陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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5話

 部屋にあるテレビでニュースを見ていると、一昨日の事件について報道されていた。俺が事件に関わって入院したために出演していた作品、出演予定作品に出られなくなったこと。ライブへの影響の懸念などが報じられていた。さらに元社長が首謀者であり、ヤクザが関わっていたこと、元社長も彼らも纏めて逮捕されたことも報じられていた。

 

 

「おはようございます湊くん。今日も朝の検診ですよ」

 

「おはようございます宮井さん。大変そうですね」

 

「いえ。実は私研修生なので、先輩方に比べたら担当する人が少ないんですよ?5人もいないです」

 

「そうは言っても担当患者のケア以外にもやることあるでしょ?」 

 

「あははー、ご存知でしたか。でも皆さんいい人なので元気が出るんです」

 

「そうですか」

 

 

 体温計で体温を測ってる間に問診に答えていき、それが終わったらまた軽く雑談。昨日一日で定着したやり取りだ。こっちは退屈しのぎのため、向こうはコミュニケーションを取ることで患者の状態を知るため、といった具合にお互いにメリットがあるからだ。

 

 

「宮井さん。食事のことですけど」

 

「我慢してください♪」

 

「ざんねんです」

 

「ですが、昼食か夜食のどちらかならリサちゃんの食事でもいいですよ♪こちらから摂取してもらう栄養を伝えて、それを取れる食事ならOKということになりました。許可もらうの大変でしたよ?」

 

「ありがとうございます。…呼び方変わったんですね」

 

「気が合いますし、打ち解けられましたから!」

 

 

 この人働きすぎとかになりそうだな。それとか、患者と医者の板挟みになりそう。…看護師ってたいていそうなるのか?それはひとまず置いといて。

 

 

「リサはそのこと知ってるんですか?」

 

「はい。昨日先生から許可をもらってすぐに連絡しましたから」

 

「…連絡先交換するの早いですね」

 

「女の子はそういうものです」

 

「そうですか。……今日って平日でしたっけ?」

 

「そうですよ。お友達が来るとしても夕方頃ですね」

 

「暇ですね」

 

「何か本でも持ってきましょうか?」

 

「…お願いします」

 

 

 他の患者のところにも行くらしいので、宮井さんは部屋を出ていった。しばらくテレビを眺めていると朝食が運ばれてきて、味わうもなにもないその食事を済ませる。今はひたすら休むしかないため気分転換に勝手に外に行けないのが面倒だ。…トイレとシャワーだけは勝手に行ってるが。テレビを見るのも飽きて窓の外を眺めていると、ドアがノックされた。

 

 

「どうぞ」

 

「お邪魔しまーす。雄弥調子どう?」

 

「退屈で大変だったが今絶好調になった。…学校はどうした?リサ」

 

「今日は休んどけって母さんが」

 

「…そうか。それにしても一人で来たのか?大丈夫だったか?」

 

「うん。母さんに病院の前まで送ってもらって、宮井さんに女性ばっかの道を教えてもらって来たから大丈夫だったよ」

 

「仲良くなるの早いな」

 

「ちょっと妬けた?」

 

「俺が嫉妬する人間だとでも?」

 

「あはは、それもそうだね!」

 

 

 ずっと立っているリサに座るように手招きする。椅子に座るかと思いきやリサはベッドに登ってきて横に座った。肩に頭を預けてきたからリサの香りが鼻をくすぐる。

 

 

「…学校には通えそうか?」

 

「ま、女子校だからね〜。全ッ然男の人いないよ。それに友希那がいるし、同じクラスには日菜もいるから大丈夫だと思う。他にも友達いっぱいいるしね♪」

 

「それはよかった」

 

「心配してくれてありがとう〜。…ねぇ、今年は雄弥と夏休み一緒にいれないの?」

 

「海外ライブのことか」

 

「うん。単発じゃなくてツアーなんでしょ?」

 

「そうだな。大規模なツアーになるな」

 

 

 体が触れ合っているから、リサの体の震えがダイレクトに伝わってくる。一緒に過ごせないことの寂しさだけではないんだろう。リサの手助けをすると言いながら夏休みに入ったらこの街どころか、この国からいなくなるんだ。リサが不安になるのも仕方ない。

 

 

「けど、どうだろうな。愁と疾斗が決めるからな。…結花も話に混ざってるんだっけな。少なくとも俺と大輝はそのへん全部関わってないから、具体的にはわからないな」

 

「そうなんだ…。アタシは、雄弥と一緒にいたいんだけどな〜…」

 

「…ごめん」

 

「ううん。結花のためだもんね。夏休みに海外行くならそれ以外の日は他の仕事になっちゃうだろうし……それも仕方ないよね」

 

「リサ…」

 

 

 俺は顔を伏せているリサを強く抱きしめた。リサの体が強張るが、少ししてからリサの腕が背中に回される。

 

 

「ほんと…俺は馬鹿だよな」

 

「アタシは…そんな雄弥が好きなんだよ?寂しくなったりするし、不安になったりすることもあるけど、それでも雄弥の全部が好き。だから…今年は結花のために頑張って」

 

「…本当にリサを好きになれてよかった」

 

「あはは〜、雄弥にそう言われると恥ずかしいや」

 

「だからさ、リサ。…必ずスケジュール空けるから」

 

「へ?」

 

「リサと過ごせる時間をを必ず作る。リサは我慢しなくていい。わがままを言ってくれ。俺はどうしたらいいかわからないことばっかだから、言ってくれないと気づけないことが多いから、我慢しないでくれ」

 

「……ほんとにバカ。そんなこと言われたらアタシ抑えないよ?雄弥にいっぱい甘えて、雄弥にいっぱい無理言って、雄弥をいっぱい困らせるよ?」

 

「ああ。それでいい。それがきっと俺たちの在り方だろうから」

 

「重たい女に捕まったね?」

 

「そんなことない。丁度いいさ」

 

「えへへ、ありがとう♪」

 

 

 どちらからでもない。同じタイミングで顔を近づけていき口を重ねる。あの時とは違ってリサは強く押し当ててくる。まるで自分のものだと示すように。俺もそれに応えて受け止める。背中に回している手をリサの頭に移す。

 

 

「んっ…。ゆうや〜」

 

「どうした?」

 

「なんでもなーい。呼んだだけ♪」

 

「そうか。夏に行きたいとこ考えてたりするのか?」

 

「海と夏祭りと花火かな〜。花火は祭りの日にあるだろうから纏めてできるけど、自分たちでする手持ち花火もしたいな〜」

 

「そうか。なんとか休みを作る」

 

「よろしくね♪」

 

「ああ」

 

 

 あとで疾斗に連絡でも入れておくとしよう。入院してると話し合いに参加もできないからな。疾斗に言って休みを確保する。そのためにも先に花音を味方につけとくか。

 優しい笑顔をしてるリサと笑い合っていると、病室のドアがノックされた。今度は来客ではなく、担当医が様子を見に来たようだ。

 

 

「調子はどうだい?湊くん」

 

「おかげさまで快調ですよ先生。というか何気に来たの今日が初めてですね」

 

「ははは〜、これは手厳しいね」

 

「宮井さんから忙しいと聞いていますし、別に手術後の違和感もないのでどっちでもいいんですけどね」

 

「だと思った。手術後に君のお姉さんから、君の人となりを聞いていたからね」

 

「友希那行動が早いな」

 

「お姉さんには頭が上がらないんじゃないかい?」

 

「最近は特に、ですね」

 

「はははっ!ところで、そちらの女の子は?」

 

「っ!」

 

 

 リサとは初対面である先生が当然のことながらリサのことを聞いてきた。面会に来たことは見れば分かるだろうが、なんせ患者と一緒にベッドにいるんだ。疑問に思うのも仕方がない。

 リサは先生に目を向けられると体を強張らせて腕を握ってきた。どうやらタクシーの時よりはマシのようだが、それでも怖さがあるのだろう。俺はリサに目を合わせて「大丈夫だ」と伝え、落ち着かせるように頭を撫でてから先生に説明した。

 

 

「そうだったのか。失礼したね。知らなかったとはいえ君を怖がらせてしまった。…いや、事件のことを考えればそうなる可能性も考慮しておくべきだった」

 

「あ、いえ。アタシの方こそごめんなさい。失礼なことをしてしまいました」

 

「いや、いいんだ。当然の反応だからね。僕も力を貸そう。この病院は大きいからその手の患者を見ている人もいるし、そっち方面の先生にあたってみるよ」

 

「わざわざすみません。ありがとうございます」

 

「自分の専門ではないとはいえ患者がいるんだ。医者なら見捨てないものだよ。まぁ湊くんという君の騎士がいるなら、余計なお世話かもしれないけどね」

 

「先生ってキザなこと言うんですね。仲良くなれそうで安心しました」

 

「ちょっと棘を感じるんだけど…。おっとそろそろ時間だ。特に問題もなさそうだし、僕はこれで失礼するよ。今井さんもゆっくりしていっていいよ。お弁当も食べさせてあげるといい」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「それでは」

 

 

 手を振りながら出て行く先生を見送り、あの先生が人気がある理由に納得する。相手を不信に思わせない程度の気さくさが患者にとって安心する材料になるんだろう。先生がいなくなったことで握っていた力が弱まったが、それでもまだ腕を握っているリサに目を向ける。

 

 

「あの先生は大丈夫そうか?」

 

「一人だとわからないよ…。雄弥がいてくれないと」

 

「俺はまだ病室から自由に動けないからな。…そろそろお昼にするか」

 

「あ…うん!宮井さんに言われた通りの栄養を摂取できるお弁当考えてきたんだ〜。味付けもバッチリだよ♪」

 

「さすがリサだな。どれも美味しそうだ」

 

「見た目だけじゃないからね〜?」

 

「知ってる」

 

「えへへ。そっか…それじゃあ」

 

「「いただきます」」

 

「湊くん本用意できましたよ〜……お邪魔しましたー」

 

「本はそこに置いといてもらっていいですか?」

 

「ツッコミいれてくださいよ!…それがリサちゃんのお弁当ですか?すごいですね」

 

「一口食べます?」

 

「いいんですか?」

 

「はい!」

 

 

 遠慮気味に小さく一口だけ食べた宮井さんは、飲み込んですぐにリサの手を取って求婚し始めた。求婚ということもあってリサは顔を赤くしたが、それでもバッサリ断っていた。看護師たちもこの時間帯に昼食らしく、宮井さんはもう一口だけ食べて病室から出ていった。

 

 

「あはは、まさか求婚されるなんてね〜」

 

「胃袋を掴んだからだろうな」

 

「雄弥のは?」

 

「とっくに掴まれてるよ」

 

「そっかそっか♪あ、食べさせてあげようか?」

 

「一人で食べれるから」

 

「…だめ?」

 

「……お願いします」

 

「うん♪」

 

 

 食べさせられるのは嫌じゃないが、それでリサの食事が遅れるのは嫌だ。だから俺はリサに食べさせてもらいながら、リサに食べさせることにするのだった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「そういや今日は花音とパスパレの誰かが来るらしいんだが、リサは誰が来るか知ってるか?」

 

「ううん、知らないよ。まず花音が来ることも知らなかったし」

 

「そうなのか。……何時に来るんだろうな」

 

「もう夕方だもんね〜」

 

 

 きっと迷子なのだろう。疾斗から聞いた話だと、目を離したらその場にはもういないらしい。先に行ったわけでもなく、どこか全く違う場所に行くのだとか。それがわざとじゃないのがまた面倒なところだ。治せないのだから。

 

 

「噂をすればなんとやらだね。来たみたいだよ」

 

「お、お邪魔します」

 

「お邪魔するわね」

 

「よく辿り着いたな。迷子になってると思ったんだが」

 

「な、ならないもん!今日は千聖ちゃんがいてくれたもん!」

 

「あ〜そのためだけに白鷺を連れてきたのか」

 

「へ?」

 

「花音…あなた私のことを…」

 

「ち、違うよ千聖ちゃん!私はそういうつもりで誘ったわけじゃないよ!」

 

「ふふふっ、冗談よ。花音がそんなこと考えないのはわかってるわ」

 

「ふぇ?」

 

「雄弥、花音をイジメないでよ」

 

「定番のやり取りだからつい」

 

「…もう!!」

 

 

 リサが止めに入ったところで、やっとか花音はいじられていたことに気づいたようだ。わかってて協力した白鷺も同罪なのだが、そこは気づいてないのか?それかわかっててスルーしてるのか。

 

 

「まぁでも雄弥くんが元気そうでよかったよ〜。すっごい心配したんだよ?」

 

「疾斗をか?」

 

「雄弥くんを!…私以上に紗夜ちゃんの方がすっごく心配してたけど」

 

「……そうだな。…紗夜には改めて謝らないとな」

 

「うん。ちゃんと向き合って話してあげてね(・・・・・・・・・・・・)?」

 

「ああ。わかってる」

 

 

 まさか花音まで鋭いとは…。これは女子が鋭いというより、恋してる女子が鋭いということか。現に白鷺はそこまで理解できてなさそう…でもなかった。

 

 

「湊くん、今失礼なこと考えてなかったかしら?」

 

「そんなことないぞ。…パスパレの方には影響出てないか?」

 

「仕事のオファーとかで言えば良くも悪くも影響はないわね。…ただ、やっぱり私たちから情報を得ようとする人もいるわね。口を割らないようにしてるけど、日菜ちゃんにはストレスが溜まる一方ね」

 

「…そう、だろうな。悪い、迷惑をかけてるよな」

 

「まったくよ」

 

「ち、千聖ちゃん」

 

 

 紗夜だけじゃない。日菜にも向き合わないといけない。しかも日菜にはあれだけ力になってもらった上に返事をする約束もしてあるんだ。紗夜にも日菜にも中途半端に向き合うことなんてできない。

 

 

「迷惑をかけられているから、早く復帰してちょうだい。彩ちゃんまで元気なくてパスパレが暗くなっちゃってるんだから」

 

「彩もか…。わかった、さっさと退院する」

 

「雄弥?完治してからだからね?」

 

「……ワカッテル」

 

「アタシの目を見て言ってほしいな〜」

 

「ふふっ、聞いてた以上に仲がいいのね」

 

「すごいよね」

 

「花音、あなた疾斗くんといる時あんな感じよ?」

 

「へ?」

 

 

 二人が来た時間も少し遅かったため、すぐに面会時間が終わってしまった。と言っても2時間弱は話し込んだのだが…。帰りはリサのお母さんが二人のことも家まで送ってくれるらしい。

 

 

「帰りは迷子にならずにすむな」

 

「うん!」

 

「花音…」

 

「やっぱり来るときに迷子になってたんじゃねぇか」

 

「あ…」

 




しばらくは順番に病室に誰かしらやってきます。次は誰でしょう?
花音たちとの会話が少なくてごめんなさい!あまり接点無いんです!
☆9評価 穂乃果ちゃん推しさん yukkuriseiさん
☆8評価 秋刀魚太郎さん   ありがとうございます!
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