチで涙を拭きながら照れくさそうに赤くなった目を隠した。
「ごめん疾斗。もう大丈夫だから」
「おう!んで、えっと結花の借金返済作戦の話だったか」
「そんな名称はさっきなかったぞ」
「いいんだよ。今決めた。で、夏休みにヨーロッパ行くぞ!そっちでライブして収入を返済に充てる。スタッフの給料はちゃんと払うからそこは安心しろ」
「…みんなのは?」
「全部結花に回す。これは俺たち四人の総意だ」
「言ったろ?いくらでも助けるってよ」
「ごめん…」
「謝るとこか?」
「あはは、違うか。…ありがとう」
「いいってことよ!ヨーロッパのどこ行くかはこれからだけどな。ライブ場所を抑えないといけないし、観光名所も調べないとなー」
「その辺はいつも通り任せた」
「半分遊びになってない?」
「入院してるやつに仕事を回すわけ無いだろ。雄弥にやる仕事は安静にすることだけだ。それとAugenblickがどっか行ってライブする時はいつもこうだからな!」
「…難しい仕事だな」
「もうツッコミがめんどくさいや」
笑い出す疾斗とリサにつられるように全員が笑い始める。病室に少しの間笑い声が響くのだった。
〜〜〜〜〜
「それじゃあ父さん達は帰るぞ。安静にしておけよ?」
「わかってるって」
「友希那見張っといてね?」
「もちろんよ」
「信用ないのな」
「リサ、私たちも帰るけどどうする?まだこっちにいる?」
「アタシは…どうしようかな」
「リサ、あのことも話してた方がいいだろ」
「あのこと?」
この場で知ってるのは俺とリサと友希那と結花だけ。何も聞かされていないリサの両親と疾斗は首をかしげていた。父さんたちは忙しいようでもう帰ってしまったようだが。
「リサ話せる?」
「…うん。大丈夫だよ。ありがとう友希那」
リサが病院に泊まったこと自体は友希那と結花から聞かされていたらしい。だが、リサが一度帰ろうとしていたことは伏せたようだ。そのことも含めてリサは両親に話した。話している間ずっと震えていたリサの手を握ることで励ます。
「トラウマ?」
「…うん」
「…雄弥はどう分析した?」
「昨日聞いてみた感じだと、"年齢""空間""距離"が要因だと考えてる」
「ま、そんなとこだよな…」
「リサが…そうか…」
「父さん、母さん…ごめん」
「謝らなくていいのよ。元々は大丈夫だったんだから、きっと治るわよ」
「…うん。雄弥も手伝ってくれるって言ってくれたから」
「それなら大丈夫ね」
信頼が厚いな。もちろん手伝うし、できる限りの事はするし、リサを一生支えて、守るつもりでいるからいいんだけどさ。普通専門家に話し聞いたりするだろ。
「それで、車で来てるから帰りはタクシーじゃないけど、結局どうするの?」
「えっと…」
「一旦帰るといい。別にもう来れないわけじゃないだろ?」
「雄弥…うん」
「リサ。また来てくれよ?約束があるしな?」
「あ…うん!雄弥のご飯アタシが作ってあげないとね♪」
「そんな約束してたのね」
「友希那のも作ろっか?」
「……クッキーがいいわ」
「りょーかい!」
「それじゃあこの辺で。雄弥くんまたね〜」
「はい。わざわざありがとうございました」
今井家も帰ったことで残りは友希那と結花と疾斗になった。
友希那と結花は昼過ぎに帰っていったが、疾斗だけは残った。どうやらこの状況を待っていたようだ。
「今回の件の話なんだがな」
「ちゃんと裁けるのか?」
「そこは大丈夫だ。警察の上とも手を切られたようだ。…いや、実際には警察が
「そうか」
「…深くは聞かないんだな」
「推測はついてる。ただそっちに関わる気はない。言う事があるとしたら"ヘマしてんじゃねぇよ"ぐらいだな。あと聞くことで言えばアイツの財産を結花に何割か回せないのか?ってとこか」
「それを言われると謝るしかないな。本当に迷惑をかけた。財産関係はマネージャーがどうにかするだろ」
「ま、リサが無事だったし、結花のこともどうにかなるならいいんだけどな。お前に怒るのは俺じゃないだろ?」
「花音には昨日こっぴどく怒られたさ。こっぴどく怒られて、最後には思いっきり泣かれた」
「一番キツイのもらったな」
「違いない」
疾斗が話したいことはおそらく今からの話だろうな。なんせ、
「まだ話があるだろ?」
「雄弥から切り出すとはな…」
「病室だといつ第三者に聞かれるかわからないからな。今のうちに話すしかないだろ」
「…そうだな。雄弥、お前の古巣だがな…」
「あそこは潰れることはないぞ」
「は?そんな馬鹿なことが…」
「あるんだよ。…どうやら潰したってことを言いたかったんだろうが、あそこは一枚岩じゃない。どこにいるか分からないトップがいて、その配下が数人。そこからまた派生して大量の組織がある。俺の古巣もその中の一つにすぎない」
「…やっぱそういう規模なのか。ま、あの時にいたファーストももう来ないって言ってたわけだし、こっちからアプローチはかけない。それでいいんだろ?」
「巻き込みたくない奴がいるならなおさら、な」
「なるほど。それでお前は?」
「戻ることはできないし、そんな気はサラサラない。そしてお前たちのやってることに手を貸す気もない。今まで通りだ」
「はははっ!それが一番だな!」
(
この後は疾斗と日が暮れるまでダベった。入院のせいで仕事にも影響が出ており、その話やこれからの話など真面目な話も踏まえながら。
疾斗が言うには、明日は花音とパスパレメンバーの誰かが来るらしい。伏せ方が悪意だらけだ。
序盤は書いてて文字が砂糖になったのかと思いました。
ラストに裏側の話がちょこっと出ましたが、主人公は関わりません。もう巻き込まれることもありません。
☆10評価 伝説のラグネルさん
☆9評価 峰風さん ありがとうございます!